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学園編
第34話 魔人
しおりを挟むその後は大きな動きもなく、普通の学園生活となった。
私の日課である魔神の魔力制御も上手くいき始めている。このままであれば、あのセラフィエルとも対等に渡り合えるだろう。
ソロンの動きも鳴りを潜め、クリスタは監視という義務をただひたすら果たしているだけのような雰囲気も感じる。
一体奴は何がしたかったのか。
ティナには魔術について詳しく知りたければエヴァンに聞けと言っておいた。実は私の専門は剣なんだ。魔術についてあれこれ聞かれても正直私に出来ることしか分からん。
エヴァンにはティナに教えてやれと手紙を送っておいた。奴は認められるのが好きだからな。ティナは上手いことやるだろう。
それと、エイルだ。
奴には王宮で敵味方の選別をしてもらってる。調査報告も手紙でくれている。
やはり奴は馬鹿なナリをしているが、その実、有能だ。ミスティテラ神聖王国に放り込んで内側からぶち壊してくれないだろうか。
意外だったのは、ミネルヴァ第一王妃だ。あの人はソロンに付いていると思っていたが違うようだ。
あの人はあの人で、王国を守ろうとしている。私を警戒していたのは、王位を奪われる危惧というだけではなかった。あの時点でソロンの優秀さを知っていたんだ。だからこそ、国が割れる心配をしていた。
やはり良い女だ。
ふと空を見上げる。
今日も金色ではない快晴だ。
今一度、よく考えなければならない。
私の敵は光神教でも、ルベリオでも、ましてやソロンでもない。
私の唯一の敵はセラフィエル、ただ一人。そこを間違えてはいけない。それを再確認することで、私の精神の汚辱は回復するだろう。
さて、そろそろティナが起きる頃だ。
こやつは朝が弱いからな、着替えの手伝いをしてやろう。
そう思った直後。
「…………!!!」
突如、背中に電撃が走るようにとある魔力を感知した。
感じたことのある魔力!
いくら殺し尽くしたか分からんあの気配!
魔人がいる!
私は呼応術式を即起動し、アルベールを呼び出す。
「ティナ!起きろ!!敵襲だ!死にたくなければ隠れていろ!」
「わっ!え、なに?て、敵?……なんで?」
寝起きだからか、まだぼやけているティナ。
「分からん、反応は一人だけだが厄介極まりない相手だ。一人で上の学年のAクラスを殺し尽くす事ができるかもしれない」
ゾッとしたようなティナの表情。
そうだ怖がれ、警戒しろ。いつ襲ってきてもおかしくない。
魔人の戦闘力は千差万別だが、上振れすればアルベールすら単独で撃破できる奴もいる。
もし、そんな奴にここを襲われたら私は魔神の力を解放してでも殺し尽くすだろう。
そして、魔人がいるということは……。
この世界のどこかに、魔王がいる。
私は窓から飛び降り、気配を辿る。川の向こうから来ているな。森を抜けてきたのか。
しばらくするとアルベールがやってきた。
「どうしたの姉さん!」
「構えろ。死ぬぞ」
奴らは警戒に警戒を重ねても悪辣な手で状況をひっくり返す。
「"聖域"」
「"思考加速"」
「"聖魔付与"」
魔族特攻の支援術式を展開する。これで奴らはここに近付くだけで力を吸い取られるような感覚に陥るだろう。
私はあの地獄の戦いを生き抜いたんだ、ナメるなよ。
アルベールはそのままじっとしている。
正解だ。目を離すなよ。もうじき森から姿を見せるだろう。
だが、妙だ。こんな簡単に魔人が魔力感知をさせてくれるなんてあまりない。それも、単独で行動している魔人がそうだとしたらかなり稀だ。
それに、鈍足だ。
森を駆け抜けているという割には、歩いているほどの速度。
どうも様子がおかしい。魔力波長も乱れているな。怪我を負っているのか?
「姉さん、あれ」
アルベールが指を向けた先には、かつて我がカストルム帝国を襲った仇敵、女性型の魔人の姿があった。
だが、見知った姿ではない。
纏っている衣服は所々破れており、髪はぐしゃぐしゃになっている。顔はやつれており、身体中が傷だらけだ。浅黒い肌は血と土で汚れてまともに見れたものじゃない。
まぁ、いつものやつだ。弱い姿を見せて油断を誘う、あいつらの常套手段だ。いつの時代も変わらんな。
「"超身体強化"」
「ね、姉さん?傷だらけだけど……」
私は迷わず身体強化術式を構築。
力の限り地面を蹴り、魔人に肉薄した。
「……!!」
なんだ?私達の事に今更気づいたのか?
本当になんだコイツ。わざわざ私に殺されに来たのか。
私は迷うことなく剣をその首目掛けて振るった。
「ッく!!」
ギリギリの所で避けたな。
馬鹿が。逃れられる訳がないだろう。
右側に避けた魔人を勢いのまま蹴り上げ吹き飛ばす。
「ギャア!」
弱過ぎる。満身創痍だとしても、旧時代の魔人とは比較にもならん弱さだ。
あれだけ警戒して損をした。ティナは起こさなくてもよかったな、申し訳ない事をした。
宙を舞う魔人目掛けて剣を持ち上げた瞬間。
「イザベラ!待って!」
ティナの声だ。
何だ?
魔人を放ったらかして振り返ったが、ティナとアルベールが目を大きくさせてこちらを見ていた。
な、何だ?
「……どうした?」
「どうしたじゃないわよ!傷だらけの女の子をどうして蹴り上げたの!?」
……は?
あぁ、そうか。こいつらは魔人について何も知らない。魔王に関しての文献が無いなとずっと思っていたが、今考えれば魔人についての記載も少しも見当たらなかった。
「ティナ、アル。これは女の子ではない。魔人だ。人類の脅威、破壊の化身、なんとでも呼べばいい。だがな、これを指して女の子と言うなど平和ボケもいい所だ」
「ま、待て!待ってください!」
あぁ?
蹴り上げた魔人が何かを言っている。
「イザベラ!私たちと同じ言葉を話すわ。一方的に敵だと決めつけて蹴りを入れても何もいいことがないでしょ。会話をしてよ」
ティナ、違うぞ。こいつは弱ってるフリをしてるだけだ。分かっていないのはお前達だ。
「姉さん、一般人を学園内で、周りに見られている状況で殺すのはさすがにマズい。庇ってくれる人がいなくなるよ」
「馬鹿が。アルベールよ、これは一般人ではない。魔王の尖兵、魔人だ。こやつは弱っているフリをして近づいてきただけに過ぎない」
私の本気度をようやく察したのか、アルベールの目が鋭くなった。しかし、ティナは魔人をただの女の子だと勘違いしている。
ここでコレを殺せば最悪ティナが離脱する。それに、騒ぎ過ぎた。周りに学園生が集まりつつある。
………………。
…………………………クソッ。
「ティナ、こやつが自分で動いたら殺す。勝手に喋ったら殺す。命令された事以外の何をしても殺す。私とアルベールが目の前で監視し続けるんだ。全ての挙動を見逃さん。ティナ、こやつは人ではない。肝に銘じておけ。お前は危機に鈍感過ぎる」
「……ごめん」
謝るな。お前は悪い事をしておらん。
だが、頭を使って生きろ。
いつの時代も、愚かなのは人間なのだ。
◇◇
アルベールとティナを連れて気絶した魔人を運び出した。何故か限界だったようで、私が剣をしまった姿を見て魔人は気を失ってしまった。
話を聞き出すため、学園内ではなく川向かいの森側の奥地に運んだ。さすがに寮内に入れるほど魔人を信用してはいない。
「アルベール、水をぶっかけて起こせ」
「うん」
「ちょっと!優しくしてよ」
おいおい。
「いい加減にしろティナ。私の声が聞こえてないのか?殺されたくなければ言うことを聞け。こやつは人間でもなければ魔物でもない。魔人だ。こやつを放っておけば死ぬまで人類を殺し尽くすぞ。お前の一言で死ぬ人間が出てくるのが楽しみだ」
「…………」
そうだ、喋るな。分からない事があるなら、尚更だ。
ティナに説教をしている間にアルベールが魔人を無理やり起こした。
「さて、魔人よ。待たせたな。お前の目的を話すことを許可する。逆らってもいいが、後悔することになるぞ。お前達が嫌悪する聖属性術式をケツから突っ込んで体内から少しずつ溶かしてやる。死なせるのは酷いから都度回復魔術を使ってやろう」
とてもいい笑顔で言い放ったが、効果は抜群だ。震えてこちらを見なくなった。
「お、お前。強過ぎるだろう……。あたしは……ここへ、逃げてきた」
口を開いた魔人は、目的を話し出す。
だが、逃げる……?
「お前達が何から逃げると言うんだ?」
「決まってんだろ。あたし達がしっぽ巻いて逃げる相手はこの世で1人だけ、魔王様だよ」
……。
私はこやつの足首に剣を突き刺した。
「ウギャアーー!!!」
「ちょ、あんた何やってんのよ!!」
そんなの決まっている。
「命令が正しく伝わっていなかったな。余計なことを勝手に喋ったら殺すと言っただろう。聞かれた事だけに答えろよゴミ虫が。ティナ、なにを驚くことがある。アルベールなら剣を構えたぞ」
アルベールが剣を抜いている姿を見たティナは戦慄した様子だ。
何を学園で学んだのだこいつは。
私の教えた魔術も、学園で習った魔法も、試験科目にあった剣術も。
究極的には生き物を殺すための手段だ。
「魔王……か」
……やはり、魔王が君臨していた。
世界の歯車は、この時点で狂っていた。
私達は気付けなかったんだ。
だから、あんなことになってしまった。
暢気にソロンの目的やら監視やらについて考えている暇など、一つも無かった。
私は、またしても間に合わなかった……!
──────────────
学園編、終了です。
感想などお待ちしてます。
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