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第23章 南方見聞録ツムカリ
第564話:一夜にして聳え立つもの
土下座は無料――なんてセリフを聞いた覚えがある。
床に額ずいてまで頭を下げる行為は、気位の高い者や権威ある人物にしてみれば屈辱ここに極まれりだろうが、実質的に失うものは何もない。
精々が自分の面子や周囲の評価程度だ。
正しく無料、それで難局を越えられるなら安いものだろう。
面従腹背――腹の内では中指立ててもわかりはしない。
かつて、あの織田信長も土下座したとの説がある。
(※江戸初期に徳川家で記された三河物語にある描写のため、真偽の程が定かではなく信憑性はイマイチだが広く知られている)
朝倉義景、浅井長政、比叡山延暦寺の連合軍による耐久に近い長期戦を強いられ、周囲の反織田勢力も活気づき、このままでは第何次かの織田信長包囲網を構築されかねないため、将軍からの命令という態で講和を結ぶことになった。
この時、織田信長は朝倉義景に土下座したとされている。
『――天下は朝倉殿が持ち給え。我は二度と望みなし』
そう宣言した信長は約束を交わす起請文まで差し出したという。
(※起請文=中世から近世にかけて交わされた誓約書。契約を交わす際、神仏に懸けてこの約束を破りませんと誓いを立てる。このため誓約書としての信用度が高いとされた。江戸時代になると民間でも流行るようになり、約束を破ると熊野のカラスが三羽死ぬと信じられた熊野誓紙が有名)
しかし――結果は歴史を読み解けば一目瞭然。
数年後には浅井家も朝倉家は織田信長に滅ぼされ、彼らと同盟を組んでいた比叡山延暦寺も山ごと焼き討ちにされたのは有名な話である。
織田信長の土下座は高く付いたわけだ。
このように後で元以上のものを取るために土下座をする例はある。あるいはその場凌ぎなろうとも、相手から情を引き出すための土下座もある。
ゆえに慎重派のツバサは土下座を無闇に信用しない。
正しくは鵜呑みにしないし真に受けない。
前後の時間軸で起きた出来事や周辺の状況を把握し、土下座する当人にまつわる情報を精査したうえで信ずるに足るかどうかを改めさせてもらう。
別に人間不信なわけではない。
大学時代――事あるごとに土下座する友達がいたのだ。
金にルーズでギャンブルに目がなくて、そのくせ博打の才能はからきしという彼は、友人連中に拝み倒して土下座しては借金を無心するような奴だった。人誑しの才能だけはピカイチで、ツバサもなんだかんだで交流はあった。
当然、学生の身では少なくない金額も貸している。
土下座で「金貸してくれ!」と頼まれたのも指折り数え足らなかった。
ありきたりな話で申し訳ないが、当たり前のようにそいつからは鐚一文すら返してもらっていない。もっとも地球が崩壊した今では詮ない話だが。
そんな友人を反面教師にした成果である。
やたら尖った鼻と顎が目立つ眼光の鋭い男だったな……。
土下座は無料! も呑み会で酔った彼が叫んでいたセリフだ。どこかの漫画から引用らしいが、以来ツバサは土下座を信じられなくなった。
金を無心する輩も同様である。
土下座にまつわる思い出が脳内を駆け巡るが、友人の土下座とサクヤ姫の土下座が重なることはなかった。まったく態度の質が異なるからだ。
彼女からは切実な想いがヒシヒシと伝わってきた。
昨日の今日なので手のひら返しと指差されてもおかしくはない。
だが、その事情についてもある程度の調べは付いている。
長男ガジララの強襲は危機管理能力のレバーを限界まで押し上げたことは想像に難くなく、精霊族が協力的になった理由にも見当がついていた。
他でもない――巨人機だ。
全長500mに達する原初巨神を模した巨大機動兵器。
生体部品や有機部品をふんだんに使用した生物的機体でもあり、戦闘能力の高さも然る事ながら、滅多なことでは壊せない自己修復能力を持ち、神族や魔族の力では殺せないという厄介な特性持ちと判明していた。
そして、起動はできるが制御下に置けない問題もわかっている。
コントロール下に置く方法はひとつ。
心ある者を生け贄とし、巨人機の心臓に据えなければならない。
そうすれば巨人機は贄になった者と一心同体になり、意識と自我を備えるのではないかと推測されているのだが、まだ想像の域を出ていなかった。
生け贄を取り込んだ巨人機がどう稼働するか? 正確にはわからないのだ。
そんな面倒臭い秘密兵器、使い物になるわけがない。
犠牲を顧みずに手を尽くせば使い道はあるかも知れないが、酋長マニトゥの殊勝な態度から鑑みて、彼もそれを望んでいないことが窺えた。蕃神由来の種族を排斥ではなく排除できないところに、彼なりの情が見え隠れしている。
ここぞという時に非情になりきれないタイプ。
あるいは根が優しいからこそ、犠牲に耐えられないのかも知れない。
平時の統治者ならば当然の采配だが、有事の際には冷酷な判断を求められて選択を誤りそうだ。コラテラルダメージを認めない性分と見た。
もっとも、ツバサたちも他人のことを言えた義理ではないが……。
「……お変わりになりましたね、教授」
穏やかな声を発したのは獣王神アハウだった。
恩師の新たな側面を目の当たりにし、いつまでも頭を上げようとしない姿に心打たれたのか、獣人の巨体ではキツいスーツで正座したまま身を乗り出す。
言葉選びに迷うのか、アハウは少しの間を置いた。
「以前のあなたなら頭を下げることさえなされなかったはず……」
たとえ自らに非があったとしても、それを認めて反省して謝意を示すことはあっても頭を下げるまでの態度には至らなかったようだ。
サクヤ姫が態度で示したことに驚きを隠せていない様子。
助手であるカネも目を丸くして驚愕しているところから、彼女もまた誠心誠意で頭を下げる師の姿を初めて目撃したらしい。
「……変わらなければ立ち行けぬ……そう学ばされたのよ」
この年齢でな、と幼女の見掛けでは首を傾げそうになる言葉だが、齢70近い老教授なことを思い出せば重みのある一言だった。
畳に額を付けたままのサクヤ姫は話を続ける。
「いくつになっても学びはある……儂も師からそう教わったのに忘れていた。どこかであぐらをかいていたのやも知れぬな……身はおろか魂を削るほど痛い目に遭わされたからこその学び……いいや、思い知らされたのじゃ」
「やはりゲーミングフラワーのせいで……」
詳細を問い質すのは酷なことだとわかっている。
しかし、アハウも学者として解き明かさずにはいられないのだ。
伝聞情報として、サクヤ姫の故郷ゲーミングフラワー栽培を始めていた。そのため村が侵食されてダムの底に沈められたことしかわかっていない。
花の影響を受けた犠牲者についても記録があった。
「教授の故郷で何が起きたのか? 教えてくださいませんか……?」
「……ふっ、昨日話したばかりじゃというに」
酷なことを強いるのぅ、とサクヤ姫は顔を上げると不敵な苦笑いを浮かべていた。彼女が動いた気配を察して酋長マニトゥたちも顔を上げる。
一様に表情が曇っており、申し訳なさを募らせていた。
話したばかりというのは精霊族の面々に打ち明けたことのようだ。サクヤ姫の身の上話を聞かされたうえで説得されたのかも知れない。
サクヤ姫はため息をつくも、ツバサたちにもう一度語ってくれた。
掻い摘まんだ要約だったが、ゲーミングフラワー騒動の発端やその裏で進んでいた様々な出来事、そして彼女の故郷で起きた事件について知ることができた。
――サクヤ姫が敵に回さないと誓った二人。
噂の逆神教授はともかく、アーミア・ピアースなる人物についての素性も知ることができた。サクヤ姫をして尊敬に値する人物だったのは間違いない。
「一声いってくだされば……」
話を聞き終えたアハウは苦悶の表情を片手で覆い隠した。
当時の状況を聞かされれば、流儀も学部も違うとはいえサクヤ姫の世話になった弟子として馳せ参じたのにと後悔の念に塗れている。
「門外漢のおまえに何ができるよ」
サクヤ姫は敢えて声を掛けなかったと主張する。
アハウに責はないから思い悩むな、と優しく突き放す言い方だ。
「況してやあの頃のおまえはようやっと某大学で非常勤講師の職を見付けた大事な頃だったではないか……気持ちだけ貰っといてやるわい」
「面目ない……就活には苦労しました」
アハウは両手を正座した膝についてガックリ肩を落とした。
「おまえといい逆神といい研究熱心なのはいいが世渡りが下手じゃのう……いや、学者とはそういうもんか。鬼ばかりの世間をスルスル渡れる要領の良さがあれば別の道で活路を開いててもおかしくはないからなぁ」
他人のことは言えんが、とサクヤ姫は自嘲しつつ嘆息する。
自分もまた世渡り下手だとの自覚があるのだろう。
天井を見上げて口を尖らせると、遊ぶようにため息をついた。もう何度目になるかわからないが、辛い過去を振り返るのは精神的にキツいはずだ。
ため息だって止まらなくもなる。
「あの時、この頭を下げていらればな……」
悔恨の念とともに幼女と化した老教授は告白する。
「村興しの目玉商品としてゲーミングフラワーを導入すると提案された時、儂の勘が今までないくらいに警報を鳴らしてきた……外来種問題や生物の検疫に悩まされるのは農家の常じゃが、あの時の勘の訴えは凄まじかった……」
虫の知らせに例えるならば――。
「耳元で何百匹もの蝉が大合唱するのを聞かされたようなもんじゃ」
「鼓膜どころか脳味噌おかしくなるよそれ」
ミロの子供らしい意見にサクヤ姫は軽く頷いた。
「その通りじゃ、ミロ嬢ちゃん……誰もが持て囃すゲーミングフラワーが、儂には悪魔が化身した花にしか見えなんだ。勘に囁かれるまま来歴を調べていれば、ますます危うさが際立ってくる……故郷の土に植えるなど考えられなんだ」
だからこそサクヤ姫は村興し委員会に警告した。
世界規模で大流行の兆があるといえども、生態の把握どころかまだ得体もよく知れない新種を安易に持ち込むべきではないと反対した。
農学者の立場から防疫の大切さを説くことも忘れなかった。
わかりやすく昨今話題の外来種問題を交えて説得したという。
「食料になるから、害獣駆除になるから、益虫だから、可愛いから、意図せず輸出入で運んでしまった……ろくに調査もせず本来その棲息域におらぬ動植物を持ち込んで、手酷いしっぺ返しを食らったのは歴史を振り返れば数知れん」
「パッと思い付くものだけでも指折り数えて足りませんからね」
レオナルドは革手袋の十指を折り曲げていく。
ウシガエル、アメリカザリガニ、ウチダザリガニ、マングース、アカミミガメ、カミツキガメ、アライグマ、ブラックバス、ブルーギル……。
ツバサでも頭の中にこれだけの外来種を並べることができた。
専門家であるサクヤ姫や蘊蓄たれゆえに物知りなレオナルドの脳内では、この倍を数える外来種が犇めいているはずだ。植物系も相当だろう。
ツバサは植物だとナガエツルノゲイトウくらいしか思い当たらない。
「……しかし、誰も耳を貸してくれなんだ」
当時のゲーミングフラワーは世界規模で大流行待ったなしの状態。
日本国内ではまだ栽培されていなかったが、ネット上ではその七色を超えて光り輝く華やかさでバズりまくりだったため、国内でもその人気に便乗しようとする輩が後を絶たず、農林水産省や財務省が各方面からせっつかれていた。
サクヤ姫の故郷も導入を求めたに違いない。
「儂は差し止めようと村興し委員会の連中を集めて何度も説得したが、誰もまともに耳を傾けてはくれなんだ……皆、目玉商品に夢中よ」
しかしサクヤ姫は諦めきれず、懸命に故郷の人々を説き伏せた。
名の知れた農学者としての権威をフル活用して、亀の甲より年の功な年長者としての立場も総動員させ、どうにかこうにか説得することができた。
「……そこまでして漕ぎ着けたのが栽培の延期よ」
故郷でゲーミングフラワーを栽培するための動きを完全に差し止めることはできなかったそうだ。幼女は年季のいった仕種で項垂れる。
「未だに……ッ! 悔やんでも悔やみきれぬわ……ッッッ!」
崩れ落ちそうな頭を支えるように顔を手で覆うが、それは目元を隠すような手付きだった。啜り泣く声が聞こえるのは空耳ではなさそうだ。
「結果的に……最悪のタイミングでゲーミングフラワーは本性を曝け出した。宇宙から来た色という怪物の本性をな……」
宇宙からの色とは――クトゥルフ神話に語られる独立種族。
実態を持たない不可思議なスペクトル光を放つガス状生命体とされており、周囲の生命体から手当たり次第にエネルギーを搾取するという。奇妙な特性を持つ隕石に乗って宇宙空間を彷徨い、生命あふれる惑星を探しているようだ。
ゲーミングフラワーは宇宙からの色が進化したもの。
細胞内に宇宙からの色が宿り、未知のスペクトル光で輝きながら踊り狂い、周辺の生命体が塵になるまで生きる力を奪い取る悪魔の花と化したものだ。
「……奴らは明らかに知性を備えていた」
そこをなかなか見破れなかったのか、サクヤ姫は乳歯にしか見えない歯を食い縛って悔しさも露わに歯噛みしていた。
その点はツバサもアハウからの話で聞き及んでいる。
ゲーミングフラワーは当初――まったくの無害認定されていた。
人間や動植物を脅かす毒性がないのは勿論のこと、ミントや葛のように他を制圧する脅威的な繁殖力もなく、むしろ胡蝶蘭ばりに大切に育てないと花を咲かせない面倒臭さから、生まれついての観葉植物との評価を下されていた。
大事に育てれば光って踊ってバズる珍しい花。
当たり前のように人気を博して、アッという間に世界中へ広まった。
「……世界中に根を下ろした瞬間、本性を露わにしたと」
そのニュースはツバサも覚えている。
各地で栽培されていたゲーミングフラワーが一斉に騒ぎ出し、近隣の生態系はおろか人々からも生命力を奪うようになった大事件である。
連日連夜の報道でも大騒ぎだったはずだ。
「儂の故郷に植えられたのがニュースで取り上げられ前後じゃ……もう少し花の苗を運び込むのを遅れさせられれば……と思わぬ日はなかった」
苦汁を飲み干したサクヤ姫は本音を打ち明ける。
涙に潤んだ瞳は眦は険しい。
「あの日、故郷の人々を説得できなんだわ儂の不徳の致すところ……じゃが、もしも恥も外聞もなく頭を下げてでも皆に懇願しておれば、ゲーミングフラワーを故郷に根付かせることを避けられたかも知れぬ……」
ただでさえサクヤ姫は我が強い女傑として名を馳せていた。
それは自他共に認める事実なので故郷でも知れ渡っており、村興し委員会のメンバーも彼女の性格は痛いほど身に沁みていたことだろう。
同時に――その有能さもだ。
だからこそ委員会の御意見番として協力を求めたに違いない。
そんな彼女でもこの時ばかりは分が悪かった。
学者目線での提言としてゲーミングフラワーの危険性を説くしかないのに、その時点では危惧すべき情報は極めて少ない。それと反比例して世界的な人気を得ていたため、故郷の人々を説得する材料が圧倒的に不足していたはずだ。
後は感情に訴えるくらいしかない。
だが、農学者として積み上げた実績が邪魔したのだろう。
ただ頭を下げて願い出ればいいだけのこと。
土下座するまでもない。無料の土下座をすればより効果的だったかも知れない。あのサクヤ教授がそこまで言うなら……と誰もが得心したかも知れない。
「……じゃが、あの時の儂にはそれができなんだ」
それが故郷を滅ぼした一因じゃ……老いた幼女はひたすら悔いた。
振り返る度に猛省する気持ちが込み上げるのか、サクヤ姫は硬く瞼を閉じると何度も身震いして、深いため息にも似た深呼吸を繰り返している。
「一度舐めた辛酸は忘れぬ……あんな思いは二度と御免じゃ」
なればこそ――何度でも頭を下げよう。
またしても畳に両手を突いたサクヤ姫が土下座の準備に入った。
その前に黒服の軍師をチラッと一瞥する。
「そこなレオナルド君の部下だというナヤカから話は聞いておる……もはや地球は滅んだも同然、我らに帰る場所はない。元より儂らは故郷をゲーミングフラワーに奪われた身……新たな故郷を得ようと邁進していたところ」
地球からの転移者にとって、真なる世界は新天地に他にならない。
「そして、我々の新たな故郷は南方大陸を置いて他にない!」
――新たな故郷を守るための力が欲しい。いいや、助けを請いたい。
それがサクヤ姫の願いだった。
何度目かになる土下座はゆっくり頭を下ろしていく。
「もはや我らだけでは如何ともしがたい……あらがみ族に抵抗するのがギリギリ、間もなく目覚める女王樹にはその根である触手を防ぐのがやっと……」
力を貸してほしい、とサクヤ姫は掛け値なしの本心から訴える。
「私からも……どうか、お願いいたします」
力をお貸しください! 隣に控えていたカネも畳に額ずいた。
「この地にいずれ地球の人々が転移してくる話も聞き及んでおります! いつか私たちの故郷の人々も……彼らの受け皿となる国を造りたいんです!」
お願いします! とカネは自身の思い描く未来も添えてきた。
それは五神同盟の掲げる未来と重なる。ツバサたちとしても好感触だ。
かつてない師の姿を目にして心を打たれたのだろう。弟子を代表して師であるサクヤ姫を支えるように懸命に頼んでくる。
こうなると友人だったアハウもサクヤ姫との恩とは違うが、カネとの友情に心を揺り動かされるはずだ。
もしもの時には自分だけでも、と思い悩んでいるのが表情に出ていた。
「改めて……我らからも伏してお願い申し上げます」
先日はご無礼をば……と酋長マニトゥも非礼を詫びながら畳に手を付いて二度目の土下座で頭を下げてきた。声色からも反省が聞き取れる。
「もはや覇権も支配権もありませぬ……この地で生き残るためには他に負けぬ力を行使するしかない。しかし、残念ながら我らにその力はありませぬ……」
マニトゥは軽く合図を送った。
すると戦士長カムイと魔術長ジニーも頭を下げ、各々の意見を述べる。
弟妹にも発言させるところにマニトゥの人柄が窺えた。
彼らを身内として都合のいい駒と見ているのではなく、血の繋がった兄妹としてそれぞれの主張にちゃんと耳を傾けているのだ。
「弱肉強食は世の常なれど、座して敗北を認めるわけにも参りませぬ。共に抗える輩がいるならば、万難を排して手を取り合いたい所存……」
カムイはいかにも武人らしい気構えである。
次いでジニーが口を開くが、彼女は個人的な感情が込み入っていた。
「あの、わたし、実は……みんなにちゃんと謝りたい……んです」
ひれ伏すジニーは子供みたいな半泣きで本音を述べる。
「わたし、実は……ダイちゃん、スハちゃん、それにコルちゃんと仲良しだったんです……でも兄様に味方して、みんなに酷いことしちゃったから……」
ジニーは蕃神由来の種族と仲良く交流していたらしい。
どちらも長寿の種族とはいえ、何十万年も同じ大地で暮らしてきて一時は共同体を作れる仲でもあったのだから不思議な話でもない。
むしろ彼女のような若い世代が当たり前になりつつあったのだろう。
それはそれとして――頭を悩ませる点がひとつ。
「ダイちゃん? スハちゃん? コルちゃん……イズ誰?」
ツバサの代わりにアホの子が首を傾げていた。恐らく蕃神由来の五つの種族の誰かなのだろうが、ジニーが愛称で呼んでいる人物に心当たりがない。
するとアハウが小声でアドバイスしてくれた。
「それぞれの族長の名前、彼らのニックネームじゃないかな」
なるほど、とツバサもすぐに気付けた。
蕃神由来の種族の大きく括っているが、彼らは大別すると五つの種族に分類されている。それぞれの種族には一族をまとめる長がいた。
エルダー族首長――ダイム・ウィリアー
グール族頭領――ナグチャード・アプトス・ピック
サーペンター族族長――スハース・ヴァルシアン
アラクニア族族長――ハァーツネ・チィートカア
スネイルワン統領――コルリコ=ミモ
ダイちゃんはエルダー族の首長、スハちゃんはサーペンター族の長、コルちゃんはスネイルワン族の代表を指していた。
ジニーは蕃神由来の種族の代表たちと友情を育んでいたようだ。
これは和解の手掛かりになるのではないか?
酋長マニトゥを筆頭とした精霊族からの迫害は、蕃神由来の種族たちを共同体から追い出すとともにトラウマを植え付けている。先代酋長エレメタスを始めとした一部の精霊族が彼らに味方しているのがせめてもの救いだろう。
しかし、マニトゥ側にもジニーのような者がいた。
蕃神由来の種族との交流を不本意に絶たれた者がいたのだ。
現酋長マニトゥの元で迫害が主流となったため、大勢に押し流されるまま反論できなかった気の弱い精霊族もいたのだろう。ジニーはその代表格だ。
彼女は役職的にも目立つ存在である。
もしも酋長に近い魔術長が各種族の長に謝ることができれば、少なからず蕃神由来の種族の溜飲を下げることができるかも知れない。
共同戦線の際に懸念していた、過去の遺恨を和らげられそうだ。
なんにせよ――風向きがいい。
サクヤ姫の決意が、今日の相談会までの運びとなった。
学者として積んできた権威や経験、年齢を重ねたがゆえに剥がせない面子、それらをかなぐり捨てなければならないと思い知らされた過去。
それがサクヤ姫に覚悟を決めさせたに違いない。
だからこそ一夜にして酋長マニトゥと精霊族の主要幹部を説き伏せ、天豊樹陣営の意思疎通をまとめ、五神同盟との合流まで話を取り付けたのだ。
「……頭をお上げください、サクヤ教授」
カネさんや精霊族の皆さんも、とツバサは柔らかく声を掛けた。
サクヤ姫から順々に、こちらの反応を恐る恐る確認する様子で顔を持ち上げる。その途中からツバサは自分の本心も打ち明けていく。
「私たちにとっても真なる世界は第二の故郷となるべき地……いいや、地球の生命がこの世界からの因子によって生まれたのだから、本当の故郷というべき地なのかも知れません。譲るつもりはないし、明け渡すつもりもない」
別次元から押し寄せる略奪者どもにくれてやるつもりは毛頭ない。
「そのために今日まで死に物狂いで戦ってきました……そして」
これからもです――ツバサは決心も新たに告げる。
誓いを立てるべく乳房越しに拳を心臓の上へと押し当てた。
「外なる神シュブ=ニグラスと思しき女王樹が目覚めれば、南方大陸はおろか真なる世界も蕃神たちによって侵食されることでしょう。ならば覚醒する前にどうにかして別次元へお帰りいただくより他ありません」
焦燥的な危機感を募らせる最大の要点はここにある。
ツバサの告白を聞いたサクヤ姫も深刻さに共感を寄せてきた。
「うむ、しかし女王樹を崇めるあらがみたちが邪魔するのは必定じゃな」
「ええ……我々が力を合わせなければ太刀打ちできないでしょう」
先日の戦いで彼らの実力はハッキリした。
舐めてかかれる相手ではないし、上位層はLV999に相当する。
特に幹部級の七兄弟はLV999でも上澄みだ。
懐かしのヒーローめいた風体に侮れば、手痛い目に遭わされる。
長男ガジララはLV999の更に上を行く内在異性具現化者ともタメを張るレベルだし、総帥ショッカルンに至ってはLV999の壁を越えていた。
即ち――ツバサやアルガトラムと同格の超越者。
全力を賭して挑むべき強敵である。
五神同盟が全戦力を投じれば、あらがみを蹴散らして女王樹に攻め込める可能性はなくもないが、それが女王樹を刺激して覚醒を早める恐れもあり、あるいは騒動を蕃神に嗅ぎつけられて横槍を突かれるかも知れない。
何が起きてもあり得ること――それが真なる世界の常識。
「女王樹に挑むまでの間、あらゆる不測の事態に備える必要性もあります」
慎重派のツバサは警告するように訴えた。
なにせ南西諸島には未来神ドラクルンも控えているのだ。
面倒臭さでは蕃神を遙かに凌駕する厄介な男。
中央大陸が手空きになった隙を狙うなんて標準的な狡猾さは発揮せず、南方大陸のどんちゃん騒ぎを聞きつけて、飛び入り参加をやりかねない。
そして戦況をひたすら掻き乱し、それでも満足せずに混沌を巻き起こす。
最悪のお祭野郎だ。あの変態オヤジはこれくらい平然とする。
その斜め上を三段跳びで飛び越えてくるはずだ。
このため五神同盟は戦力を南方大陸に集めるとしても、中央大陸や各国を守るための防衛力、それにドラクルンを始めとした予想外の出来事に即応できる予備戦力も残しておかなければならない。
確率としては――蕃神の乱入が最も高いだろう。
外なる神とは別次元からの侵略者である蕃神たちの親玉。
女王樹ことシュブ=ニグラスが目覚めて本格的に真なる世界へ侵攻してくるともなれば、この機に乗じてアクションを起こす連中がいてもおかしくはない。
なので多方面への備えを決して怠れなかった。
「五神同盟としてもなるべく戦力を投入したいところですが……」
「わかっておる。皆までいうなツバサ君」
サクヤ姫は弁解しようとするツバサの言葉を手で制した。
「守りたいものに割くべき力は必要じゃ……我らとて力を貸してもらう以上、自分たちも率先して動かなければと身を引き締めておる」
ただ守られるばかりではない。共闘するべく共同戦線を張るのだ。
自分たちも身体を張らなければ協力は得られない。そして、より多くの戦力が欲しいからこそ、アルガトラム王との関係も見直したくなったのだろう。
現状「吝かでもない」くらいの手応えである。
「……快心王はともかく、あちらの国民からは嫌がられるかも知れんがの。いいや、鬼ババアよろしく怖がられて逃げられるかもな」
サクヤ姫はあからさまな自嘲で肩を揺する。
とにもかくにも――相談会はポジティブな空気で進行していた。
天豊樹陣営からの協力を取り付けられるのはほぼ確定。サクヤ姫や酋長マニトゥの態度から、五神同盟への加入さえ期待できる雰囲気だ。
メガトリアームズ王国を交えた協力体制についても対策案がある。
五神同盟の部隊を二手に分けて、それぞれに天豊樹とメガトリアームズ王国の兵を増援という形で加えればいい。いざとなればこの二部隊を東西に展開して女王樹へと進軍させるのだ。これで不協和音への心配を減らせるだろう。
良い感じで話がまとまり掛けた頃合いを見計らって――。
「ひとつ、よろしいでしょうか?」
軍服の蘊蓄たれが慇懃無礼な一石を投じた。
イシュタル女王国 軍師 レオナルド・ワイズマン。
戦女神ミサキを一人前の武道家にした師匠にして、愛弟子ミサキに真なる世界を背負って立つ王にするべく日々奮闘する男。
五神同盟でも数少ない策略家にして知恵袋的存在でもある。
名前からして賢者。ちょっと気取っているところもなくはない。
しかし、ツバサもそうだが五神同盟は脳筋率が高い。そんな脳筋メンバーと比べれば頭の回転は早いし弁も立つのは事実。
交渉の場では何かと頼りになる男だ。
屋内なので鎧めいた軍服仕立てのロングコートこそ脱いでいるが、その下も装甲を見紛うほどの将校服。針鼠みたいな頭髪が目立つ悪役な男前な顔には銀縁眼鏡をはめて、軍師らしいインテリジェンスを強調させていた。
大人しく正座してても威圧感のある長身。
ヴィラン顔負けの悪人顔なので第一印象に難がある。
そんな風貌の男が意味深長な笑みを浮かべて人差し指を立てていた。
「……その言い方は引っ掛かるのぅ」
サクヤ姫は警戒心に幼女の顔を歪ませて、レオナルドの発言に応じた。
これまでより砕けた調子で悪態をつくようにだ。
「人差し指を立てて『最後にひとつだけよろしいですか?』なんて問い掛けられたら身構えてしまうではないか。軍師殿は杉下右京警部のファンか何かか? タイミングからポーズまでインスパイアしまくりではないか」
「そんなタイトルのアニメもありましたしね……」
助手のカネも頬に手を添えて困惑していた。
どちらにせよ――このタイミングでは悪い予感しかしない。
サクヤ姫からすれば心証は極めてよろしくないはずだ。
五神同盟、メガトリアームズ王国、天豊樹。
変則的ながらあらがみと女王樹に対抗するための包囲網を築こうと、三つの組織が手を取ることを大前提に話は進んでいた。
レオナルドの質問はそこに水を差す雰囲気を漂わせていた。
しかもこれ――確信犯でやっている。
レオナルドもこの一言が嫌われることを見越しており、敢えて正論を叩き付けるヘイト役を買って出ている節があった。
ツバサたちが友好度を稼いでいるから手加減なしだ。
いえいえ私など……とレオナルドは両手を挙げながら肩をすくめた。
「伝説の杉下警部と比べられるなど畏れ多い。多少なりとも意識したところはありますが、目星を付けた容疑者の罪状を暴き立てるような質問をするつもりはございません……あくまで疑問から生じた質問をさせていただくだけです」
「疑問からの質問じゃと?」
持って回った言い回しだが、サクヤ姫は眉をひそめた。
棘を打ち出しそうな敵意ある瞳で睨まれても軍師が臆することがない。
「――南方大陸における三国緊張状態」
受けて立つとばかりに軍師は疑問から切り出した。
「問答無用のあらがみは除外するとして、メガトリアームズ王国と天豊樹は手を結ぶことは容易だったはずです。女王樹とあらがみの危険性をうんざりするほど思い知らされているのですからね……しかし、これが叶わなかった」
三国志において曹操の魏を滅ぼす最善策。
それは劉備の蜀と孫堅の呉が一時的ながらも同盟を結び、北上するように魏に攻め掛かることだ。これだけでも勝算はグンと上がる。
しかし、これもまた叶わぬ夢だった。
同じような理由から、メガトリアームズ王国と天豊樹も同盟を組めていない。
何故か? と軍師が念を押すと幼女は忌々しげに舌打ちした。
「……儂らの個人的な理由からと言いたいんじゃろ?」
「理由ではなく感情です。個人的感情」
厳しい観点から訂正したレオナルドは説明を重ねていく。
まずは三国志に準えた。
「蜀の劉備が最愛の義弟である関羽を殺された私怨から、最終目標である魏の曹操を討つための布石として、同盟を結ぶべき最有力候補である呉の孫権と手を取り合うことができなかった……まさしく古代中国の三国志と同じ道をここ南方大陸でも再現するかの如く辿りつつあったところです」
「耳が痛いな……あんまりいじめると儂ゃ泣くぞ?」
赤ん坊よろしくな、とサクヤ姫は皮肉たっぷりに口を挟んだ。
見た目幼女なんだから手加減しろ、と遠回しに言っているらしい。レオナルドも心優しい小心者なので今日の舌鋒はまだ柔らかい方である。
サクヤ姫への気遣いも垣間見えた。
『言い過ぎると自室で独り反省会するほど後悔するタイプですからね』
ウチのレオさん、と愛弟子が情報網でぶっちゃけた。
『神経質で他人に人一倍気を遣うくせに軍師として悪ぶるから……』
『誰より悪役顔なのに精神構造が英雄側だから苦労するね……』
この時ばかりはツバサとアハウがフォローした。大人として。
言いたい放題いわれても重要な場面だからか、情報網ですらツッコまず口角を引きつらせたレオナルドは、サクヤ姫を相手に弁舌を振るう。
「正直なところを打ち明けさせて頂きますと、伝え聞く限りではメガトリアームズ王国は天豊樹陣営との協力に前向きであるにもかかわらず、天豊樹陣営の価値観に問題があるため同盟成立に至らず……と伺っておりました」
メガトリアームズ王国の快心王アルガトラム王。
彼の基本スタンスは「来る者拒まず去る者追わず」だ。
蕃神由来の種族であろうとも国民として迎え入れる度量があるのはいいのだが、そのアバウトすぎる懐の大きさは彼が忌み嫌う父親そっくりである。
未来神――開闢王ドラクルン・T・ギガトリアームズ。
これを指摘するとアルガトラムは鬱になるほどヘコむのだが……。
そんなアルガトラム王だから女王樹の脅威を察するや否や、サクヤ姫や精霊族に会談を申し入れ「力を合わせよう!」と持ち掛けてきた。
これを天豊樹陣営は拒否したわけである。
「理由は先ほどから話題に上る蕃神由来の種族に他なりません」
ピクリ、とマニトゥの肩が震える。
自分が糾弾される番だと勘付いたようだ。
「精霊族は原初巨神と起源龍が遺した印章発見と同時に手のひら返しをして、長い年月をかけて協力体制を築いてきた蕃神由来の種族を迫害しました」
ついには一族単位で関係を断って共同体からも追放。
かつて一度は成立しかけた――南方大陸大連盟。
傍若無人に振る舞うあらがみと女王樹に対抗するべく、精霊族が南方大陸に暮らす全種族をまとめて築こうとした大規模な多種族連盟である。
しかし、酋長マニトゥがこれをご破算にした。
「軍略家視点で感想をいわせていただければ――あまりに勿体ない」
「……ぐうの音も出ませぬな」
最初は物申したそうにレオナルドを睨んだマニトゥだったが、本人もどこかで「やっぱり勿体ないですよね」と失敗を恥じ入る気持ちもあったようだ。
目を伏せると力なく頭を振った。反省の色も濃い。
レオナルドは反省点を詳らかにしていく。
「印章により精霊族が南方大陸の支配権を持つと証明されるとしても、それを声高に宣言するのは今ではありません。あらがみや女王樹といった諸問題を解決し、各種族との友好関係を深めつつ、時期を見て穏当に公開すべきでした」
ウンウン、と軍師の背後でエレメタスが頷いている。
先ほどマニトゥとの会話では「印章なかったことにした方がいい」とまで言い張るのだから、彼女は印章に必要性を感じていないようだ。
こんなもの見つけましたー、程度で済ませるべき遺物。
「あらがみとの戦争を乗り越えて平穏を取り戻した後に改めて提示すれば、戦いを経て結束の固まった同盟内にて、一目置かれるくらいの効果に留めておくべき代物でしょう……それだけで精霊族の安泰は約束される」
横暴に振るわなければ、同盟の主導権を任せられるのも夢ではない。
「独裁など詮無きこと……」
いずれ追い落とされます、とエレメタスは考えを述べる。
「子々孫々の未来を案ずるならば、様々な種族と交流を育むことで強固な協力関係を維持し、過酷なこの地の環境で生きていけるライフラインの構築を積み重ねていくこと……それが南方大陸で生きていく術です」
「種族単位で力を合わせても手に負えない事態がままありますからな」
意外にもマニトゥは姉の意見に擦り合わせてきた。
かつては酋長とその腹心。息のあった姉弟だった片鱗が窺える。
そしてエレメタスは精霊族がこの地で覇権を握るつもりなど最初から頭にないようだった。当然、印章に頼るつもりも毛頭ないのだろう。
そして、それは実弟であるマニトゥも似たり寄ったりのようだ。
「見たところ――精霊族に支配欲は見当たらない」
その核心を突くようにレオナルドは告げた。
マニトゥもエレメタスもハッとした表情で両眼を剥いている。
「支配欲や征服欲あるいは権威や自尊心を誇示したい者は、どうしてもその欲を隠せません。必ずやどこかでボロを出す。この地のすべてを我が物にしたいという我欲が露わになるものです……しかし、あなた方にはそれがない」
マニトゥからは精霊族の地位を守り抜く義務感。
エレメタスからは多種族との協調性を大切にしたい責任感。
「又聞きになりますが、あなたたちの取った行動や結果からそういったものしか読み取れません。間違っても自らが覇を唱えるタイプではない」
一族の地位と安全を最優先とする為政者――マニトゥ。
仲間と築いた信頼関係を重視する統率者――エレメタス。
「タイプこそ違えど、国民や国益を守るために心血を注ぐ立派なリーダーです」
「……褒めても何も出ませんぞ、軍師殿?」
てっきり蕃神由来の種族の迫害した件で詰められるかと思えば、まさか持ち上げてきたのでマニトゥもやや当惑しているようだ。
それでも飄々とした態度を崩すことなくマニトゥは受け答えた。
ほんの少し胸襟を開くように酋長は語り出す。
「支配や征服に興味がない、といわれればなるほど。南方大陸のすべてを精霊族のものとする野望などついぞ考えたこともございませんな」
「そもそもの話――南方大陸はデカすぎる」
エレメタスも愚弟へ賛同するかのように言った。
ツバサのように胸の下で腕を組みながら語る。
「精霊族は確かに抜きん出た種族ではあるが、この地には神族や魔族もおらぬわけではないし、我らに負けず劣らずの亜神族や準魔族も多い……彼らを力で服従させて麾下に置く手間を考えたら、力を合わせて共に並び立つことを前提とし、個々の種族による支配領地を取り決めて管理した方が効率的というものだ」
「民が暮らせる土地の開拓も一苦労ですからな」
うんうん、とマニトゥもエレメタスの意見に賛意を示した。
……この姉弟、本当は一番の理解者同士では?
「その通りです。南方大陸は自然環境があまりにも厳しすぎる」
そして広い、とレオナルドは付け加えた。
「地球でも広大な土地を支配しようとした強大な王はいましたが、いずれも長続きしていない。大きすぎる土地は管理の手が行き届かないからです」
大国はいずれ必ずや破綻する。
その末路を思い描けるマニトゥやエレメタスは、精霊族のみで南方大陸を統治するのではなく、多種族連合による分割統治を想定していた。
「やはり……御二方とも領土的野心は持ち合わせていないようですね」
先代酋長と現役酋長から言質を取ったレオナルドは微笑んだ。
では――どうして蕃神由来の種族を迫害したのか?
「印章を理由に精霊族の特権を振り翳してまで……です」
この問い掛けにマニトゥはギクリと肩を揺らすも、レオナルドは手控える様子もなく、銀縁眼鏡の位置をゆっくり直して圧を掛けていく。
「迫害、差別、虐待、いじめ、村八分……表現する単語は千差万別ですが、誰かが誰かを虐げる行為。その根底にある衝動は何かわかりますか?」
マニトゥさん、と罪を問い質すように軍師は詰め寄る。
身に覚えのある酋長は即答できず、固唾を飲んで喉仏を上下させた。
しばらく間を置いたレオナルドは正解を口にする。
「――優位性の確保ですよ」
心を持つ者は無意識のうちに安全を求める。
安心できるものを意識することなく欲っしてしまう。それは家であり、食べるものや身を守るもの、或いはそれらを与えてくれるものだ。
「そうして安全を得られたとしても、心は満ち足りないのです」
どれだけ今いる場所が安心できると自身に言い聞かせても、更なる安全を求めて已まない。その安全を保証する以上のものが欲しくて堪らなくなる。
立場、地位、立ち位置、役職、階級、職業……。
決して自分は脅かされないという証明。それを求めてしまうのだ。
「やがてそれは優位性の確保へと繋がります」
何らかの存在を自分より下にいると見做し、「あれよりはマシ」と見下すことで自らの精神を安定させる。心の安寧を保つために誰かを蔑む。
これは一個人でも有効だが、民族単位でも効果を発揮する。
前者がいじめの典型――後者が差別や迫害の典型。
「マニトゥさん、あなたが蕃神由来の種族にした行為がこれです」
厳然たる事実をレオナルドは容赦なく突き付けた。
「…………ッッ!」
マニトゥは顔色から血の気が引くものの、歯を食い縛って堪えていた。反論する余地はないと自責の念に駆られているのか沈黙を貫いている。
――蕃神由来の種族を迫害したのは覚悟の上。
唇を硬く引き絞った無言の姿勢が、マニトゥの真意を訴えていた。
その意を汲み取ったレオナルドはフォローに入る。
「……偉そうに宣いましたが、こうした行為は人類史の歴史においても珍しいことではありませんでした。恐らく真なる世界の過去を紐解けば、同じ真似を為出かした神族や魔族はごまんといるでしょう。そう、残念ながらこれは……」
脆弱な心を持つならば――万人が通り過ぎる通過点。
レオナルドは残念そうに眉尻を下げた。
「幾千の過ちを繰り返して幾万の犠牲者を積み上げた後、ようやく自分たちの愚かしさに鞭打たれて、自らの心の弱さを戒めんとするのです」
マニトゥさん、とレオナルドは名指しする。
「――あなたはこの行為を意図的にやりましたね?」
この場にいる精霊族に緊張が走る。
蕃神由来の種族の肩を持ったために追放されたエレメタスも、マニトゥが迫害に手を染めた理由については察している様子だ。
サクヤ姫も昨日のうちにマニトゥから聞き出したに違いない。
バレとるぞ、と案ずる視線でマニトゥを横目にした。
代表してリアクションしたのは他ならぬマニトゥだった。
「精霊族の地位向上……いいえ、地位を墜とさないがために、蕃神由来の種族を下と位置付けることで一族を守ろうとした……そう仰るのですかな?」
挑戦的に答える酋長に軍師は「ええ」と首肯した。
「印章に残された情報は、それほどセンセーショナルだったのでしょう」
推測では、印章とは精霊族の権利を保障するものだ。
それは南方大陸の祖ともいうべき原初巨神と起源龍、創造神の二大巨頭から賜ったのだから付いた箔も一廉。精霊族の秘宝ともいうべきものだ。
「だからといって――調子づかせるものではない」
印章を発見した後、マニトゥが進んだ選択肢は不自然な点が多い。
そこをレオナルドの観察眼が解き明かしていく。
「印章には精霊族に南方大陸の支配権……いや、何らかの権利を授ける旨は記されていたのでしょう。しかし、それを喧伝するばかりで詳細は一部の者にしか開示しようとしない。尚且つ、印章を根拠にして精霊族の地位を高めることに邁進するも、蕃神由来の種族が太古にこの地へ迷い込んできた難民であることを蒸し返し、彼らを差別することで種族階級を作ろうとした」
自分たちのヒエラルキーを上げ、墜としやすい集団を蹴落とす。
そのやり方が性急だから不自然に見えるのだ。
「先ほど差別や迫害は優位性を確保するために行われると申しましたが……これはある種の防衛本能でもあるのです」
即ち――自分が墜とされる前に誰かを墜としておく。
墜とす側に落ち度があれば話も早い。この場合、難民という落ち度だ。
「印章の記録には、精霊族の来歴に傷が付くようなことも記されていたのではありませんか? それも自分たちが差別対象となりかねないほどの……」
精霊族を守りたい一心で、蕃神由来の種族の迫害した。
短絡的ともいえる手段ながらも、蕃神由来の種族が元々別次元からの難民であり、潜在的な忌避感を懐いていた者も少なくなかったのだろう。
だからマニトゥの策は成功してしまった。
結果、南方大陸全種族による大連合も瓦解してしまったのは、ツバサから言わせてもらえば勿体ないどころではない。他人事だが業腹にすら思う。
「満漢全席が揃った瞬間にちゃぶ台返しされたみたいな?」
「……それだ!」
ツバサに芽生えかけた怒りを、ミロが具体的に例えてくれた。
マニトゥの選んだ道は愚行といっても過言ではない。それだけに以前の彼が優秀で名を馳せていたからこそ、不自然と違和感が付きまとうのだ。
そして、レオナルドの推測が図星なのは手に取るようにわかった。
カムイやジニーは困惑の色を隠せず、おどおどと長兄である酋長マニトゥの顔色を窺うのだが、彼は顔面を汗まみれにして目を泳がせていた。
汗にしても冷や汗なのか脂汗なのかわからない。
長ったらしくも回りくどいレオナルドの語りは、探偵小説において探偵が犯人を追い詰める問答のようにマニトゥの心を追い立てているのだろう。
マニトゥの様子を冷めた眼差しで見守る二人。
サクヤ姫は「言わんこっちゃない」と言いたげな瞳をジト眼にしており、エレメタスは「だから言ったろ愚弟」と叱責にも似た半眼を投げ掛けていた。
レオナルドの推理は当たっているようだ。
マニトゥ以外に印章の秘密を知ったと思しき女性二人が「ほれ見ろ」とマニトゥを睨んでいるのが状況証拠も同然であった。
ガクッ、とマニトゥは力を失ったように肩を落とす。
上半身を支える意志も尽きかけたのか、利き手を畳に押し当てて荒い呼吸を繰り返している。パタパタと落ちる汗の雫が畳に吸い込まれていった。
「……そ、そのことも含めまして……」
マニトゥは息も絶え絶えな様子で懇願してくる。
「今日この場にて……内密に相談できればと考えておりました……私が早計すぎるあまり犯した過ちと……我ら精霊族の始祖が塗れた恥部について……」
どうやらマニトゥは覚悟を決めていたらしい。
自らの立場が危うくなろうとも、真実を公表するつもりだったのだ。
相談会を経て五神同盟との同盟締結まで話が進めば、印章にまつわる様々な問題についてもツバサたちに打ち明けるつもりでいたのだろう。
巨人機の件も含めて、隠し続ければ信用関係にヒビが入りかねない。
最悪――精霊族そのものが排斥される恐れがあった。
真実を明かさないことに五神同盟としても不信感を表明せざるを得ないし、現在天豊樹に集まっている他の種族からもいずれ反感を買いかねない。
隠し事はそれほど信頼を損なうものだ。
『メガトリアームズ王国が五神同盟と協力関係を結んだ時点で、天豊樹はほとんど詰んでいたんだよ。なにせ南方大陸で孤立してしまうからね』
情報網でレオナルドが呟いた。
あらがみと女王樹から全面戦争を仕掛けられる以上、天豊樹も我関せずでは済まされない。南方大陸に暮らす者は例外なく巻き込まれると見るべきだ。
大戦の最中、孤立無援になるほど恐ろしいことはない。
応援などの助けは期待できず、兵糧さえ枯渇するかも知れない。
すべての勢力を敵に回すと思えば背筋が凍るものだ。
『メガトリアームズ王国との同盟が二年掛けて進んでない以上、天豊樹陣営が頼るのは五神同盟しかない。そういう意味では今日の相談会、十中八九「仲間に入れてくれ」という話になると踏んではいたんだ』
『さすがレオさん、人の足下を見ることを忘れませんね』
それ褒めてるんだよね!? とレオナルドは愛弟子ミサキからの心ない褒め言葉に半泣きだった。めそめそしてないで話を進めろとせっつく。
ゴホン、と咳払いで気を取り直すレオナルド。
マニトゥへの尋問めいた推理はほぼ終わり、探偵小説でいえば自白まで取り付けたも同然のため、彼の犯した罪への言及は一端保留するようだ。
軍師の舌鋒はもう一人の代表へ差し向けられる。
「マニトゥさんが蕃神由来の種族を迫害したのは、紛れもなく個人的感情から……精霊族という仲間を守りたいという感情に突き動かされたものです」
サクヤ姫さん、とレオナルドは話し相手を変えた。
「あなたの振る舞いもまた個人的感情と言わざるを得ません」
「儂が……ああ、蕃神由来の種族を目の敵にしたことか」
こちらも自覚があるのか、サクヤ姫は幼い童顔を曇らせるとバツが悪そうに口元で波線を描いて、表情を渋いものに塗り替えていた。
「確かに否定はできんな。先刻も打ち明けさせてもらった通り、儂はもうクトゥルフ神話とそれに関係する種族に好感が持てん。延いてはゲーミングフラワー、その元となった宇宙から来た色のせいなんじゃが……」
「――そこにも私は不自然さを覚えてなりません」
釈明するように言葉を綴っていたサクヤ姫だが、わずかな会話の境目を狙い澄まして、レオナルドは遮るように言葉を捻じ込ませた。
サクヤ姫は押し黙り、貫禄を湛えた眼光で無礼な若者を見据える。
構うことなくレオナルドは自慢の話術で押し込んでいく。
「あなたが聡明な女性ということは百も承知です。同僚の逆神教授が“地上最強の民俗学者”と恐れられたように、あなたもまた農学界において“田園のジャンヌ・ダルク”というその功績を讃えるべく異名を轟かせていた……」
だからこそ――不自然な違和感を覚えてならない。
レオナルドはサクヤ姫の行動に齟齬があることに着目した。
「あなたはゲーミングフラワーを研究する過程でアーミア氏に行き着き、異形の花に宿る宇宙からの色の正体に辿り着いた……そして」
実在するクトゥルフ神話の脅威についても――。
彼女の性格上、クトゥルフ神話も徹底的に研究したに決まっている。
学部が違うとはいえ弟子同然に付き合っていたアハウの証言だから間違いない。逆神教授もサクヤ教授も、知識に対して非常に貪欲だったそうだ。
それがたとえフィクションだとしても関係ない。
ゲーミングフラワーを根絶して宇宙からの色に打ち勝つために、クトゥルフ神話の知識も微に入り細を穿つまで調べ上げたはずだ。
「……ああ、クトゥルフ神話愛好家と呼んでくれても構わんぞ」
それくらい読み込んだからな、とサクヤ姫は皮肉たっぷりに返してきた。
思惑通りの返事なのか、レオナルドはほくそ笑む。
「では、よくご存知のはずではありませんか? クトゥルフ神話に登場する種族や神の中には、人間と意思疎通できる理性的な方々がいることを……」
一瞬、サクヤ姫は硬直した。
円らな瞳がこぼれ落ちそうなほど見開き、瞳孔が収縮していく。
思い当たる節がある顔だった。
執拗ともいえるサクヤ姫の知識欲について、アハウのような関係者の証言や彼女に関する記録から類推し、「知らないとは言わせない」と突き付けたのだ。
サクヤ姫も反論できない。なにせ自分で認めたのだから――。
ここが狙い目とレオナルドの弁舌が冴え渡る。
「エルダー族の祖先である古のものは人間と同じく同族の死を悼む心があり、死者のために墓を設けて花を供える感情があります。サーペンター族こと蛇人族も人間社会を狙う邪悪な存在として描かれますが、自分たちの種族を繁栄させようとする仲間想いな面があることは否定できません」
「そ、それは……確かに……そういった側面を切り取れば……」
――人間と何が違う?
その一言をサクヤ姫は搾り出せずにいた。
南方大陸に転移して以降、ゲーミングフラワーと宇宙からの色を憎むあまり、クトゥルフ神話に関連するものすべてにサクヤ姫は憎悪を滾らせてきた。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い――と人は言います」
それでも分別は付くものです、とレオナルドは節度を求めた。
追い打ちを掛けるように蕃神由来の種族への弁護を重ねる。
「喰屍鬼ことグール族とて生物の屍を食うだけで、わかり合えれば人間と意気投合できる精神性を持った種族です。アトラク=ナチャを祖とする蜘蛛の一族ことアラクニア族も然り……スネイルワン族など古のものに並ぶ、人間から見れば神にも等しき原初なるものという種族で非常に理性的で……」
「……もういい、やめよ」
勘弁してくれ……とサクヤ姫は消え入りそうな声で請うた。
本当に泣きそうになっているのか、項垂れた頭を支えるように目元を手で覆うとグスグスと涙混じりの鼻息が聞こえる。さすがにやり過ぎではないか?
『……ごめん、やり過ぎた』
張本人の軍師が誰より後悔し、情報網で懺悔していた。
しばらく話が途切れた後、サクヤ姫がポツリポツリと打ち明ける。
「わかっておる……蕃神由来の種族が、彼らが下手な人間より理知的で話のわかる連中じゃと……長らく難民だぁ流民だぁと差別されておったせいか、我々に溶け込もうと必死に努力しておることも……じゃがなぁ」
さっきも言ったじゃろ、と涙に濡れた顔でサクヤ姫は繰り返す。
「わかっていても無理なんじゃ! 儂の心はもう……クトゥルフに関わるすべてを憎むようになってしまった! 宇宙から来た色憎しでな!」
それこそ個人的感情じゃ! とレオナルドの言葉を借りて訴える。
そこです、待ってましたとばかりに軍師は指弾した。
「サクヤ姫さんもマニトゥさんも、行動原理があまりに感情なのです。どちらも深い見識と理性的な判断力で、今日までお弟子さんたちや精霊族の皆さんを率いてきた指導者であるにも関わらずです」
なのに、どうして――。
「そんな個人的感情に振り回されて大局を見失うのですか?」
サクヤ姫もマニトゥも絶句していた。
これがレオナルドの主張する不自然と違和感。そこを改めて他者から指摘されると、自分たちでも「何かがおかしい」と不穏に感じたのだろう。
軍師は懐から一枚の石版を取り出した。
トレーディングカードにも見えるそれを顔の前へと掲げる。
「何者かの介入を疑ってもおかしくはありません」
「……ッ!? そ、その怪しい“気”を放っとる板はなんじゃ?」
王妃サンディが気付いたように、サクヤ姫も石版に封印された悪党の気配を敏感に感じ取っていた。その正体を明かす前にレオナルドは申し出る。
「ひとつ――試させていただけませんか?」
~~~~~~~~~~~~
「破壊神の手先……最悪の文筆家じゃと?」
バグベア・ジャバウォックの詳細を聞いたサクヤ姫は、すぐには受け入れられず耳を疑うように彼の肩書きを憎々しげに復唱した。
レオナルドは指先に挟んだ石版を弄ぶように揺らす。
「ええ、表舞台に立つことはせず、裏方から好き勝手に事象というシナリオを書き替えて悦に入る最悪のシナリオライターです」
「その男が……我々の意識を書き替えて意のままに操っていると?」
「そんなの洗脳じゃないですか!?」
マニトゥが自分が置かれているかも知れない最悪な状況を訝しんでいると、助手のカネもバグベアの過大能力に悲鳴じみた声を上げていた。
「惜しいですねカネさん」
少々異なります、とレオナルドは穏やかに修正していく。
バグベアの過大能力――【小説は現実より奇想・天外であるべし】。
他者の運命という空間にシナリオを書き綴る能力とのこと。
対象が自分よりも下位の存在ならば過去現在未来を自由に改竄することも可能。例えるなら人間をゾウリムシに変えることもできるらしい。
「しかし彼はLV999でも下の下。実力的にも大したことはない」
破壊神ロンドのお情けでLV999に昇格した程度。
「実力でLV999までのし上がった我々……サクヤ姫さんやマニトゥさんを含みますが、こうした強者の運命というシナリオを書き替えることはできません。信念や矜持に自尊心……強者が育んできた心の有り様までは操れないのです」
レオナルドの説明にカネは目をパチクリさせる。
「つまり……LV999はそう易々と洗脳できない?」
YES、とレオナルドは肯定した。
そのうえでバグベアのいやらしい性格を解説していく。
「だが、最悪な方向へ傾くように誘導することはできるんですよ」
誰しもが持っている運命という名のシナリオ。
その人物にとっての来し方行く末が記された脚本には余白があるようで、そこにバグベアはありったけの最悪を書き足していくのだ。
「たとえばある酋長には先代酋長である姉に背いてでも、一族の秘密を守るために行動を起こさせ、そのためにスケープゴートとして最も立場の弱い種族たちを差別することで一族全体を守ろうとする義務感に駆らせたりとか……」
名前こそ出していないがマニトゥを指していた。
「たとえばある学者には過去のトラウマを読み解き、そのトラウマに関連するものに出会すと感情が暴走するように仕向け、相手がどれだけ交渉を持ち掛けてきても嫌悪感を募らせるように心の傷をほじくり返させたりとか……」
こちらはサクヤ姫のことだ。
「うぅむ……それほどの真似をされて儂らに勘付かせなかったと?」
自分に施された嫌がらせを把握したサクヤ姫は呻いた。
しっかり頷いたレオナルドは説明を重ねる。
「心の余白に書き込まれた雑音めいた感情は不安を煽るのみです。少しずつ少しずつ書き足されれば、LV999の上位者でも気付けるかどうか……」
またバグベアは忍び寄る才能にも恵まれていた。
「裏方に徹していたためか、隠密行動の能力はピカイチの奴でしてね。失礼ながらサクヤ姫さんの結界くらいならば軽々潜り抜けるかと……」
「ほんに御主は歯に衣着せぬセリフが似合うのぉ」
はっきり物申すレオナルドにサクヤ姫は毒舌をぶつけた。
もしもメガトリアームズ王国を守護する王妃サンディのように、強力な結界を張ることに長けていれば、バグベアの被害に遭わなかったかも知れない。現にメガトリアームズ王国の幹部は誰もシナリオを書き替えられていなかった。
無論、アルガトラム王自身もだ。
「あなたたちの運命にバグベアが関与し、過去のトラウマや一族の真実に動揺する心の弱い部分を常に想起するよう書き込まれていたら……」
「……感情的に行動するのも已むなしじゃな」
小さくあぐらをかいた幼女は頬杖をついて気怠げだった。
正直、バグベアに運命を書き足された自覚はないが、自身でも説明できない感情的行動に走っていた覚えはあるため、頭から否定もできないようだ。
「洗脳というより強迫観念の強制じゃな」
さすが大学教授、レオナルドの勿体ぶった説明を一言で要約した。
ため息をついたサクヤ姫の瞳に小さな光が瞬く。
分析系技能を走らせて、レオナルドの持つバグベアを封じた石版をチェックしているのだ。これから軍師が石版を使って自分たちにすることに不審な点がないかを念入りに調べている。ツバサだって同じことをするはずだ。
ふむ、と感心するようにサクヤ姫は鼻を鳴らした。
「要するにいつの間にか知らず知らずのうちに、その最悪のシナリオライターとやらに植え付けられた弱体化を取ってくれるちゅうことじゃな?」
「はい、長々と講釈を垂れて申し訳ありません」
しかし必要なことだったとレオナルドは主張するだろう。
いきなりバグベアの説明をして弱体化を解除させてくださいと願い出たところで、サクヤ姫もマニトゥもすんなり受け入れなかったに違いない。
自分が何者かによって精神的に改造されている。
バグベアによって害を及ぼされた自覚がなく、そんな簡単に洗脳されるわけがないというLV999としても自負も手伝い、真に受けなかったはずだ。
だからレオナルドは外堀から埋めていった。
サクヤ姫やマニトゥがバグベアの能力により自覚できていないが、他者から指摘されると「おかしい」と不安にさせる不自然さ。従来の自分ならばこんな真似はしないと断言できる行動と選択への違和感。
それを篤と言い聞かせてから、バグベアについて詳らかにする。
不安感を煽りながら病名を告げる医者みたいだし、知らぬ存ぜぬを貫き通す犯人を問い詰めていく探偵のような遣り口だった。
だが――効果は覿面のようだ。
「そうか……じゃあ、とっとと解除してくれ」
「姫様ッ!?」
チョイチョイ、と小さな指先で手招きしてバグベアの弱体化解除を要求するサクヤ姫に対して、マニトゥは正気を疑うような声で呼び止めた。
案ずるなマニトゥ、とサクヤ姫は説得する。
「この軍師殿は本当に弱体化解除しかするつもりはない。分析で確認済みじゃし、その石版を使って儂らを洗脳する恐れもない……そいつには妙な安全装置が働いておるな? 悪用しようとすれば外部から鍵が掛かるような……」
慧眼ですな、とレオナルドは否定も肯定もしなかった。
その安全装置はツバサたちが付けたものだ。
レオナルドからの要望である。もしもこの石版を倫理に悖る使い方をした場合、五神同盟代表たちの権限でロックが掛けられる。
そこを看破したからこそ、サクヤ姫はこちらの提案に乗ってくれたのだ。
「やるならさっさとやらんか、まごつくとこっちも気が変わるぞ」
「では失礼して早速」
早くしろ、と催促されたレオナルドは躊躇せず石版をタップした。
そして――負を司る文字があふれる。
サクヤ姫と酋長マニトゥ、それに戦士長カムイと魔術長ジニーの身体から、ドス黒い文字が奔流となってあふれ出した。流れ出す文字は何条にも分かれ多頭蛇のように、あるいは無限に分裂する支流となって流れ出す。
量としてはサクヤ姫>マニトゥ>>>>>>カムイ&ジニー。
重要人物の心と魂をこれでもかと最悪に導いてやろうと試みた、文筆家バグベアの性根の悪さをまざまざと見せつけられた気分だ。
「具現化した文字に触れないでください!」
心を持って行かれる! とレオナルドは叫んで注意喚起した。
相談会に使っていた大広間を駆け巡る、負を煮詰めた文字の羅列。物理的なエネルギーも備えているのか、天井や畳にぶつかると瞬く間に腐蝕させた。
どんな陽キャでも死ぬほど鬱にさせる負の感情。
それを文字として心の余白に書き込み、際限なく恐れと不安に苛まさせる。
サクヤ姫もマニトゥも、よくぞ今日まで正気を保てたものだ。
「……外へ出しちゃえ!」
ミロの短い叫びに応じたのはアハウ、ミサキ、ノラシンハの三人。
アハウとノラシンハが長い腕を伸ばして後ろの障子を開け放つと、ミサキが風を操る魔法を発動させて空気中に風の道筋を作る。
その風に乗せて負の文字の羅列を宙の彼方まで吹き飛ばした。
途中で散り散りとなったので、誰かの心に宿らねば雲散霧消するようだ。
目で追っていた負の文字の羅列が消えたのを確認して一安心した後、サクヤ姫たちの安否が気になったので振り返る。
サクヤ姫は――泰然自若に目を閉じていた。
「……なるほど、心が晴れ渡る心地とはこういうものか」
ゆっくり瞼を開いた瞳はかつてないほど澄んでおり、学者として長年培ってきた叡智の輝きを放っている。彼女自身、心の変化を把握しているようだ。
「一ヶ月徹夜が続いた後、三日三晩寝明かした心持ちじゃな」
ふぁあ~、と小さなお口を開けてあくびをしていた。
大きく背伸びをして本当に熟睡した後みたいだ。あれだけの負の感情を吐き出してスッキリしたのはわかるが、動揺や狼狽した様子は見られない。
「あ、あの教授……あまりお変わりがないようですが……」
恐る恐る尋ねたのはアハウだった。
んー? と背伸びを終えたサクヤ姫は首と肩を回している。
「変わったぞ、心に溜まっていた膿を綺麗さっぱり吹き出してもらった気分じゃ。儂としたことがこんなものを巣食わさせられていたとは……」
不覚ここに極まれりじゃ、とサクヤ姫は憎々しく舌打ちした。
小さな手で顔を撫でるとさっぱりした笑みを浮かべる。
「とりあえず――土下座行脚じゃな」
蕃神由来の種族へ謝り倒しに行くぞ! と高らかに宣言した。
これまでの彼女なら絶対に口にしなかった発言が飛び出したことから、バグベアの弱体化が消え去ったのは火を見るよりも明らかだった。
――やってしまったものは仕方ない。
まずは己の過ちを見詰め直して逃げずに向き合うと決め、許されずとも罪を犯した相手に平身低頭で謝り抜く覚悟を決めたのだ。
――吹っ切れたわけでも開き直ったわけでもない。
悔い改めているからこそ、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの精神で蕃神由来の種族を責め立てたことを猛省しており、やり直そうとしていた。
失敗の陰鬱に囚われている場合でないのは百も承知。
だからこそ彼女は空元気を飛ばすように晴れ晴れとしているのだ。
「くよくよしている暇はないからの、タイムリミットは一ヶ月じゃ」
それまでにメガトリアームズ王国との関係改善を図る。
「まずは謝罪、次に関係の建て直しじゃな」
決意も新たに立ち上がろうとするサクヤ姫の傍らでは、ズシンと屋敷を揺らすほどの振動が巻き起こる。マニトゥが力任せに畳へ手を付いた音だ。
「私はぁ……ッ! なんと愚かしい真似を……ッッッ!」
ミシミシと畳に穴が空くほど指先に力を入れて掻き毟っている。
真っ赤に充血するまで見開いた眼球は取りこぼしそうで、顔中に怒張した血管を浮かび上がらせると、奥歯を砕きかねない勢いで歯軋りしていた。
彼もまた文筆家バグベアの呪縛から解き放たれたらしい。
その反動が怒りの自己嫌悪となって現れていた。
「印章の使い道も、巨人機の起動も……もっと上手な立ち回り方があったはずなのに! どうして! あんな! 浅慮な真似をしてしまったのかッ!?」
我慢できず自らの頭を握り潰すように手で顔を覆う。
「せっかく築き上げた大連盟を……自らの手でブチ壊すなんてッ! 蕃神由来の種族ほど有能な者たちと手を取り合えたのに……それを! それおぉッ!」
屋敷が打ち壊す勢いで拳を叩き付けている。
マニトゥにとっても南方大陸大連盟は生涯を賭した成果だ。
それを先祖伝来の印章を発見したからとはいえ、みすみす台無しにするなんて妙だとは思っていたが……バグベアの改稿がかなり効いていたらしい。
目が覚めた今、自分の行いを許せない怒りは凄まじい。
精霊族を守りたい一心を利用され、最悪の手順を踏むべく誘導された。
――まさに強迫観念の強制だ。
「そうか……賢弟はやはり愚弟ではなかったのか……」
ほんのり安堵した呟きをエレメタスは漏らした。
彼女自身、弟の変貌振りに納得の行かない点があったようだ。
自分を許せないマニトゥは自傷行為に走りかねなかった。そんな長兄を咄嗟に取り押さえたのは、次男のカムイと次女のジニーの弟妹だった。
ジニーは取り縋っていると言っていい。
「落ち着いてください兄者! 仕方……仕方なかったのです!」
「そ、そうですよ兄様! すべて洗脳のせいだったんですから……ッ!」
「しかし、しかし……ッ!」
「ガタガタ騒ぐでない! もう済んだことじゃ!」
泣き言を言い募ろうとするマニトゥをサクヤ姫は一喝した。
「泣き喚いたところで罪がなくなるわけでもなし、心の隙を突かれたとはいえ、彼らを心身ともに痛めつけるまで迫害したのは儂らのやったことじゃ……事情をちゃんと説明した上で、ひたすら謝り倒すしかあるまいよ」
贖罪も重ねに重ねて、求められた賠償請求にも応じるつもりだろう。
まだやり直せる! とサクヤ姫はマニトゥを叱咤する。
「さあ立て精霊族酋長! 急いで取り戻さんと何もかも失ってしまうぞ!」
老いた幼女から差し出された小さな手。
マニトゥは気合いを入れるべく自分の頬を拳で思いっきり殴りつけると、唇の端から血を流したままキリッと表情を引き締めた。
そして、天豊樹の代表たちが改めて手を取り合った瞬間。
「「「大変大変大変でぇぇぇーーーーーーーすッ!」」」
サクヤ姫の弟子トリオが大広間に雪崩れ込んできた。
負の文字列を追い出した際に開け放たれた縁側の障子ではなく、ご丁寧にまだ空いてない障子を突き破り、団子状態のまま大広間へと転がり込んできた。
真面目な孫悟空タカヒコ、ナンパ沙悟浄ミクマ、精悍な猪八戒ハニヤ。
ツバサは彼らのキャラクターをそのように掴んでいた。
ミクマとハニヤの下敷きになったタカヒコ。
「何事じゃ? 弟子トリオは周辺の警戒に当たっとったんじゃろ?」
サクヤ姫からの問い掛けに自分より図体のデカい二人を跳ね飛ばして起き上がったタカヒコは、師匠の前に跪いて慌てふためいた様子で報告を始める。
「た、大変です教授! 一大事です! 国境……いや海峡にッ!?」
皆まで聞かずとも何処で何が起きたかは見当が付いた。
南方大陸を三つに分けるY字型の海峡――そこで変事があったらしい。
ツバサは即座に聖賢師ノラシンハへ目配せした。
「爺さん、行けるか?」
「そこなら射程距離やさかい全然いけるで」
任しとき! とノラシンハが痩せた胸の上でパンと柏手を叩いてから両手を左右に開けば、そこに球形の映像スクリーンが浮かび上がる。
スクリーンに映される海峡。その向こうは南方大陸の奥地
女王樹が根を張り、その麓を根城とするあらがみたちの支配領域だ。
「……なんだ、あれは?」
目を丸くしたツバサは異物の正体にすぐさま勘付いた。
海峡に沿う形で立ち並ぶ――分厚い壁。
あれは障壁であり防壁、あるいは夷狄の侵入を防ぐ万里の長城だ。
あんなもの昨日まではなかった。五神同盟でも警戒を兼ねた監視の目は伸ばしているから、これほどの異変があれば報告があるはずだ。
だとしたら、あの壁は昨夜から短時間で建てられたものに他ならない。
まるで伝説の一夜城である。
――大陸奥地が聳え立つ壁で遮断されつつあった。
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