NOISE-ノイズー

朝霧優一

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モノローグ

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NOISEーノイズー             朝霧 優一

この世界は雑音で満ちている
排気ガスを吐きながら道を駆ける乗用車のエンジン音
工事現場で金属音を響かせる作業音
携帯片手に我が物顔で喋る中年の怒鳴り声
コンビニ前で座り込んで大声で話す学生の笑い声
音、音、音、世界を構成する音
僕にはそれが雑音にしか聞こえない、気持ち悪い、不快
僕の世界に雑音なんかいらない
鞄から手探りで取り出した音楽プレイヤーを操作し、電源を入れる
イヤホンを耳に差し、適当なアルバムを選択
軽快なイントロと人工音声が曲を奏でる
ようやく、世界から雑音が消えた―




しばらく歩き、ようやく目的地に着いた
観光客が奔放に歩き回る鹿に歓声をあげるのを横目に
点在するベンチの一つに腰を下ろし、鞄から文庫本を取り出すと
挟んであった栞をとり、文章に目を落とす
風が木々を揺らし、その度に木漏れ日が形を変える
春らしい陽気と吹き抜ける風が気持ちいい
誰にも邪魔されない、不可侵の世界がそこにはあった…この時までは
文庫本を照らしていた木漏れ日が急に失われた
風が止んだのか?そう思っていると、左耳のイヤホンが引き抜かれた
刹那、飛び込んでくる雑音、僕の世界は字の如く音を立てて崩れていった
どこの輩だ?苛立ちを隠すこともせず文庫本から目を離し、顔を上げる
長めのソックスとスカートから色白な脚が控えめに映る
胸元の校章の色から僕と同学年の3年生であるということがわかる
友達も多くはないし、女子となるとそれこそ片手で数える程だが
目の前に僕から奪ったイヤホンを持ち、いたずらっ子みたいな笑顔で佇む
女子生徒の顔には見覚えがあった
「こんなとこでなにしてるの?きょう君」
「それは僕の台詞だよ、委員長」
僕の名前は秋山響(ひびき)だが、去年の文化祭で音響担当だった事と
“ひびき”という名前が言いにくいというよく分からない理由で
そんな呼び方をする
「委員長はもうやってない!私にも宮藤遥香って名前があるって何回言ったら
分かるのよ!」頬を膨らませて拗ねたように言う
「はいはい宮藤さ‥」「はいは一回!あと宮藤さんじゃなくて遥香!」
…めんどくさい
「はーい、それで遥香さんは僕になんの御用ですか?」
正直、委員長は僕とは正反対のような人だ
文化祭の実行委員長等の課外の活動も熱心で成績も優秀、人望も厚く
教師受けもいいと聞く
行事やイベントとか人となにかをするという行為が煩わしく
成績も平凡の極み、友達も似たような連中が数人いる程度
何故彼女が絡んでくるのか理解に苦しむ
「その質問にきょう君が納得する答えを用意するとしたら
私の家がこの近所であるという事とその帰り道に君をよく見かけるから
何をしているのか気になっていた、こんな感じかな」
なるほど、過不足ない返答だ
「それで、なにをしてるの?」
「何をって言われても…音楽聞きながら読書してるとしか答えようがな」
「へーきょう君ってボカロとか聞くんだー」
聞いちゃいねえ…勝手に奪ったイヤホンを耳に差し込んだ彼女は
そういって1人で盛り上がってる
「なんか意外だなー」
「どういう意味?」
「なんかきょう君って歌詞の意味も分からないけど、なんかかっこいいみたいな理由で
洋楽とか聞いてそうなイメージがあったから」
どんなイメージだ、それは
「私もボカロとか好きだよ、かわいいもんね」
それはよかった
メロディを口ずさむ委員長に気になってた事を聞いてみる
「ところでさ、遥香さんはなんで話しかけてきたの?」
「ん?うーん、なんとなく、かな」
なんとなく、か
返事を聞いてふと妙に思った
なんでこんなことを聞きたくなったんだろ
「きょう君ってさ、いつも音楽聞いてるよね、なんで?」
なんでと言われても…
「イヤホンしてたら周りの雑音が聞こえないから、かな」
「雑音?」
「人の話し声とか、笑い声とか」
いつしかイヤホンを外した彼女は真剣な顔をして言った
「それを雑音…って言っちゃうの?」
ほら、こうなるから嫌なんだ、他人といると
人の事情なんか知らないくせに、ずがずがと触ってほしくない所まで入ってくる
僕にしても迂闊だった、もっと適当にあしらっておけばよかった
「僕の世界には必要ないよ、雑音なんていらない」
適当に世界とか言っておけば、気味悪がってこれ以上
詮索してこないだろ、それでいい
音楽プレイヤーを耳に差し、文庫本を鞄にいれて、委員長に一瞥もくれず立ち上がる
今日は厄日だ、まったく
一番落ち着ける時間と場所を邪魔された
駅に向けて歩を進める、さっきまで晴れていた空は灰色の雲に覆われていた
と、ふいに袖をつかまれた
振り返ると肩で息をする委員長がそこにいた
またしてもイヤホンを奪われる、今度は両方の
「聞いて、確かに必要ないって思うかもしれない、私もそう
うるさいと思うときもあるし、全部を遮ってしまいたいと思うこともある
でもね、そんなものでも世界を構成する大切なピース、部品なの
それがなかったらこの世界は魅力のない、つまらないものになる
だから…雑音なんて言わないで
それに、音楽を世界から雑音を遮るのに使わないで」
僕は今目の前に起こっている事態が呑み込めない
そんなことを言う為に走ってきたのか?
世界がどうとかって大真面目に語って
「一つだけ教えて、私と話してること、これも雑音?」
「それは‥違う」
思わず脊髄反射的に返してしまった
上手くは言えないけど…確かに違う
他の雑音とは絶対違う
「そう…よかった」
そう言うと彼女は袖から手を離すと、元来た道を帰って行った
今日は本当に厄日だな
彼女の言葉、雑音でないのはもちろん
今までに感じたことのないNOISE-ノイズ-
そんなものを、感じた



これが僕の初めて感じたNOISE
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