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第二章 魔法の入門1 性質特性の猫

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 今、ミウはフレンテールの街に着いた。そこで、もう二日経っていた。アクもゼンも見つけられなくて、孤独に感じている。
 フレンテールは魔法洞窟から北の方面、すぐ近くにある。
 何となく、魔法学院を見たくなったから、そこら辺を歩いている。
 街の人に声を掛けた。
「あの、魔法学院って何処にあるのか知っていますか?」
「ん? 学院かい? 何処の魔法学院に入部していたのかい?」
「……え? えーと、記憶喪失になってね。このシアリム世界が分からないの」
「そりゃあ、大変だね……」
 街の人に苦笑いされ、一つ学院を教えてもらった。
「この街の近くには、フレンテール魔法学院がある。北東辺りのところにあるよ」
「お金はいくら掛かるの?」
「一ヶ月で、五千レニーフくらいかな? 寄宿舎に入れば、八千レニーフ掛かるよ」
「……。…………わたし、そんな大金……持ってない」
 ミウは、一レニーフも持っていない。一文無しだ。さすがに集める事は難しい。しかし、まだ魔法の知識がないし、本もない。確か、学院は五歳からだと、ミウの頭の中に入って来た。お金があっても、一時間も経たない内に追い出されるのは、確実だと思う。
「一ヶ月分の通貨はあげられるよ」
 街の人は支援するつもりで言った。
 ミウは、驚いて顔を上げる。
「え、本当!? あ、でも、わたし、そこに入ってもすぐに追い出されちゃうよ?」
「その人に合った勉強を教えてくれるから、大丈夫だよ。五歳以上の人なら、入ってもいいからね。君、こんなことも忘れちゃったの?」
「うん。ごめんなさい。でも、ありがとう」
 ミウは赤面しながら、笑顔で礼を言った。
 街の人はミウの笑顔を見て、綺麗な顔立ちだと気付いて、思わずドキッとする。
(可愛いとは思っていたが、こんなに美しい少女だったなんて)
「……一万レニーフ、あげるね」
 あっさりと街の人はサイフを出して、一枚の札、一万と書かれたお金をミウに渡した。
 もう一度、礼を言うと、ミウは魔法学院に向けて歩き出した。色々なお店がいくつかあるけれど、ミウには全く興味がなかった。お金ないし。特に興味があったのは、猫だった。
 記憶が忘れているのに、何でこんなに不思議な感じがするのだろうと思った。
 アクと出会った時は、すごく驚いたものだ。
 猫と話したことがあるのに、今は可笑しい気分になっていた。
 自然に、ミウは周囲を気にすることがなくなった。
(この世界は、本当に大丈夫なのかな? 妙な気分になるし……それと魔猫まびょうもいる。注意して行かないと……)
 突然、ミウは誰かに話し掛けられて飛び上がった。焦って、後ろを振り向く。
 そこにいたのは、七、八歳くらいの少女だった。魔法使いの帽子を被っている。
 少女が何かを考えるようにして、ミウに言う。
「……フレンテール魔法学院は、何処にあるか知ってる?」
「知ってるよ! と、言いたいけど……わたしはまだ見たことはないの。北東辺りにあるって言われて、今行くところなの」
「じゃあ、一緒に行こう?」
「うん、そうだね」

 赤茶色の雌猫は、フレンテール魔法学院の入口。柵の前で、南の方をじっと見据えていた。
 その、赤茶の猫の隣に、灰色の雄猫がいた。
「もうすぐで来るわね。魔の力が強い不思議な人」
 赤茶の猫が、嬉しくもある表情だけれど真剣に言った。
 もう一匹の灰色の猫が心配そうに言う。
「あの子、大丈夫かな? あの子の隣には……多分、魔猫・・だ」
「……やっぱり」
 二匹の猫は透視を使うのをやめて、固く閉ざされていた柵を力強く押し開けて、学院の庭に入り、木に登り動かず時を待っていた。
[透視というものは、肉眼を使わずに見通すことだ]
消音オフ・サウンド
 赤茶色の猫が魔法を唱えると、その猫二匹の息をする音が消えた。つまり、気配を消したという事。

 ミウは、大きな建物を目にする。
「あれって、魔法学院じゃない?」
 すると、少女は嬉しそうに声を出して笑った。
「あれだよ、魔法学院! わたし達、無事に着けたんだね! お姉ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
「ううん、わたしの方こそ」
 先に、少女が柵の中に入った。
 ミウは近くに誰かが居ると、頭の中で揺さぶられた。
 瞬間に少女の身に何か起こりそうな気がして、ミウは少女の隣に並ぶ。少女は何も感じ取っていないようだった。
 二匹の猫は、ミウが少女から目を離すところを待っていた。
 一瞬の隙でもいいから、「早く」という顔で、猫達は焦りの感情を漏らした。
 もうすぐで、ミウは扉を開ける寸前だった
 でもいい事に、ミウは扉を開ける時、少女から目を離した。
 ――今だ‼
解消ソルーシャン
 二匹の猫は魔法を唱えると、少女の身体の周りに淡い青色の光で、赤色の稲妻のように合わさっていて、それと同じく橙色の淡い光に、緑色の稲妻が半分に繋がった。
 すると、少女の身体が縮まって来て、猫の耳が頭に生えた。尻尾も突如に出て来て、手足がぐんぐんと縮み、猫の脚に変わった。完全に魔猫の姿になった。
 灰色の猫が超力ちょうりょくを最大限にまで上げ、その魔猫を空中浮遊させ、遥か南の方へ放り投げた。
[空中浮遊というものは、物体や生物が浮かび上がることだ]
 南の方と言えば、アクの家の方向だ。
 ミウは、それに気付くことなく中を確かめていた。
「あれ? 誰もいないんだけど……」
 ミウは後ろを向く。
 ――いない……!?
 ミウの背後にいると思った少女が忽然と消えていた。
 ミウは硬直する。心が冷めた、ミウと同じような冷たい風が吹いた。
「また……一人?」
 一気に疲労感と孤独感が押し寄せて来る。一人で居るのが、自信がないのだ。また、これから先をどうするのかと唯、考えて魔法学院に入学する物の、それが終わったらなどと、正に絶望的な考えがたんさんだった。
 ミウには、誰かと一緒にいないと途方にくれず落ちぶれる。二度と仲間に会えないと思う心が錯覚を起こしている。
 列記とした計画があったのだ。
 まず、アクとでいいから、独り旅を克服する生きがいだった。最初から、自分一人で突き進むのなんて無理だ。
 一人旅もいいなどと考えた自分が、どうして無残な気持ちになるのかと情けなく思った。
(こんな、わたしが仲間になってもらえる人なんかいない……!)
 赤茶、灰色の猫は「あれ、どうしたのだろう?」とミウを見ていた。
 ミウは悲しみで、震え出した。
 二匹の猫は「ええ!?」と驚いた顔を見合わせる。
「……近くに行って、話しかけてみる? 思い切って。かわいいし……」
 赤茶色の猫は静かに、灰色の猫に問う。
「えぇ!? 大丈夫なの? かわいいけど……」
 灰色の猫は驚く。そして、ミウを不満そうに見た。
「……ワタシだけ、行ってくる」
 赤茶色の猫は、木の上から飛び降りた。
 ミウは誰かが地面に着地した音を耳にして、後ろを振り返る。
 こちらに歩いて来ているのは、長毛種の雌猫だ。青色で赤色の色彩が飛び散った瞳。何とも不思議な目だ。鮮やかな赤茶色の毛で、大きな黒いリボンが首の後ろに付いていて、もっとメス猫らしさを引き出している。
 旅に慣れたような歩く姿を見て、ミウは心の中で感嘆した。
「こんにちは。学院の人たちは、今日いないよ。その人たちは、研究しに行って来ているみたいよ。もちろん、魔法について調べに行って来ているよ」
 赤茶の猫は、慎重深く真面目に話していた。
 軽く、ミウは自分の名前を言う。
「あの……。わたし、ミウ」
 言い終わった直後、ミウは赤茶色の猫にむっとされたようだ。
 ミウは困ったように首を傾げる。
「え、どうしたの?」
「……君。いきなり、名前を教えたら危険だよ? 性質特性の猫に名前言うものではないよ? 勿論、ワタシも」
「性……質? なんだっけ……」
「性質特性よ。性質特性の猫。つまり、ワタシ。人間のような感情を持っているって感じ。それに加え、人間と同じ寿命を持つ。この、ワタシみたいに危険よ?」
 すると、木の上から声が聞こえた。
「その外見からだと、大丈夫なような気がするけど……」
 よく見ると、濃い灰色の雄猫がいた。長毛種で紫色のシルクの布を巻き付けてあって、それに、小さくて丸い金の二石が装飾されている。明るい暗いの濃淡の組み合わせが何ともいえない程に素直でいうといい。瞳の色は、橙色で緑色の色彩が飛び散っている。赤茶の猫と同じだ。
 果たして、その二匹の猫は関係があるのだろうか。
「酷いね、ユナア。もう芝居? は、やめた方がいいと思うよ。ミウっていう名前だっけ? その人、頭の中がおかしくなっちゃいそうだよ?」
 灰色の猫は木から飛び降りて、ミウの近くまで来て、本の僅か考えるようにして話し出した。
「ボクはラルド。こっちはユナア。ボク達は血の繋がった猫だよ。今の件に大して、学院の人たちは研究しに行ってるのは本当で、性質特性の猫に名前を言っていいんだよ。怖がらせて、ごめんね。まぁ、暴れる猫もいるんだけど、気性が荒い猫もいる。えっと、ボクらは、魔法学院に入るつもりなんだ! 君も入るんだったら、ボク達のパートナーになってくれないかい?」
「うん。入るけど、……え!? パートナー!?」
「え、そんなに吃驚したの? もしかして、すごく嫌だった!?」
 ラルドは驚き過ぎて、超能力を使う暇がなかった。
「い、いや、違うの! パートナーになってもいいよ! すごく嬉しいよ!」
「本当に? やった――」
 でも、ユナアは話しの内容が速く成立していて、唖然としていた。
「ラ、ラルド……。君……あんなに、ワタシのこと心配してたのに。嘘だったの!?」
「ええ!? 違うよ。最初から芝居じゃないよ! ただ、この子は話していて大丈夫そうかなって思っただけだよ」

 夜になった。
 ミウとユナア、ラルドは魔法学院の前で焚火を付けた時から、無言になった。
 夜になると、急激に魔猫の活動が増えると、アクに言われた事を思い出す。話しとかすると、魔猫が襲って来るかもしれないと。ひそひそ話でも、駄目だ。
 ユナアとラルドは、眠りにこけていた。
 ミウは心の中で激しく思う。
(ちょっと――! 眠らないで!)
 アクがいないと、何故か安心できなかった。今、そこに二匹の猫がいるのに。
 いつ、魔猫が襲って来るのか分からないのに、よく平気で眠れる二匹の猫の姿が、ミウはすごいと思った。それが、ミウの体には慣れないような感じだった。
 ミウは魔法の洞窟の前で、アクと野宿したことを思い出す。
 どんなことが待ち受けているのかも分からない。ただ、それが、ミウにとって待ち遠しかった。
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