無能な魔術師〜とりあえず、この世界を正そうか〜

チリガミ鳩

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序章:異世界転生

第2話

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「はぁ?」

カエデは心底「何言ってんの?」な顔で目の前の男を見る。

「まぁ、君の言い分もわからないでもない。それに、伝えるべき言葉が違ったね。申し訳ない。あの場を沈めるにはこうする他なかったんだよ」

『あの場』というのは召喚魔法授業のことだろう。確かに、人間が召喚されるという異例の事態は、召喚させた巨乳女性教師を初めとした生徒・教師がかなりの動揺を見せた。

「それにしてもこの……なんで牢屋なんだよ。しかも学校の地下って……」

「ここは多くの地方から多くの人材が通ってくる。中には教師の指導を無視し、自分の力に溺れるやからも存在するからね。ここは剣や魔法を教え導く学舎まなびやだ……。間違いを犯してしまった生徒には、それ相応の罰が下る」

男は「それを防ぐのも、教師である私の責任なんだけど……」と苦い顔を作る。少し暗くなった空気とともにカエデは話題を変える。

「それはひとまず置いとくとして、俺をこの学校の生徒ってのはどういうことだ? それも学園長直々じきじきのお言葉ってやつ?」

カエデは横でおろおろとしながら、椅子に座っている男とカエデを交互に見るナウスと名乗った少女の頭をそっと撫でる。気持ちが良いのか猫のように喉を鳴らしている。

「あぁ。の提案だ」

「…………おいちょっと待て、まさかとは思うが、あんたが……?」

カエデは内心では確信していたが、会話中に代理かな? と予想してしまった。次の言葉を聞くまでカエデはかなり動揺を見せる。その証拠がナウスの頭を撫でる手でわかった。

「ちょっ、カエデ! 痛い、痛いのじゃ! カエデ!? おぉい!」

さっきまで優しく的確に気持ちの良いツボを撫でていたカエデの手つきは、乱暴で気持ち良さの微塵みじんも感じられなかった。

「そのまさかだよ。私がここ、『ベルスト』の十代目学園長を務めているマルス・ベルストだ」

マルス即ち、ベルスト魔法学園は先祖であるグリナ・ベルストが建てた学舎で、昔は今のように活気はなかったが、それでも最先端の授業を受けることができると話題だったらしい。

平常心を保つことができたカエデはナウスの頭から手を離す。綺麗に整っていたナウスの髪はグチャグチャに乱れていた。涙目で整えているその姿がなんとも愛らしく、罪悪感を覚えてしまうのは致し方なし。

「そもそも、召喚魔法っていうのは三十分程したら召喚された魔物や精霊は勝手に元の場所に帰るんだよ。その為、君は例外と私は見た。『召喚しょうかん』はできても『送還そうかん』はできないからね、今はどうしてもこの世界で生活するしかないんだよ」

マルスは再度「申し訳ない」と頭を下げる。カエデが思うに、これはマルスにとっての『償い』のようなものだ。召喚されて帰す方法もできない少年を放置することは人としてできるはずがない。しかし、生徒としてなら居場所は自然とできるし、何より学食やりょうの利用が可能となる為、生活に困らせることはない。
カエデにとっては願ってもいなかった申し出だ。

「そっちの事情はなんとなく察した。しかし、条件がある」

「……可能な限りなら何だって受けよう」

「ならよかった。条件というより要件なんだが……授業料及び学食・寮での金は全てそちらが払う、それでいいか?」

「何だ、そんなことか。それは私も考えていたことだから気にしないでくれ」

「それは頼もしいな。もう一つは座学について。できれば俺は読み書きを中心にしてもらいたい。言葉は同じだがどうやら文字が違うみたいだからな」

「……そうか。ならば、カエデ君の座学は読み書きを中心的にやらせてもらうよ。他にはあるかい?」

その質問にカエデは首を横に振る。

「いや、こんなもんだ。剣や魔法の授業には率先して参加することを誓おう。……俺って魔力あるの? 魔法使えないみたいだけど」

「うーん。シェパード殿、どう見ますか?」

名を呼ばれたナウスはジッとカエデを見る。顔・腕・足・腹。結果。

「うむ、微々たるものじゃが魔力はもっておるぞ。ほんの少しだがな」

「例えるなら?」

「近所のガキと同じくらい?」

「少なっ! 仮にも転生者である俺の魔力ってそこら辺のチビと一緒なの!?」

わかりやすく落胆とするカエデの頭をナウスはよしよしと撫でる。それが余計虚しくなり、カエデから黒いオーラが滲み出てくる。

「追い打ちかけるのも悪いと思うけど、魔法が使えないのは適性がないからだと思うよ」

マルスが言ったことをまとめるとこうなる。

魔法は魔力と適性がなれけば扱うことはできない。魔力とは人の持つ力の一つであり、適性とは個人の〝属性〟によって大きく変わる。

魔法には『五大属性魔法』と呼ばれるものがある。火・水・雷・風・土。『五大属性魔法』に分類されないものでいうと光・闇・無。ちなみに無属性魔法は身体強化などのバフ系の魔法である。

「追い打ちだよ、本当に。そうか、俺は魔法使えないかもなんだな。剣に打ち込むしかねーな、めんどくせぇ」

「そう言うではないぞ、カエデ」

面倒くささを顔に出すカエデにナウスはやれやれと肩をすくめる。

「……そういや、お前マルス、だっけ? に随分上からだけど何者なんだよ」

「上からなのはお主も同じであろう。……そうじゃな。余は所謂いわゆる神であるからな。お主なんかよりも歳は上じゃよ?」

「神様ねぇ。流石異世界ってやつだな」

ナウスはふふんとドヤ顔を見せていたが、そんな驚き発言をカエデは真顔で受け止めた。

「えっ? なんでそんなにも平然としておるのじゃ? ここはもっと『えぇ!!! か、神様!? ま、まさか実在するなんて!?』と驚愕するところではないのか?」

「そういう夢をお持ちなのですか? シェパード殿」

日本生まれのカエデにとっては漫画・小説・ゲームなどの創作物によって神様だろうが人外だろうが驚かなくなってしまったのだろう。驚いてしまうのは魔法やらの非科学的なもの。最も、神様なども非科学なのだろうが、カエデにとってはどうでもいいらしい。

「それで? 神様はなんで俺のことをそんな心配してくれるんだ? まさかれたか? 悪いな、俺はロリコンじゃない」

「誰が惚れるか! それに誰がロリじゃ! ……そうじゃな。まぁ、話すと長くなるから今はやめておくとしよう」

「まためんどくさいネタを……。まぁいいけど」

カエデは頭をポリポリと掻き、マルスに向き直る。

「俺は一年生として頑張ればいいんだろ? いつからだ?」

「そうだね。理想は今日からだけど、休みたいだろ? 客室用のベッドを用意するけど、どうしたいかはカエデ君次第だよ」

マルスはイタズラっぽく笑ってみせる。まるでカエデの次の言葉がわかっているように。その意図を理解したカエデは深いため息をこぼし、呆れた顔でマルスを見る。

「今日から参加するよ。転校生として頑張らねぇとな」
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