生き残りたければわたしを愛でろ!

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第4話 秘密はさくっと打ち明けましょう

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 「……で、どうして俺が<証>を俺たちの巣に隠したと知っていた。<主人>が証をあえて隠して疎開されたことは誰にも言ってない。エーレ、貴様にもだ。だいたいどうして<証>があぶないとわかった。納得いかん。納得いかないのはそれだけじゃない。貴様は誰なんだ。なんでエーレ……ん? エルレアか、どうして俺を助けた。貴様ら革命軍の狙いは<証>だろうが。どうして奪って逃げない。あとそうだ、貴様は誰だ。なんで俺にあんな……っぷ、あんなことを。あれはなんだ、次元転換など俺は信じない。それと貴様はだmcさtgh」

 レリアンは四杯目のグラスを飲み干してそう言ったが、最後は言葉になっていなかった。話が長い。こんなに酒に弱いとは思わなかった。たしか本人は、俺は強いが呑まないんだとか豪語してた気がするが。

 はじめは周囲を警戒してほとんどしゃべろうとしなかったが、跳躍の反動なのかよほど空腹だったのか、かき込むようにテーブルの上のものを平らげて次々にグラスを空け、教練で陽に焼けた顔がさらに赤くなるころにはひどく饒舌になっていた。

 というか……「貴様は誰」が耳について離れない。言われ飽きた。

 「説明するの三回目。ひとつ、わたしはエルレア。あなたがよく知ってる革命軍の雇われ軍師のエルレアだ。そしてエーレでもある。さっき見たでしょ」

 レリアンはこちらを見てるが、視界にわたしが映っていて、耳にわたしの声が届いているか自信がまったくない。テーブルに組んだ腕の上に頭をのせている。もう眠りそうだ。隣のコンが同じポーズで寝てるのがかわいい。

 「ふたつ、革命軍そのものはともかく、わたし自身には<証>をどうこうしようという意図はない。それに、あの攻撃もいつもの定常攻撃だと思ってた。作戦会議でもそう言っていた。ふつうに攻め立てて引くものだと思ってた。まさかいま、本当に<証>を滅そうとするとは思わなかった。だからすぐにあなたを追った」

 「追った……なぜ」

 「<主人>があなたに<証>を託したのは知っていたから。後をついていけば<証>に接触できると思った」

 「だから……なんでそのことを知っていた」
 
 それを言われると困る。ずっと前からときどき思考に入りこんでいたなど、言えるわけがない。エーレとしての勤務の間、術師団の宿舎で語るとき、いつも彼の心を追っていたのだ。

 思いを読み取るちからを持つものは革命軍になんにんかいた。格闘神式の訓練などでそのちからを得ることがあったが、ほとんどはすぐに消え失せた。それでも友情を感じた相手などの場合、お互いにそのちからが残ることがあった。

 わたしにはそうしたちからが蓄積した。なにも学んではいないのに軍師としても名を得ているのはそれが理由だ。対面した相手、集団の思いを読み、手を打つ。

 レリアンのこころに触れるのは、そうした仕事のひとつであり、使命であった。いつも強くそう考えながら、それでもそのたびに、なぜかふわっとした不思議な気持ちになっていた。

 「えーと……ロアの手の者から? この酒場できいたかな?」

 ロアが首を振る。そこは、場を読んでほしかった。

 「……とにかく、あなたを追った。あなたが<証>を取り出したときにようやく追いついた。<術師の庵>に隠してるとは知らなかったけど」

 「驚いたぞ、術師団の者はぜんぶ<主人>に従って王宮を出たと思ってたからな。なぜエーレがここにいるのかと……そのうえ」

 といって、レリアンはうっという顔をした。なにかきつい記憶を思い出したような表情だ。まあ、わたしにも想像はついた。あのときはわたしも必死だった。ようやく見つけた時にはもう時間がなかった。だから。

 「わたしが抱きついた。あ、エーレね」

 言うな、という顔でレリアンは続けた。

 「そのあとすぐに魔式の攻撃を察知した。いままで感じたことがないちからだった。そんな威力を持つ魔式があるとは聞いていなかった。すぐに<庵>は破壊されて貴様のすがたが見えなくなった。俺は<庵>に封じられていた神剣まで使って極限の防御を張ったが、防ぎきれなかった。そのとき貴様……エルレアが現れた」

 「で、ちゅーしたの?」

 寝ていたはずなのに急に顔を起こして余計なことを言うコンの頭にわたしの手刀が命中する。

 「ほんとうに時間がなかった。事前にエーレとしてあなたに情報を伝えられていればこうはならなかった。あの攻撃はわたしが造った魔式だ。威力はよく知っている。止めることはできない。だから、跳躍するしかなかった。そのためには」

 「ちゅー、か」

 ロアはにやついたが、その頭をはたくことは憚られた。寸前で、素人ながら本職の格闘術師を倒すだけの威力をもつ鉄拳が火を吹くだろう。全力で睨んで、わたしはレリアンに視線を戻した。

 「跳躍……次元転換のことは、わたしにもどうしてそれができるのかわからない。なぜ、できると思ったのかも。でも、ああすれば助けられると知っていた。わたしは、触れた相手のちからを奪うことができる。だから、どこかで奪ったちからなのかもしれない。でも、覚えはない」

 「……なんだそれは。ちからを奪う? どういうことだ」

 「まあ、わたしのことは、そのうちゆっくり話す。とにかく、いろいろすまなかったと思ってる。わたしにも迷いがあった。どこまであなたに協力を求めるべきなのか。こうなるとわかっていれば早くに相談した。<証>の危機は、知っていたから」

 レリアンの眉がぴくっと動いた。

 「貴様ら革命軍の目的は<証>を奪うことだ。少なくとも建前上はな。だれでも自由に神式を使える世の中を作る。そうだろう。国の根源、国そのものを作っている<証>のちからで。どうしてその<証>を破壊しようとするんだ。革命軍になんの得があるんだ」

 「革命軍ぜんたいの目的はそのとおり」

 「……いろいろ居る、ということか」

 「まあ、そんなところ。あ、これ食べちゃって」

 少しだけ残っていた、根菜を香草で炒めた料理の皿を押し出す。レリアンは言われるままにフォークを突き刺して口に運ぶ。

 「ではどうして、その異端者の思惑を知った。<証>の破壊を企むなど、あり得ない。この世でそんなことを考えるもののありようはずもない」

 「なんでだったかな」

 適当にはぐらかしてグラスを空ける。わたしもレリアンとおなじくらい呑んでいるが、いっこうに酔う気配がない。酔うために呑んでいるのに。しらふで言える話をしていない。

 「いつから<証>の危機を知っていた。どうして、それを知った」

 重ねて訊くレリアンの言葉にこれまでのことを思い出す。

 そこで生まれ落ちたかのように、あの暑い広場で目覚めたこと。

 野良術師たちとの最初の闘い、コンとの出会い、束の間の平穏。どこから来たかもわからず、それまでのことをなにも思い出せず、ただ焦がれるような、悲しいような気持ちの中で沈んでいたわたしに、おかみさんたちはふつうに接してくれた。市場の片隅でずっとすわって、おかみさんたちが料理をし、果物を売り、客と笑い、そうやって暮らしているのをみているうちに、少しずつわたしは生きることに慣れていった。

 市場には無法者がなんども現れた。これまでは野良術師に頼んだり、野良術師が狼藉をする場合には王宮の術師団までなんにちも歩いて助けを求めにいった。が、わたしがきてからはその必要がなくなった。わたしは彼らをすべて追い払った。そのことでずいぶん感謝された。

 そうした闘いの中で、ちからの使い方を知った。わたしは、触れた相手の神式を吸収するちからを持っている。

 敵の場合は、その場限りで神式の効力は消えた。最初に出会った野良術師たちの神式、もう名前は忘れたが、それもすぐ消えた。なんども闘い、その都度、相手の神式を奪って勝った。攻撃の意図をもってちからを奪った相手には神式が残らないらしく、わたしは負けることがなかった。

 反対に、まもりたい、愛しいと思う存在の場合は神式はつよくなり、わたしに受け継がれた。相手にも神式は残り、互いに強化された神式をつかえるようになっていた。あのころ、市場にまれにいた、隠れた神式能力者たちから少しずつ受け継いだちからは、まだわたしの中に残っている。

 そして、強く触れた相手と逆の性別になる。

 どのちからも、どうしてわたしにそれがあるのか、なんの意味があるのか、まったくわからない。覚えていない。

 やがてわたしの名前が無法者たち、野良術師たちを越えてささやかれ、安寧の地である市場に危機が及ぶようになったとき、わたしはおかみさんに別れを告げた。

 おかみさんは、わたしが受けるに値しないような想いをずっと注いで、慈しんでくれた。旅立ちのときもどうしてそんなにと思うほど、泣いてくれた。
 
 コンは、離れようとしなかった。なんど言って聞かせても帰らなかった。コンは、孤児だ。そう聞かされた。わたしと同じように、おかみさんに拾われた。不思議な色の瞳を涙でいっぱいにして、わたしの腕にしがみついて離れなかった。

 何ヶ月かの放浪。立ち寄る村々の困りごとを解決することでわずかな糧を得た。依頼により、なんどか野良術師たちとはまったく違う、激しくも美しい色の神式をつかう連中と闘った。

 けっして負けることのなかったわたしに、何十回目かの対戦のあと、革命軍の術師が声をかけてきた。

 帰るところはあるのか、我々のところへ来ないか。

 応じる気はなかった。しかし、その夜にコンのしずかな寝顔を見て、わたしは決めた。

 革命軍の城は、王室から最初に奪った辺境の砦だった。門を叩いたわたしとコンを、彼らははじめから柔らかく迎えてくれた。

 さいわい、革命軍の戦闘者はほとんど男性、つまり異性だった。だから、わたしは革命軍で一度も男性になったことがない。どれだけ模擬神式格闘を重ねても、ちからが強化されるばかりだった。

 教練で、魔式とよばれる、神式とは異なる経路で発動するちからの存在を初めて教えられた。だが、わたしの中のなにかがその使役方法を覚えていた。すぐに頭角をあらわし、指導者のそばに仕えるようになっていた。

 指導者、ジェクリル。

 かつて術師団に所属していたという彼は、まぎれもなく、神式……いや、魔式の天才であった。

 真っ向から勝負して、神式奪取が成功しなかったのは初めてだった。わたしがどれだけ加速神式を駆使しても、かれに一度も触れることができなかった。

 ジェクリルは、その冷たい紫色の瞳でわたしを見据えて、わたしにだけ聞こえるように小さくささやいたものだった。

 エルレア。君はすごい。ほんとうにすごい。きっとこの世のものではない。わたしと同じように。

 意味もわからなかったし、あの市場以前の記憶がないわたしには、その言葉は辛かった。言われたときにはいつも俯いて、聞こえないふりをした。

 それでもわたしは、革命軍こそが居場所だと思っていた。やっと見つけた、わたし自身を、わたしのちからを認めてくれる、帰るべき場所。

 あの、夜までは。


 ◇


 第四話まで読んでいただきありがとうございます!
 ほんとにほんとにうれしいです!

 エルレアが意外とポンコツぶりを発揮する次の話はすぐそこです。

 あなたもエルレアを好きになってきたなら……
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 今後とも、わたしのエルレアを見守ってやってください。
 またすぐ、お会いしましょう。

 
 
 

 
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