鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

See.

文字の大きさ
37 / 124
赤月の桜

その毒殺計画、私が止める!

しおりを挟む
 次の日、赤月の桜の宴が始まり朝から女中達や侍従達は忙しく働いていた。

「月華です。失礼します…」

…パタンッ…

 戸を開き中に入るなり座りながら静かに閉めると鏡台の前に座る一人の女性に向き直る。

「待っていたわ。こっちに来てちょうだい」

 黒色を基調とした淡い桃色と赤色の花びらが散りばめられた柄の着物に金色の帯をし赤い紅を引いた咲羅はいつもの柔らかい雰囲気とは違い凛としたかっこいい姿になっていた。

「はい」

 咲羅の傍に近寄り腰を下ろすといつもの優しい笑みを向けられた。

「鏡の前に座ってくれる?」

「はい」

 言われるがままに鏡台の前に座ると、背後から細くて白い指先が肩まである黒髪に触れた。

「ずっとこうしたかったの」

「あの…?」

 桜の絵柄が描かれた黒色の櫛を手に黒髪を梳いていく咲羅に戸惑いの声が漏れる。

「髪を束ねた方が働きやすいでしょ?だから…これ解いてもいいかしら‥?」

「…‥」

 鏡越しに咲羅が恐る恐る問いかける声に指先が左目を隠す黒い手拭いの結び目に触れているのに気づき黙り込む。

でも、咲羅なら…

「…はい」

 考え込んだ末に重々しく頷くと咲羅の細長い綺麗な指先がするりと黒い手拭いを解き左目のルビーの様な真っ赤な瞳があらわになった。

「っ…!?」

やっぱりそういう顔になるよね…

 鏡越しにルビーの様な真っ赤な左目を見るなり驚く咲羅に暗く影を落とす。

「…やっぱりそうだったのね」

「…?」

 小さく呟かれた声に顔を上げ鏡越しに咲羅を見ると柔らかな笑みが返ってきた。

「あなたのその瞳、凄く綺麗ね!」

「っ…」

「後は髪だけね!これをこうして…‥」

 嫌な顔せず笑みを浮かべながら髪を梳き黒髪がまとめられると何かが髪に挿され声が掛けられた。

「…ほら、可愛い!」

 咲羅の言葉に鏡を見ると下の方でお団子状にまとめられた黒髪には桜の花の飾りが付いた赤色のかんざしが挿されていた。

「こ…これは頂けません!」

パシッ‥

「っ‥!?」

「だーめ!」

 慌てて挿された簪を抜き取ろうとすると直ぐ様手を掴まれ止められた。

「私がしたくてしてるのよ?この私の好意を無下にするの?」

「い、いえ…でも‥」

「言い訳無用!」

「っ…」

 半ば強引に黙らせる咲羅に降参とばかりに口を噤む。

「月華は幼い頃の私に似てるわ」

「咲羅様の幼い頃にですか…?」

「私は母親に売られて桜鬼城に来たの」

「え…」

「私は母親と二人で暮らしていたんだけど貧乏だったせいで六歳の時に桜鬼城に売られて火炎かえん…暁の父親の二番目の側室になったの。だけど、桜鬼城に来たばかりの私は誰の事も信じられなかった。黒道も夜ノも火炎も皆信じられなくて孤立してたの…」

「…‥」

 ゲーム内では咲羅の幼い頃の話はヒロインと攻略対象者達が関わる際に文章で断片的にしか書かれていなかった。ヒロインや攻略対象者達の目線で書かれていた為、幼い頃に咲羅がどういう気持ちで過ごしていたかなんて尚更書かれている筈もなかった…

「でも、少しずつ皆の優しさを信じる様になって一人じゃなくなったの…だからね、月華も周りの人達の事をもっと信じてみて?」

「…‥」

「手始めに私だけでも信じてみない?えっと、私は少しずつ皆の優しさを信じる様になって頼る様になって今は凄く幸せだから…月華にもそうなって欲しくて…」

「…咲羅様の事は信じてますよ」

「え…?」

「それに、私は一人じゃありません」

 鏡越しにヒロインと同じ翡翠色の瞳を真っ直ぐに見つめて言い返すと咲羅は陽だまりのような笑顔を浮かべた。

パチンッ!

 咲羅は何かを察したかのように両手を合わせて叩いた。

「…?」

「それって、好きな人かしら?」

ガタッ!

 突拍子な発言に思わず倒れそうになりながらも慌てて振り向いて弁解する。

「違いますっ!変な誤解は止めて下さい!」

「あら?違ったの?月華は可愛いから好きな人の一人や二人いるのかと思ったのに…」

 はぁ…この人は本当に娘であるヒロインと瓜二つなんだから…‥

 片手を頬に当て困った様に目尻を下げる咲羅の姿がヒロインと重なって見えた。

 天然で誰にでも優しくて陽だまりのような笑顔をするヒロインと同じだ

「咲羅様」

「…?」

シャラ…

「この簪…大事にしますね」

 桜の簪に触れ目の前の陽だまりのような咲羅にそう言いながら内心はこれから始まる毒殺計画を絶対に止めると決意した。

 ‥…って言ったのはいいけど、流石に普段使いは周りの女中達から反感を買いそうだから無理だ

ザー…ドタドタドタッ…

 咲羅と別れた後、夜ノに頼み込み絶対に台所から出ないという約束で食器を洗う係に参加させてもらった私は宴が始まるなり踏み台を使いながら次々に来る洗い物を洗っていた。

「次、焼き物を運んでちょうだい!」

「はい!」

 背後で料理を作る係と運ぶ係の女中達がやり取りしているのを聞きながら未だに来ない李に内心動揺する。

 毒を入れるとしたら台所かと思ったけど違うのかな?でも、他の場所で料理に毒を入れるだなんて考えられないし…

「うわぁ…!美味しそうな料理ですね!」

「李様!?」

っ…!?

 鈴の鳴る様な可愛らしい声がその場に響き女中達の驚く声と共に洗う手を止め振り返る。腰まである橙色の長い髪に檸檬色の瞳を持ち鬼灯の花の柄の着物を着た六歳ぐらいの彼女は双子の姉妹の姉であり姉妹揃って鬼衆王の双子の側室である。妹は黄蘭の姉である彼女は黄桃の側室という双子同士の関係であった。

「何故、この様な場所においでになられたのですか?今は宴の最中の筈では…」

「黄桃様が口にする特別な料理ですもの!誰よりも先に見てみたくて…駄目でしたか?」

「い、いえ!そんな事はございませんが…」

「ふふっ、ご迷惑はおかけしません。ただこの桜の宴の三日間だけこうして少し覗かせて下さい。少し見たら直ぐに宴に戻りますから」

「それなら構いませんが…」

 一件、大人しそうで可愛らしい容姿をした李の言葉巧みな発言にその場にいた女中達は押し黙り戸惑いながらも作業を再開した。

 この世界で二番目の悪女、李…‥黄桃の事が好きで黄桃の為なら何でもする嫉妬深い人物。そして、この宴において菫に利用され咲羅に毒を盛った人物だ。
















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...