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〈3〉
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次の日の昼休み。
私はお弁当を持って、屋上に向かった。
(累野くん、昨日…泣いてた、よね…。)
累野くんが目を開けたのと同時にこぼれた涙を思い出した。
〔好きなんだよ、令奈…。〕
私を抱きしめて、そう言った累野くんの声が耳から離れない。
思い出すたびに鼓動が速くなって苦しくなる。
「また来たのか。」
「あ、累野くん。一緒にお昼食べよ。」
(やっぱ昨日のこと、覚えてないのかな。)
「はぁ?ここ立ち入り禁止っつってんだろ。この前も言ったのにまた来やがって。」
「だって…、いつもここに、累野くんがいるから。」
ドキッ
そう言った令奈は、少し頬を赤くしていた。
「…一緒に食べようよ。」
「……俺、昼飯ねぇよ。」
「そう思って、累野くんの分もつくって来たんだ。」
「え…。それって、令奈の手作り?」
「え、そうだけど…。嫌?」
「べつに、そうじゃねぇけど…。」
俺の反応を見て、令奈は俺の向かいに座り、弁当を広げた。
「どうぞ、召し上がれ。」
令奈はそう言って、ニッコリと俺に笑いかけた。
俺は玉子焼きを一つ取って、口に運んだ。
「うまっ。」
「ホントに?よかったぁ。」
本当に嬉しそうに笑う彼女から目が離せなかった。
顔が熱くなって、俺は下を向いた。
-その笑顔をずっと隣で見ていたい-
お昼を食べ終わって、どうしても気になっていることを聞いた。
「何か、悩みでもあるの?」
泣いていたことが気になった。
…苦しそうに泣いていたから-
「べつにねぇよ。」
冷たくそう返された。
(また…。そんな、突き放すようなようなこと、言わないで…。)
「お願い、聞かせて…。」
少し涙目になりながらそう言われて、断り切れず、昔のことを話した。
いじめられていたことを、弱い部分の自分のことを…。
強くなろうとして、今に至ることを…。
「間違ってるよ、そんなの…。」
「え…。」
(やっぱ、否定すんだな。)
「それじゃあ、累野くんをいじめてた人たちと同じたちと同じだよ…。今の累野くんは、昔の累野くんよりよっぽど弱いよ。」
…今の方が弱い?
「人と関わることが怖くて、人を寄せ付けないようにしてるだけじゃ…-。」
「黙れ!!」
俺はそう叫んで、令奈を突き飛ばした。
「っ!」
令奈が小さく悲鳴をあげた。
(結局…誰も味方になんてなってくんねぇんだよ…。俺がどんなに信じたって、どんなに好きだって…。)
俺は、倒れている令奈にまたがり、顔の両側に手をついた。
「お前に、俺の何がわかってんだよ。知ったような口聞くんじゃねぇ。」
怒りに満ちた低い声で、累野くんがそう言った。
私の頬が何かで濡れた。
それは、累野くんの目から溢れ出した涙だった。
「誰も…味方になんて、なってくんねぇんだよ……。」
苦しそうに、小さな声でそう呟いた。
そして累野くんは、屋上から出ていった。
(今の累野くんは弱いよ…。)
ねぇ、気付いてる?
累野くんは人を傷つけたあと、苦しそうな顔をするんだよ。
(本当は、誰よりも優しい人なんだよね…。)
〔誰も…味方になんて、なってくんねぇんだよ……。〕
苦しそうにそう言った累野くんの声が、耳に焼き付いて離れない。
「あぁ…。ここにいたのか。」
ドアが開く音と一緒にそんな声が聞こえた。
「松山令奈。ここは立ち入り禁止だがー…。」
「だ、誰ですか?」
そんな私の質問には答えず、話を続けた。
「累野の影響でも受けたのか?かわいそうに。」
私はその言葉にカチンときた。
「なんなんですか?」
強い口調でそう言った。
「あぁ、まだ俺らのことを言ってなかったな…。」
その人がそう言うと、柄の悪い男子たちが入ってきた。
その人たちは、累野くんと再会したときに倒れていたあの5人の生徒だった。
「俺の弟子たちがぁ、ちっと累野に世話んなったらしくてよぉ。…まぁ、累野呼び出したいわけよ。」
(え、これヤバくない!?逃げなきゃ。)
「おとりになってもらうぜ、松山。」
そう言って、ニヤリと不気味に笑った。
気づいたときには、もう周りを囲まれていて-
〔同じだよ…。〕
令奈の声が頭の中で響く。
〔今の累野くんは、昔の累野くんよりよっぽど弱いよ。〕
〔人と関わるのが怖くて、人を寄せ付けないようにしてるだけじゃ-〕
〔黙れ!!〕
ああ叫んだのも、令奈を突き飛ばしたのも、あの言葉にイラついたから。
あの言葉が正しかったから。
俺の心の奥底に秘めていた本音だったから。
だから、嫌だったんだ…。
全部、隠してたつもりだったのに、全部見透かされていた。
(もう、あいつに合わす顔がねぇ…。)
ゆっくり教室まで歩いて行って、帰る準備をしていると、
「え!?松山さんが!?」
そんな声が聞こえて、俺は耳を傾けた。
「うん。柄の悪い人たちに連れていかれるとこを見たの。」
「そいつら、どこ行ったかわかるか!?」
その話をしていた女子2人にそう聞いた。
「え…。えっと、屋上から下りてきてたけど…。」
「ありがとう。」
2人にそう言って、俺はとりあえず屋上に向かった。
バンッ!
思いっきりドアを開けて、そこにあったのは…、
(血…?)
血のような赤いものが、コンクリートに少しだけついていた。
嫌な予感しかしなかった。
俺は屋上を飛び出し、校舎内を探し回った。
(クソッ!どこだよ!)
息を切らしながらも、俺は必死に走った。
《おい、累野ぉ。》
そういう放送が流れて、俺はその場に立ち止まった。
《松山とかいう女は預かった。返してほしけりゃ、今すぐ三年一組に来い。》
俺は三年一組に向かって、全力で走った。
「お。やっと来たか、累野。」
三年一組について、放送のやつと同じ声がした。
「令奈をどこにやった。」
「まぁ、そんな怒んなって。ここにいっからよ。」
そいつはそう言うと、首もとの服を掴んで令奈を俺の前に投げ飛ばした。
「令奈!」
令奈はあちこちから血を流し、傷だらけだった。
俺は令奈を抱き上げ、俺の後ろの方の壁にもたれさせた。
「ごめんな、令奈…。」
累野は優しく呟いて、そっと頭を撫でた。
そして立ち上がり、
「おめぇら。」
不良たちの方を向きながら、
「ただで済むと思うなよ。」
そう言って、赤く鋭く光る目で睨み付けた。
「フッ。やれ、お前ら!」
ボスみたいな奴がそう言って、二十人くらいの不良が一斉に累野にかかっていった。
だが、累野は顔色ひとつ変えずに、近づいてくる敵を一人ずつ殴り倒していく。
でも、もう一度立ち上がって、累野の後ろから襲いかかってくる。
累野はそんな奴らもなんなく倒した。
ふと令奈の方を向くと、令奈に近づく不良が一人いた。
累野はそいつのところに行き、首もとを掴むと、ぐっと後ろに引いた。
「うっ。」
「汚い手で令奈に触んじゃねぇよ。」
累野はそう言って鋭く睨み付けた。
「さぁ、次はお前だ。覚悟はいいな?」
最後の一人の方を見て、そう言った。
「かかってこいよ。」
煽るように累野にそう言った。
「じゃあ…遠慮なくいくぞ。」
眼光を鋭く光らせ、ゆっくり敵に近づいていく。
お互いの攻撃を防ぎ合う。
相討ちを続ける。
-隙をつき、累野が相手の胸ぐらを掴み上げた。
相手の頬を殴り、床に叩きつけた。
そして、そいつにまたがり、また胸ぐらを掴み、拳を高く振り上げた。「待て!累野。」
そいつがそう言うと、累野は一度手を止めた。
「俺が悪かった、すまない。もう許してくれ。」
「あぁ?許せだと?令奈傷つけといて、これだけで済むと思うなよ。」
そして、一層声を低め、こう言った。
「覚悟しろ。死ぬ気でな。」
そして、振り上げた拳を-
(痛っ。)
気が戻り、体を動かそうとしたが、体中が痛み、上手く動かせなかった。
ズキッと頭が痛み、手でおさえた。
(囲まれて、それで…。)
殴られたんだ。
(気、失ってたのかな…。記憶がない。)
「待て!累野。」
その声にはっとして顔をあげた。
累野くんは、床に倒れている相手にまたがり、胸ぐらを掴んで、拳を上げていた。
「俺が悪かった、すまない。もう許してくれ。」
「あぁ?許せだと?」
周りを見ると、何人もの人たちが怪我をして倒れていた。
「令奈傷つけといて、これだけで済むと思うなよ。」
(もしかして、私を助けに…?)
「覚悟しろ。死ぬ気でな。」
累野くんはそう言って振り上げた拳で殴ろうとする。
「ダメ!累野くん!」
私の声はまるで聞こえてなくて、累野くんはそのまま、相手を思いっきり殴った。
相手はその一発で気を失ったようだったけど、累野くんはもう一度殴ろうとしている。
私は累野くんの目が赤く染まっていたことに気づいた。
(正気を失なってる…?)
赤い目には、何も写っていなかった。
写っているのは、怒りという感情だけ…。
(止めなきゃ。このままじゃ、あの人ホントに死んじゃう。)
私は痛む体を無理やり動かして、
「累野くん!」
累野くんに勢いよく飛び付いて、そのまま横に倒れた。
「令奈…。」
赤く染まっていた目が、だんだんもとの色に戻っていく。
「これ、全部累野くんがしたの?」
「え、あ…。」
「どうして、こんなことしたの?危ないじゃん。怪我でもしたら-。」
「令奈が傷つけられて、イラついたんだよ!」
私の言葉を遮るように、そう叫んだら。
「え…?」
「令奈のことが、好きだから…。」
手で顔を隠しながらそう言った。
「え…うそ……。」
「嘘じゃねぇ…けど、迷惑なら、そう思っとけよ。」
吐き捨てるようにそう言った。
「迷惑なんて、思ってないよ…。」
私は下を向きながらそう言った。
「だって…累野くんが好きだから。」
夢みたいに嬉しかった。
あの日から募っていた想いがやっと実った。
ちょうど一年くらい前。
「大丈夫ですか?」
夏の日、具合が悪くて、ベンチに一人で座っていた俺に話しかけてくれたのが、令奈だった。
「これ、よかったら飲んでください。」
そう言って差し出したのは、買ったばかりの冷たい水だった。
「え、あ、ありがとうございます。」
俺は差し出されたペットボトルを受け取った。
「熱中症かもですし、帰って休んだ方がいいと思いますよ?」
「あ…はい、そうします。」
「あの、私塾があるので…すみません。気をつけて帰ってくださいね。」
そのまま立ち去ろうとする令奈を呼び止めた。
「あの、お金…。」
「お金なんて、いいですよ。お大事に。」
笑顔でそう言って駆け足で行ってしまった。
俺になんて目も止めず、通り過ぎていく人たち。
それが普通なのに、令奈だけはこんな俺に声をかけてくれて、優しくしてくれた。
そんな令奈が、ずっと好きで、今もこれからも、ずっと好きだ-。
そっと私の頬に手を添えて、怪我したところを優しく撫でた。
「ごめん、令奈…。怪我させて。」
そう言う累野くんの声はすごく優しかった。
「もう、絶対怪我なんてさせないから、ずっとそばにいてくれないか。」
「うん、もちろん…。」
私は笑顔でそう答えた。
心を開いてくれて、嬉しかった。
累野くんは、そんな私をぎゅっと抱きしめた。
「痛いよ、累野くん…。」
傷だらけの体が痛んだ。
でも、目からは嬉し涙が溢れて止まらなかった。
〈完〉
私はお弁当を持って、屋上に向かった。
(累野くん、昨日…泣いてた、よね…。)
累野くんが目を開けたのと同時にこぼれた涙を思い出した。
〔好きなんだよ、令奈…。〕
私を抱きしめて、そう言った累野くんの声が耳から離れない。
思い出すたびに鼓動が速くなって苦しくなる。
「また来たのか。」
「あ、累野くん。一緒にお昼食べよ。」
(やっぱ昨日のこと、覚えてないのかな。)
「はぁ?ここ立ち入り禁止っつってんだろ。この前も言ったのにまた来やがって。」
「だって…、いつもここに、累野くんがいるから。」
ドキッ
そう言った令奈は、少し頬を赤くしていた。
「…一緒に食べようよ。」
「……俺、昼飯ねぇよ。」
「そう思って、累野くんの分もつくって来たんだ。」
「え…。それって、令奈の手作り?」
「え、そうだけど…。嫌?」
「べつに、そうじゃねぇけど…。」
俺の反応を見て、令奈は俺の向かいに座り、弁当を広げた。
「どうぞ、召し上がれ。」
令奈はそう言って、ニッコリと俺に笑いかけた。
俺は玉子焼きを一つ取って、口に運んだ。
「うまっ。」
「ホントに?よかったぁ。」
本当に嬉しそうに笑う彼女から目が離せなかった。
顔が熱くなって、俺は下を向いた。
-その笑顔をずっと隣で見ていたい-
お昼を食べ終わって、どうしても気になっていることを聞いた。
「何か、悩みでもあるの?」
泣いていたことが気になった。
…苦しそうに泣いていたから-
「べつにねぇよ。」
冷たくそう返された。
(また…。そんな、突き放すようなようなこと、言わないで…。)
「お願い、聞かせて…。」
少し涙目になりながらそう言われて、断り切れず、昔のことを話した。
いじめられていたことを、弱い部分の自分のことを…。
強くなろうとして、今に至ることを…。
「間違ってるよ、そんなの…。」
「え…。」
(やっぱ、否定すんだな。)
「それじゃあ、累野くんをいじめてた人たちと同じたちと同じだよ…。今の累野くんは、昔の累野くんよりよっぽど弱いよ。」
…今の方が弱い?
「人と関わることが怖くて、人を寄せ付けないようにしてるだけじゃ…-。」
「黙れ!!」
俺はそう叫んで、令奈を突き飛ばした。
「っ!」
令奈が小さく悲鳴をあげた。
(結局…誰も味方になんてなってくんねぇんだよ…。俺がどんなに信じたって、どんなに好きだって…。)
俺は、倒れている令奈にまたがり、顔の両側に手をついた。
「お前に、俺の何がわかってんだよ。知ったような口聞くんじゃねぇ。」
怒りに満ちた低い声で、累野くんがそう言った。
私の頬が何かで濡れた。
それは、累野くんの目から溢れ出した涙だった。
「誰も…味方になんて、なってくんねぇんだよ……。」
苦しそうに、小さな声でそう呟いた。
そして累野くんは、屋上から出ていった。
(今の累野くんは弱いよ…。)
ねぇ、気付いてる?
累野くんは人を傷つけたあと、苦しそうな顔をするんだよ。
(本当は、誰よりも優しい人なんだよね…。)
〔誰も…味方になんて、なってくんねぇんだよ……。〕
苦しそうにそう言った累野くんの声が、耳に焼き付いて離れない。
「あぁ…。ここにいたのか。」
ドアが開く音と一緒にそんな声が聞こえた。
「松山令奈。ここは立ち入り禁止だがー…。」
「だ、誰ですか?」
そんな私の質問には答えず、話を続けた。
「累野の影響でも受けたのか?かわいそうに。」
私はその言葉にカチンときた。
「なんなんですか?」
強い口調でそう言った。
「あぁ、まだ俺らのことを言ってなかったな…。」
その人がそう言うと、柄の悪い男子たちが入ってきた。
その人たちは、累野くんと再会したときに倒れていたあの5人の生徒だった。
「俺の弟子たちがぁ、ちっと累野に世話んなったらしくてよぉ。…まぁ、累野呼び出したいわけよ。」
(え、これヤバくない!?逃げなきゃ。)
「おとりになってもらうぜ、松山。」
そう言って、ニヤリと不気味に笑った。
気づいたときには、もう周りを囲まれていて-
〔同じだよ…。〕
令奈の声が頭の中で響く。
〔今の累野くんは、昔の累野くんよりよっぽど弱いよ。〕
〔人と関わるのが怖くて、人を寄せ付けないようにしてるだけじゃ-〕
〔黙れ!!〕
ああ叫んだのも、令奈を突き飛ばしたのも、あの言葉にイラついたから。
あの言葉が正しかったから。
俺の心の奥底に秘めていた本音だったから。
だから、嫌だったんだ…。
全部、隠してたつもりだったのに、全部見透かされていた。
(もう、あいつに合わす顔がねぇ…。)
ゆっくり教室まで歩いて行って、帰る準備をしていると、
「え!?松山さんが!?」
そんな声が聞こえて、俺は耳を傾けた。
「うん。柄の悪い人たちに連れていかれるとこを見たの。」
「そいつら、どこ行ったかわかるか!?」
その話をしていた女子2人にそう聞いた。
「え…。えっと、屋上から下りてきてたけど…。」
「ありがとう。」
2人にそう言って、俺はとりあえず屋上に向かった。
バンッ!
思いっきりドアを開けて、そこにあったのは…、
(血…?)
血のような赤いものが、コンクリートに少しだけついていた。
嫌な予感しかしなかった。
俺は屋上を飛び出し、校舎内を探し回った。
(クソッ!どこだよ!)
息を切らしながらも、俺は必死に走った。
《おい、累野ぉ。》
そういう放送が流れて、俺はその場に立ち止まった。
《松山とかいう女は預かった。返してほしけりゃ、今すぐ三年一組に来い。》
俺は三年一組に向かって、全力で走った。
「お。やっと来たか、累野。」
三年一組について、放送のやつと同じ声がした。
「令奈をどこにやった。」
「まぁ、そんな怒んなって。ここにいっからよ。」
そいつはそう言うと、首もとの服を掴んで令奈を俺の前に投げ飛ばした。
「令奈!」
令奈はあちこちから血を流し、傷だらけだった。
俺は令奈を抱き上げ、俺の後ろの方の壁にもたれさせた。
「ごめんな、令奈…。」
累野は優しく呟いて、そっと頭を撫でた。
そして立ち上がり、
「おめぇら。」
不良たちの方を向きながら、
「ただで済むと思うなよ。」
そう言って、赤く鋭く光る目で睨み付けた。
「フッ。やれ、お前ら!」
ボスみたいな奴がそう言って、二十人くらいの不良が一斉に累野にかかっていった。
だが、累野は顔色ひとつ変えずに、近づいてくる敵を一人ずつ殴り倒していく。
でも、もう一度立ち上がって、累野の後ろから襲いかかってくる。
累野はそんな奴らもなんなく倒した。
ふと令奈の方を向くと、令奈に近づく不良が一人いた。
累野はそいつのところに行き、首もとを掴むと、ぐっと後ろに引いた。
「うっ。」
「汚い手で令奈に触んじゃねぇよ。」
累野はそう言って鋭く睨み付けた。
「さぁ、次はお前だ。覚悟はいいな?」
最後の一人の方を見て、そう言った。
「かかってこいよ。」
煽るように累野にそう言った。
「じゃあ…遠慮なくいくぞ。」
眼光を鋭く光らせ、ゆっくり敵に近づいていく。
お互いの攻撃を防ぎ合う。
相討ちを続ける。
-隙をつき、累野が相手の胸ぐらを掴み上げた。
相手の頬を殴り、床に叩きつけた。
そして、そいつにまたがり、また胸ぐらを掴み、拳を高く振り上げた。「待て!累野。」
そいつがそう言うと、累野は一度手を止めた。
「俺が悪かった、すまない。もう許してくれ。」
「あぁ?許せだと?令奈傷つけといて、これだけで済むと思うなよ。」
そして、一層声を低め、こう言った。
「覚悟しろ。死ぬ気でな。」
そして、振り上げた拳を-
(痛っ。)
気が戻り、体を動かそうとしたが、体中が痛み、上手く動かせなかった。
ズキッと頭が痛み、手でおさえた。
(囲まれて、それで…。)
殴られたんだ。
(気、失ってたのかな…。記憶がない。)
「待て!累野。」
その声にはっとして顔をあげた。
累野くんは、床に倒れている相手にまたがり、胸ぐらを掴んで、拳を上げていた。
「俺が悪かった、すまない。もう許してくれ。」
「あぁ?許せだと?」
周りを見ると、何人もの人たちが怪我をして倒れていた。
「令奈傷つけといて、これだけで済むと思うなよ。」
(もしかして、私を助けに…?)
「覚悟しろ。死ぬ気でな。」
累野くんはそう言って振り上げた拳で殴ろうとする。
「ダメ!累野くん!」
私の声はまるで聞こえてなくて、累野くんはそのまま、相手を思いっきり殴った。
相手はその一発で気を失ったようだったけど、累野くんはもう一度殴ろうとしている。
私は累野くんの目が赤く染まっていたことに気づいた。
(正気を失なってる…?)
赤い目には、何も写っていなかった。
写っているのは、怒りという感情だけ…。
(止めなきゃ。このままじゃ、あの人ホントに死んじゃう。)
私は痛む体を無理やり動かして、
「累野くん!」
累野くんに勢いよく飛び付いて、そのまま横に倒れた。
「令奈…。」
赤く染まっていた目が、だんだんもとの色に戻っていく。
「これ、全部累野くんがしたの?」
「え、あ…。」
「どうして、こんなことしたの?危ないじゃん。怪我でもしたら-。」
「令奈が傷つけられて、イラついたんだよ!」
私の言葉を遮るように、そう叫んだら。
「え…?」
「令奈のことが、好きだから…。」
手で顔を隠しながらそう言った。
「え…うそ……。」
「嘘じゃねぇ…けど、迷惑なら、そう思っとけよ。」
吐き捨てるようにそう言った。
「迷惑なんて、思ってないよ…。」
私は下を向きながらそう言った。
「だって…累野くんが好きだから。」
夢みたいに嬉しかった。
あの日から募っていた想いがやっと実った。
ちょうど一年くらい前。
「大丈夫ですか?」
夏の日、具合が悪くて、ベンチに一人で座っていた俺に話しかけてくれたのが、令奈だった。
「これ、よかったら飲んでください。」
そう言って差し出したのは、買ったばかりの冷たい水だった。
「え、あ、ありがとうございます。」
俺は差し出されたペットボトルを受け取った。
「熱中症かもですし、帰って休んだ方がいいと思いますよ?」
「あ…はい、そうします。」
「あの、私塾があるので…すみません。気をつけて帰ってくださいね。」
そのまま立ち去ろうとする令奈を呼び止めた。
「あの、お金…。」
「お金なんて、いいですよ。お大事に。」
笑顔でそう言って駆け足で行ってしまった。
俺になんて目も止めず、通り過ぎていく人たち。
それが普通なのに、令奈だけはこんな俺に声をかけてくれて、優しくしてくれた。
そんな令奈が、ずっと好きで、今もこれからも、ずっと好きだ-。
そっと私の頬に手を添えて、怪我したところを優しく撫でた。
「ごめん、令奈…。怪我させて。」
そう言う累野くんの声はすごく優しかった。
「もう、絶対怪我なんてさせないから、ずっとそばにいてくれないか。」
「うん、もちろん…。」
私は笑顔でそう答えた。
心を開いてくれて、嬉しかった。
累野くんは、そんな私をぎゅっと抱きしめた。
「痛いよ、累野くん…。」
傷だらけの体が痛んだ。
でも、目からは嬉し涙が溢れて止まらなかった。
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