夢で逢えたら・・私の理想は細マッチョ

月夜(つきよ)

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はじめまして?

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どんよりと曇る空を見上げて、なんだか雨でも降りそうだなあと朝から憂鬱な気分になった。
今日は私の勤める出版社の入稿日。きっと最後まで「んーいいんだけど、なんか違うんだよね?そう、なんか。」という、なんかってなんだコラ!っていう大迷惑な指示に振り回されるのだ。
じゃあさ、お前書けよ・・、そう言いかけた事は、きっと100回、いや1000回・・?なんてぶつくさと心のうちで繰り返し、朝の通勤電車に乗る為に横断歩道の前にいた。歩行者信号は赤。早く変わらないかなあなんてぼうっとして、青になったと同時に横断歩道に足を踏み入れ様とした時、ブォォンとスピードを出した車の音。
・・え、なんか止まる?止まれるの、そのスピード?なんて私は足を止めたが、目の前にはすでに歩き出している小学生が目に入った。
ドクン
胸の嫌な音が響いた。
ブオォォと黒のバンが近づいてくる。運転手の目線は、前じゃないっ!下?!

ドクン

ああっ!ダメ!!


ドンッという衝撃音をどこか遠くで聞いた。
だって、私は暴走車に吹っ飛ばされたから。
目の前の予想される事態に、身体が考えるより速く動いてしまった。
ごめん。
助けたって、自分のために死んだ人がいたら幸せじゃないと分かるのに。
私、自分の目の前で誰かが死ぬのを見てられなかった。
ああ、もっと足が速くて、力があったら・・助かったのかな。
身体に衝撃を受け、吹っ飛ばされて空中に浮かんでいる間、そんな事が脳裏をよぎった。
視界はどんどん低くなる。
地面に激突するんだ。
これは絶対死ぬ。
そう思い衝撃に備え満身創痍な身体に力を込め、目をつぶった。



「・・あれ?」
衝撃に備えたはずの身体は、節々痛いものの待ち構えた衝撃が襲ってこない。
縮こまった身体からそっと力を抜いて恐る恐る目を開けると・・。

「え?」
目の前には生い茂る緑。木が茂り過ぎちゃって空さえ見えず薄暗い。
足元を見れば靴・・でも履いていたはずの黒のパンプスじゃない、男性用の黒革の紐ぐつ。
視線を上にあげれば、細マッチョな身体に膝辺りが破けた黒いズボンに血だらけの生成りシャツが見える。
・・すごい怪我してる?
いやいや、それよりここどこ?
左右を確認しようと頭をぐるっと回すと、ぐわん、ぐわんと激しい痛み。
「っ・・!」
痛みに頭を抑えると、手のひらに真っ赤な血がついた。
なにこれ。
夢、、こないだの夢の続き?
でも、この傷は今さっきの事故の傷?
痛む頭を抑え、混乱して立ち尽くしていると、ざわざわっと木々が揺れた。
鳥達がばさばさっと慌ただしく飛び立つ羽音が聞こえ、なんとなく不穏な空気を感じる。
・・なに、この夢ハードモード?
なんか出てきちゃう系?
さぁっと血が引き、身体中に変な汗がふきだす。
待て待て、私の妄想力!
こんな時、ここはこう颯爽とイケメン軍団が助けに来るとか!
期待して辺りを見回すがドロドロしい森の奥にそんなキラキラな団体は見当たらない。
えっと、じゃあ・・チート的な魔法とかなんかで!
手のひらを上にし、なんだろう?火?火とかで焼き切るとか!?
焦った私は夢見がちな妄想力で
「いでよ!炎っ!!」
とかっこよく言ってみた。
・・シーンとした静寂が訪れた。
「馬鹿なの私はっ!!」
猛烈に恥ずかしくなった私は、怪我で痛い頭を抱えて座り込んだ。
自分の半端な妄想力に泣きたくなった。
そんな時、座り込む足元に物騒なモノが転がっていることに気がついた。

もしかして、コレを使えと?

私の足元にコロンと・・いや、ドンと、、ドーンと置かれていたのは抜き身の剣。
凄く切り味良さそうな刃がキラーンと光る。その長さ、持ち手を含めるとざっと120センチから130センチ。
背負っての持ち運び?いや、脇いける?でも歩いたらズルズルと引きずりそう・・なんて呑気に考えていたら、頭上よりぽたっと何かが落ちてきた。
?なに?
ぽたっと落ちた液体は、じゅわっと蒸発し地面を黒く焦がした。
へえっ!?
ばっと顔を上げれば、こちらの頭上を覆いかぶさるようにどす黒い紫のスライム?みたいなのが立ちはだかり、中心部は口のように穴が開いていたが数え切れないほどの尖った牙が並んでいた。さらに、背後からはなんかドロドロした触手からさっきの液体がぼとぼと落ちては地面を焼いていた。
「ぎゃああああっ!!」
なんじゃこりゃっ!?
と、とりあえず逃げるっ!
あ、剣!
後ずさりしつつも、超重そうな剣のなんだか重厚な持ち手を握ると、あら不思議。ちっとも重くない。テーブルナイフのようなその重さ驚きながらも、ダッシュで逃走すると、
「!!」
脚が、脚がめっちゃ痛いっ!でも、なんかめっちゃ速い!
自分でもびっくりするぐらいの向かい風と痛みが身体を襲う。
速い、痛い、速い、い、痛いやっぱりぃい(泣)
だって女の子だもん、涙が出ちゃうっ!
「はぁ、はぁ、はぁ、、チートは力と足の速さだけか・・。」
ここまでくれば大丈夫かと前のめりになって地面に転がった私は、気がついてしまった。

〈もっと足が速くて、力があったなら・・。〉

言った、つい何分か前に私言いましたよっ!
まさか、それで?
「まじで?そんなんで決まっちゃうわけ?もう夢なら覚めて!
って、待って!あの瞬間に戻ったら、ぺしゃっと潰れるっ!?」
色々考えられる未来に想いを馳せていると、
ぽた、ぽた、ジューッと草木が焼ける匂い。
「え!あいつ足速いのっ!?」
と振り返ると、ついさっきぶりの紫のドロドロスライム。木々をジュウジュウ焼きながらこっちに迫ってくる。
「・・なんか、頭きた!なんでこんな目に合わなきゃならんのよ!?夢でもなんでもいいけどさ、もっと私に優しくしてくれたっていいんじゃないっ!!」
後から思うと、この時の私は、仕事で締め切り前の忙しさに追われ、追い詰められているとこに事故にあって、死ぬと思ったら、夢の中で・・プツっと何かが切れてしまったんだと思う。
「お前なんかっ、ぶっ倒してやるっ!!」
そう少年漫画並みに叫んだ私は、テーブルナイフみたいな重さの剣を振り上げ、勇ましくも紫のドロドロスライム君(触手付き)に走りこんで行き、タンッと右足で地面を蹴り上げ飛びあがると、でっかいスライム君に切りかかった。
私の剣がスライムくんに刺さる瞬間、後ろから何か大きな力にガバッと引き寄せられた。
「!?」
「くそっ!間に合わない!!」
そんな聞き覚えのある声が聞こえるのと、私の剣がスライムくんに刺さるのは同時だった。。
びちゃびちゃっ。身体中にドロドロとした液体が降りかかる。まずい、これ私火傷しちゃうんじゃ・・と思いながらも身を焼くような熱さは感じないが、ジュウ、ジュウ、シュウーッと焼ける匂いと液体がまき散る音が聞こえる。なに、やっぱり焼けちゃってんの、私?と目を開けようとすれば、自分の視界は紫色のドロドロが顔のへばりついて目を開けることさえ困難だが、でも切実に、それよりもっと死にそうなのは・・
「「く、くっさい!!!」」
気を失うほどの強烈臭だった。



「・・。・・まで。」
「っ!・・せん!・・です。」
疲れ切った体が重すぎて目を開けるのもだるい。
でも、意識が浮上するとともに感じるのは、強烈な異臭。
「ゴッホ、くさ、、。」
な、なんだこれと目を開けると、どうやらベッドに寝かされている。
「臭いのはお前だ。」
そう心は乙女な私に言い放ったのは、ベッド横に立つ銀髪イケメンハーフさんだった。
本日は濃紺の詰襟の軍服にいたるところ銀の刺繍が施された誰得?な格好で、なにやらメダル?みたいなものをいっぱいつけた素敵な出で立ち。
こちらを睨みつける表情は、色々あった今はなんだか懐かしさと安心感さえ感じる。
「おー、なんか嬉しい。」
とヘラっと笑うと、ぴーんと室内の空気が固まった。
「なんか、嬉しいだと!?」
「なんで、あんなアホヅラできるんだ!」
とかなんとか、銀髪イケメンハーフさんの後ろの人々が真っ青になりながら言うが、ちっとも大変そうに見えない。皆一様に鼻をつまんで、フガフガと話しているからだ。
え、これは私が臭いということ?と銀髪・・長いな。ハーフさんを見ると、彼は綺麗な顔をそのままに鼻をつまんではおらず、めっちゃ眉間にシワを寄せていた。
なんか怒ってる?それとも臭い?
そう思った時、ハーフさんの拳がブンッと顔の前に迫ってきた!
え、なに!?殴られるっ?と瞬間的に後ずさると、
「これを飲め。」
握られていた手のひらは、顔面の目の前で開かれ、手のひらの中には金平糖みたいな黄色のころんとした丸い物体。
な、なんだよ、驚かすなよ。勢いを考えろってと思いつつ、手のひらからひょいとつまみ上げたが・・、
「えっと、これ何ですか?」
いくら夢の中だとしても、痛みもリアルな今は、不審なものを口に含みたくはない。
「解毒剤だ。お前が切り倒した魔物は触手からは千度を超える液体で木々や大地共々敵を焼き殺すが、本体を切りつけると、その内に止まらせていた毒は嗅覚を麻痺させ、あまりの悪臭に生き物は気を失うのだ。まあ、あんなとこで気を失ったら、野犬やその他もろもろに食われるのがオチだ。気を失ったお前を俺が運び、浄化魔法で被った液体を浄化したが、目や口、鼻から微量に体内に入ったんだろう、、お前、今強烈に臭いのだ。」
と、大変威厳のあるそぶりで超失礼な事を言う。
というか、魔物?浄化魔法?
私の夢はなんだかファンタジーになってきた。
だが、後ろに控える人は鼻を抑えて苦しそうなのが地味に傷つく。
「・・分かりました。これ飲んだら、臭くなくなるんですね?」
悪臭を振りまくなど、ファンタジーな夢だとしても乙女の心はとても保ちそうにない。
「ああ。ただ、弊害として嗅覚は全くと言っていいほど機能しなくなる。まあ、一ヶ月もすれば元どおりだ。」
とハーフさん。
嗅覚が一ヶ月機能しない?
手元の金平糖もどきにそんな威力が・・。
これ本当に飲んでも大丈夫?という思いと、周りの人に鼻をつままれて話させるの?っていう心の中の天秤がグラグラと揺れる。
そんな私にハーフさんは、
「ほんとは焼き切る魔物をお前のせいで俺まで毒を浴びる事になり、俺もそれを飲んだんだ。いいから早く飲んでやれ。皆の者に迷惑だ。」
ピシャリ!と言われましたよ、皆の迷惑・・。
くそお、そりゃどうもすみませんね。どうせ臭いですよ!焼くとか知らないし、だって私炎出せないし!
ポンっと金平糖もどきを口の中に投げ込むと、すうっとミントのような爽快感。
・・たしかに、なあんにも臭わなくなった。
「さて、やっと本題だ。」
ハーフさん、後ろの方々がじっとこちらを見つめる。

「お前は、何者だ。」

「はじめまして?・・ハーフさん。」





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