鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

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遊郭の怪奇事件

静かにしようね

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…ザッ…ザッ…ザッ‥…

「はぁ…はぁ…早く帰らないと…っ」

 平然と先に帰った時雨を他所に、私は時雨のせいでいつもより支度が遅れ急いで人気のない花街を走り抜けていた。

「…経過はどうだ?」

っ‥!?

 建物の隙間から見えた全身黒の装いの者達が視界に入り足を止め音を立てずに恐る恐る近づく。

「今の所は上々だ」

何の話…?

 木造の建物の柱や身を隠せるくらいの看板板を使い身を潜めながら聞こえてくる声に耳を傾ける。

「なら、この薬も試してくれ」

薬…?

 その言葉に恐る恐る覗き見ると荷台の上に沢山積まれた黒い箱が見え凝視する。

「これは、どんな効力があるんだ?」

「さぁな…だが、今まで使用していた薬と同様に遊女達が狂うのは確実だ」

っ…!?遊女達って、まさか…

 その言葉に最近、頻繁に起こる遊郭での怪奇事件と重なり唇を噛み締める。

 最近、遊郭では不可解な行動を取る遊女が問題になっていた。例として、飛び降りや錯乱状態になったり幻覚を見る遊女が頻繁に現れていた。それを調べる為にこの遊郭で時雨と共に情報収集をしていたけど、まさかこいつらのせいだったなんて…

 そう思うなり体が自然と動き立ち上がろとした瞬間、背後から手が伸ばされた。

グイッ!

「っ‥!?」

誰‥っ!?

 口と腹部に手が回され塞がれ後ろへと倒れ込む。

ザッ…

「ん?今、何か音がしなかったか?」

まずい‥っ!?でも‥

 誰かに抱き締められ拘束され動けない状況に反射的に太腿につけたホルダーケースに入れていた刃ノ葉へと手を伸ばす。

ギュッ‥

っ‥!?

 刃ノ葉へと伸ばした手が腹部に触れていた手で掴まれ息を呑む。

「しー…」

この声‥っ!?

 耳元で囁かれた聞き覚えのある声に目を見開く。

「…気のせいか」

「この時間帯に人が居る筈ないだろう」

「そうだな」

ふぅ…‥気づかれなくて良かったけど…

 建物の柱と看板板を盾に地面の上で口を塞がれ着物の丈をたくし上げた状態で手を掴まれ動けない状況に薄紫色の髪の毛が頬をくすぐった。

 薄紫色の髪に背中に当たる程よく鍛えられたこの肉体の感じは…

「動かないでね」

 耳元で囁かれた声に条件反射で体がビクつき眉を寄せる。

…紫音

 花の香りと共に薬の香りが鼻をくすぐり嫌悪感が湧き上がる。

何で、ここに居るの?

「…金は後だ」

っ…

「了解した。受取人はもうすぐ来るはずだ」

受取人?まだいるの?

 黒い装いの者達の言葉に集中し眉間に皺を寄せる。

「ああ、のようにな」

 そう言い残すなり遠ざかって行く足音に安堵しつつ口を塞ぐ手が緩み直ぐさま手を払い除ける。

パシッ!

「な‥」

グイッ!

「んっ!?」

 振り向き声を上げようとした瞬間、掴まれた手が離され代わりに後頭部に手が触れ引き寄せられるなり柔らかな感触が唇に触れた。

「っ…ぁ‥」

 余韻の残るぐらい中まで舐められ唇がゆっくりと離されるなり手で優しく髪を撫でられ至近距離で若葉色の瞳が覗き込む。

「静かにしようね」

トンッ‥

「っ‥!?」

 そう呟かれるのと同時に胸元に引き寄せられ優しく髪を撫でれられた。

「…今月分よ」

この声…!?

 不意に、聞こえた聞き覚えのある女性の声に驚くも乱れた黄色や紫色の菊柄の着物の隙間から見える程よく鍛えられた肉体に鼻先が埋まりそれどころじゃなかった。

早く離してよっ!

 頬が熱くなる感覚を感じ尚更早く離れたかった。

「ありがとよ」

「もっと欲しいのならそれに見合った働きをしなさい」

「ああ、そのつもりだ」

「では、また…‥」

 再度遠ざかって行く足音に安堵し後頭部に触れていた手が離された。

「大丈夫?月華ちゃん」

「に…」

「に?」

「二度もするなんて最低っ!?」

「へ?」

「しかも、二度目は中まで…っ‥うっ…馬鹿!最低!大っ嫌いっ!それに、何で着物が乱れているんですか!?その隙間に埋もれる身にもなって下さい!」

 顔を真っ赤にしながらこれでもかと叫ぶと、紫音は可笑しそうに笑みを零した。

「ふっ‥そこ?言いたい事がそこって…あはははっ!」

「な‥っ!?こっちは真剣に言っているのに‥」

「だって、月華ちゃん…あんな現場を目撃して他に言いたい事がある筈なのに開口一番にそれって…」

「っ…」

 そうだった!さっきの事を色々と聞き出さなきゃいけないのに‥っ

スー…

「っ‥!?」

 不意に、髪に手が伸ばされそのまま指先が耳元に触れた。

「…可愛い」

「っ…」

…って、流されている場合じゃない!

「どうしてここに居るんですか?さっきの事について何か知っているんですか?」

 紫音の膝の上に座り直し胸元に手を置き若葉色の瞳を真っ直ぐに見つめながら真剣な顔で問いかける。

「月華ちゃん、そんなに近いとまた口づけしちゃうよ?」

「っ…、ちゃんと答えて!」

 赤く染まる頬を撫でられながらも唇をぎゅっと結びそう言うと紫音は目尻を下げ口を開いた。

「ここに居たのは薬を配る為」

「薬?」

まさか…

「彼奴らとは別の薬。遊女達に無償で薬を配ってたんだ」

「何で、そんな事を?」

「遊女は色々な人や鬼やそのどちらでもない者も含め沢山の者達と接するから怪我や病気になりやすい。そもそも遊女はこの花街から出られないから病気になっても医者が必ずしも見てくれるとは限らないし、薬代を払えない遊女もいる。だから、僕は内密に彼女達に無償で薬を配り歩いてるんだ」

「それって…」

 その言葉に昔、紫音が花街を歩いていた事や遊郭で遊び回っている噂が脳裏を過ぎり疑いの目を向けながらも再度口を開く。

「昔、ここを歩いていたのも遊郭を遊び回っている噂も本当は裏で薬を配っていたからですか?」

「んー…昔、ここで月華ちゃんと会った時は薬を配っていた帰りだった。遊郭を遊び回っていたのは半分本当で半分嘘だよ」

「え…」

半分は本当って…

「月華ちゃん?」

 眉を寄せ不快な顔をする私に紫音は首を傾げた。

やっぱり信用出来ない!この女たらし!

「彼奴らも薬を配っていたみたいですけど、紫音様と同じ理由でしょうか?それにしては、彼奴らの薬は怪しさしかありませんでしたけど…」

 あの話し方からして、遊女に悪い薬を飲ませてる感じだったし…

「彼奴らが配る薬は間違いなく悪い薬だよ」

「彼奴らの事を知っているんですか?」

「君も気づいたと思うけど彼奴らにお金を渡していたのはすみれ

やっぱりあの声は菫のものだったんだ

「でも、僕が菫の行動に気づいたのはこの遊郭で遊女達の事件が起き始めた頃なんだ。今みたいに日が昇る前に帰ろうとしていたら菫を目撃してね…その後は、内密で少しずつ調べて今って感じかな?でも、菫は僕と同じ草樺家の者だからこれ以上深入りは出来ないんだけどね」

「そうだったんですね…」

 つまりは、この事件を裏で操っていたのは草樺家って事か…紫音は草樺家の者だからこれ以上深入りすれば草樺家から目をつけられる。何より関わって逆に罪を着せられる可能性もあるからこれ以上深入りするのは危険だ。でも…

「貴重な情報を教えてくれてありがとうございます」

「貴重な情報か…時雨に報告するならあまり人気のない遊郭の店の中を探すといいって伝えて。そこに彼奴らが潜伏し薬を隠してる可能性があるから」

「はい」

「それと‥くしゅんっ!」

「忘れてました。何で、着物が乱れて羽織もないんですか?」

 突然の紫音のくしゃみに視線を落とし乱れた黄色と紫色の菊柄の着物を呆れた目で見つめる。

「んーと、帰ろうとしていたら窓枠から君が走っているのが見えて慌てて飛び出して来たせいでこうなったというか…羽織も忘れて来ちゃったというか…」

 困った様にそう言う紫音に肩を落とし乱れた着物の襟に手を伸ばす。

スー‥

「ちゃんと羽織くらい着て下さい。風邪を引きますよ?」

 襟を直しながらそう言うと若葉色の瞳が覗き込む。

「じゃあ、その時は月華ちゃんが看病してくれる?…っ‥!?」

ゆっくりと近づく唇にすかさず手で止める。

「その手には乗りません」

 若葉色の瞳を真っ直ぐに見つめそう言いゆっくりと口を塞ぐ手を外す。

「残念」

 あからさまに残念そうに小さく笑を零す紫音に眉を寄せ怪訝な表情を浮かべる。

「じゃあ、そろそろ我慢出来そうにないから退いてくれるかな?」

「あ…‥」

 その言葉に自身が紫音の膝の上に乗っている事を思い出し慌て体を離し立ち上がり背を向ける。

ザッ…

「ねぇ、月華ちゃん」

スー…

「っ‥!?」

 不意に、背後から指先が髪に触れ首筋が晒され息を呑む。

「僕の前ならいいけど…」

ツー‥

「ん‥っ‥」

 指先が時雨に吸われた場所に触れ甘い声が零れた。

「あんまり男に隙を見せたら駄目だよ?」

「っ…」

 甘く冷たさを感じる声が囁かれるなり首筋に触れる指先が離れ紫音はその場から去って行った。













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