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序章:異世界転生
第4話
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──闘技場
生徒同士の模擬戦以外にも年に一度開かれる『ベルスト魔法大戦』にも使用される由緒正しき場所。
コロッセオと類似しており、カエデは初めて見た時にかなり興奮したようだ。総勢一万人以上の観客が一度に座れるほどのスペースが闘技場内を包むようにできている。
真ん中には円上型のフィールドが用意されており、生徒たちはその中で自分の力を存分に発揮する。
観客席には全生徒・全教員が集まっている。そして、フィールド上には例の三人がこれからカエデをどうしてやろうかとニヤニヤしている。
「なぁ、遅くないか?」
「確かに……。まさか逃げたとか?」
「有り得なくはないな、アイツ最弱だし」
「そうそう。ついたあだ名が【無能】だったっけ」
生徒たちは各々が好き勝手に駄弁っていた。教員たち、特に剣術担当のベータと魔法担当のエリー(カエデを召喚させた張本人)はカエデの強くなりたいというやる気と適性のなさは知っているため、どうか気を付けて、という面持ちだ。
また、集まっているメンバーの中に、全員を驚愕させ、悪ガキトリオにプレッシャーを与える人物が二人いた。
「お、おい……。まさか、学園長までいらっしゃるなんて……」
「それだけじゃない……! 隣にいるのは、伝説の神様だぞ……。ナウス・シェパード様だ……!!」
二人はVIP席と呼ばれる席にいるのだが、それが返って皆を驚かせた。
全員が集まって十分後。ライル・マック・ペリットの向かいの方からカエデがゆっくりと歩いてきた。
カエデは腰に短木剣×3を携え、両手には白い手袋をはめていた。また、両太ももにはポーチのようなものを付けていた。かなり重装備といってもいいだろう。
対する悪ガキトリオは長木剣をそれぞれ持っているだけだった。
装備からしても「カエデが弱い」ということを嘲笑っているように見える。
「遅かったじゃねーか? てっきり、逃げたと思ったぜ?」
「悪い悪い。準備が長引いた」
カエデは平謝りをして、マルスに視線を向けた。マルスにはその意味を教えているため、立ち上がり、スピーカー型魔道具で説明を始めた。
「対戦のルールは事前に伝えた通りだ。武器は木で作られた物とし、魔法は自由に撃ち込んで構わない。無論、魔道具の使用も許可する。相手が気絶、フィールドからの撤退、又は降参した場合のみ試合終了とする。三対一での模擬戦、存分に自分の力を発揮してくれ!」
これらは全てカエデが提案したものだ。下手をすれば【無能】である自分は死んでしまってもおかしくない。しかし、カエデがこの提案をしたのは皆を見返すためでもある。【無能】と呼ばれた自分がこの条件下でどれだけの力を持っているかを皆に見せるために。
「それでは両者の検討を祈る。──始め!!」
マルスの掛け声と同時に、ライルたちは魔力を右手に集束させる。
「「「〝火炎弾〟!!」」」
三つの火球が狙い違わずにカエデに向かう。かなりのスピードが出ている火球がカエデに直撃する一歩手前で、カエデはしゃがみ込み地面に手を触れる。
「オラッ!」
詠唱もせずにカエデの目の前に出来上がった壁によって、三つの火球は弾け飛ぶ。
「ま、待て! 魔法適性〝ゼロ〟のお前が、なんで詠唱もせずに魔法を展開することが出来るんだよ!」
いち早く状況を理解したペリットが指を差し叫ぶ。理由は簡単で単純。カエデのはめている手袋には魔法陣が描かれているのだ。描かれた魔法は〝土壁〟、目の前に土でできた壁を瞬時に作り出すという防御系魔法だ。
「言っただろ? 準備が長引いたって。俺はお前らをぶっ飛ばす気でここに来たんだよ」
「チッ! 〝氷の槍〟!」
「〝風の息吹〟!」
「〝雷の鉄槌〟!」
それぞれが違う魔法を撃ち込む中、カエデはそれらを簡単に対処する。ただ、地面に手を触れるだけなのだから。
凄まじい轟音が鳴り響く。三人は倒した、と確信したのか、額の冷や汗を拭う。土煙が風で消えるとともに、三人の顔は驚愕へと変わった。
「そんなもんだったっけ? お前らの強さ」
流石の魔法によって壁は壊されたが、未だ無傷のカエデに、三人は恐怖を覚える。
昨日まで無能だと思っていたやつが、昨日まで自分たちよりも確実に弱かったやつが、今この瞬間、確実に自分たちよりも強くなっている。それは、きっとカエデの持っている魔道具の性能故の強さでもあるが、それとは違う何かが、カエデにあると悟ったのだ。
「今度は、コッチ!!」
カエデは太ももにあるポーチから小さな瓶を取り出し、それを投擲する。
美しい放物線を描き、三人の目の前で、それは力を見せた。
「弾けろ」
カエデの掛け声に答えるように、瓶は激しく発光した。カエデの持つ日本知識の一つ、『閃光手榴弾』だ。こちらの原理も簡単。小瓶の中に遠隔魔力操作型の魔法陣を描いたのだ。後は投げ、丁度いいタイミングで白手袋の魔法陣と共鳴させる。
遠隔魔力操作型の魔法陣は自分の身につけている何かに、魔法陣を描かなければ発動することが出来ないという欠点がある。魔法陣に魔力を込め、遠隔魔法陣と共鳴させる、それがカエデの手に入れた三日間の努力の賜物だ。
突然発光した瓶を直視した三人は目を抑え、苦しみ出す。カエデ自体、失明しないように調整しているため、心配する点は一つもない。
(今のうちに)
好機を逃さないためにも、カエデは走り出し、一番小柄であるペリットの襟首を掴む。
「なっ!? やめっ!!」
ジタバタと暴れ出すペリットを無視してカエデはグルグルと回転をし始める。遠心力で強制的に大人しくさせたペリットを、勢いそのまま、カエデは場外退場させた。
「よし、まず一人!」
カエデは歓喜の声を上げる。ペリットは悔しそうに地面を叩くが、転送魔法によって退場させられる。
残りは二人。
振り返ると、視力が徐々に安定してきたのか、ぱちぱちと瞬きをする。その表情からは明らかにヤバい、という心情が読み取れた。カエデは内心こんなもんか、と思いながらも再びポーチから小瓶を一本取り出す。二人は瓶を警戒しながら魔法を展開する。
「…………いや、必要ないな」
二人の展開した魔法を見て、カエデは瓶をポーチに戻す。代わりに短木剣を右手に装備する。
「クソがっ! 舐めやがって!」
二人は同時に〝火炎弾〟をカエデへと撃ち込む。その速度は困惑からなのか、先程よりも遅い。
「実験その一、自作の魔道具がどこまで通用するか。実験その二、俺の魔術がこれから通用するか……。試させろや」
カエデは身体中に魔力を回す。これは無属性魔法の一つ『身体能力強化』である。この世界に来て、魔法が使えないと理解したカエデがこれだけは、と一週間鍛え続けた結果の賜物。そして、左眼にはより強く、右腕にもより強く。短木剣をグルグルと手の中で踊らせ、一つの火球が目の前に来た瞬間に、それを──
「──斬る」
火の塊はたったの木でできた短剣によって霧散する。その光景は、見ている者を釘付けにした。
「……マルスよ。カエデの今の技法、どう見る」
「そうですね。シェパード殿がどう感じたかはわかりませんが、私はこう感じました。彼は、魔法の核が見えています、確実に」
次いで襲ってきた火球をいとも容易くカエデは霧散させていく。初級魔法とはいえ、魔法は魔法だ。幾ら彼が身体能力を全開していようが、生身の人間が魔法を霧散させるなど、聞いたことも見たこともない。
それを可能にさせたのが、カエデが独自に完成させた魔法とは異なる魔術だ。『見えない〝もの〟を視認することができる』──〝魔眼〟(カエデ命名)。ちなみにこれは一日で完成させたらしい。
少しだけ魔法・魔術について説明しよう。
メジャー中のメジャー、無属性魔法『身体能力強化』はベルスト魔法学園に入った生徒が最初に習う魔法である。
この魔法は魔力を身体中に循環させるため、沢山の魔法に汎用しやすいのだ。先程からライルたちが放っている〝火炎弾〟も魔力を手に循環させるため、『身体能力強化』を覚えた方が良いらしい。
しかし、物覚えがいい生徒ですらこれは一ヶ月はかかると言われている。それをカエデはたった一週間で習得したのだ。
魔術の習得は魔法よりも難しい。何せ、【固有魔法】とまで言われているのだから。カエデの場合は『身体能力強化』をした後に
「一部を強化する利点は?」
と研究した末に偶然発動することが出来た魔術だ。なので、正確には一日ではなく半日である。
また、無属性魔法を一週間・固有魔法を半日で習得するのははっきり言って異常なことであり、それを成功させたカエデは必然的に【無能】ではなく【異常】となる。
「……何なんだよ! …………何なんだよ、お前はぁぁ!!!」
マックは戦意を喪失したのかその場にへたり込み、ライルは未だかつて感じたことのない恐怖によって自我を失いかけている。
カエデは顔色一つ変えることなく、右手にある短木剣を逆手で持ちながら、静かに言った。
「──ただの【無能】だよ」
「クソがァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
文字通り一心不乱に魔法を撃ち込む。
〝火炎弾〟・〝氷の槍〟・〝風の息吹〟・〝雷の鉄槌〟。
それらをカエデは〝魔眼〟で『見えないものを視認』し、魔法の核を叩き潰す。地面に触れ、〝土壁〟を展開する。ポーチから小瓶を取り出し、攻撃系の魔法を発動させ、相殺させる。戦っている中、〝土壁〟の耐久度の理由から短木剣を二本抜き取り、魔法の核に向かって、ダーツのごとく投げる事もあった。
「な、何だ、コレ……」
「あの無能が、戦ってんのか……?」
「どう見ても職人じゃんかよ……」
観客席から声が漏れる。それを聞いたベータとエリー、そしてマルスとナウスはわかりやすいくらいのドヤ顔を彼らに見せた。
「死ね! 死ね! 死ね! 死ねぇ!!」
「完全に周りが見えてないな……。ならっ!」
カエデは再びポーチから『閃光手榴弾』を取り出し、それを投げ、ライルの目の前で発光させた。それを『閃光手榴弾』だと認識しているライルは、腕で目を覆うことにより回避した。
「同じ攻撃が通用するかよっ!!」
「いや、それで十分っ!」
カエデは短木剣を腰のホルダーにしまい、地面に手を重ねる。
「魔力全開だっ!」
ライルを囲うように、大きなドームを創る。早く、早く、より早く。光がおさまり、ライルが腕を下げた時にはもう囲まれていた。出口はカエデの立っている場所のみ。
ギリギリと歯軋りをしたライルは魔法を放つことも忘れてカエデに向かって長木剣を振るう。
「カエデェェェ!!!」
カエデはライルから目を離すことなく、三本の小瓶を取り出し、ドーム内へと投げ込む。ドームに魔力を流し込み、出口を塞いだカエデは小瓶の魔法を発動するとともに、言葉を投げかけた。
「散れ」
「うぎゃあああアアアアアア!!!!」
ドーム内に少年の悲痛な叫びと雷鳴が轟く。完全には塞がっていなかったドームからは光が漏れ出す。次第に光がなくなり、カエデが〝土壁〟を解除するとそこにはボロボロのライルがいた。
「………………なん……で…………? 俺、が……お前……なんか、に…………」
バタりと後ろに倒れたライル。カエデは遠目からライルを見るが死んでおらず、気絶しているとだけ確認して未だへたり込んだままのマックに目を向ける。
「……まだやるか?」
マックはフルフルと素早く横に首を振った。降参を認めたのだ。気絶をし戦闘不能となったライルと降参を認めたマックは転送魔法によって姿を消した。
今、フィールドに立っているのは無傷の勝者だけだった。
「勝者──カエデ・ミズハシ!!」
闘技場内が歓喜の声でざわめき出す。
この瞬間、カエデは確実に勝者へとなり、強者へと変わった。
生徒同士の模擬戦以外にも年に一度開かれる『ベルスト魔法大戦』にも使用される由緒正しき場所。
コロッセオと類似しており、カエデは初めて見た時にかなり興奮したようだ。総勢一万人以上の観客が一度に座れるほどのスペースが闘技場内を包むようにできている。
真ん中には円上型のフィールドが用意されており、生徒たちはその中で自分の力を存分に発揮する。
観客席には全生徒・全教員が集まっている。そして、フィールド上には例の三人がこれからカエデをどうしてやろうかとニヤニヤしている。
「なぁ、遅くないか?」
「確かに……。まさか逃げたとか?」
「有り得なくはないな、アイツ最弱だし」
「そうそう。ついたあだ名が【無能】だったっけ」
生徒たちは各々が好き勝手に駄弁っていた。教員たち、特に剣術担当のベータと魔法担当のエリー(カエデを召喚させた張本人)はカエデの強くなりたいというやる気と適性のなさは知っているため、どうか気を付けて、という面持ちだ。
また、集まっているメンバーの中に、全員を驚愕させ、悪ガキトリオにプレッシャーを与える人物が二人いた。
「お、おい……。まさか、学園長までいらっしゃるなんて……」
「それだけじゃない……! 隣にいるのは、伝説の神様だぞ……。ナウス・シェパード様だ……!!」
二人はVIP席と呼ばれる席にいるのだが、それが返って皆を驚かせた。
全員が集まって十分後。ライル・マック・ペリットの向かいの方からカエデがゆっくりと歩いてきた。
カエデは腰に短木剣×3を携え、両手には白い手袋をはめていた。また、両太ももにはポーチのようなものを付けていた。かなり重装備といってもいいだろう。
対する悪ガキトリオは長木剣をそれぞれ持っているだけだった。
装備からしても「カエデが弱い」ということを嘲笑っているように見える。
「遅かったじゃねーか? てっきり、逃げたと思ったぜ?」
「悪い悪い。準備が長引いた」
カエデは平謝りをして、マルスに視線を向けた。マルスにはその意味を教えているため、立ち上がり、スピーカー型魔道具で説明を始めた。
「対戦のルールは事前に伝えた通りだ。武器は木で作られた物とし、魔法は自由に撃ち込んで構わない。無論、魔道具の使用も許可する。相手が気絶、フィールドからの撤退、又は降参した場合のみ試合終了とする。三対一での模擬戦、存分に自分の力を発揮してくれ!」
これらは全てカエデが提案したものだ。下手をすれば【無能】である自分は死んでしまってもおかしくない。しかし、カエデがこの提案をしたのは皆を見返すためでもある。【無能】と呼ばれた自分がこの条件下でどれだけの力を持っているかを皆に見せるために。
「それでは両者の検討を祈る。──始め!!」
マルスの掛け声と同時に、ライルたちは魔力を右手に集束させる。
「「「〝火炎弾〟!!」」」
三つの火球が狙い違わずにカエデに向かう。かなりのスピードが出ている火球がカエデに直撃する一歩手前で、カエデはしゃがみ込み地面に手を触れる。
「オラッ!」
詠唱もせずにカエデの目の前に出来上がった壁によって、三つの火球は弾け飛ぶ。
「ま、待て! 魔法適性〝ゼロ〟のお前が、なんで詠唱もせずに魔法を展開することが出来るんだよ!」
いち早く状況を理解したペリットが指を差し叫ぶ。理由は簡単で単純。カエデのはめている手袋には魔法陣が描かれているのだ。描かれた魔法は〝土壁〟、目の前に土でできた壁を瞬時に作り出すという防御系魔法だ。
「言っただろ? 準備が長引いたって。俺はお前らをぶっ飛ばす気でここに来たんだよ」
「チッ! 〝氷の槍〟!」
「〝風の息吹〟!」
「〝雷の鉄槌〟!」
それぞれが違う魔法を撃ち込む中、カエデはそれらを簡単に対処する。ただ、地面に手を触れるだけなのだから。
凄まじい轟音が鳴り響く。三人は倒した、と確信したのか、額の冷や汗を拭う。土煙が風で消えるとともに、三人の顔は驚愕へと変わった。
「そんなもんだったっけ? お前らの強さ」
流石の魔法によって壁は壊されたが、未だ無傷のカエデに、三人は恐怖を覚える。
昨日まで無能だと思っていたやつが、昨日まで自分たちよりも確実に弱かったやつが、今この瞬間、確実に自分たちよりも強くなっている。それは、きっとカエデの持っている魔道具の性能故の強さでもあるが、それとは違う何かが、カエデにあると悟ったのだ。
「今度は、コッチ!!」
カエデは太ももにあるポーチから小さな瓶を取り出し、それを投擲する。
美しい放物線を描き、三人の目の前で、それは力を見せた。
「弾けろ」
カエデの掛け声に答えるように、瓶は激しく発光した。カエデの持つ日本知識の一つ、『閃光手榴弾』だ。こちらの原理も簡単。小瓶の中に遠隔魔力操作型の魔法陣を描いたのだ。後は投げ、丁度いいタイミングで白手袋の魔法陣と共鳴させる。
遠隔魔力操作型の魔法陣は自分の身につけている何かに、魔法陣を描かなければ発動することが出来ないという欠点がある。魔法陣に魔力を込め、遠隔魔法陣と共鳴させる、それがカエデの手に入れた三日間の努力の賜物だ。
突然発光した瓶を直視した三人は目を抑え、苦しみ出す。カエデ自体、失明しないように調整しているため、心配する点は一つもない。
(今のうちに)
好機を逃さないためにも、カエデは走り出し、一番小柄であるペリットの襟首を掴む。
「なっ!? やめっ!!」
ジタバタと暴れ出すペリットを無視してカエデはグルグルと回転をし始める。遠心力で強制的に大人しくさせたペリットを、勢いそのまま、カエデは場外退場させた。
「よし、まず一人!」
カエデは歓喜の声を上げる。ペリットは悔しそうに地面を叩くが、転送魔法によって退場させられる。
残りは二人。
振り返ると、視力が徐々に安定してきたのか、ぱちぱちと瞬きをする。その表情からは明らかにヤバい、という心情が読み取れた。カエデは内心こんなもんか、と思いながらも再びポーチから小瓶を一本取り出す。二人は瓶を警戒しながら魔法を展開する。
「…………いや、必要ないな」
二人の展開した魔法を見て、カエデは瓶をポーチに戻す。代わりに短木剣を右手に装備する。
「クソがっ! 舐めやがって!」
二人は同時に〝火炎弾〟をカエデへと撃ち込む。その速度は困惑からなのか、先程よりも遅い。
「実験その一、自作の魔道具がどこまで通用するか。実験その二、俺の魔術がこれから通用するか……。試させろや」
カエデは身体中に魔力を回す。これは無属性魔法の一つ『身体能力強化』である。この世界に来て、魔法が使えないと理解したカエデがこれだけは、と一週間鍛え続けた結果の賜物。そして、左眼にはより強く、右腕にもより強く。短木剣をグルグルと手の中で踊らせ、一つの火球が目の前に来た瞬間に、それを──
「──斬る」
火の塊はたったの木でできた短剣によって霧散する。その光景は、見ている者を釘付けにした。
「……マルスよ。カエデの今の技法、どう見る」
「そうですね。シェパード殿がどう感じたかはわかりませんが、私はこう感じました。彼は、魔法の核が見えています、確実に」
次いで襲ってきた火球をいとも容易くカエデは霧散させていく。初級魔法とはいえ、魔法は魔法だ。幾ら彼が身体能力を全開していようが、生身の人間が魔法を霧散させるなど、聞いたことも見たこともない。
それを可能にさせたのが、カエデが独自に完成させた魔法とは異なる魔術だ。『見えない〝もの〟を視認することができる』──〝魔眼〟(カエデ命名)。ちなみにこれは一日で完成させたらしい。
少しだけ魔法・魔術について説明しよう。
メジャー中のメジャー、無属性魔法『身体能力強化』はベルスト魔法学園に入った生徒が最初に習う魔法である。
この魔法は魔力を身体中に循環させるため、沢山の魔法に汎用しやすいのだ。先程からライルたちが放っている〝火炎弾〟も魔力を手に循環させるため、『身体能力強化』を覚えた方が良いらしい。
しかし、物覚えがいい生徒ですらこれは一ヶ月はかかると言われている。それをカエデはたった一週間で習得したのだ。
魔術の習得は魔法よりも難しい。何せ、【固有魔法】とまで言われているのだから。カエデの場合は『身体能力強化』をした後に
「一部を強化する利点は?」
と研究した末に偶然発動することが出来た魔術だ。なので、正確には一日ではなく半日である。
また、無属性魔法を一週間・固有魔法を半日で習得するのははっきり言って異常なことであり、それを成功させたカエデは必然的に【無能】ではなく【異常】となる。
「……何なんだよ! …………何なんだよ、お前はぁぁ!!!」
マックは戦意を喪失したのかその場にへたり込み、ライルは未だかつて感じたことのない恐怖によって自我を失いかけている。
カエデは顔色一つ変えることなく、右手にある短木剣を逆手で持ちながら、静かに言った。
「──ただの【無能】だよ」
「クソがァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
文字通り一心不乱に魔法を撃ち込む。
〝火炎弾〟・〝氷の槍〟・〝風の息吹〟・〝雷の鉄槌〟。
それらをカエデは〝魔眼〟で『見えないものを視認』し、魔法の核を叩き潰す。地面に触れ、〝土壁〟を展開する。ポーチから小瓶を取り出し、攻撃系の魔法を発動させ、相殺させる。戦っている中、〝土壁〟の耐久度の理由から短木剣を二本抜き取り、魔法の核に向かって、ダーツのごとく投げる事もあった。
「な、何だ、コレ……」
「あの無能が、戦ってんのか……?」
「どう見ても職人じゃんかよ……」
観客席から声が漏れる。それを聞いたベータとエリー、そしてマルスとナウスはわかりやすいくらいのドヤ顔を彼らに見せた。
「死ね! 死ね! 死ね! 死ねぇ!!」
「完全に周りが見えてないな……。ならっ!」
カエデは再びポーチから『閃光手榴弾』を取り出し、それを投げ、ライルの目の前で発光させた。それを『閃光手榴弾』だと認識しているライルは、腕で目を覆うことにより回避した。
「同じ攻撃が通用するかよっ!!」
「いや、それで十分っ!」
カエデは短木剣を腰のホルダーにしまい、地面に手を重ねる。
「魔力全開だっ!」
ライルを囲うように、大きなドームを創る。早く、早く、より早く。光がおさまり、ライルが腕を下げた時にはもう囲まれていた。出口はカエデの立っている場所のみ。
ギリギリと歯軋りをしたライルは魔法を放つことも忘れてカエデに向かって長木剣を振るう。
「カエデェェェ!!!」
カエデはライルから目を離すことなく、三本の小瓶を取り出し、ドーム内へと投げ込む。ドームに魔力を流し込み、出口を塞いだカエデは小瓶の魔法を発動するとともに、言葉を投げかけた。
「散れ」
「うぎゃあああアアアアアア!!!!」
ドーム内に少年の悲痛な叫びと雷鳴が轟く。完全には塞がっていなかったドームからは光が漏れ出す。次第に光がなくなり、カエデが〝土壁〟を解除するとそこにはボロボロのライルがいた。
「………………なん……で…………? 俺、が……お前……なんか、に…………」
バタりと後ろに倒れたライル。カエデは遠目からライルを見るが死んでおらず、気絶しているとだけ確認して未だへたり込んだままのマックに目を向ける。
「……まだやるか?」
マックはフルフルと素早く横に首を振った。降参を認めたのだ。気絶をし戦闘不能となったライルと降参を認めたマックは転送魔法によって姿を消した。
今、フィールドに立っているのは無傷の勝者だけだった。
「勝者──カエデ・ミズハシ!!」
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