お揃いの瞳

綱砥 鈴

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一章

3話

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   ガタンと大きく揺れた機体が着陸した事を示す。シートベルトを外したところで、イエロアが真っ黒の鉄のようなもので出来た物を渡してきた。


「これは?」
「この星の空気を酸素に変換してくれるものだ。外の空間に出る時はこのマスクをつけるといい」
「そうでした、ありがとうございます」


   手に渡されたそれは碧流の顔の半分を覆う程の大きさだった。実際手に取ると想像よりも軽くて、鉄ではない事が分かる。しかしプラスチックやステンレス等の金属類でもなさそうで、碧流はマスクをバラして中身を見たくて仕方なかった。流石に自分の生命線となる機械を壊すつもりはないが。


「さ、手を」


   船を降りる際、手を取られながら階段に足をかける。マスクのおかげで呼吸は苦しくなかったが、温度も湿度も高いヴェバトロス星の空気は肌がヒリヒリする気がした。あくまでも気がするだけ、だと思いたい。

   皮膚呼吸が出来ないだけでこんなに肌がピリつくものだろうか。地球人のなんてどうせ呼吸など殆どしていないくせに。

   手を引かれながら辺りを見渡すと、空から見たと同じく高層ビルが立ち並んでいる。全て上が見えないほど高く、地球の何倍も技術が進歩していることを暗示していた。


「ヘキル、ここが私の家だ。...君さえ良ければ、私たちの家になる」
「ここ...?」


   イエロアが指さしたのは二階建て程度の一軒家だった。よく見ると、この高層ビルの間にちょこちょこと、こういった小さい家が建っているみたいだ。

   広い敷地にぽつんと家が建っていて、その傍に船が降り立ったようだ。


「地球では分からないが、私たちの国では低い建物の方が人気なのだ。地を歩くことよりも、乗り物で空中にいることの方が多いからだと思う」


   碧流の歩幅に合わせて器用に沢山の脚で歩きながら彼は続ける。


「君の母国はこういった低い建物が多く見受けられたから、君に同じような感覚でいて欲しくてこの土地を買ったのだが」


   気に入ってくれるだろうか、と不安げに歩行に使っていない脚の数本を体の前で絡めた。この人は器用だなと思いながら碧流はお礼を述べる。


「とても素敵な家ですね。今まで住んでいた家の何倍も綺麗で」


   イエロアが準備してくれていた家は直方体で、全体的に四角で構成されていた。窓も多くて、ビルの反射光で、高い建物に囲まれていても十分に光は入ってきそうだ。地球でいう太陽のようなものがあるのかは分からないが、自然の光に満ちた国だ。

   碧流が今まで住んでいた場所は研究室の隣に立つ日当たりの悪い三階建てのアパートの3階で、地球の雨も相まって洗濯物はカラッと乾かずにいたから、それだけでも碧流にとって魅力的だった。

   玄関までくるとドアがとても大きい事に気がつく。碧流の2倍はある彼らの家だ、大きく見えるのは当然かもしれない。


「さぁ、ヘキル」
「あ、ありがとうございます」


   扉を開けられて家の中へと入る。リビングは大きな吹き抜けとなっていて、とても開放的な家だった。家具は最低限しか置いていないが、これから植物など増やしてみたいと碧流は思った。

   感嘆の声を漏らしながら、家の中を練り歩く。すると、2階へと続く階段の隣にもうひとつ、下へ続く階段が目に入った。


「この階段は?」


   そう振り向くと、家の中に入った為か、バイザーを取った彼の目と視線が絡んだ。
   深い海の中のような、あまりに美しいその色に碧流は呟くように声を出す。


「綺麗」


   そう言うと、イエロアは驚いた表情を湛える。


「怖くは無いのか、この1つ目が」
「ええ、色が綺麗ですから」
「地球人は自分と違う見た目のものや、大きく攻撃的なものを恐れると聞いていたが」


   それを聞いた碧流はくすりと息をこぼした。彼はあまり地球人には詳しくないようだ。


「それは大分昔の話です。貴方を初めて見た人は確かに怖がるかもしれませんが、優しいですから」


    まだ会って数時間だが、攻撃的ではないことは分かる。碧流でなくたって、地球人にいきなり攻撃をするような人ではないと思った。

  
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