鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

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繁火への旅

精神的疲労が凄いです

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 南の国に位置する繁火は、一年中暑く文明が発達した最先端国であり食べ物や衣服など様々な製品が売り買いされる商業の国である。

「やっと着いた~!」

「長い道のりでしたね」

 黄桃と李がそれぞれ口々と漏らすのを傍らで聞きながら辺りを見渡す。

 流石、最先端の国…着ている服も着物だけじゃないんだ…

 街行く人々は着物だけではなくシャツやズボンにブラウスやスカートといった洋装をしている人もおりその背後にある建物も木造だけではなく煉瓦れんがが使われた建物まで建てられていた。

「黄桃様、あちらでお茶でもしませんか?」

「いいね!そうしよう!」

 李の指を指した方向を見ると茶屋と書かれた店があり中は王衆にもある様な普通の茶屋だった。

ザッ…ザッザッ…‥

「あ、待ってよ!」

「待って下さい!お姉様~!」

ザッザッ…ザッ…

私も追いかけないと…

 真っ先に駆け出して行った黄桃と李を黄蘭と灯が追いかけ私はその後を追いかけた。

 王衆から繁火の中心まで辿り着くのに約六日か…ほんと、長い道のりだったなぁ…

今までの旅路を思い出し内心溜息を着く。

 はぁ…何が大変かって言ったら精神的なものしかないけど…

 先に茶屋の木製の長椅子に腰を下ろす黄桃をチラッと見るなりすぐ隣に座る李を見比べた。

 黄桃の事が好きな李。でも、黄桃は目が合った相手の心の声が聞こえる妖力を持っているから李の思いは既に知っているのだろう…

 李に少し同情しながらも黄蘭の隣に腰を下ろすと、緑茶の入った湯呑みを乗せたお盆を手にする李が目の前に来て目を丸くする。

「どうぞ」

差し出す緑茶入りの湯呑みに内心溜息を零す。

またか…

「お気持ちは嬉しいですが、受け取れません。前にもお伝えしましたが、飲み物は持参している飲水がありますし緑茶は朱夏様がお入れになった緑茶が好きなので」

「そう…残念ね」

 李は残念そうな表情を浮かべながら差し出した緑茶入りの湯呑みをお盆の上に戻すと店員である四十代ぐらいの黒髪ショートの女性に渡し黄桃の隣に座り直した。

悪いけど、私がその薬を飲む事はないから

 ここまでの旅路で休憩をとる度に李から差し出された飲み物には僅かにある薬の匂いがした。その薬は花火の頃に山で見た事があった薬で葉は一日眠れなくなり根は逆に一度寝てしまったら口にした分量だけ眠り続けるという薬の名は”鬼睡草”。

 李が私に渡す飲み物に入れたのは根の方だろう。根は葉と違いすり潰せば白い粉になり飲み物と混ぜれば同化するから気づかれる事はない。普通の人ならね。生憎、私は花火の頃に鬼睡草の根を口にした事があるから僅かな匂いでも分かるんだよね…

 花火の頃、ふきと六郎達の家で上手く眠れなかった事があった際に鬼睡草の根を口にした事があった。その匂いを未だに覚えていたおかげで李から差し出された飲み物を飲まずに済んだと思うとあの時の自身の行動を褒めたくなった。

 でも、何で私に鬼睡草を飲ませようとしたんだろう…?

 隣に視線を向けるとふと、黄桃達が口にするカステラと黄桃の金色の瞳が視界に入った。

カステラ美味しそう…

 そう思うなり直ぐにカステラへと視線を集中させる。

はぁ…しんどい…

 黄桃の金色の瞳は妖力が発動している証でありその証を含め妖力を知っている者は黄蘭と黒道と時雨のみ。それ以外の者は妖力の影響で時折瞳の色が変わるとしか思われていないかった。

 だけど、それ以上にやばいのは黄桃が完全に妖力を解放した時だ

 黄桃が完全に妖力を解放すると相手の心の内だけではなく過去まで見る事が出来た。それは、狼との過去を持つ月華にとっては危険極まりない妖力だった。

 もし、黄桃が狼の事を知っていたら私や冷はただでは済まないだろう…

「あの…カステラ食べますか?」

っ…!?

 恐る恐る掛けられた声に顔を上げると自身のカステラが乗せられた小さな赤い小皿を差し出す灯と目が合った。

 灯…李の双子の妹で姉と一緒に居られるのならという理由で黄蘭の側室になった少女。ゲームでは黄蘭の側室でありながら黄蘭に恋心はなく姉の事が好きで姉の李が危険な事をしようとしたら心配し止めようとした事もあった。言うならば、姉思いの優しい妹…

「あの…?」

「あ…お気持ちだけ頂きます。灯様は自分のカステラをお食べ下さい。私はお店の人に頼みますので」

「そうですか…」

 恥ずかしそうにしながら差し出したカステラを一口噛じる灯の姿を穏やかな目で見つめた。

「じゃあ、代わりに僕が頼んであげるよ」

「え…」

 間に居た黄蘭が突然話し掛けるなり背後にいた店員の女性に声を掛けた。

「すみませ~ん!カステラ、一人前追加でお願いします!」

「は~い!」

「あの…ありがとうございます」

 恐る恐る感謝の言葉を述べると黄蘭は明るい笑を向けながら口を開いた。

「いいよ、気にしなくて。僕達だけが食べるだなんて良くないからね」

 そう言った茶色の瞳には温かさはなく相変わらずの敵意を強く感じた。

 黄桃も怖いけど性格を含めれば黄蘭の方が怖いかも…

 同じく鬼衆王の一人である黄桃の双子の兄の黄蘭。彼の妖力は圧倒的な腕力。だが、彼が怖いのはそれ以上に彼の性格だった。彼は天真爛漫で優しい温厚な態度とりつつも弟の黄桃の為なら何でもする…そして、傷つける者には容赦なく切り捨てるという性格をしていたのだった。









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