勝手に魔王と呼ばれて困ってます。/【旧題】俺的魔王の楽しみ方。

きつねころり

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第7話

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 さおりが自分の物にならないのなら、せめてメグで我慢してやろう。そんな感情があるのは誰の目にも明らかであろう。

「ははっ、流石男の子。じゃあ、回復してあげるよ」

 マチルダはショートランスを強引に引き抜く。

「痛ってぇ!」

 大盾君は肩の痛みに思わず声を上げた。

「動くなよ……。パーフェクトヒール」

 マチルダは両手を大盾君にかざし、魔法を使用した。

 すると、大盾君の身体が薄緑色のオーラに包まれ、みるみる傷口が回復していく。

「そんな……あんな魔法、さおりだって使えないよ……」
「あぁ、そもそもの規格が違うんだ……」

 勇者君と魔法使いちゃんは、自分達とこの魔王の手下との実力の差をまざまざと見せつけられ、少しずつ後悔をし始めていた。

「うっし!じゃあやるか!」

 そんな事とも露知らず、大盾君は魔法使いちゃんを手に入れる為に頑張る様だ。

「時間は……この砂時計が落ちるまでにしようか。砂が落ち切れば、光る様になっているから分かるはずだ」

 あ、あれ俺が作ったクッキングタイマーだ。

 2分のヤツだな。

「では……始めるぞ」

 マチルダは砂時計を壁際の床に置き、その場から離れた。

「行くぞ!おりゃー!」

 大盾君は斧では無く、何処からか取り出した長剣を装備している。軽さ重視といったところか。威力よりも、命中率重視。

 成程、思っていたほど馬鹿では無いという事か。

 というか、欲望に忠実というか。

 だが、それでもマチルダに掠るはずも無く、長剣は空を切る。

「はぁはぁ、くそ!なんで当たらねーんだ!」

 大盾君は汗を流しながら、それでも諦めずに攻撃を繰り出している。

 いやぁ、その執念は素晴らしいね。もっと他の事に向けたら良いのにね。

「そんなものですか……まぁ、正直ガッカリではあるけど、良く頑張ったのでは?」

 ひらりひらりと蝶が舞う様に、華麗に長剣を避けるマチルダ。

 それも最小限の動きで見切っている。

 そうこうしている内に、砂が落ち切り、眩い光が辺りを照らした。

「あー、くそ!……当たんねぇ!」

 大盾君……今は長剣君は、その長剣を杖の様に地面に刺し、自分の身体を支えている。

「はぁはぁ……あんた、名前なんてんだ?」

 ほう、この期に及んでナンパかい?大盾君。しかもそのセリフは、同じような実力の者が戦って、いつか仲間になるフラグだと思うんだけど、正直、君は要らないよ?

「まぁ、名前位はいいか。マチルダだ。別に覚えてもらう必要も無いがな」

「マチルダ……どっちかって言うと、まちちゃんって感じだけどな」

 あ……。

 マチルダの眉がピクリと動いた。

 しかもその反応を大盾君は目聡く見ていた。

「あ、もしかして、まじでまちちゃんなの?意外とかわい――――ぶふぉぉおお!」

 大盾君は激しく半透明の壁に吹き飛んだ。

「ころす」

 マチルダの目が赤く光っている。

 攻撃が速すぎて霞んで見えるだろうが、あ、今6発パンチ入ってるわ。

 大盾君からすれば訳が分からないだろうが、まぁそう言う事もあるんだよ。

 ほら、良く言うだろ?「口は災いの元」ってさ。知らんけど。

「ぐぶぅ!お゛あ!がはっ!――……」

 あー、それ以上はいけない。

『マチルダ。やり過ぎだ。肉片にするつもりか』

 俺の念話が聞こえたのか、マチルダはピタリと動きを止めた。

 攻撃を止めた事で、大盾君の身体は重力に従い地面に倒れた。

 マチルダは足で大盾君を仰向けにした。俯せだと窒息してしまうから。

 そして、半透明の壁越しに惨状を目撃した勇者君と魔法使いちゃんは、声にならない声を出しながら震えている。

『すまん。少しだけ昔を思い出してしまった』

 いーや!ホントに昔何があったんだよ!つーかこえーわ!

『まぁ、生きているなら良い。その男を連れて戻れ』

『了解』

 最早、誰なのかも判別出来ない程殴られた顔からは、血が噴き出している。

 腕も足も歪に曲がり、普通に考えれば生きているのが不思議な程だ。

 まぁ自業自得なんだけどね。

 マチルダは魔法使いちゃんの方をチラリとみて、

「またね、お嬢さん」

 そう言って、大盾君と共に転移で移動するのだった。
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