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第6章 東の果てのイシュタル
第146話:似たようなものはいっぱいある
しおりを挟む「別次元の侵略者──というのは長すぎるな」
ミサキたちの拠点内にある長い廊下。
応接間での会合を終えた一同は、ツバサがジン&ダインの生産系コンビに頼んで造らせた建築物を見に行くために外へ向かっていた。
その途中、レオナルドがそんなことを言い出したのだ。
「長すぎるって……呼び方が?」
先を歩くツバサが振り返ると、レオナルドが軽く頷いた。
鎧のような軍服にロングコートを肩に羽織って廊下を行く姿は、まるでナチスの青年将校だ。あれが本来の獅子翁が好む服装らしい。
「ああ、口にするには少々長く感じる。もっと簡略化した名前をこちらで用意しても構わないだろう。君たちも既に倒してきた侵略者たちをアブホスやアトラクアといった、クトゥルー風に名付けているわけだし」
別次元の怪物という呼び方を、もっと短縮した呼称に改めたいという。
「あ、それ賛成ッス。ウチも長いと思ってたんスよね」
真っ先に同意したのはフミカだった。
ツバサたちよりも案内役として先を行くダインの傍ら、踊り子衣装のフミカは彼の機械化した腕に抱きついていた。
ダインは人前と言うこともあり、まだ照れた感がある。
バンカラとでも言えばいいのか、一昔以上前の不良学生めいた格好をしたダインがフミカと腕を組むことに照れているのを見ると、硬派を装っただけのヘタレに見えてしょうがない。実際、女性関係はまだ苦手のようだ。
ダインと腕を組んだまま、フミカはこちらに話し掛けてくる。
「この際だから適当にいい感じなのを名付けるべきッスよ。クトゥルーの邪神とか旧支配者とか外なる神々とか、なんかそれっぽい感じで」
「フミはホント、そういうの好きッスね。博物学的というか……」
姉であるアキはフミカの分類好きに呆れていた。
さすがに姉妹だけあって、お互いの好みは心得ているようだ。
そのアキはアキで、フミカが愛しの彼氏と腕を組んでいるのが羨ましいのか、隙を見てはレオナルドと腕を組もうと躍起だ。
クロコも一緒になって、レオナルドとの腕組みを狙っている。
アキは左腕を、クロコは右腕を、それぞれ左右からレオナルドを挟撃するように抱きつこうとするのだが、彼は何食わぬ顔で躱していた。
「では──蕃神というのはどうかな?」
レオナルドの提案した命名に、ツバサは「ん?」を眉を捻った
「蕃神って……仏教の神様のことじゃなかったか? 子供の頃、師匠からそんな風に聞いたことがあるぞ。古い呼び方だとも言っていたが……」
それともうひとつ、彼が口にした単語だという覚えがある。
ミロに主神の王権という神秘的な力を授けた──老騎士の神。
アブホスという汚泥にまみれた糸こんにゃくみたいな怪物を倒す際、あの老騎士は「蕃神」と忌々しげに罵っていた記憶があった。
「その通りだ。日本語としては“日本の外から来た神”という意味で、外来神全般のことを指す。古代日本においては仏教の神々は外国から渡来してきたため、こう呼ばれていた時期があったそうだ」
レオナルドの説明に博識なフミカが補足する。
「クトゥルーの神々も異世界や異次元、もしくは地球の外側からやって来るという意味で、日本語訳される時に“蕃神”という言葉が使われたそうッス」
次元の外から、宇宙の外から、世界の外から……。
この世ならざる外側より這い寄るように訪う異形の神々。
ゆえに蕃神――翻訳時にこの二文字を選んだ人は天才だと思う。
これにはツバサも得心させられる。
「なるほど、あれは元々アメリカのホラー小説だしな」
宇宙的恐怖、という概念を著者が提唱していたらしい。
ツバサたちが歩きながら話していると、フミカやアキやクロコの行動を子供たちが真似しだした。ミロとマリナはツバサに抱きついてきている。
マリナは身長差があるので上手く腕を組めないから、ツバサの手を握りながら太股にしがみついていた。
ミロは普通に腕を組めるのに、わざと身を屈めてマリナの真似をする。そして誰にも気付かれぬように、抱きついたツバサの太股から股間に手を這わせたり、豊満ながらも感度がいい尻の肉を愛撫してきた。
妙な声が漏れぬように、ツバサは必死で平静を装う。
どんな羞恥プレイだこれ……ッ!?
「でも……そいつらは“神”なんですかね?」
ツバサに少し遅れて歩くミサキが疑問を呈してくる。
「ツバサさんやフミカさんの記録映像を見る限り、確かにオレたちよりも強い力を持った存在なのはわかります。だから神に近い存在だというのも……」
だが──どうにも腑に落ちない。
ミサキはそう言いたげに言葉を続けた。
「別の次元から来て、神の如き力を奮いながらも、やることと言えばこちらの世界から活力を奪っていくだけ……そこに利用価値のある資源があるから、採掘しているだけのようにも見えます。そんなのは神様というよりは……」
「まるで人間みたい──よね」
ミサキの意見に恋人であるハルカも賛同する。
彼女もミサキの横に寄り添うと、腕を組むのは少し恥ずかしいのかそっと彼の手を握った。反対側にはカミュラがミサキの腰に抱きついていた。
ウチの家族と似ているな、とツバサは微笑ましく見守る。
「そういう見方もできるな……うん、ミサキ君の考えを参考にさせてもらうと、奴らもまた別次元における人間的な存在なのかも知れない」
「えー、あんなグチャグチャヌトヌトなのが別の世界の人間なのー?」
「どんなに頑張っても人間には見えないです……」
ミロとマリナが異議を唱えるが、この男には受け入れられた。
「いや、その意見は一考に値する」
レオナルドは問題児ムスメたちの抱擁をかいくぐりながら、腕を組みつつ顎に手を当てると、したり顔で持論らしきものを語り始めた。
「そもそもがだ、異世界や別次元の住人が我々のようなヒューマノイドタイプ……即ち人間とよく似た姿をしているとは限らないだろう?」
真なる世界は特別──と言ってもいい。
なにせ、この真なる世界に暮らしていた神族や魔族といった種族こそが、地球における神々であり、その姿に似せて創り出されたのが人類なのだ。
同じヒューマノイドタイプになるのは当然である。
「昔から異世界へ転移する物語はごまんとある。そういう世界でも大概は人類やそれに準じた種族が暮らす世界という設定は多いが……もっと遠い次元を超えた先にある世界には、我々人類の想像を絶する種がいてもおかしくはない」
レオナルドは得意の蘊蓄を始めた。
「有名なものだと“ケイ素生命体”という考え方がある」
SF(サイエンス・フィクション)作品によく登場する生物の総称だ。
ケイ素とは、簡単にいえばシリコンのことである。
「一口にケイ素といっても様々な状態があるが、現代人ならばゴム状になったシリコンゴムなどを思い浮かべるのが早いかも知れない。それ以外にも陶器、ガラス、肥料、接着剤、塗料……様々な用途に用いられている」
石英(水晶)もケイ素の一種だ。
ケイ素生命体とは、身体がケイ素で構成されている生物のこと。
「人類を始めとした地球の生命体はすべて“炭素生物”。炭素は原子価(他の原子と結合できる数)が4つもある。このおかげで様々なパターンの原子結合が可能だからこそ、生物の多様性は育まれたとも言えるだろう」
ケイ素は炭素と原子の同族であり、原子価も同じく4つ。
「ゆえにケイ素からも生命体が誕生しておかしくない」
……と古のSF作家たちは考えたそうだ。
これにミロは珍妙な納得を示した。
「あー、言われてみれば蕃神ってゴムみたいな感じだもんね」
「おまえの解釈はちょっと的外れじゃないか?」
なんにせよ、レオナルドの言いたいことは概ね理解できた。
こちらの常識はあちらの非常識であり、その逆もあって然るべきだろう。
「奴らの次元にしてみればあれが普通……というわけだな」
あの別次元の侵略者──蕃神たちにしてみれば、ツバサたちのようなヒューマノイドタイプの種族こそ“異形の存在”に見えているのかも知れない。
だとすれば、真なる世界の住人に対する配慮がなくて当然だ。
蕃神は我々を同等の別種族と見做すことができないのだから……。
ツバサたちは倒すことばかり考えていたが、ミサキやレオナルドの視点は新しい着眼点をもたらしてくれた。確かに、これは一考に値するものだ。
「だからと言って、大人しく殺られる気はないけどな」
「同感です。この世界を好き放題に荒らされるのも真っ平御免です」
徹底的にぶちのめす──地母神と戦女神の意見は一致した。
こういう「やられたらやり返すどころではなく、二度と逆らわないよう完膚無きまでに叩きのめす」という好戦的なところも、ツバサとミサキは似ている。
長い廊下を話ながら歩いている一行。
ところで──あのお祭り男が静かだと思わないだろうか?
「ふーんだ……何よ何よ、みんなしてさ、お手々つないでさ、イチャイチャしくさってさ……ダインくんまで愛しの彼女とラブラブだしさ……」
俺ちゃんだけボッチ、とジンはふて腐れていた。
アメコミヒーローなマスク、ちゃんと拗ねた表情に変わっている。ツバサが貰ったマスクもそうだが、あれはどういう機能なのだろう?
見るに見かねたミサキが相棒に声をかける。
「おまえにだってアリアルがいるんだ。拗ねることないだろ」
「でも、ここにはいませーん。いたらいたで俺ちゃんが愛情表現すると、やれロリコンだー! やれ青少年育成条例だー! って批判の嵐でーす」
さっきの冗談めいた磔を、まだ根に持っているらしい。
本人もノリノリで大騒ぎしていたはずだが……?
「おまえ、さっきの磔からの流れ──美味しいと思ってただろ?」
「はい、芸人として大変美味しゅうございました」
ミサキの問い掛けに、ジンはクネクネと小躍りしながら肯定した。
やっぱり──でも言いたいことは別らしい。
「それとこれとは話が別なのよー! みんな手をつないだり腕を組んだりしてるから羨ましいのよー! 俺ちゃんだけ仲間はずれが寂しいのよー!」
思ったより幼稚な理由で拗ねていた。
「こうなったら……俺ちゃん、グレてやろうかしら」
「そこからグレられたら大したものね」
元クラス委員として矯正してあげるわ、とハルカが釘を刺す。
ツバサも少しはジンに味方してやることにした。
「まあまあ、そう拗ねるな天才工作者。それで、頼んだ建築物は外に造ったんだろ? 早く見せてくれないか……というか、随分早かったな?」
すぐできるとは思ったが、ここまで速いとは予想外である。
ジ○バンニが一晩でやってくれましたとか、はえーよ○セとか、どこからともなくツッコまれそうな速さよりも速い。段違いの瞬速にして神速である。
ツバサが褒めると、ジンは両手を合わせて腰を左右に振りながら喜んだ。
時折オネエチックになるのは何故だろうか?
「そりゃあもう! ツバサのお姉さまからの依頼とあらば、サ○ラダ・ファミリアだって半日で造ってみせて御覧に入れちゃったり何だりしてー!」
「……別のクラフト系ゲームでホントにやったよな、おまえ」
ミサキが呆れ顔で明かす新事実。
ダインも天才肌だが、ジンも負けず劣らずらしい。
~~~~~~~~~~~~
ミサキたちの宮殿みたいな拠点。
まるで庭園のように管理された庭の一角に、ツバサが依頼した建築物は建てられていた。ミサキにも了解を取ったが──。
『どうせ、ジンが気分次第で何でもかんでも建ててますから』
気にしなくて大丈夫です、と許可を頂いた。
それは──小さな一軒家くらいの建屋だ。
平屋というには軒が高く、二階建てというには背が低い。
四角四面な立方体ではなく、寸詰まりの八角柱みたいに八つの面を持つ建物で、入り口は一つだけ。屋根は瓦を葺いており、そこそこ凝っている。
一見すると、大きめのお堂に見えるかも知れない。
ただし、和洋中華のどこにも属さない外観のフォルム。
強いて言えばインドからアラビア方面のデザインが近いだろうか?
「ふむ……まだ試験段階だからな」
どうせ見た目などは改築厨の2人が随時直していくはずだ。
お堂めいた建物の周囲を巡るようにツバサは歩く。
外観の出来を確かめながら、後ろについてくるジンとダインに尋ねた。
「建物の素材は何を使っているんだ?」
「破壊される懸念も考慮しまして支柱にはアダマント鋼、外壁にはオリハルコン、屋根瓦にはミスリルをふんだんに用いてみましたぁん♪」
ジンの説明を聞きながら扉の前まで戻ってくる。
ドアノブを掴んで回してから、ツバサは次の質問をしていく。
「セキュリティ対策はどうなっている?」
「ひとまず、LV300以下の者にゃあ開けられんよう細工してあるぜよ。これで現地種族が迷い込む心配はないじゃろ。それとフミィに頼んで、悪意ある者にゃあ開けんように魔法を組み込んでもろうた」
ジンの説明に、ダインが人差し指を立てて割り込んでくる。
「ついでに言えば、神族と魔族以外には開けられませんよーん♪ あと、現時点では登録式にしようかと思ってまーす。指紋とか顔とか虹彩とかの認証じゃなくて、それぞれのアストラル体の固有波動による認証形式にする予定でーす」
万が一にも悪用されないように、万全のセキュリティも敷かれていた。
ツバサが心配した部分もしっかり造り込まれている。
「パーフェクトだ、工作者ども」
「「――感謝の極み!!」」
ジンとダインは“ズパッ!”と切れ味良さそうな仕種で腕を振って胸に当てると、紳士的に頭を下げた。どこかで見たリアクションだ。
外を確かめた上で、ツバサたちはドアを開けて中へ入る。
1つだけのドアを開けて中に入ると、中はがらんとしていた。
ツバサたち6人とミサキたち6人が入ってもまだ余裕がある建屋内は、内装こそしっかりしているものの、調度品の類いは何もなかった。
代わりに──8面ある壁にそれぞれ扉が付いていた。
「うん? あれは……龍宝石かな?」
レオナルドは天井を見上げて、いち早くそれに気付いた。
天井の中央にはバスケットボール大の龍宝石が埋め込まれており、その周囲にソフトボールぐらいの龍宝石が一面に向けて3個づつ並んでいて、合計24個も取り巻いている。太陽を思わせる配置だ。
「そうだ──あれには俺が転移魔法を詰め込んである」
ツバサは中央の龍宝石を指差した。
あらゆる力を蓄電して増幅する半永久器官──龍宝石。
転移魔法を詰め込まれた大型龍宝石は転移魔法をいつでも発動できるように、常にエネルギーを蓄えており、周囲の小型龍宝石がそれを補助する。
そして、この建物は龍宝石の効果を発揮するように建てられているため、ドアを開けば転移魔法が発動するようになっている……はずだ。
ツバサは「そうなるように」ジンとダインに頼んだのだから──。
「あ……アタシ、この建物がどんなものか、わかっちゃったー♪」
どこでも○アでしょ!? とミロが得意げに答える
「惜しい──ちょっと違うけど、コンセプトはそれだな」
この建物に、どこでもド○ほどの万能性はない。
あれは文字通り、世界中の“どこでも”行けるドアだ。使いようによっては凶悪な効果を発揮する兵器といっても過言ではない。
具体的には記さないが、要人暗殺や重要施設襲撃などお手の物だろう。
……そう考えると怖いな、ドラ○もん。
「これは龍宝石に仕込まれた転移魔法によって、特定の場所に用意されたドアへと空間を越えて瞬時に移動できる空間転移装置なんだよ」
早い話、この建物内部にある入口以外の7つの扉は、真なる世界の何処かにある扉と通じており、扉を潜り抜ければ一瞬で移動できるのだ。
6つはまだ未開通だが──1つは既に通じている。
「あれですあれ! ワタシ、ハ○ルの動く城で見ました!」
マリナがジブリ映画から似たようなものを引っ張り出してきた。
「ああ、あれか……魔法使いハウ○の操る、動く城の中にある“決められた4つの場所に繋がっている玄関”か。そうだな、あれが一番近いかも知れない」
やっぱり、あれもどこ○もドアみたいなものだ。
そう考えると、似たようなものは昔からいっぱいあるらしい。
「百聞は一見に如かず──実際に使ってみよう」
動作確認は済んでるよな? とツバサは工作者たちに尋ねる。
ジンとダインは息を合わせ、グッドサインで返してきた。
8つの扉の内──入ってきた扉にはレリーフが飾られている。
それは美々しい戦女神が彫られたものだった。
他の7つの扉の内、6つは飾り気のない簡易的な扉だが、対面する位置にある扉には、入口と同じようにレリーフが彫り込まれている。
こちらは──ツバサをモデルにした地母神だった。
「この扉を開ければ…………」
ツバサは地母神のレリーフがある扉を開ける。
扉を開ければ建物の外へと出て、そのまま庭園に出るはずだ。
しかし、地母神の扉を潜り抜けた先には、建屋と同じような部屋の中に繋がっていた。この部屋にも同じように、入り口を含む8つの扉が設置されている。
その部屋から、地母神のレリーフが彫り込まれた入り口専用の扉を開くと、今度こそ外へと出られるのだが、そこはイシュタルランドではなかった。
「──おおっ!? ここ、ハトホルの谷じゃん!」
扉を開けたツバサよりも一足先に外へ出たミロは、そこが今朝旅立ったばかりの自分たちの地元であることに驚いていた。
扉を抜けた先には──緩やかな丘陵地帯。
見下ろせば小さな家々が点在する、ケット・シーたちが暮らす小さな村が広がっている。少し遠くには大きな川が流れ、その河原にはセルキーたちの村が少しだけ垣間見ることができた。
小高い山の頂上を切り開いて造られた、ハルピュイア族の村はさすがに見上げてもよくわからないが、大きな鳥がそこから飛び立つところは窺える。
扉を抜けて振り返ると、そこにはミサキたちの宮殿めいた拠点の庭に建てられたお堂めいた建物。こちらにも同じものを建てたらしい。
場所はツバサたちの拠点──我が家。
その庭の片隅、邪魔にならないところに空間転移装置は建てられていた。
「なるほど……これなら課題となっていた『緊急事態における移動時間のロス』を解消できる。セキュリティ面もこだわるわけだ」
扉を抜けてきたレオナルドは、ハトホルの谷の景観に目を奪われながらも、空間転移装置の有意義さについて感心しきりである。
ミサキやハルカそれにカミュラたちは、空間転移装置には同様に感心しながらも、心はハトホルの谷の風光明媚な風景に圧巻されていた。
「これが、ツバサさんたちの国か……」
「綺麗……なんだか一枚の絵みたいに整ってて素敵……」
谷から吹き上げる風に、ミサキの美しい紫の髪が翻る。隣に立つハルカのまとう桜色のロングカーディガンもはためいていた。
「あれじゃあれ──風の谷みたいじゃな!」
カミュラの一言に、ミサキやハルカは苦笑しつつも納得してしまう。
ツバサたちも同じ感想を抱いたのだから笑えない。
──ジブリって偉大だな。
一方、工作者であるジンはと言えば、ツバサたちの拠点に魅入られていた。
「おぉん! これがダインくんの造った、お姉さまたちのマイホーム? いいじゃんいいじゃん、アットホームなのにゴージャスでサイコー!」
「じゃろう? 離れもよーさんあるから、二世帯三世帯住宅も安心じゃ!」
「もうじき、ウチらが二世帯住宅になる予定ッスからねー♪」
ここぞとばかりに、フミカがダインとの仲睦まじさをアピールしていくと、ダインは耳から蒸気を噴き出して恥ずかしがり、ジンは日の丸扇子を取り出して「お熱いことですねぇ~♪」と冷やかして遊んでいた。
そして、フミカの姉であるアキは──。
「うぬぬっ……姉より先に妹が彼氏とくっついてしまうとは……」
「ヘタレな殿方に惚れると婚期が遅れますわねぇ……」
アキとクロコは共謀するように、レオナルドへ非難の目を向けていた。
それをレオナルドは──ガン無視する。
唐突にハトホルの谷を訪れることになってしまい、和気藹々と観光気分になりかけたミサキたち一行を、ツバサは我が家へと案内することにした。
「せっかく来たんだ、俺たちの拠点も案内しよう。留守を任せた仲間たちにも会ってもらいたいし……何人かは君たちの知り合いだからね」
ドンカイとセイメイは、ツバサやミサキと同じアシュラ八部衆。
特にドンカイはミサキの才能を買っており、アルマゲドン時代にも親交があったので会いたがっていた。セイメイも興味は示していたはずだ。
そして、トモエは──ジンと顔見知りだったらしい。
聞けば彼女の知育玩具的な変形する武器“パズルアーム”は、ジンが遊び心満載で作ったものだという。
レオナルドには──ジョカと引き合わせてやりたい。
ずっと寝ていたと言えども、この真なる世界を創った創世神の一柱。
GMとしても詮索癖としても、興味が尽きないことだろう。
だが、そんなことよりもツバサにある衝動は──。
「みんな俺の家族だからな、ミサキ君たちに紹介したいんだ」
大切な家族を知ってもらたい──ただ、それだけだ。
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