悪夢〜やまの恵多短編集〜

やまの恵多

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聖夜の奇跡

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平凡な家庭に生まれ、平凡な容姿、平凡な頭脳に育った僕には、一つだけ特別なことがある。

それは、年に一回、欲しいと願ったものが必ず手に入る、というものだ。

毎年のクリスマスの朝、目を覚ますと枕元に置かれているプレゼントの包み。それを開けると、中には必ず、その年一番欲しいと願っていたものが入っている。

小さい頃は、無邪気にサンタの存在を信じた。首を傾げる両親を横目に、嬉々として最新のおもちゃを取り出す僕は、紛れもなく、世界で一番の幸せ者だった。

だが、年齢を重ねるにつれ、それが普通のことではないことに、僕は気づき始めた。

小学校高学年の頃に聞いた、「サンタなんていない。親が夜中に置きに来たのを見た」という同級生の言葉。

それを確かめるべく、僕はその年のクリスマスイブ、寝ないと誓って、ベッドの中で爛々と目を輝かせていた。

とはいえ子供、僕は真夜中にほんの一瞬、意識を失った。枕元の時計の秒針は、5秒も進んでいなかったが、その僅かな隙に、僕の傍にはプレゼントの包みが置かれていた。

その翌年は、直接両親に聞いた。毎年プレゼントをくれるのは、パパとママなの?と。

すると両親は顔を見合わせ、言いづらそうに切り出した。「違う」と。

僕が生まれた年から、クリスマスの朝、誰が置いていったのかわからないプレゼントが、決まって僕の枕元にあったと。

互いのサプライズを疑ったものの、両親のどちらとも置いていないと。

一晩、僕の部屋の前で寝ずに見張ったこともあったが、朝にはいつのまにかプレゼントが置かれていたと。

それゆえ両親も、本来なら自分たちで用意すべきプレゼントも、用意できなくなってしまったと。

「それでね」と母が申し訳なさそうに続けた。

聞けば、父の勤める会社が傾き、冬のボーナスがカットされてしまったという。

「お金を、お願いしてみて貰えないかな」と、父が伏し目がちに呟いた。

両親からの告白の中身は、まだ十歳そこらの僕には理解が追いつかないところもあったが、すがるように僕に視線を向けてくる両親の、切迫感を押し殺す様子が何だか無性に申し訳なく、その日から願った。「お金がたくさん欲しい」と。

そして、その年のクリスマスの朝。枕元に置かれていたのは、怪獣のフィギュアだった。

心の内を見透かされた気がした。うわべでお金を願っても、その年、本心から欲しかったのは、フィギュア。

両親は落胆を包み隠し、笑顔で言った。「よかったね」と。

その年以降、両親はプレゼントの中身には口出しをしないようになった。僕も、「これはそういうものなんだ」と納得し、毎年のプレゼントを自然に受け入れるようになった。

どこの誰かは知らないけれど、本心から欲しいと望めば、最新ゲーム機もスマホも手に入った。そして、包みを開ける瞬間の僕は、世界一の幸せ者だった。それで良いじゃないか。

高校を卒業した僕は、地元から離れた大学に入学した。一人暮らしを始め、両親の負担を減らす為にアルバイトもするようになった。

そのバイト先で、僕は1人の女性に心を奪われた。同い年で、同じ時期にバイトを始めた彼女は、とても綺麗で、明るくて、使い古された表現で言えば、天使のようだった。

彼女の笑顔を見るたび、僕は思った。彼女が、この笑顔が、欲しい。付き合って欲しい。一生、側に居たい。

僕は努力した。身だしなみ、生活態度、バイトへの取り組み方。彼女に振り向いてもらう為、好きになってもらえる為。

その努力が実を結び、僕と彼女はいつしか、気軽に話し合える、良き友人となっていた。他愛ない会話で屈託なく笑う彼女の笑顔は、いつまでも見ていられる程に美しく、僕の願いを更に強くした。

そして、その年のクリスマスイブ。僕はとうとう決意し、彼女をデートに誘った。映画を観て、ショッピングをし、奮発したレストランで食事をし、プレゼントを渡す。中身は、彼女からそれとなく聞き出していた、ブランドもののネックレス。

驚き喜ぶ彼女に、僕は言った。付き合って下さい、と。彼女は満面の笑顔で答えた。こちらこそ、と。

その後、僕は彼女を連れて、ホテルへ行き、恋人として初めての一晩を過ごした。微笑みを湛えながら隣で眠る彼女の寝顔を、僕は万感の思いで見つめながら、心地よい疲労感の中、眠りについた。

翌朝。

目を覚ました僕は、隣で寝ていた彼女の姿が無いことに一瞬、どきりとし、浴室から聞こえるシャワーの音に安堵した。夢じゃない。僕は彼女と結ばれたんだ。

ベッドの上、体を起こした僕の手に、何かが当たる。枕元に置かれた、プレゼントの包み。

そうだ。今日はクリスマス、と思い出した僕は、この1年を振り返る。熱烈に欲しいと願ったのは、何だったか。

考えるまでもなく、彼女だった。それ以外にあるはずもない。だが、彼女は昨日、自分の努力によって、晴れて恋人となった。このベッドの上で、彼女は確かに言っていた。「愛している」と。

だとしたら、一体何が入っているのだろう。シャワーの音が響く中、僕はずっしりと重い包みをテーブルに乗せ、リボンを解き、箱を開けた。そこには、



彼女が、最高の笑顔を浮かべて入っていた。



これまで見た中で、最も美しく、幸せと愛情に満ちた笑顔。彼女はまさに完璧と呼ぶに相応しかった。



首から下があれば。



僕が本心から望んでいたもの。それは、彼女ではなく、彼女「の笑顔」だったのか。

立ち尽くす僕の足元に、浴室から漏れ出てきた真っ赤な温水が触れる。そこに、昨晩、彼女の首元で輝いていたネックレスが、赤い水流に乗って流れてきた。

気が狂いそうな絶望と喪失感、後悔で奇声を張り上げる僕の手元。彼女はいつまでも微笑んでいた。
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