上 下
1 / 5

第一章 変わり種の猫

しおりを挟む
  
 


 今、ミウは広い森を旅していた。自分でも、よく分からないけれど旅をしている。しかも、自分は何処から来たのかも分からないし、今居る場所も分からないけれど、何も考えず心を奪われたかのように歩いていた。
 自然に時が経ち、徐々にミウの顔には恐怖と不安が出てきた。
 その時、淡い黄色の光が目に入った。優しい光で、目を開けていられる程度だ。何かが、光の中で浮いてる。背には、何か付いていた。翼を広げたようなものだ。その光を見ていると、勇気が奮い上がって心が安らぎに満ちて来た。恐怖と不安は完全に治まっていた。
 だが、徐々に黄色の光が消えていく。
 ミウは今にも泣き出しそうな顔になった。
 全く、いつまでも森は続いている。立ち尽くして、これからどうするかを考えたが訳が分からなかった。ただ、前へ進むことしか思えなかった。恐怖と不安が出てくる前にゆっくりと木陰に座り込んだら、いつの間にか眠りに入っていた。
 薄茶色の髪が、風でふわりと揺れた。ミウの頭の中で何かの音が反響した。その音は神秘的だった。

 ミウは目を覚ました。
 そこには、装飾された四角いグレー色の家が目の当たりにあった。 「……? もしかして、寝相の所為? まさか」
 ミウは立ち上がってドアに向かった。ノックしようと思ったけれど、やめてしまった。
 ここは、危険かもしれないと反応を示す。
 でも、迷いがあった。
「よし……!」
 ミウは思い切ってドアをノックした。しばし経って、何も反応がなかった。ドアに耳を澄ました。音一つも聞こえなかったが、瞬時に「ニャー」という声が聞こえた。
 この中に、猫がいる。それとも、ただの空耳だったのか。
「えーと、開くのかな?」
 思わず、取っ手を差し伸べる。
(大丈夫……大丈夫)
 と、思いを込めながら開けてみた。
 ――開いた。
 でも、猫らしきの者は見当たらなかった。
 きょろきょろと辺りを見回して、音を立てないように靴を脱いで入った。
 二つに繋ぐ円型のような階段がある。天井を見ると高かった。全部が銀色で整えられていて、綺麗なんだけれど、怖い感じがした。その、階段の下に、何かの絵が彫られていた。グレー色だから余り目立っていなかった。
 階段を上るよりも、絵が気になったのでそっちに向かった。謎の絵の正体は、左に天使の翼と右に悪魔の翼だった。
「来ないと思ったら、ここで何してる」
 不意に後ろから、ミウは話し掛けられた。そして、ミウは気付いて思う。
(これ……人間の声?)
 恐る恐る、ミウは振り向いた。その下には、ただならぬ黒猫がいた。
 雄猫で、すらりとした逞しい身体付きで瞳の色は赤。邪悪な目付きだ。背、側面と胸に繫げられている、細い深緑のくろがね。首には、青い房のリボンが血の色みたいな紐付きがしてあった。
「俺はアクだ」
「やっぱり、喋ってる!」
 アクと名乗った黒猫はおかしな顔をした。
「何だ? 驚いているのか? ああ、分かったぞ。別世界から来たんだな……と、いうことは初めてなのか? お前の名は?」
「……ミウ。別世界って何? そもそも、分かんないけど、いつの間にか、この森にいたの。あと、記憶が……」
「まさか! こんなことが起きるとは!?」
 アクは取り乱し、ミウは吃驚した。猫って感情をはっきりと表すのかと。
 そして、アクは首を横に思い切り振った。
「よし、付いてこい。いいな」
 アクはミウを通り抜けて美しい天使の翼と怪しい悪魔の翼の彫刻を頭で力強く押して、何とその彫刻は回転し秘密の部屋に吸い込まれるようにして入っていった。
 ミウは慌ててアクの方へ向かった。入った瞬間、眩しさに襲われた。
 

 大きく白く輝く光がミウの目を惹いた。
「これは、ワールドベールと言われていて、この世界から掛け離れたもう一つの世界に行ける。つまり、別世界だ。ワールドベールは千人に一人しか知らない。何故、世界中に知れ渡っていないのはワールドベールの気を感じ取れないと予想している。ミウの世界は何もない能力の人達だな。非常に珍しいな」
「どうして?」
「普通の人間はまず何も感じられない。猫もだ。別離べつりすら知らないはずだ。別離の真を手にすれば、記憶は戻るから安心しろ」
「それを持っていないから分からなくなったのね。何となくだけど、少し分かった気がする」
 別離の真という物を見つければ記憶は完全に元に戻る。ミウは床に座り、ワールドベールを見る。白い輝きは永遠に続くと思うだろう。
 その時、アクは一瞬、驚いた顔をしてしまったという顔をする。
「う、これは一人で見つけなければならないのだった……。何故、一人でなのは……一人で見つけないと一生見つけられないからだ。別離の真はワールドベールの白い光から作り出される、と言っても見えない。少しずつ散らばった光から徐々に大きくなって出来る。それは人気のないところで留まっていることが絶対。最低に一人しか近づけない。二人で近づいたら逃げるぞ」
「……うう、わたし一生見つけられないかも……」
「……さぁな。ところで一つ言っておきたいと思う」
 ミウは真面目にアクの話を聞こうと耳を逸らさない。ミウの凄い真剣な顔で、アクに気づかれて苦笑いされた。
「記憶が忘れているけど、よく来た『シアリム(司生利無)』世界へ。俺は嬉しい。たった今、一人がワールドベールに入ったことを歓迎する」
 いきなり、話が変わったので唖然とする。
 でも、ミウは少し安心した。今、自分は一人ではないことを。
「次には、意味があることを言う」
 アクに誘惑されそうな赤の瞳が煌いた。
「お前は一人で旅をするか、それともこの俺と一緒に旅をしたいかだ。さぁ、選べ」
 それ程までにミウは迷った。どちらも賛成したい欲があった。別離の真を見つけたいし、アクと旅をしたい思考。でも、考える都度、まだ一つもこの『シアリム(司生利無)』世界を知らないと分かった。
「決めた。アクと旅をするよ!」
「そうだ。無闇に一人旅をしても、駄目ということだ。俺は嬉しい」
 ミウとアクは笑顔になった。
「ん?」
 アクが何か可笑しな表情に一瞬なった。そして、
「ちょっと待った!」
「な、何?」
魔猫まびょうが出ることをすっかり忘れてた!」
「魔猫? それは魔物?」
「そうだ」
「そうだったら、戦いになる?」
「そうだ」
 アクは言い終わった直後、目を閉じた。アクの右耳がぴくりと動いた。
 アクの身体から見えない波動みたいなものからスーッと伝わって来た。
 ミウは身震いして、はっとなった。
 アクが目を開けると闇のような目付きだった。
 さっき前にミウが見た黄色の光と少し似た感覚があった。
「……北の方の洞窟に魔力が感じられる。今なら、魔法を覚えられるチャンスかもな」
 魔法と聞かれ、ミウは何とも思わなかったが無性にドキドキして来た。魔法を使ってみたくなったからだ。
「一緒に探してくれるよね?」
「当然だろう? 仲間・・になったんだから」
 そうして、時間が過ぎると冒険に出る準備が始まった。が、ミウはただ待つことしかできなかった。しばらくするとアクは準備が整った。
 黒い尻尾には真っ白い剣を握っていた。窓の外から光に剣は照らされ、ちらつく。

 家を出た。さっき前までは薄暗かったけれど、今は全体に光が満ちていた。
「旅をするって、久しぶりだな」
 アクは懐かしそうに言って、歩き出す。
「そんなに、旅をしていなかったの?」
「ああ、大体……二十五年前だったと思うぞ」
「に、二十五年前って……」
 ミウは苦笑いをした。ミウは十歳。やはり小柄だけど、その年齢にしては背はそんなに低くない。十二、十三歳くらいの顔立ちをしている。淡いオレンジ色の服で所々に黄色が混ざっている。お腹部分の服が裂けていてマントのような形になっている。そこに緑色のブリッジ形、四つ装飾されている。左右の肩の服が開けてるのが印象的。簡素な半ズボンは青色だ。
 十分程、歩いたら急にアクが走り出した。
「走るぞ! ここから、走らないと抜けられない仕組みにしているからな」
 ミウはアクと同じ速度に合わせる。
(だから、ずっと続いていたんだ……)
 その時、ミウは息を切らしていた。横を見るとアクは全然、息を切らしていなかった。
 猫だからと言ってもかなりの年だ。二十五年の時が経過しているのに身の熟しが凄く若々しい。しかも、年より染みっていない。
 ミウには嘘と思っても考えられないことだった。
「強い光が差し込んでいるのを見たら、もう少しで出口に着く」
 確かに一番、強い光が奥の方に差し込んでいる。
 冒険というのは凄く楽しいことがミウに膨れ上がってきた。考える度にアクより早く進んでいた。
 と、次の瞬間、ちらちらと光る半透明の壁にミウだけ思い切りぶつかった。その衝撃で壁に波動が起きた。
「いっ……たっ!」
 余りにもの痛さにミウは額を押さえた。
「おい……何やってんだ」
 アクは困った。そして、不真面目そうに半透明の壁を見据える。しばし、時間が過ぎると物凄く嫌な顔をした。身体を身構えて唸っていた。
「これって……」
 直ぐミウは分かった。見たことのある黄色の光具合。背に何か付いている。心が安らいで行く。
「ゼンか! くそつ」
 いきなり、アクは声を張り上げて鋭い犬歯を剥き出した。尻尾に握っていた白い剣を地面に放り投げた・・・・・。攻撃の準備をしている。
 光が消えた途端、黄の閃光がアクに迫ってきた。アクは右前足で、その攻撃をパンチのように消した。アクの爪は長く黒くそして、鋭く尖っていた。
 次はアクの出番だ。その時、アクは何処にいるか分かっていた。
 でも、ミウには見えなかった。正に緊張感が続いた。
 アクは高く跳躍し宙を切り裂いた。光が霧散した。アクは素早く回転しながら地面に着地する。
 光を出しながら到頭、姿を現した。ミウは驚きの光景を見た。
 白猫で華奢な雌猫。何と背中に白い翼が付いていた。目は丸くて、極めて薄い緑色をしていた。薄紫色の首輪をしていて綺麗な装飾を施している。その真ん中には見事な天使の翼が本物のように仕立てられている。天使の輪が光った。
「て、天使って本当に……」
「悪魔もいるぞ」
 と、アクが言ってさらに攻撃が続く。白猫は尻尾で頼りにガードして力強くアクを押し退けた。アクは地面に叩き付けられそうだったがバランス良く着地した。直ぐに白猫は尻尾を剣のようにして、アクに襲い掛かる。
 アクも尻尾を剣のようにしてガードする。
 二匹とも刃で戦っていないのにきりきりと擦る音を立てている。
 ミウは興奮していた。
(でも、やばい……止めないと!?)
 二匹は、まだ踏ん張っている。白猫は苦々しい顔をしていた。その瞬間、アクはニヤリとして尻尾で白猫の尻尾を素早く掴んで全力で地面に叩き付けた。
 白猫は上手く着地を出来なくて激突し、左後ろ脚を挫けてしまった。砂埃が舞い上がった。
 ミウは白猫に駆け寄ろうとしたが、起き上がったので動きを封じる。
 アクは尻尾で白猫を刺そうとする。白猫は残った三脚を力絞って蹴って回避した。
 白猫が激怒した。
「今日は引き返す。必ず、息の根を止めてやる」
 そして、アクを睨み付けて翼を広げて諦めたかのように空高く飛んでいってしまった。
 アクは笑った。
「はは、すげぇ。俺最強! これならいける・・・・・・・
 何のことかさっぱり分からなくて、ミウはぽかんとする。
「て、え? まぁ、俺のことだから、気にしなくてもいいはずだ」
「え、でも、いけるって……何のこと?」
 アクは無視して空を見上げる。それを見てミウは肩をがくっと落とした。
「あれ、何だ?」
 ふと、アクは顔をしかめる。ミウも空を見上げる。
 黒くて猫のようなもので背中に大きな黒い悪魔の翼が付いているのだろう。ずっと不思議に上を見ていると、空の上にいる何者かの顔がこちらを見た。
 ミウとアクは同時に頭を元に戻した。汗が止まらなかった。
「今の何だ? やばい感じがした」
 感情を堪えるようにアクが言った。
「悪魔? 襲ってくるのかな?」
 今にも、此方に向かってきそうで怖かった。ミウは此処から今すぐにでも離れたかった。
「うっ……まぁ、気を取り直して……魔法について話そうか」
 アクが苦しそうに言ってくるので、ミウは心配そうに頷く。
「魔法は、不思議なことを起こす能力で危険だ。俺は魔法が使える。例えば、動かない物を生き物のようにすることが出来る。出来ると言っても、俺は一時間程度しか持たない。それを続けたいなら、魔法をこまめに使うことだな」
「へぇ~、凄いね!」
「これから、お前も覚えるんだぞ。楽しみにしててくれ。後、魔法の本を買っておく。やり方を覚えるには少し時間がかかる。ミウには遣り熟せるだろう」
「う……嬉しい」
 ミウの笑みがこぼれた。
「さぁ、行くぞ」
 アクはやる気が満々で走り出す途中で、
「あれ、血が出ているぞ」
「え?」
 右膝が痛いと思ったら血が出ていた。
 半透明の壁にぶつかって転んだ時のことだろう。
 アクがすっと駆け寄って来て「再生ヒール」と呟いて、ミウの膝が淡い赤の光に包まれた。
 すると、徐々に傷がふさがっていく。皮膚がじわじわと動いている感じがする時には完全に綺麗に治っていた。
「凄い。これって魔法の力? あ、これが普通か。便利だね」
「いや、この世界では普通だけど、そうでない所もある。ここは、魔法と超能力の世界だ」
「じゃあ、別世界はいくつかあるの?」
 思わず口から出た。
「知りたいか?」
「知りたい!」
「そうか、じゃ、話す。一億年前には、世界は一つしかなかった」
 ミウは興味津々で、聞き逃さない。
「魔法を覚えていたり、そうでもない者もいた。超能力もそうだ」
「ええ!? 世界は、超広大だったわけ!?」
 興奮の余り落ち着きがなかった。
 アクが呆れたように溜め息を吐く。
「まずは黙って聞いてろ。えーと、それぞれの能力にあった者達を誰かが分けた。別世界は限りなくある。俺は別世界は四つあれば十分だと思うが、どんな理由かは知らないけど、そうなっている。そのことについて何年も調べて来たけど、まだ分からないことだらけさ」
「うう、どうして記憶がなくなってしまうのかな?」
「多分……この世界の者ではないから……つまり、環境が急激に変わったから耐えられなくなる。別離の真を持っていれば大丈夫なのが不思議だ」
 アクはミウの顔を確かめて、フッと優しく笑った。
「お、元気なかわいい・・・・顔になってきたな。ずっとここにいても意味がないし、出発しよう!」
「それはそれで聞くけど世界は広大だったの?」
「いや、広大だったわけじゃない。創っただけさ」
 一瞬、ミウは驚いた。世界は誰が創ったのかと思った時に考えるのを疲れてしまいやめてしまった。

 引き続き、ミウとアクの旅が始まった。少し走ったら森を抜けた。周りは行く方向が見当たらなかった。通る所と言ったらガケを登るしかなさそうだ。
「ねぇ、どうやって行くの?」
 ミウは、ぼそりと言った。
「そりゃ登るしかないだろう?」
 アクがうんざりした声で言うが、
「……と、言うのは嘘だ。テレポートを使うぞ!」
「ええ!? テレポート、使えるの!?」
シアリムここは、超能力の世界でもあるからな」
 アクは自慢そうに胸を張る。
 [テレポートと言うのは、正式に言えば『テレポーテーション』自分、他人を瞬間的に移動させる事]
 アクが息を吐き、目を閉じる。その瞬間、ミウとアクはフッと消えていつの間にか高い位置にいた。瞬間移動する時、周りがぐちゃぐちゃに見え、頭が少し気持ち悪かった。
 ミウは呻いた。
「テレポート、どうやったら覚えるの?」
「超能力学院に入ればいい」
「え、能力、持っていないんだけど……」
「大丈夫さ。もう、覚えてるぞ俺が分け与えたからな」
「へぇ~、何処にあるの? 学院って?」
「魔法を手に入れてからな……あ、そういえば、魔法学院もあった。どっちか、最初に通うか決めててくれ」
 ミウは迷った。すぐには、決められなかった。
 空はもうすぐで暗くなってきそうだ。
 
 一番、過ごしやすい場所を探した。例の魔法の力がある洞窟の前で野宿することになった。
 不安な気持ちは、いっぱい詰まっている。夜になると、そういう感じになるとミウは思った。
 ミウは寝ながら暗い魔法洞窟を見つめる。その奥から、何かの音が反響しているのは確かだ。
 何かの――強烈な気配。
 一気に眠気が襲ってきて、やがてミウはぐっすりと眠ってしまった。

 翌朝。
 その時、恐ろしい唸り声でミウは目を覚ました。
「ミウ! ヤバい! に、逃げろ!」
 アクが慌てるように叫ぶのが聞こえて、ミウは、はっとして身を起こす。
 目の前には、野生のような猫が凶悪な目付きで、ミウを見ていた。
 毛は茶黒くて、体に毛がはねているところが黒かった。瞳は暗い灰色で、輝きが失っていた。
 これが、噂の『魔猫』だった。
 ミウは怯んで、立ち上がれなかった。もう、遅かった。直前に襲って来た。
 何かの気配に、アクは背後を見る。
 突然、黒い矢がヒュッと、アクの顔に当たる寸前に通り過ぎて魔猫の身体を貫いていた。そのまま矢は木に刺さり、黒い煙を出して消えていった。
 魔猫は悲鳴もなく崩れ落ちた。
 木の後ろに、猫の影が斜めに映していた。
 アクが行こうとしたら、影が消えた。アクは舌打ちをする。
「テレポートか」
 ミウは血まみれになった魔猫を見て、背筋がぞくりと身震いした。
「ミウ! 大丈夫か?」
 アクが駆け寄って来た。
 ミウはアクの顔を見て安心したかと思いきや涙がどっと溢れ出して、アクを強く抱きしめた。何やら、アクの顔が苦しそうだ。首がしまっていた。ミウの力が一瞬に抜けた途端に、アクはするりと離れた。
「あ、首……しまってた。ごめん……」
 ミウは泣くのをやめて、難なく立ち上がった。
「嘘泣きか。心配して損した気分だぞ。でも、無事で良かったな」
「これって、超能力で読んだよね?」
 アクは頷いて、自ら笑みを作った。ミウは笑った。
 洞窟の前まで歩いて立ち止まった。その先は真っ暗で何も見えなかった。このまま闇雲に進んだら一巻の終わりだ。ミウはどうするかと思ったら、急に頭の中で何か見えた。
 この洞窟が明るいバージョンになっていることに気が付いた。でも、どうしていきなりそんな事が起きるのだろうとミウは不思議と不審げに思う。
 アクが首を傾げて、「えっ」という顔になった。これ程までにすごく驚いた顔をしているのでミウは焦った。余りにも驚きの唖然としていて、そのまま固まっているので立ったまま気絶しているのではないかと思う程だ。
 ミウはアクの顔の前に手を振りかざした。
 アクはおっとなるようにして動いた。ミウは安心の溜息を吐いた。
「……何も見えない……何故だ……?」
 絶望的にアクは呟いている。
 猫は暗闇でも良く見えるはずだ。アクの瞳孔は大きく見開かれている。だとしたら、洞窟事態が全く光を通していないことになる。
「……ねぇ、アク」
 ミウは小さな声で言った。
「わたし、急に頭の中で洞窟が明るくなっているんだけど……」
「え、えぇ!? 何だその超能力は! 透視というのだが、明るくなるとは思えない。まさか……本当に、進化し始めて来ているのか?」
 また、アクは驚きを見せた。今度は輝いている。
 [透視というものは、肉眼を使わずに見通すことだ]
「超能力、使えた……の?」
 ミウは超能力のやり方を知らないからすごく嬉しかった。笑いが込み上げてきそうだった。 
 頭の中で見えたものは、ぷつんと消えた。ぐっと拳に力を入れて堪える。思い切り笑いでもしたら魔猫が吹っ飛んで来そうだ。アクはどうしようもなく、おろおろと慌てる。
「今日は早過ぎるけど、引き上げようか……」
 すると、アクの尻尾が長くなり、それでミウの右腕を掴んでグイグイと引っ張る。ミウは連れられながらここから立ち去った。
 アクは目を閉じ意識を集中させる。フッとミウ達は消えて、アクの家に着いていた。
 さっきとは違う場所だった。六人くらい向かい合わせることが出来る高級そうな銀のテーブルが一台きり置いてあった。家事、全部の壁と床が銀の装飾がされているので、素っ気なくはなかった。

 一時間が過ぎて、やっとミウは気を取り戻して、ごろんと床に転がった。アクはワールドベールが安全かどうか調べに行っているから、今は一人だった。お腹が空いたら、家の中を歩き回って食料を漁っても良いと出ていた。もちろん、散らかしてもいいはずだ。
 部屋を出ると、下に続く円型のような階段でそこから玄関が見えた。下の方の左右にドアがある。
 下りて外に出てみた。
 小さな黄の光が目に入った。白猫の薄い緑色の丸い目に見据えられていた。
 ミウはそれで思い出した。アクと戦った白猫だった。
 でも、白い翼が生えていなかった。それと天使の輪も。
「わたしの名は、ゼン」
 優しく細い声でミウは先に紹介される側だった。
「君は昨日の白猫? わたしはミウだけど、アクと仲が悪いの? わたし、アクと旅をすることになったんだけど……君を見たら一緒に旅をしたいと思ったんだけど、無理だよね」
 何気なく、ゼンは困ったような顔をする。
 そしてミウは、
「君の翼は何処に行っちゃったの? それから、悪魔もいるの?」
「居るよ。じゃあ、見てて」
 ふわりと白い翼がゼンの背中に生えて来て、それと同時に輪も現れた。
「それって、とうやるの? 魔法?」
「魔法じゃないよ。光の魔力・・・・を使っているの……変なことを言うけど、アクと旅をしない方がいいよ。これから永遠に関わらない方がいい」
「分かってるよ。ゼンはアクのことが嫌いなんでしょ? 君と旅をするのあきらめるよ。ごめんね」
 ミウは悔しいけれど笑ってやった。
 ゼンは苦笑いした。そして驚いて翼を動かして少し宙に浮いたら、
「もうすぐ、アクがこの世界に帰って来る! また今度ね! さようなら」
 それだけ言うと、ゼンは強く翼を羽ばたかせ、大空に飛んで行ってしまった。羽が舞い上がるように空から降りてきた。
 ミウは家の中に入り、ワールドベールがある部屋に行く。
 アクが白い光の道から歩いて来るのが見えた。
「おかえり。どうたった?」
「異常なし」
「ふーん?」
 不信げにアクは笑う。
「何だ? 何かあったのか?」
「何も……ないよ」
 目を見据えられた。
 超能力で心を読み取られそうなのでミウは慌てて二階の部屋に戻り、何故か自分の荷物をまとめる。
 突然、アクが入って来た。
 ミウの心臓が、ドクンと脈を打った。冷や汗が吹き出す。
「何、こそこそやってる。あ! 何か隠しているな」
 アクは目を閉じてミウの脳を探ろうとする。
 ミウはこの部屋から逃げようとアクをすり抜けた途端に身体が動かなくなった。
 超能力で押さえられているので、何もかも目が回った。
 まるで、重力の空間にいるようだった。
 そして、アクは困ったような表情に変わる。
「ゼンと話したんだな……そこまで言わなくて良かったらな、ゼン」
 そう呟きながら、アクは無表情になる。次には、怖い目付きになって、あることを言う。
「俺と旅をしたいのか、それとも……ゼンと旅をしたいのか。とっちだ?」
「どっちもだけど、そうはいかないよね」
「学院を卒業したらでいい。ところで、どっちを選んだ?」
「え、えーと。……魔法の方かな?」
「決まりだな」
 ミウは頷いた。
 それから、あっという間に夕方になった。明日からは魔法の洞窟を冒険。
 また、アクはワールドベールに向かっていた。そのかわり、ゼンと話してもいいということになっている。

 ミウは外に出て、辺りを見回す。
「ゼン……」
 優しく、独り言のように呟いた。
 しばし待って、いきなりミウの目の前にゼンが姿を現した。天使の輪と翼が付いていた。
「わたしと旅をしてよ……」
 ゼンが寂しそうに言った。
「もう少し待って。わたし、魔法学院を卒業したらどっちかを選ぶから」
「何歳?」
「十歳だけど……」
「学院は五歳から入れるものであって、十歳くらいの子ならそれなりに基礎が付いてるから……やばいかも。魔法の使い方は知ってる? まだ、ミウは魔法を覚えていないけど……」
 ミウは無言になった。そんな事までは知らなかった。そして、
「だ、大丈夫だよ! 一人でなんとかするから!」
 ミウは吐き捨てるかのように言って一度、家に入ったけれど出てゼンを無理矢理、引っ張って誘い入れた。
 本当は入れて駄目たと知っているのにも関わらずそうしてしまった。
 ゼンはそれなりに落ち着いていた。まだ、アクが戻って来ないからだ。
「この家に入ったの初めて。複雑で奇妙な作りをしているのね。まあ、魔法でやったと思うけど。しかも、銀というものはアクの趣味だった?」
 文句を言って気をまぎらわしているゼンに見えた。
「さぁ、二階に行こう」
 ミウは階段を上り始める。ゼンは後ろから警戒するように、付いてくるのが見えた。
 ドアの前まできたら、立ち止まった。
 ゼンは上までのぼって来たら、あることを言う。
「この家の中に、ワールドベールの気配がする」
「それ、あるよ。でも、わたしには、ワールドベールの気は感じられない。ゼンって凄いね」
 ミウは、羨ましかった。ワールドベールの気を感じられたら、別離の真を探すのに有利だ。
 部屋の中に入ると、ミウとゼンはテーブルで向かい合わせに座った。
 何かを話したいけれど、ミウは不安で声に出せない。
 すると、ゼンは静かに口を開く。
「この部屋に……何か隠されている……。それは分からないけど、邪悪に感じられる」
(それって、何!?)
 ミウに恐怖が沸き上がる。
「……それじゃあ、帰るね」
 ミウは何か話したいけれど余り長い間、ゼンがここにいてはいけないとミウは分かっていた。
 ゼンの超能力がミウに伝わった。ミウは顔を上げると、ゼンがこちらに優しく微笑んでいた。ミウも微笑み返す。
「また会えると信じて……」
 と、ゼンは言って、テレポートで姿を消した。
(わたしも同じ気持ち)
 明日に向け、ミウは深い眠りについていた。

「ここにも、アイツ・・・がいないな」
 アクはムカついて俯く。
『シアリム』世界ではなく、他の別の世界にまだ居た。
 黒い猫のような形をしていて、はっきり言って猫なのか分からない者を探していた。
 初めて、ミウと出合った日の事で恐怖を感じた時のことだ。
 実は、色々な別の世界を行き来している。
 アクは悪魔だと悟った。翼が付いていなければ上空にいられるはずがない。超能力で空中浮遊があるけれど人や猫は約五十センチしか浮かび上がらない。その事について、力量(パワー)が関係してある。
 [空中浮遊というものは物体や生物が浮かび上がることだ]
 物と自分自身を浮かせることは大違いだ。物は自身より簡単だが、自分自身を浮かせるのは凄く難しい。力量で者は五十センチだとして、物は空まで行ける違いの差。大きさと重さに関係もしている。浮かせることが魔法と決めて、箒とかあれば、それなりに高く飛べる。超能力もその道具にパワーを込めている者もいる。
「そろそろ、夜になってくる。帰らないとミウが待ちくたびれているだろうな」
 アクは二回、ワールドベールを使い家に戻った。起こさないように、そっとミウに近づく。
 ミウの目は閉じていながらも、起きていた。アクを驚かそうと思ったけれど、やっぱり止めた。
 そのまま、眠りに着こうとした。でも、アクに、
「起きているだろ。さっき何か変なことをしようと思ったろ」
 驚かせると言ったら大声とアクはそう思っているから、少しヒヤヒヤしている。
 ゼンが入ったことにバレるだろうとミウは思いながら構えていた。
 でも、アクは探らない。
「明日、頑張ろうな」
(え……うん……!)

 ミウとアクは魔法洞窟の前で立ち止まっていた。
 ミウはむすっとしたアクの顔を怖いけど、ついでに見る。 
「ゼン……どうしてここにいるの?」
 ミウは問いかけた。
「わたしも手助けしたいと思ってここにいる。この洞窟の中には魔猫が住んでいて、魔法を好む、一番つよい魔猫が一匹いる。早くしないと全部、魔法の源が吸われてしまう」
「それがどうした?」 
 アクは、どうでもいいような感情を出して苛立つ。
「もちろん、別行動。じゃあ、わたし先に行ってる」
 そう言って、ゼンは真っ暗な洞窟に入って行く。すると、パッと洞窟が一定の場所だけが明るくなった。天使になっているおかげで、輪を光らすことが出来るのだ。そのまま、ゼンは宙を飛びながら、奥の方へ進んで行った。
「行ったな。さて、ミウ!」
「ん?」
「超能力を使え」
「……。……――使えるかな」
 ミウは歩く。手は洞窟に入れた部分だけ、なくなっているように見える。ミウは真っ直ぐ見つめた。
 ――意識を集中。
 そうしていたような気がする。
 頭の中に、鈍い反動の音が聞こえてきた。殆ど使われていない超能力を発揮したから共鳴したのだろうか。
 しかし、
 ――アレ? 見えない。真っ暗。照明は……? 何で……。
「見えたか?」
 ミウは首を振る。
「おかしいな。そもそも、明るく見えるって何だったんだ? コツを掴めばいいっていうことなのか? 超能力は進化し始めているっていうのは嘘か? いや、しかし……」
 ミウは、コツを掴むと心に刻む。アクの言った事には、少し分からない所もある。
 それは『進化し始める』と言うことだった。
「ずっとやっていればいいのかな?」
 それを聞いて、アクは驚いた顔をする。
「一生かかるかもな、それ。……ゼンに追い付かなくなってしまうぞ」
「じゃあ、何も使わずに行く?」
「凄いこと言うなぁ。俺は魔猫の気配を感じ取れるから、大丈夫かもな」
 ミウとアクは笑った。しかも、どちらも苦笑いだった。

 すると、ミウの頭の中で、ゼンの声が鳴り響く。
(「だと思った! ミウとアクでは、無理のようね。一緒に行く?」)
 ミウは何となく、心の中で答えてみる。
(「いや、大丈夫」)
(「どうして?」)
 ミウはアクを確認し、どうしようもなく何を言ったらいいのか分からなかった。
 ゼンが言う。
(「暗い場所で明るくするのは何? ミウ、この目で見たでしょ」)
(「光……」)
(「そう、光。アクはそんなことが分からないのかな? ただ、光を嫌っているだけ?」)
 そこで、プツンと電波が切れたように会話が終わった。

「アク……魔法で光らすこと出来る?」
「ああ、照明ライトか」
 アクは自分の青いリボンを見て「ライト」と強く低めの声で魔法を唱える。
 何と、リボンが赤く光った。
 ここからは、無言になり洞窟の中に入った。
 アクが先頭で、ミウは後ろ。
 徐々に魔猫の気配が強まってきた。
 アクの尻尾の所に白い剣が出現し、それを尻尾で掴んで、
「これは、お前の剣だ!」
 差し出されて、貰ってもいいのかと迷った。アクに「ほら」という顔をして、また差し出される。
 思わず掴んだ瞬間、剣の色はミウの目と同じ真っ茶色になった。
「やっぱりな。ミウに合った剣、その通りだ」
 重かった剣が軽くなった。何も持っていない感じだった。
 ――アク。これなら、わたしも行ける!
「魔猫が襲って来るぞ!」
 アクの叫び声で、身体が勝手に身構えていた。魔猫の冷たい灰色の目が入った時には、いつの間にかミウは魔猫の前に立っていて、剣を振り上げていた。やはり、身体が勝手に動いている。
 血が付く前に、後ろに跳躍した。力を入れても、身体はびくともしなかった。
(「アク!?」)
 ミウはテレパシーで送る。
 [テレパシーというものは、言葉などを使わずに伝えることだ]
 洞窟の前で、ゼンと話したこともテレパシーだ。
「これが、操作アペレイシャンと言う魔法だ」
 それを聞いて、ミウは一安心した。
 突然、魔猫が「ミャア!」と、声を上げて、ミウに迫ってくる。ミウは尖った爪を向けられても、ぎりぎりの所まで動かずスッと横に回避して、魔猫の心臓に剣を突き出した。
 ――命中した。
 後ろに跳躍していたけれど、瞬間に血が飛び出していたので付着してしまった。
 軽かった身体が、フッと重くなった。
 剣の色が元通りの白になっていく。
 そして、アクのくすくす声が聞こえる。
「さぁ、行こうか」
 と、言われたら急にアクが走り出した。
「ま、待ってよ!」
 ミウは慌てて、走って付いて行く。

「どうやら、道が二つにわかれたな……どっちに行く?」
 聞いて、ミウは面白がった。
「どっちも」
「は?」
「どっちもじゃなくて、左!」
「は? 左?」
 ミウはアクに、睨み付けられた。何をしたのかと思い、ミウは蒼白になる。
「俺は右に行く。照明ライトを使っとくから、一人でも大丈夫だろ? 負けんなよ」
 何か、アクの様子がおかしい。
 早速、アクは照明ライトの呪文を唱えた。すると、ミウの両手が赤く光り出した。
 アクが先に右側の方へ歩いていった。
 ミウは、冷静だった。これから、一人で進むのが無性にドキドキしていた。一歩踏み出して、深呼吸をする。「よし!」と、顔を上げて左側の方に進んだ。自分からアクに付いて行けば良いと思ったけれど、とりあえず、一人で冒険をしたかったのでそうした。
 全面から、魔猫に襲われないように、はじに寄り掛かって歩くことにした。そうは言っても全然、魔猫の気配がしていなかった。気が付かないうちに消えていたのだ。
 邪悪に赤く光る両手を顔辺りまで持ってきて、じっくりと見る。
(そういえば……アク、何で怒ったのかな? 別に大したことじゃないのに……――!?)
 暗闇に、猫の影が見えた。
(アク……かな?)
 アクと離れて、まだ五分くらいしか経っていない。
 アクかどうか分からないけれど近寄ってみる。念のため、魔猫の場合だったりするので前の方に両手で剣を構えていた。
 猫のからだ全体が光に当たると、フッと姿が消えた。
 ミウは立ち止まる。
 が、暗闇に猫の頭が影のように映し出されて身体も影のように映し出された。何も、ミウに気が付いていないかのように、歩き続けていた。
(これは、アクじゃない。魔法の光を使っているはず……)

 アクは走りながら、首を傾げる。
「俺は、ミウに何を言ったんだ? 何で、一緒じゃないのか分からん……」
 何処となく、アクはミウと喧嘩のようなことをしたはずだが、記憶に入っていなかった。
 別の光が目に映し出された。正しくもゼンだと思う。
「アク。ミウは?」
 ゼンは普通に言っているが、アクには忌まわしく聞こえる。
「知らん。逸れただけだと思う……いつの間にか姿を消していた。魔猫に殺されていなければいいけど……。あ、魔法の方はとうなっている?」
「……アクがわたしに聞くなんて、珍しいね」
 それを聞いた途端、アクはしまったという顔をする。そして、慌てて台詞を考えて直ぐに思い付いた言葉を言う。
「ミウの為だ・・
「利益? そんなこと、アクがするはずがない。いったい、何を考えているの?」
「はあ? 俺は何も……一切、何も企んでないぞ……」
「そんな……。まさか!」
 ゼンは驚いて抗議をしようとしたが、アクにぎろりと睨まれて怯んだ所為か口を動かせなかった。
 重々しい冷たい空気の中でありながらも、ゼンは知らない猫が居るかのように、無視して歩き出した。
 五メートルくらい、アクはゼンと離れながら歩く。ふと、アクは思う。
(戦闘のどさくさでいっそ、彼奴を殺してしまおうか? いや、彼奴も俺を殺す手段を考えているかもな)
 不気味な目でゼンの背を見て、静かに微笑をする。
 アクが口を開きかけて襲おうとしたが、無限大な魔力を感じ取って動きが止まる。
 透明に輝く光が漂って来ている。
「魔力を持っている者が、また魔力を手にすると、どうなるのかな?」
 アクは冷たい口調で言った。
「ここからは、何があっても慎重に行くように」
 ゼンの言い方に、アクはむっとして、低く唸るような怒りの声を出す。
「好い気になるな。それは、俺に大して全く関係ない。気を付ける方はお前だろうが」
「そうかな?」
「そうだ……!」
 フンッとアクは鼻を鳴らし、ずかずかとゼンに近づいていく。近づくと言っても魔力の方だった。
「鬼ごっこ……?」
 ゼンが引きながら言って走り出す。
「な、何ィ!?」
 アクは驚きで一瞬止まったけれど、直ぐに全速力でゼンを追いかけた。
 魔力は徐々に空間に詰められる一方だ。
 もう少しで、辿り着くとアクは予想した。
 知らないうちに、アクはゼンを追い越していた。
 突然、魔猫達がアクに襲って来た。アクはそれを弾き飛ばし、苛ついた所為か逆戻りをして、魔猫の脚を切断し、他の残った魔猫に投げ付けた。魔猫達は血のにおいでたまらず、それに激突するかのように血を有り付いた。
 どんどん、アクは突き進んでいく。ゼンは魔猫達の塊を見て、ぞっとする。
 一番、強まっている魔力の場所に着いたアクはぐるりと辺りを見回す。誰もいなかった。
 中央に何個も岩を重ねたような階段があった。その上に水晶があって、周りに白い渦が巻いてあった。
 ――あれが、魔力だろう。
 でも、肝心なミウがいない。
 すると、水晶の白い渦が徐々に消えていく同時に辺りが暗くなって来ている。
 アクの魔法の赤い光だけがぽつりと残った。しばし、待っているとゼンが来た。
「いきなり、魔力が消えた……。どうして……」
 ゼンが訝し気に呟いた。
 怪しい雰囲気の中だから、二は動かないで耳だけを澄ましている。かすかに物音がした。
 何者かが、地面を歩く音がした。
 ゼンの瞳孔が自分の目と同じ色になり、明るく光っていた時にある魔法を言っていた。
 ――限りない照明リミットレス・ライト
 この、全体の範囲がいくつかの光の球に覆われて明るくなった。
 その拍子に巨大なものが二に襲い掛かって来た。速くて姿形が分からないけれど、二は地面を強く蹴り飛ばして横に回避した。
 目にした者は魔猫で二メートルくらいの高さがある。普通の魔猫と違く色が違う。真っ赤な毛を生やした長毛種で、瞳の色は白。
 アクとゼンは、平気な顔をしている。
 白の目の魔猫は、何かを探るようにじっと見据えていた。
 先に、アクから攻め始める。
 アクの尻尾が鞭のように長くなって、パシリと魔猫の首に当たった。
 でも、魔猫は爪で地面に食い込ませてズスーッと後ろに下がっただけであった。
 魔猫が、アクを凶悪な目で見る。アクも遥かに魔猫より凶悪な目付きになった。
 そうしたら魔猫が怯え出して、くるっとゼンの方に向いて引き裂こうとするが顔面にゼンの前足が食らった。
 突然、水晶が白く光った。
 アクとゼンは驚く間もなくて水晶が爆発したのだ。
 三匹の猫は上に吹っ飛び、天井の壁を突き抜けて空の何処かに飛んで行ってしまった。

 衝撃が起きて、激しく地面が揺れ出した。
 ミウは立ち止まり、奥の方を唖然と見つめる。
「ど、どうしたのかな?」
 異変に気付き、ミウは走って行く。透明に輝く光が漂っているのが見えた。
 衝撃が起きた距離はそんなに遠くはなかった。
 壁の破片が散らばっていた。何と上を見ると空があった。
 ミウの足元にぼんやりと水晶が輝いている。それを拾い上げると水晶が光り出した。
 ミウを覆い隠すように、ミウの瞳孔が茶色に光り出す。
 そして、光は寂しげに消えていく。
 ミウの髪が風に揺さぶられ、ふわっと舞い上がった。
 何かの――力が沸いて来ているのを感じる。
 身体の力ではなく、何とも言えない不思議な力を手にしたように感じた。
「多分、魔法が使える……」

 ミウは洞窟を抜け出した。
 両手の光がすっかり消えている。
 やはり、アクとゼンはいなかった。
 崖の近くまで歩いた。
「降りられるかな? じゃなくて、超能力を使ってみようかな……。出来るかな」
 ミウはアクみたいに目を閉じてみた。
 アクの家に到着するように、頭の中で念じた。
 フッと消えた。
 アクの家のポーチに辿り着いていた。ミウは驚いていた。
 こんなに早く出来るとは、思ってもいなかった。
 家に入ったが、誰もいないと判断した。もう、夕暮れだ。
 探しているうちに、到頭二日も経ってしまった。



     
しおりを挟む

処理中です...