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第三章 魔法の入門2 魔法見学

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 ミウは目を覚ました。外が朝になっているのに気づくと、少しだけ怖くなった。魔猫まびょうがすぐそこにいるのかもしれないと思って、周りを警戒して見回した。気づくと、ユナアとラルドは居なくなっていた。ミウは立ち上がって、フレンテール魔法学院の柵の外に出た。彼らは昨夜、学院の近くで野宿をしていたのだ。
 すると、箒に乗った、ローブみたいな魔法の服を着ている一人の女性がミウに近づいて来た。
「あら? そこのあなた、何をやっているの? ……やだ!門が開いている! 魔法のバリアも解けている? もしかしてあなたがやったの!?」
 その女性に強迫されたので、ミウはつい、
「ち、違います! 開けたのは、二匹の猫だと思います!」
(あ、)
 それを言った途端、はっと思った。
(パートナーになったばかりなのに、秘密をばらすなんて……! ユナアとラルドが包囲されてしまうかも……!)
 思わず、ミウは聞いてみる。
「あの、何で超能力テレパシーを使わないのですか?」
「まず、わたしの名前を言っておきましょう。わたしはこの魔法学院の教師、ルリンド。その、テレパシーと言う超能力は高度で、心まで読み取ることは難しいのですよ? さぁ、ここから立ち去って下さい!」
[テレパシーというものは、言葉などを使わずに伝えることだ]
 超能力は、己の力の程度で決まるものは初耳だった。
 その、ルリンド教師の超能力の気が足りないように、見えたミウだった。
「ええ? そうなの? 知らなかった! でも、わたし、これから学院に入るつもりだったんだけど……」
 ミウは項垂れてここから離れようとした時に、ルリンド教師に声を掛けられた。
「あら、ごめんなさいね。いいでしょう、この魔法学院に招待します。付いて来て下さい」
 残念そうだった、ミウの表情がぱっと明るくなり、顔を上げる。
「よかった!」
 そうすると、ルリンド教師は箒から安心したように降りて、魔法学院へとすたすたと歩いて行く。
 ミウは、魔法学院の中へ初めて入った。
 入口の近くに、二つの受け付けの台がある。
 ふと、後ろを見ると、何故か知らないけれど外が見えた。
「ああ、それはここだけなんですよ。それでも、この魔法を使うのが精一杯なんです。全面に使うことになると、魔王クラスに想定します。まだ、誰もいませんが、いないと思います」
 今は、この学院の中には、二人しかいない。
「一階では、見習いの人たちが勉強する場所で、二階は実習室で……三階は試験室があり、魔法を使いこなした者が入り、難しい魔法を覚える実力室があるのです。他にも、色々な教室がありますよ。そして、四階は職員室と校長室があります。上に着くまでは、わたしでも一苦労します。エレベーターがあるので、あまり問題ではありませんが」
 一階の教室に案内されて、ここはミウが勉強する所だと言われた。
 ――1ーAと書かれた教室。
 受付けの人と学院師長(校長先生)が来るまで、この1ーAの教室で待っていて下さいと、命令があった。
 一階の教室の数は、十クラス以上。
 新しく用意してくれた、机とイス。じっと座って、ミウは詰まらなそうに周りを確かめる。机の数を数えて、四十二人がいることに気付いた。
 ――十五分後。
 教室のスライド式のドアが物凄い速さで、バンッ! と開いた。
 ミウは身をびくっとさせる。
「あっ! ミウ、ここにいたのね! 探したよ」
 聞き覚えの声がした。
 ミウは振り向くと、そこに居たのはユナアだった。その背後には、ラルドがいた。
 そして、ルリンド教師の声が聞こえた。
「ユナアと……」
 ユナアの背後から、ラルドが顔を前に出してから、ルリンド教師は続ける。
「ラルドです。また、新人さんが来ましたよ。えっと……あなたのお名前は?」
「ミウです。あの、よろしくお願いします」
「もうすぐで、生徒たちが帰って来ますので、もう少しのお待ちを」
 この、1ーAの見習い室から、ルリンド教師は離れた。
 ユナアは笑顔で、のんびりとミウに近づいて来て、
「ああ、やっぱりここにいたのね! ワタシ達、食糧を買いに行って来ただけだから」
「早く、一緒に食べようよ。もうボク、倒れそう……」
 ラルドは呻くように言った。
 すると、ユナアは意味が分からない言葉を唱える。魔法ではなく、呪文らしかった。
 パッと、食糧が空中に現れる。果物やパン類などだった。
 それから、ラルドは机を四つ向かい合わせになるようにしてもちろん、ミウも手伝った。
 こんな所で、食糧に有り付いてもいいのか気にしたけれど、今はそういう場面ではない。皆、空腹だったからだ。
 誰かが来る前に食べ終わってないと、変な人と思われそうだから急いだ。

 一通り、食糧を食べ終わり、ミウ達はほっとしたが、
 でも、何故かニンニクがあるのかが分からない。
「…………」
 ユナアは思い詰めたように、無言だった。そして、ユナアは犯人はお前かとラルドの方を見る。
 ラルドは、最初に慌てていたけれど、最終的には普通になる。
「うわ――、窓開け……というか、人間は鼻が鈍いと思うから大丈夫か……」
「え、え!? わたし、食べもの(?)のにおいがするんだけど……!?」
 ミウはラルドの余裕ぶりな顔を見て、さらに慌てた。そして、窓まで走りガラッといくつか開けた。その場で振り返り、ラルドに困ったように目を向ける。ユナアはラルドを睨み付けた。
「ん? どうかしたの……? え、そんなに、においがするの?」
 ラルドは、ふざけた様子もなく言った。
「するよ」
 きっぱりとミウは言った。
 すると、ドアがこんこんと鳴って、ルリンド教師が顔を出す。
「この教室には、四十五名になりました。クラスの名前は、見習い室1ーA組です。あ、そろそろ、生徒達が来ますよ」
 ドアが開き、二つドアがあるので、そちらも開く。ぞろぞろと生徒達が入って来て、自分の特定の席に移動して座った。
 ルリンド教師は、ミウとユナア、ラルドを黒板の前に招いた。そして、両手を二回に鳴るようにして叩く。
「はいはい! 皆さん! 新しく入ってきた魔法使いを紹介します。ミウ、ユナア、ラルドです。皆さん、仲良くして下さいね!」
 ミウたちは、一人一人紹介された。
 と、ルリンド教師は「何かアピールしてみて」と囁かれた。
 ラルドは先に乗り出す。
「ボク、ラルド! えっと、得意なことは魔法で回転! じゃあやるよ、回転ロウテイト!」
 ラルドは片足だけで倒立し、目にも止まらず、台風みたいな勢いで回った。
 ――ぐるぐるぐるっ……!
(いつまで、回ってんの……)
 ユナアはラルドをアホみたいに思った。いつもだけど。
(凄い! フィギュアスケートみたい!)
 ミウはラルドを天才みたいに思った。
 アホの天才って何だろうか。
 生徒たちが、ざわつき始める。
「猫が回った!」
「すごい、猫って魔法使えるだ――」
 ユナアとラルドの失笑が漏れる。
 それを、ミウが打ち消すように皆に話し出す。
「使える猫もいるはずだよ。なんたって此処・・は魔法と超能力の世界・・だから、居てもおかしくないよ?」
 気が付いたら、生徒達とルリンド教師は唖然となって静かになっていた。
 でも、ユナアとラルドは声を出さずに驚いていた。
「……え」
 ミウは、そんなに変な事を話していたのかと考えてみる。
 ――魔法を使える猫。いや、違う。
シアリムここは魔法と超能力の世界……しまったっ!? シアリム世界では、あたりまえのこと。別世界があるってほとんど知りないのだった――!!)
 改めて、ミウはその状況を変えようと、言い訳を考えながら一気に額に汗が出た。
「……ねぇ、ミウ。後で、ワタシとラルドで話しがあるんだけど……」
 ユナアは淡く何かを、分かりきっているような口調だった。
「うん……」
 ミウはもしかして、と心に淡く抱く。
 
 さっき前のことは皆に冗談とミウは言って置いた。
 皆、唖然としていたからやっぱり『別世界』というものは、分からないはずだ。
 一つ、ミウは気になることがある。
 それは、ユナアとラルドの事だった。ユナアは真剣にそれでいて、話しがしたいと言っていた。ラルドの名前も入っているから、それも絶対に何か怪しい。怪しいと言うよりも、気になる。ただ、ユナアが面白半分で言っているかも知れないとも思う。思わず、緊張した体になった。
 ミウが着いた場所は、三階の実力室の前だった。今は、自由見学でミウの周りには誰もいない。
 ユナアはグラウンドにいる。ラルドは二階の実習室にいる。
 歩く道が違って、いつかは離れ放れになってしまうと、ミウにはそう感じた。
 必ず、命は滅失して魂だけが残り、地上を彷徨い、何日かして誰かに向かえられて、天に向かって行くとミウは何故か分かっていた。
 その後、どうなるのかとミウは思いつつも、実力室のドアをノックをした。
 そうしたら、ドアが開き、男の教師顔を見せた。
「見学しに来ました。いいですか?」
 ミウは言うと、教師は満足したように笑顔で頷く。
「うむ。いいですぞ。さぁ、入りなさい」
「失礼します」
 中に入ると、いくつもの色の光が目に入った。どうやら、本格的の魔法を練習してるらしい。何の魔法について勉強をしているのかは分からないけれど、何となく凄い。
 考えてみれば、アクの方が上だと思った。
 何故ならば、魔力の強さが一目に見て何百倍も断然に違かった。魔力が強い生徒、二十人くらい合わせたようなアクの魔力の数値だった。
 ふと、自分の魔力はどれくらいの強さだろうかと思う。一回も、魔法を使ったことがない。
 どうやったら、魔法を使えることが出来るのか。超能力を使う時は、気を集中をさせる事。
 よく、生徒たちの手を観察したが、全然わからなかった。
 ミウは心配してきた。
(どうしよう。誰かに聞く? ユナア、ラルド? アクだったらいいな……)
 そのせいか、ミウの表情が段々に暗くなって来た。
 魔法の光によって、誰もミウの暗い顔に気付かない。
「もういいですか? ……この教室は、魔法を使いこなした者が入れる場所だから、余り見せられないのです」
 教師が言った。
「はい……」
 そして、ミウは実力室を出た。まず、ラルドの所に行こうと思った。心を空にさせ、集中する。
 ――透視。
[透視というものは、肉眼を使わずに見通すことだ]
 ミウはテレポートと透視が得意。
[テレポートというものは、正式に言えば『テレポーテーション』自分、他人を瞬間的に移動させる事]
 ラルドの顔、外見を想像させると、実習室と書かれた黒板が見えた。機械みたいに空間を動かしてみると、ラルドがいた。
 そこで、また超能力が使えたミウは張り切って、実習室を思い浮かべて意識を集中させた。
 ――テレポート。
 瞬間にミウは、ラルドの目の前にいた。
 ラルドがミウの顔を見たら、目を丸くする。
「うあ~……! びっくりした。……やば! 魔法学院ここで超能力を使っちゃいけないんだよ」
 ラルドの声は最初に大きくて、言うほどに小さくなっていた。
 ミウとラルドは、同時に皆を見る。魔法に熱心で、気付いていなかった。
 溜息を吐こうとしたら、教師に声を掛けられる。
「あら? いつの間に……」
「あ、え~と……。えーと、声を掛けても気付かなかったから、それで入れてあげました」
 ラルドはそれでも、精一杯に言った。
「そうてすか」
 再び、教師は生徒達に目をやった。
 ラルドはミウの肩を尻尾で軽くつつく。
「すごいよねー! こんなに魔法をこなすのって、ね? ミウちゃん」
「違うよ。実力室の方がすごいって! いや、違くて……」
 アクの名を言おうとしたら、ミウは言葉を飲み込んだ。そこまで、情報を教えなくてもいいと思った。
「ねぇ、そろそろ、ユナアの所に行かない?」
「あ、うん。行こう!」
 ミウは元気に返事をした。

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