無能な魔術師〜とりあえず、この世界を正そうか〜

チリガミ鳩

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序章:異世界転生

第3話

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「うっ!」

正式に転校生として一週間が過ぎた。
今は剣術の授業である。

「カエデ! さっさと立て! 強くなりたくないのか!?」

「るっせぇ! コッチは転校してもないんだぞ! それにな、俺の元いた世界は平和主義バンザイ国家なんだよ! 剣すら持ったことないの! 理解できたか!?」

木剣を片手にカエデは立ち上がる。目の前にいるのは元・王国騎士団に所属していた名の知れた人物らしい。名前はベータ・マクリー。

「知らん! 戦場において相手の素性すじょうなど必要ない!」

「生徒の素性は知っておけやぁ!!」

お互いが雄叫びを上げ、木剣がギシギシと叩かれあう音が響く。


「ねぇネスト。あの子、どう思う?」

「そうね。型も何もない上に魔法適性〝ゼロ〟、っていうのはかなり驚いたわ」

「あぁわかる、それでいて読み書きも勉強中ってすごいよね、ある意味」


外野ガヤがうるさいな……)


そう悪態を吐きながらも、集中しなければ大ケガをしてしまいそうなこの状況では歯噛みするしかなかった。

「遅い!」

「なっ、ブフォ!!」

完全な隙をついた一撃が右横腹を襲う。カエデは優に三メートルは横に飛んだ。

「痛っ! ちょっとは手加減しろよこのヒゲが!」

「ヒゲは毎日ってるわ! それにしても、ここまで剣術ができないやつは初めて見たぞ?」

「初めてなんだよ! 七日しか習ってない素人しろうとに何やらせてんだよ! 学園長に言い付けてやろうか!?」

「ガキか!」

カエデが尻餅を着いたところで、今回の剣術授業は終了した。四時間目の授業ということもあり、生徒たちはジャージから制服に着替え、学食の方へと向かう。カエデは話し相手もいないため、適当に買ったパンと牛乳を持って屋上へと歩いていった。

「あれれ? これはこれは学園長に気に入られているカエデ君ではありませんか~?」

「本当だぁ。どうしたのかなぁ~こんなところで? お友達がいないのかな~?」

「おいおい可哀想だろ? いくら本当のことだからってさ」

今は日差しが増してきた昼休み。いつもカエデが一人でいる時にやってくる悪ガキ三人組トリオ(カエデと同い年)。小太り少年がマック、そばかす少年がライル、マッシュルームヘアーがペリット。
カエデをバカにするこの三人は当たり前だが、学園長に気に入られている最弱なカエデのことを嫌っている。

「あぁ……えっと…………ちょっと待て、今思い出すから」

「思い出すからってなんだよ! 調子に乗ってんじゃねーぞ!?」

悪ガキ三人組の共通点はキレやすいということだ。つまり、すぐ怒る。特に自分よりも弱いやつにバカにされると。

「調子に乗ってるわけじゃねーよ。悪い、俺人の名前覚えるの苦手だからさ。そういうわけで腹減ってるからそこ通してくんね? 屋上行けないからさ」

「チッ! どこまでもバカにしやがって……!」

リーダーらしきライルが両手をカエデに向ける。

「〝火球弾ファイアーボール〟!」

「〝光の障壁ライトシールド〟」

ライルの放った火球を誰かが作り出した光の障壁が防ぐ。当然魔法適性のないカエデが作り出していないしマックやペリットが防ぐ意味もない。なら、この現場を誰かが見ている、ということになるため三人は慌て出す。

「白昼にイジメとは……この『ベルスト』も落ちたわね」

凛と可憐かれんな声が響く。声の主はピンクの髪が腰まで長く伸びたバラを連想させる美しい少女だった。パッチリとした瞳は赤く、罪は見逃さないと固い意志が伝わってくる。
悪ガキトリオの顔がみるみると青く変わっていく。カエデは顔色一つ変えていないが、彼女には見覚えがある、というより同級生である(悪ガキトリオも同級生)。ネスト・グリンジェル、剣術・魔法・座学、どれをとっても上位を独占しており、【戦場の女神ヴァルキリー】の二つ名を持つふざけた存在の一人だ。

「ち、違うぜネスト!! 俺たちは、ただコイツを教育しようとしただけで……」

「そうだよ! コイツ、まだ剣もロクに扱えてないだろ? だから昼休みの間に教えてやろうかなってさ!」

「見苦しい言い訳ね。聞いてて虫唾むしずが走るわ」

その言葉は三人の心を正確に読み取った一言だった。ぐうの音も出ない三人は慌てたようにその場を去るだけだった。

「ふぅ……。カエデ、だったわね。大丈夫かしら? ケガとかしてないといいんだけど」

「ん? ケガはしてないぞ? いと言ったら筋肉痛で全身がバカみたいに痛いくらいだな」

「そっ、ならいいわ」

そう言い残して、ネストは学食の方へと向かっていった。カエデは「変なの」と呟いて屋上に行く。


「……新作、エア・トードの肉を使ったカツサンド、中々パンチのある味だな」

カエデの食べているパンはちょっとだけ仲良くなった購買で働くおばちゃんに勧められた一品だ。見た目は日本にあるカツサンドやハンバーガーのそれと同じ。しかし、エア・トードというモンスターの肉は中々パンチが効いている。口では説明し難い。

「なぁ、ナウス。読み書きを強制的に覚えることのできる魔法とかってないの?」

「あるぞ?」

「あるのかよ……流石神様だな」

ふよふよと空を歩きながらナウスは当然のように言う。

「頼むから俺にその魔法かけてくれ。ちょっとやりたいことがある」

「別に良いが、持続時間は短いぞ?」

「時間制限とかあるのかよ。で、どのくらい?」

「そうじゃな……。大体三日といったところじゃろうな」

カエデは「うーん」と喉を鳴らして考え込む。何時いつになく真面目な空気を出しており、ナウスは肩を震わせていた。ちょっと笑ってますね、コレ。

「……上等だろうな。オケ、それかけてくれ」

「今更じゃが、何をする気じゃ?」

ナウスの質問にカエデはニヤッと笑みを作る。とっても悪い笑みを。

「な~に、簡単だよ。本を読んで魔法について調べる、そんでもって悪ガキをらしめる。すっげぇめんどくさいシナリオ作ったからそれを実践するだけだよ」

「お主は本当に面白いのぉ。よし、この三日間、有意義に過ごすのじゃぞ」

「任せろよ」

神様のチート魔法のおかげで三日間寝る間も惜しんで本を読み、技術を磨き、一歩成長することができた。
そして、カエデにとっては願ってもない好機が訪れる。

「なぁなぁカエデ君さ~。俺たちと模擬戦しないか? も・ち・ろ・ん、手加減してやるからさぁ」

例の件にも懲りていない悪ガキトリオの一人ライルがそう言ってきた。時間帯は昼休み、再びカエデが一人ということを見計らってそう提案してきた。そしてカエデの返答は。

「おぉ。俺も実はお前らと戦ってみたいと思ってたんだよ。今日の五時間目でいいか?」

「「「へ?」」」

悪ガキトリオはカエデが拒否すると思っていたらしく、間の抜けた声が出てくる。それもそうだ、この三日の内に理由はわからないが剣の腕も上達してきたとはいえ、未だ弱いままのカエデが戦いを承諾しょうだくするなんて誰も予想できるわけがない。

「い、いや、五時間目は授業があるだろ? それに」

「──安心しろ、俺が直々に学園長に申し出てみるからさ。闘技場で待ってろよ!!」

そう言い残してカエデは走り出した。道中教師に「廊下は走りません!」と怒られながらも学園長のいる部屋まで走る。それらを見送る形となってしまった三人は「ヤバいことになった」と心の声を漏らしてしまう。
しかし、三人にとってこれはまたとないチャンスでもある。これだけ大事になれば大勢の生徒が観戦してくるはずだ。そこでカエデをボコボコにすれば皆が自分たちを『強い』と認めてくれるのではないか、と。また、本気で潰したい相手が「戦う」と言い出したのだ。合法的にカエデを潰すチャンスでもある。


「…………話は大体わかった。はぁ。なんで『ベルストうち』の生徒はこう暴れたがるんだろうね……。思春期ってやつなのかい?」

頭を抱えながら大きなため息を吐き、半ば責めるようにしてマルスはカエデをチラッと見る。カエデは事の経緯を話している間もずっと笑顔のままだった。今もまるで、新しいおもちゃを買ってもらった幼児のような無邪気な笑顔だ。

「俺に言うなよ。いいことじゃねーか。生徒が率先して行動するって。止めないでくれよ、学園長♪」

「都合のいい時だけ私を使わないでくれよ、カエデ君。わかった、確かに生徒の気持ちを無下むげにするわけにはいかないね。全教員と全生徒には私から伝えておこう」

諦めがついたのか、マルスは呆れたような表情をしながらも決心したように合意した。

「おっ、さっすが学園長♪ いいこと言うなっ!」

「一応聞いておくけど……君は一体何を望んでいるんだい?」

カエデの気持ちを察したマルスがそんな質問を投げかける。きびすを返して帰ろうとしたカエデだが、立ち止まり、またマルスに向き直る。

「そうだな……。俺の生活しやすい環境作り、かな」

カエデは笑顔でそう言い放つと自分の部屋へと帰っていった。一方マルスは再びため息を吐きながら窓の外を見る。

「本当に、面白い人を呼びましたね。シェパード殿」

呆れながらも、マルスはどこか楽しそうでいた。
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