本当の君

あいは

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〈2〉

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 (あれ?どこ行ったんだろう…累野くん。)
累野くんと再会して、数日が経った。
昼休みはいつもどこかに行ってしまう。
学校中を探していると、屋上に行く階段のところに来た。
(屋上か…。でも、立ち入り禁止だし、さすがにいないよね…。)
そう思いながらも、心のどこかで期待しているのかもしれない。
ドキドキしながら、一段一段階段を登っていった。
上からかすかに風を感じた。
上まで上がってみると、
(開いてる…?)
扉が少し開いていた。
扉を開くと、暖かい風に吹かれた。
「おい。」
声をかけられて横を見ると、壁にもたれて私の方を見ている累野くんがいた。
「あ、累野くん。」
「ここ立ち入り禁止だぞ。」
「え、あ…。いや、それこっちのセリフだから!」
「…俺はいーんだよ。」
累野くんが、 小さな声でそう言った。
「お前は…、俺の唯一の居場所をとる気かよ。」
悲しそうにそう言った。
「え…?」
しばらく沈黙が続いて、私は累野くんの隣に座った。
「なんだよ…。さっさ戻れよ、令奈。」
ドキッ
(ぃ、今、名前で…。いつも松山って呼ぶのに。)
ドキドキして話せないでいると、
「なんだよ。」
怒ったような声でそう言われた。
「あ、えっと…。やっぱ、なんでもない。」
「言えよ。気になんだろうが。」
「……唯一の居場所って、どういうこと?」
そう聞いたとき、一瞬累野くんが固まったような気がした。

 「そのままの意味だ。べつに、お前には関係ねぇよ…。」
俺は思わず、冷たく言ってしまった。
(言ったって、どうせわかってくんねぇんだろ…?)
なら、言わねぇ方がマシだ…。

 (そんな、突き放すようなこと言わないでよ…。)
「全部を、受け止めることはできないかもしれないけど…。」
うっすらと、目に涙が浮かんだ。
「でも…知りたいの、累野くんのこと。」
震える声を必死に押さえた。
「だから…、聞かせて…。」

 ドクッと鼓動が波打った。
(なんで、お前が泣くんだよ…。)
俺はそっと、令奈の涙を拭った。
(こいつなら、俺のことわかってくれるかもしれない。)
でも…やっぱり言えねぇや…。
怖いんだ。
令奈が離れて行くことを考えると…。
ずっとそばにいてほしいから。
やっぱり俺は、何も変われてない…。
臆病で、意気地無しの、弱い僕から…-

 何も言わない累野くんを見つめた。
「累野くん?」
そんな私の言葉は、まるで聞こえてないようだった。
累野くんだけ、別の世界にいるような…、そんな感じがした。
しばらくして、予鈴がなった。
「…戻れよ、令奈。」
少しかすれた声で、累野くんがそう言った。
「え…累野くんは?」
「俺はいーんだよ。」
「なんで-。」
「いいから、戻れっつってんだろうが!!」
累野くんはそう叫んで、私を睨んだ。
鋭く尖った目で…。

 耐えられなかった。
泣きたくて、仕方がなかった。
俺はもっと弱くなっただけだ…。
どうしたら、強くなれるんだ。
俺が進んできた道は、俺が進んでいく道は、きっと正しくない。
俺が望む未来にはたどりつけない。
…正しい道って、なんなんだ?
俺が望む未来って…一体なんなんだ?

 次の日の昼休み。
累野くんに会いに、屋上に行った。
外に出て、横を見ると、案の定そこには累野くんがいた。
(寝て、る?)
そっと近づいて、顔を覗き込んだ。
(寝てるのか…。そっとしておいてあげよう。)
私は静かに入口まで行って、教室に戻ろうとした。
「行かないで、令奈…。」
ドキッ
びっくりして累野くんの方を見てみたが、目を閉じて眠っていた。
(寝言?)

 昔のことを思い出していた。
中学生のとき…
俺は、すごい人見知りだった。
バシャッ
バケツに入れられた水をかけられた。
ポタポタと落ちる滴の音、投げ捨てられたバケツの音、彼らの笑い声。
それらの音に包まれて、耳が痛い。
彼らの笑い声に、耳を塞ぎたくなる。
俺は昔、いじめられていた。
ドンッ💥
「っ!」
クラスの男子と肩がぶつかった。
「いってぇ。」
「どした?」
「わっかんね。なんかにぶつかった。」
周りに何人かいたが、誰も俺だとは言わなかった。
誰も、俺のことを見てくれない。
〔僕は、ここにいるのに…。〕
すると、辺りが真っ暗になって、何も見えなくなった。
いっそこのまま、この暗闇の中で一人…ひっそりと眠っていたい。
ぱっと光を放つ女の子が、少し遠くに見えた。
「累野くん。」
俺の名前を呼んで、女の子はニコッと笑った。
「令奈?」
その女の子は、令奈だった。
「バイバイ……乱星。」
令奈はそう言って振り返ると、ゆっくりと歩き出した。
「待って。」
令奈まで…
〔近づかないでよ!〕
〔さよなら、累野くん。〕
…僕から離れていくの…?
いやだよ、待って。
「行かないで、令奈…。」
どんなに走っても、追いつけない。
やだ…待ってよ、待って…。
そばにいてよ…。
目に涙が浮かんだ。
「…私は、ここにいるよ。」
優しい令奈の声が聞こえた。
誰かに、手を握られていた。
目をゆっくり開けたとき、溜まっていた涙が、頬を濡らした。
(令奈…。)
目の前に令奈がいた。
(なんだ…夢か……。これも、夢か…。)
俺はそのまま、令奈に抱きついた。
「好きなんだよ、令奈…。お前のことが…-。」

 ドキッ
(え?今…。)
私は、累野くんの背中に手を回した。
「わ、私も…だよ?」
小さな声で呟いた。
累野くんの寝息が、かすかに聞こえた。
(寝てるのか…。びっくりきた。)
ホントに私のこと好きになってくれないかな。
累野くんを壁にもたれさせて、寝かした。
「私は、ずっとそばにいるから。」
累野くんの耳元でそう囁いた。
(だから…。)
固く閉ざしたその心を…開いてよ。

 「ん…。」
(まぶし…。)
目を開けると、眩しく強い光が目に入り込んできて、反射的に目を細めた。
(なんか…いい夢を見たような…。)
そっと右手を眺めた。
(誰かに、手を握られていたような…。)
〔…私は、ここにいるよ。〕
そう、令奈が言ってくれたのを覚えれいる。
(まぁ、夢だったけど…。)
俺に居場所をくれたみたいで、嬉しかった。
〔好きなんだよ、令奈…。〕
そんなことを言ったような気がする。そしたら、
〔わ、私も…だよ?〕
そう返ってきた。
現実になればいいのに…。
令奈に直接言えたらいいのに…。
そしたら令奈は、俺を好きだと言ってくれるのか…?
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