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桜鬼城の襲撃
月華と花火
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狼の襲撃事件後、鬼衆王達は狼達の処理と気絶させ残した数人を尋問し襲撃の経緯を洗いざらい吐かせ断罪した。結論から言えば、この襲撃事件は狼が鬼衆王を潰す目的で行った事であり今回の襲撃に狼の仲間は全てではなかった事が判明した。そして、この襲撃事件での桜鬼城の者の負傷者は蒼のみでありその蒼も日華によって傷は跡形もなく塞がり回復した。蒼を治した日華はその力が極秘とされ黒道と時雨、蒼と冷だけが知る秘密となった。理由としては、日華はまだ幼く今後の経過を見る為だった。そして、私は…
ドンッ!
「嫌っ!何で駄目なの!?お父様っ!!!」
黒の間の一室にて、日華は泣きながら黒道へと縋りつき懇願していた。月華を助ける為に。
「日華、その願いは聞き入れる事は出来ない。頼むから、今は部屋で大人しく待っていてくれ」
「嫌だっ!私の誕生日の贈り物、何も要らないから月華を出してよ!お願いっ!」
「これは、小さな問題じゃないんだ。日華‥」
「嫌っ!嫌だよ…っ、月華を出して!月華は何も悪くないもん!」
「っ…‥」
ズルズルと崩れ落ちる日華を見下ろしながら黒道は唇を噛み締めた。何故なら、これは日華のお願いでも聞き入れる事が出来ない事だったからだ。襲撃事件後、月華は丸一日眠り続け目を覚ました次の日に冷と共に牢屋へと入れられた。理由は、狼と関わりがある事が判明したからだった。
❋
…カタッ…‥
黒道と時雨は客間の地下にある牢屋と拷問部屋に続く階段を降りると鉄で出来た扉を前に集まる者達に目を見開いた。
「来てたんだな」
「当たり前でしょ?鬼衆王だもん」
そう言う黄桃を含め黄蘭や暁、そして…
「朱夏、何故あなたがここに居るんですか?」
時雨は眉間に皺を寄せて険しい表情で問いかけると、朱夏は唇をぎゅっと結び真剣な眼差しで口を開いた。
「時雨様、黒道様…お願いします、ここに居させて下さい!」
深々と頭を下げ懇願する朱夏に時雨と黒道はお互いに顔を見合わせ朱夏と暁へと視線を移した。
「暁」
「分かってる。ここからは動かない」
「ありがとうございます」
黒道の言葉に暁は頷くと朱夏は顔を上げお礼の言葉を口にした。
…タッ‥
「…?」
突然、背後から誰かの足音がし黒道が不思議な面持ちで振り返ると隣に居た時雨が口を開いた。
「揃ったようですね」
「…そうだな」
時雨の言葉に黒道は察し頷くと目の前の鉄で出来た扉をゆっくりと押し開く。
‥キー…
「…‥」
扉を開けるなり黒道と時雨は薄暗い空間の中を進むと鉄格子で囲まれた一つの牢屋の前で足を止めた。
「今から尋問を執り行います」
時雨の言葉に藁で敷かれた牢の中にいた手足を鉄の鎖で拘束された銀色の髪に水晶の様な水色の瞳を持ち右目に泣きぼくろがある冷と左目を妖力のかかった黒い眼帯で隠し黒髪に真っ青な海の様な瞳を持つ月華は顔を上げ頷いた。
「”はい”」
❋
薄暗い空間に血生臭い匂いと僅かに混じる異臭と錆びた鉄匂い。だが、冷と共に居る牢のみ藁が敷かれ僅かに時雨と黒道の気遣いを感じ何も言えなくなる。そんな中、鉄格子越しに真剣な眼差しで見下ろす時雨と黒道に私達は全てを話す事にした。
「まずは、冷…あなたが狼と出会った経緯を教えて下さい」
「はい」
時雨の言葉に冷は真剣な面持ちで頷くと淡々と話し始めた。
「俺は雪羅の山付近で小さな家に病弱の母と妖力を失った鬼の父と三人で暮らしていました。だけど、五年前…全てを失いました。狼の弟によって…」
「っ‥!?」
その言葉に時雨と黒道は目を見開くと冷は話を続けた。
「五年前、父と二人で街に野菜を売りに行く時でした。突然、父がやべぇ奴が近づいて来るから母の所に戻れと言われました。何があっても振り返るなと。だけど、父の事が心配で振り返って戻ったら父が見たこともない白髪に黒い瞳の男に大きな刀で突き刺されていました。その後の事はよく覚えていません。気づいた時には辺り一面が真っ赤に染まり白髪の男も父の姿も消えていました。俺は何が何だか分からずただ母のいる家に戻りました。でも、母は父が刺された事を知ると病状が悪化してそのまま…」
冷は話しながら唇を噛み締めると再度口を開いた。
「その後、一人になった俺は父を刺した男を調べその男が山犬の狼の弟だと知りました。それと同時に、父を斬るように命令したのが狼だという事も」
「それでお前は復讐を決意したんだな」
険しい顔で問いかける黒道に冷は頷いた。
「はい。いつか狼に復讐する事為に名前を捨て仲間になり力をつけてその日が来るのを願っていました。でも…」
冷は何故か私に視線を移すと口を噤んだ。
「冷、あなたに話さなければいけない事があります」
「…?」
真剣な顔でそう言う時雨に冷は視線を移し見上げた。
「あなたの父親は元鬼衆王でした」
「っ‥!?」
「あなたの父親…いえ、霙は街であなたの母と出会い恋仲になり鬼衆王辞めこの桜鬼城を出て行きました。ですが、その代償に妖力を失っていきその間に追っ手に追われることになったのです」
「追っ手…?」
「一人は霙を誰よりも認め信頼していた暁の父である鬼衆王だった火炎。もう一人は霙の実家である雪篠家の当主です」
「雪篠家…?父は雪篠家だったんですか?」
「ええ…雪篠家の本家の者でした」
「…‥」
その言葉に冷は何かを察した様に黙り込んだ。
「次に、月華…お前が狼と出会った経緯は何だ?」
険しい顔で問いかける黒道に、私は困った様に言葉を紡いだ。
「私の生まれは恐らく、この王衆でした」
「恐らく?」
首を傾げる時雨に私は小さく頷いた。
「はい。私が生まれて間もない頃、この王衆で火事にあい実の母は亡くなりその母の友人だった夫婦に引き取られたんです。それで、名前も分からなかった私をその夫婦は名前をつけ我が子の様に育ててくれました。三歳までは…」
「私達もあなたの情報は僅かですが入手していました。その三歳まではというのはあの辻斬り事件の影響ですね?」
「はい。三歳の頃、育ての父が辻斬りの現場に遭遇し巻き込まれて亡くなりました。その後、育ての母は憔悴し私は育ての母の知り合いの家に引き取られる事になったんです。ですが、育ての母はその後姿を消し二度と会う事はありませんでした」
「その引き取られた家というのは?」
「次に、引き取られた家では三年間暮らしていました。最初は、この左目のせいで毛嫌いされていて馴染めずにいましたが半年ぐらい経つ頃には徐々に毛嫌いされる事もなくなっていき馴染める様になりました。でも、引き取られて三年後に事件は起きました。その事件は恐らく時雨様と黒道様も知っていると思います」
「…?」
「家族全員が狼の手によって斬られたんです」
「っ‥!?まさか、あの山付近で発見された一家全員の殺害事件の事でしょうか?」
驚きながら問いかける時雨に重々しく頷いた。
「はい、私はあの家で暮らしていました」
「ですが、調べた所あなたの情報らしきものは何もありませんでしたが…?」
「私はこの左目の事で他の家族が悪く言われるのを恐れていました。なので、街に出る事はなく外に出る事も殆どありませんでした。それ故に、私の情報はなかったのだと思います」
「…‥」
「あの事件の時、私は兄と一緒に山で木の実を採りに行っていました。ですが、直ぐに異変に気づきました。家がある方角から子供を探す男の声が聞こえたんです。私と兄は直ぐに身を隠しました。ですが、ただならぬ状況を理解した兄は男の前に出て行き私の目の前で…斬られたんです。その時、私は名前を捨てました。もう呼んでくれる人が居なくなってしまったから…」
「っ…」
「私の目と反抗的な態度を気に入ったのかその後、その男に連れて行かれました。狼という男に…」
「それがあなたが狼に出会った経緯という事ですね」
納得する時雨に私は頷き話を続けた。
「はい。その後、山の中で冷と出会って行動を共にする事になりました。でも、狼の仲間になった事である事実を知ってしまったんです」
「…?」
「最初に引き取り三歳の頃に姿を消した育ての母が狼に捕まり斬られていたんです」
「っ‥!?」
「その亡骸は私と冷が狼から逃げ出す手助けをしてくれた狼の仲間だった椿が山の中で埋葬した事を話してくれました」
「その狼の仲間の椿は今どこに?」
「襲撃の時に狼が”俺を欺いたんだ、ただじゃ済まさない”と…なので、もうこの世には…」
「そうですか…」
「それと、時雨様にずっと謝らなければいけはい事があります」
「…?」
「私と冷が狼の仲間としていた時に、誰かを傷つけたくなくて山を通る人達から目的の品物を少し貰い逃がしていたんです。その際に、私達の事は想像した鬼の少年に命令されてやったのだと言っていました。ですが、想像で言った鬼の少年が時雨様に似ている事は知りませんでした。それでも、不快な思いをされたと思うと申し訳なくて…すみませんでした」
私は座ったまま深々と頭を下げ謝罪の言葉を口にすると、時雨は今更と言わんばかりに口を開いた。
「もう過去の事です。気にしてはいませんから大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
顔を上げると、時雨と黒道は顔を見合わせ再度見下ろし口を開いた。
「最後に質問です。何故、この桜鬼城へ来たのですか?」
「狼から逃げるとしても何で桜鬼城に来たんだ?」
「それは、狼から身を隠せる安全な場所がこの桜鬼城しかないと思ったからです」
「それは…そうですね…」
「そうだな」
時雨は納得した様に頷くと黒道も同じく納得し頷いた。
「冷、月華…今すぐに処分を下すかどうかの決断は出来ません。よって、少し時間を下さい」
「明日の早朝、またここに来る。その時にお前達をどうするか決断する」
「はい」
「分かりました」
時雨と黒道の言葉に冷と私は真剣な顔で頷くと、二人は牢から離れその場を後にした。
…キー‥
扉を閉めた時雨と黒道はその場に居た筈の暁と朱夏の姿がない事に首を傾げた。
「暁と朱夏は?」
「あっち」
残された黄蘭と黄桃に黒道が問いかけると二人は上へと続く階段を指差した。
「そうか…」
一方、先に上へと戻った朱夏と暁は無言のまま客間の縁側にて座り込んでいた。
「私…何も知らなかった。月華の事、何も知らなかった…友達なのに…何も…っ…」
拳を握り締め涙を堪える朱夏の隣で暁は唇をぎゅっと結び小さく呟いた。
「…俺も一緒だ」
ドンッ!
「嫌っ!何で駄目なの!?お父様っ!!!」
黒の間の一室にて、日華は泣きながら黒道へと縋りつき懇願していた。月華を助ける為に。
「日華、その願いは聞き入れる事は出来ない。頼むから、今は部屋で大人しく待っていてくれ」
「嫌だっ!私の誕生日の贈り物、何も要らないから月華を出してよ!お願いっ!」
「これは、小さな問題じゃないんだ。日華‥」
「嫌っ!嫌だよ…っ、月華を出して!月華は何も悪くないもん!」
「っ…‥」
ズルズルと崩れ落ちる日華を見下ろしながら黒道は唇を噛み締めた。何故なら、これは日華のお願いでも聞き入れる事が出来ない事だったからだ。襲撃事件後、月華は丸一日眠り続け目を覚ました次の日に冷と共に牢屋へと入れられた。理由は、狼と関わりがある事が判明したからだった。
❋
…カタッ…‥
黒道と時雨は客間の地下にある牢屋と拷問部屋に続く階段を降りると鉄で出来た扉を前に集まる者達に目を見開いた。
「来てたんだな」
「当たり前でしょ?鬼衆王だもん」
そう言う黄桃を含め黄蘭や暁、そして…
「朱夏、何故あなたがここに居るんですか?」
時雨は眉間に皺を寄せて険しい表情で問いかけると、朱夏は唇をぎゅっと結び真剣な眼差しで口を開いた。
「時雨様、黒道様…お願いします、ここに居させて下さい!」
深々と頭を下げ懇願する朱夏に時雨と黒道はお互いに顔を見合わせ朱夏と暁へと視線を移した。
「暁」
「分かってる。ここからは動かない」
「ありがとうございます」
黒道の言葉に暁は頷くと朱夏は顔を上げお礼の言葉を口にした。
…タッ‥
「…?」
突然、背後から誰かの足音がし黒道が不思議な面持ちで振り返ると隣に居た時雨が口を開いた。
「揃ったようですね」
「…そうだな」
時雨の言葉に黒道は察し頷くと目の前の鉄で出来た扉をゆっくりと押し開く。
‥キー…
「…‥」
扉を開けるなり黒道と時雨は薄暗い空間の中を進むと鉄格子で囲まれた一つの牢屋の前で足を止めた。
「今から尋問を執り行います」
時雨の言葉に藁で敷かれた牢の中にいた手足を鉄の鎖で拘束された銀色の髪に水晶の様な水色の瞳を持ち右目に泣きぼくろがある冷と左目を妖力のかかった黒い眼帯で隠し黒髪に真っ青な海の様な瞳を持つ月華は顔を上げ頷いた。
「”はい”」
❋
薄暗い空間に血生臭い匂いと僅かに混じる異臭と錆びた鉄匂い。だが、冷と共に居る牢のみ藁が敷かれ僅かに時雨と黒道の気遣いを感じ何も言えなくなる。そんな中、鉄格子越しに真剣な眼差しで見下ろす時雨と黒道に私達は全てを話す事にした。
「まずは、冷…あなたが狼と出会った経緯を教えて下さい」
「はい」
時雨の言葉に冷は真剣な面持ちで頷くと淡々と話し始めた。
「俺は雪羅の山付近で小さな家に病弱の母と妖力を失った鬼の父と三人で暮らしていました。だけど、五年前…全てを失いました。狼の弟によって…」
「っ‥!?」
その言葉に時雨と黒道は目を見開くと冷は話を続けた。
「五年前、父と二人で街に野菜を売りに行く時でした。突然、父がやべぇ奴が近づいて来るから母の所に戻れと言われました。何があっても振り返るなと。だけど、父の事が心配で振り返って戻ったら父が見たこともない白髪に黒い瞳の男に大きな刀で突き刺されていました。その後の事はよく覚えていません。気づいた時には辺り一面が真っ赤に染まり白髪の男も父の姿も消えていました。俺は何が何だか分からずただ母のいる家に戻りました。でも、母は父が刺された事を知ると病状が悪化してそのまま…」
冷は話しながら唇を噛み締めると再度口を開いた。
「その後、一人になった俺は父を刺した男を調べその男が山犬の狼の弟だと知りました。それと同時に、父を斬るように命令したのが狼だという事も」
「それでお前は復讐を決意したんだな」
険しい顔で問いかける黒道に冷は頷いた。
「はい。いつか狼に復讐する事為に名前を捨て仲間になり力をつけてその日が来るのを願っていました。でも…」
冷は何故か私に視線を移すと口を噤んだ。
「冷、あなたに話さなければいけない事があります」
「…?」
真剣な顔でそう言う時雨に冷は視線を移し見上げた。
「あなたの父親は元鬼衆王でした」
「っ‥!?」
「あなたの父親…いえ、霙は街であなたの母と出会い恋仲になり鬼衆王辞めこの桜鬼城を出て行きました。ですが、その代償に妖力を失っていきその間に追っ手に追われることになったのです」
「追っ手…?」
「一人は霙を誰よりも認め信頼していた暁の父である鬼衆王だった火炎。もう一人は霙の実家である雪篠家の当主です」
「雪篠家…?父は雪篠家だったんですか?」
「ええ…雪篠家の本家の者でした」
「…‥」
その言葉に冷は何かを察した様に黙り込んだ。
「次に、月華…お前が狼と出会った経緯は何だ?」
険しい顔で問いかける黒道に、私は困った様に言葉を紡いだ。
「私の生まれは恐らく、この王衆でした」
「恐らく?」
首を傾げる時雨に私は小さく頷いた。
「はい。私が生まれて間もない頃、この王衆で火事にあい実の母は亡くなりその母の友人だった夫婦に引き取られたんです。それで、名前も分からなかった私をその夫婦は名前をつけ我が子の様に育ててくれました。三歳までは…」
「私達もあなたの情報は僅かですが入手していました。その三歳まではというのはあの辻斬り事件の影響ですね?」
「はい。三歳の頃、育ての父が辻斬りの現場に遭遇し巻き込まれて亡くなりました。その後、育ての母は憔悴し私は育ての母の知り合いの家に引き取られる事になったんです。ですが、育ての母はその後姿を消し二度と会う事はありませんでした」
「その引き取られた家というのは?」
「次に、引き取られた家では三年間暮らしていました。最初は、この左目のせいで毛嫌いされていて馴染めずにいましたが半年ぐらい経つ頃には徐々に毛嫌いされる事もなくなっていき馴染める様になりました。でも、引き取られて三年後に事件は起きました。その事件は恐らく時雨様と黒道様も知っていると思います」
「…?」
「家族全員が狼の手によって斬られたんです」
「っ‥!?まさか、あの山付近で発見された一家全員の殺害事件の事でしょうか?」
驚きながら問いかける時雨に重々しく頷いた。
「はい、私はあの家で暮らしていました」
「ですが、調べた所あなたの情報らしきものは何もありませんでしたが…?」
「私はこの左目の事で他の家族が悪く言われるのを恐れていました。なので、街に出る事はなく外に出る事も殆どありませんでした。それ故に、私の情報はなかったのだと思います」
「…‥」
「あの事件の時、私は兄と一緒に山で木の実を採りに行っていました。ですが、直ぐに異変に気づきました。家がある方角から子供を探す男の声が聞こえたんです。私と兄は直ぐに身を隠しました。ですが、ただならぬ状況を理解した兄は男の前に出て行き私の目の前で…斬られたんです。その時、私は名前を捨てました。もう呼んでくれる人が居なくなってしまったから…」
「っ…」
「私の目と反抗的な態度を気に入ったのかその後、その男に連れて行かれました。狼という男に…」
「それがあなたが狼に出会った経緯という事ですね」
納得する時雨に私は頷き話を続けた。
「はい。その後、山の中で冷と出会って行動を共にする事になりました。でも、狼の仲間になった事である事実を知ってしまったんです」
「…?」
「最初に引き取り三歳の頃に姿を消した育ての母が狼に捕まり斬られていたんです」
「っ‥!?」
「その亡骸は私と冷が狼から逃げ出す手助けをしてくれた狼の仲間だった椿が山の中で埋葬した事を話してくれました」
「その狼の仲間の椿は今どこに?」
「襲撃の時に狼が”俺を欺いたんだ、ただじゃ済まさない”と…なので、もうこの世には…」
「そうですか…」
「それと、時雨様にずっと謝らなければいけはい事があります」
「…?」
「私と冷が狼の仲間としていた時に、誰かを傷つけたくなくて山を通る人達から目的の品物を少し貰い逃がしていたんです。その際に、私達の事は想像した鬼の少年に命令されてやったのだと言っていました。ですが、想像で言った鬼の少年が時雨様に似ている事は知りませんでした。それでも、不快な思いをされたと思うと申し訳なくて…すみませんでした」
私は座ったまま深々と頭を下げ謝罪の言葉を口にすると、時雨は今更と言わんばかりに口を開いた。
「もう過去の事です。気にしてはいませんから大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
顔を上げると、時雨と黒道は顔を見合わせ再度見下ろし口を開いた。
「最後に質問です。何故、この桜鬼城へ来たのですか?」
「狼から逃げるとしても何で桜鬼城に来たんだ?」
「それは、狼から身を隠せる安全な場所がこの桜鬼城しかないと思ったからです」
「それは…そうですね…」
「そうだな」
時雨は納得した様に頷くと黒道も同じく納得し頷いた。
「冷、月華…今すぐに処分を下すかどうかの決断は出来ません。よって、少し時間を下さい」
「明日の早朝、またここに来る。その時にお前達をどうするか決断する」
「はい」
「分かりました」
時雨と黒道の言葉に冷と私は真剣な顔で頷くと、二人は牢から離れその場を後にした。
…キー‥
扉を閉めた時雨と黒道はその場に居た筈の暁と朱夏の姿がない事に首を傾げた。
「暁と朱夏は?」
「あっち」
残された黄蘭と黄桃に黒道が問いかけると二人は上へと続く階段を指差した。
「そうか…」
一方、先に上へと戻った朱夏と暁は無言のまま客間の縁側にて座り込んでいた。
「私…何も知らなかった。月華の事、何も知らなかった…友達なのに…何も…っ…」
拳を握り締め涙を堪える朱夏の隣で暁は唇をぎゅっと結び小さく呟いた。
「…俺も一緒だ」
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