NOISE-ノイズー

朝霧優一

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Summer Song

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季節は止まることなく巡りゆく
桜が咲き乱れ、冬の眠りから覚めた植物が頭をもたげ始めた季節は終わり
入道雲と深い青に満ちた空、地面を溶かすかのような厳しい日差しが照り付ける
季節は夏真っ盛りを迎えていた
「いやー今日も暑いね」
そういうと委員長はアイスを口に咥える
ちょっと行儀が悪いかもしれないが、この暑さには敵わない
「ほんとにな、盆地だからよけいに熱が逃げなくて暑いんだよね」
僕も同じようにアイスを咥える
あの日以来、何故か気が合ったのか、委員長とは度々待ち合わせては
勉強したり、本を読んだり、好きな音楽を聴きあったりと
一緒に過ごす事が増えていった
特別な理由はない、なんとなくだ
「お、流石きょう君、そういう無駄知識は豊富だねー」
「無駄でもないし、地理で習っただろ」
「私日本史だから知らないよ」
高校3年生の夏、誰もが一度は必ず経験し、一度しか経験できない夏
当たり前のことだが、大学入試というものが嫌でも意識される時期でもある
学校での夏期講習の帰り道
委員長とは進路は違うが、なんとなく待ち合わせては帰ることにしていた
「あー勉強ばっかりで退屈だなー遊びに行きたい」
「遥香さんは成績いいからどっか推薦貰えるんじゃないの?」
「うちのレベルじゃ貰えても大したとこないわよ」
自然と入試を意識した話題になる
そういう僕はというと、一応は受験生として
目標に向けて頑張ってはいる
中々思うような結果は出ていないが…
「あ、そういえば今、燈花会やってるんじゃない?」
僕のちょっとした呟きを委員長が逃すわけもなく
「え、本当?行こうよ、いますぐ行こう!」
「いやいや、あれ夜じゃないと意味ないし、どうせなら最終日に行こうよ
夏期講習の終わる日に」
「えー今日行きたい」
「その方が頑張る励みにもなっていいんじゃないかな」
「うー、分かった、そうする」
なんとか折れてくれた、妙な所で子どもっぽい人だからな
その後、最寄り駅のホームで別れた後
僕は鞄から音楽プレイヤーと単語帳をとりだし
イヤホンを耳に差し、適当なアルバムを選択する
賑やかな演奏と人工音声が曲を奏で始める
それと同時に目は単語帳の単語を追い始める
今でも委員長といるとき以外は音楽を聴いている
前みたいに人の声や音を雑音の様に感じることは少し減ったが
やはり音楽なしでは耐えられない
そうこうしているうちに電車が到着し乗り込む
椅子に身体を預けていると眠気が襲ってくる
抗うこともせず、僕は瞼を閉じた
そういえば委員長も電車の中ではいつも眠ってしまうと言っていたな
それで朝乗り過ごしてしまう事もあるとか
普段頑張ってる分、気が抜けてしまうのだろうか
未だに心の中でも委員長と呼んでいる
何故か遥香さんと思うと、よく分からない
NOISEに襲われそうになる
委員長も良い夢を見ていますように―


そして、永遠の様に思えた夏期講習も終わりを告げ
束の間の休息を手に入れた
あれだけ厳しかった日差しも少し大人しくなり
かすかに夏の終わりを感じ始めた
そして、約束の燈花会に向かう
委員長と春に出会った場所で待ち合わせていた
学校からそのまま行っても良かったのだが
断として委員長は譲らなかった
そして、目的のベンチに腰かけて委員長を待つ
少し早すぎたようだ
単語帳を捲るのも疲れて、ふとイヤホンを耳から外してみた
燈花会に向かう観光客のはしゃぐ声が、そして
ツクツクホーシの大合唱があたりを包んでいた
世間では当たり前の事なのかもしれないが
言い表せない感動を僕は受けてしまった
夏の終わり、それを表現するのにこれ以上のものはない
その瞬間に命を燃やす生き物のオーケストラ
一体どれくらい聞いていなかっただろうか
「お待たせー待たせちゃってごめんね!」
振り返ると、浴衣姿の委員長がそこにいた
ある意味、ツクツクホーシの大合唱を軽く凌駕する衝撃を僕に与えた
言葉を無くして立ち呆けていると
「ね、ねえ、なんとか言いなさいよ、」
心配そうに見つめる委員長が上目使いで僕の顔を覗き込んできた
「似合ってるよ」
その言葉に遥香さんは今まで見せた事もないような満面の笑みを浮かべた
そして僕にはどうしようもないほど大きな、大きな
NOISEを与えた
着るのに苦労したんだからと嬉しそうに愚痴をこぼしながら
燈花会の会場に向かった
漆黒の闇を照らす2万本の蝋燭の灯火
遥香さんはそれに圧倒されたように佇んでいたが
僕は意外と冷静だった
今感じるNOISEを超えることは決してないのだから
夏と少女には繋がるものがあると感じる
一瞬の煌めき、刹那の輝き、長いようで短い季節が、今終わろうとしていた
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