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第6章 東の果てのイシュタル
第145話:神々のネットワーク
しおりを挟むまだ口約束に過ぎないが──同盟は締結した。
真面目な話も終わり、深刻な雰囲気も落ち着いたところで、スイーツを食べ終えた子供組もこちらの輪に混じってくる。
ミロがツバサの膝に座り、その上にマリナが座る。
対抗するように、カミュラはミサキの膝に飛び乗った。
甘えん坊にも困ったものだ、と悩ましげに微笑む地母神と戦女神。
束の間のブレイクタイムだ。
「むぅ……ミロさん、やっぱり場所変わってください」
マリナは不満げにミロに振り向いた。
ツバサの膝の上に乗ったミロはこちらの爆乳を枕にしてご満悦だが、そんなミロの膝に座っているマリナは、ミロの胸では物足りないらしい。
「ミロさんのじゃボリューム感が足りません。ワタシもセンセイのおっぱい枕のが……痛い痛い痛い! ドメスティックバイオレンス反対ですッ!」
ミロは両方の拳でマリナのこめかみをグリグリする。
俗にウメボシと呼ばれるお仕置きだ。
梅干しを食べたみたいに顔をしかめるからとか、こめかみに梅干しを張れば頭痛が治まるという民間療法に端を発するとか、名前の由来ははっきりしない。
遊び半分だがマリナは悲鳴を上げた。
「アタシのバストじゃ役不足か!? この生意気な妹は! アタシだってDカップあるんだよ? Dあれば充分じゃない! 谷間に埋もれろオラァッ!」
「いや、ミロさんのはちょっと固い……もきゅうーッ!?」
「固い!? 弾力性に富んでると言いなさい!」
ミロはふざけながらマリナを思いっきり抱き締める。
「いやいやいや! 弾力性と柔軟性で言ったらセンセイのおっぱいに敵うおっぱいなんてありませんよ。センセイとミロさんの胸じゃ月とすっぽん……」
「何よ! スッポンはスタミナついて美味しいじゃん!」
「そういう問題じゃありません! ワタシはセンセイの……お母さんの胸に甘えたいんです! 男の娘になれるミロさんはお呼びじゃないです!」
「言ったなぁ……アタシはリバーシブルだ! ママでパパなの!」
「むぎぃぃぃぃーッ! やっぱり固いーッ!?」
ツバサの上で仲良く(?)じゃれ合うミロとマリナ。
一方、カミュラはミサキの膝の上でゆったりしていた。
あちらは一人っ子ではないが、幼い子供がカミュラ1人しかいないので、ミサキにもハルカにもアキにも甘え放題なのだろう。
「──君たちも仲の良い姉妹みたいだな」
ツバサが何気なく感想を述べると、その山盛りの胸に甘えるカミュラをあやしていたミサキはやや渋い顔をする。
「あの、ツバサさん、オレ……まだ男のつもりなので……」
「すまん、失言だった……謝ろう」
自分も女性扱いされたら「誰がお母さんだ!!」と烈火の如く怒鳴るくせして、気遣いが足らなかったらしい。
ミサキはアシュラ時代から女性アバターを使っているし、アルマゲドンでもこの美少女の姿でツバサたちの前に現れた。はっきり言えば、ツバサは少年だった頃のミサキをほとんど知らないのだ。
だから「ミサキは女の子」と思い込みがちである。
そのミサキの姉妹と呼ばれたカミュラは嬉しそうだった。
「そうじゃぞマリちゃんのお母さん。妾はミサ兄からSPを分け与えられた、血ではなく魂で繋がった姉妹なのじゃからな!」
幼女にお母さんと呼ばれても目くじらを立てない。
そのくらいには母親役に慣れたツバサだった。受け答えも母親らしくなる。
「うん、聞いてるよ。しかし、それでミサキ君に懐くのはわかるが……アキさんやハルカもいるんだ。君にしてみれば優しいお姉さんばかりだろう?」
ツバサが話を振ると、カミュラはアキとハルカを交互に見た。
「優しい……お姉ちゃん……?」
幼女の短い半生を振り返るほどの懐疑的な真顔である。
これが優しいお姉さま方の不興を買った。
「ちょっとカミュラちゃん、どうして疑問系なのかしら?」
「優しいッスよね~? ウチとハルカっちは優しいッスよね~?」
ハルカとアキは身を乗り出すと、左右からカミュラに詰め寄って、その柔らかい頬を抓りながら引っ張った。幼女の口元が横へと広がる。
「うにぃ~~~ッ! やっぱ優しいのはミサ兄だけじゃ~ッ!」
チラリ、と吸血鬼時代の名残らしい鋭い八重歯が覗く。
少し温くなった紅茶を楽しみながら、しばしお互いの陣営について雑談や歓談を交わしていると、レオナルドが手を挙げた。
「さて、簡潔にだが──今後の方針をまとめておきたい」
レオナルドはツバサやミサキの話をあまり口を挟まずに聞いていたが、そこから両陣営が取り組むべき事柄をまとめてくれたらしい。
1:難民化している現地種族の保護。
2:現地種族への教育。道具や武器、村作りなどの指導。
3:危険なモンスターの討伐。安全地帯の確保。
4:他プレイヤー陣営の捜索。同盟の締結。
5:他陣営との連携、有事に際しての協力要請。
6:別次元の侵略者への対策(次元の裂け目の封鎖、眷属の駆除)。
アキにスクリーンを展開させて、そこに自分のまとめた内容を並べたレオナルドは、それを指揮棒で指し示しながら解説していく。
「ざっとこんなところかな──1と2と3に関しては、これまでツバサ君の陣営でも我らがミサキ君の陣営でも自発的にやってきたことだね」
レオナルドの言葉にツバサも同意を示す。
「1や3はプレイヤーなら誰でもできるし、お互いの陣営にいるのは“現地種族を思いやれる”気質の人間ばかりみたいだからな」
その点は心配無用だろう、とツバサは言い切った。
弱者を見殺しにするタイプの人間は、どちらの陣営にもいない。
ハトホル一家には言わずもがな、ミサキたちのイシュタル陣営にいればミサキやレオナルドが許すまい。
ジンに至っては腹ぺこの現地種族を発見したら、我が身を炎に投じて「さあ、俺ちゃんをお食べ!」と言い出しかねない奉仕精神の持ち主である。
……本当にやりかねないから怖い。
「ただ、2に関しては……これは得手不得手が出てくるだろうね」
「生産系の熟練度を上げてないと話にならないからな」
アルマゲドンでプレイヤーとして過ごした以上、大なり小なり生産系は修めているものだが、それでも戦闘特化型になると疎かにする者は多い。
「すいません、耳が痛いです……」
「妾もじゃ……ミサ兄と一緒で戦うことしかできない凡骨じゃ……」
ミサキとカミュラがすまなそうに耳を塞いだ。
この2人、戦闘特化らしい。
ハトホル一家の用心棒ですら簡単な木工の技能は持っているのだから、何かしら習得していそうなものだが……後ほど詳細にチェックしてもらいたいところだ。
生産系と聞いて──あの男たちが名乗りを上げる。
「ハァーイ♪ そこで俺ちゃんたち工作者の出番にございまぁーす♪」
「応よ! 爪楊枝から人工衛星まで何でも作っちゃるきに!」
ウェイターから作業服に戻ったジンと、ソファから立ち上がって彼と一緒に話し込んでいたダインが、「自分たちの出番!」とばかりに騒ぎ出す。
2人揃ってボディビルみたいなポージングを決めていた。
「そうだ──ちょうど良い」
ツバサは生産系コンビを人差し指でチョイチョイと招く。素直に寄ってきたジンとダインに、ツバサが考案した建築物の作成を依頼する。
設計図はないが「こんな感じで」と提案をまとめておいた。
それを近寄ってきた二人に耳打ちする。
「おおっ、これはこれは……グッドアイデアじゃないですかお姉さま!」
「こいつぁ……あると格段に便利ぜよ! さすがアニキッ!」
その内容を聞いた2人は、工作者魂に火が付いたようだ。
「必要な材料はこちらで用意しておいた……できるか?」
「「はい喜んでーッ!!」」
ツバサの道具箱から必要な素材を奪うように受け取ると、ジンとダインはシャバダバダー! と妙ちきりんな足音をさせて走っていった。
さして大きくはないが建築物ではある。
なので、屋外で作るつもりらしい。
2人の工作者を見送ったレオナルドは表情を変えずに尋ねてきた。
「彼らなら大抵の物は作れるだろうが……何を頼んだのかね?」
ツバサはウィンクして人差し指を唇に当てた。
「ヒ・ミ・ツ──できてからのお楽しみさ」
彼らの技量なら、ツバサたちが話している間に完成させるだろう。
これからの話の流れを推測するに、必要となりそうな装置だ。
その試作的な面もあるのでツバサは期待していた。
コホン、とレオナルドは軽い咳払いで中断した話の流れを整える。
「さて、話を戻そうか。6つあるお題の内、1、2、3に関しては取り立てて議論することはない。俺たちもツバサ君たちもやってきたことだ」
これからも継続していけばいい。
問題は──4、5、6になる。
「この真なる世界に我々GMとプレイヤーが転移させられて早くも半年以上が経過している。我々がこのように仲間というか家族というか……ゲームでいうところの“パーティー”を形成していることを鑑みるに、他のプレイヤーやGMたちも生存戦略の一環としてパーティーを組んでいると想定していいだろう」
「獅子のお兄ちゃん、難しい言葉好きね」
アタシにもわかるように話して、とミロは注文をつける。
「早い話──生き残るためにチームを組んでいるってことさ」
徒党を組んでいる、と言い換えてもいい。
ハトホルファミリーやミサキたちのパーティーも同様である。
「他のパーティーなら心当たりがあるぞ」
ハトホルの谷から遠く南、ヴァナラの森に居を構えている。
――獣王神アハウ・ククルカンとその仲間たちだ。
「アハウ・ククルカン……覚えのある名前だ。彼も内在異性具現化者だったろう。人性と獣性が裏返り、獣じみたアバターになっていたはずだ」
名前から当人を言い当てた。レオナルドの記憶力は大したものである。
「さすが上級GM、その人で当たりだよ」
ついでに、一緒に暮らしている仲間についても教えておく。
「カズトラという格闘系の役割を持つ少年と、ミコという巫術系の職能を持つ……マリナやカミュラと同い年くらいの女の子も一緒にいる」
ここでクロコがしれっと口を挟んできた。
「それと──あのマヤム君も一緒におります」
クロコの言葉にレオナルドは眉をピクリと動かして反応する。
その表情には穏やかな安堵が浮かんでいた。
「マヤム……マヤム・トルティカナ君か? そうか、彼は無事で、アハウ氏と共にいるのか……君たちは会ったんだな、元気でやっていたのか?」
「ああ、元気だったよ。でもな……」
嬉しそうなレオナルドに、ツバサはどうしても言い淀む。
「すこぶる元気でしたよ──男の娘から美少女に性転換しておりましたが」
「何があったんだマヤム君!?」
代わりにクロコがズバッと本題だけを述べると、レオナルドは知的なクールさをかなぐりすてて驚いていた。これは彼にも予想外だったらしい。
そのまま頭を抱えて、レオナルドは項垂れてしまった。
「俺に味方してくれるGMの中でも常識人だと思って、可愛い後輩として面倒見てやっていたのに……いや、そういう趣味だっただけか」
おいそれと相談できるはずもない、とレオナルドは受け入れていた。
クロコに便乗して、アキが手を上げて自己主張する。
「レオ先輩! ここにもっと可愛くてエロい巨乳の後輩がいるッス!」
すかさずクロコも挙手をしてアピール。
「レオ様、ここにも性奴隷を希望するエロメイド後輩がおります!」
黙れ問題児ども! とレオナルドは一喝する。
これみよがしの長いため息をアキとクロコに向けるが、彼女たちに堪えた様子はない。レオナルドも諦め気味に話を続けた。
「……それで、彼らとはどのような関係を?」
「別次元の侵略者絡みで知り合ってね。助けたり、助けられたりしたんだ……この同盟のことを伝えれば、きっと参加してくれるはずだ。アハウさんは俺たちより話のわかる大人だからな。必ず力になってくれる」
出会って早々、勘違いから大喧嘩したのは伏せておく。
どうせ出会えば話のタネになる。その時、笑い話にすればいい。
「他のプレイヤーたちと遭遇して、友好関係を築いているのなら話は早い……俺が提案したいのは、そうしたパーティ同士の繋がりだ」
俺というか、とレオナルドは隣にいるミサキに眼をやる。
「我らがリーダー、ミサキ君の提案だ」
「ちょ、レオさん。リーダーとかやめてくださいって……」
こそばゆいです……ミサキは目線を横に逸らして恥ずかしがる。
「まあ、提案というよりは必須事項だと思うんです」
ミサキの説明にツバサたちも耳を傾ける。
「現地種族を探して助けるにしても、攻撃性の強い危険なモンスターの討伐にしても……それに何より、数年後にやってくる人類の保護もそうです。とてもオレたちだけじゃ手が回りません。神族の能力でも限界があります」
「そうだな……この世界はデカすぎる」
ツバサは大きな胸の下で腕を組み、ソファに大きくもたれかかる。
「俺たちが今いる大陸でさえ、地球の六大陸を上回るほどだからな」
その超巨大大陸の全貌が把握できたと思いきや、西の果てと東の果てがわかっただけ。北や南に広がる大地や、大陸の中央はまだ不明な点が多い。
これを調べるだけでも一苦労なのに、この超巨大大陸を囲む海の外には、まだ見ぬ別の大陸がある可能性も捨てきれないのだ。
「この世界は途轍もなく広い。そこにまだ見ぬ種族がモンスターや別次元の侵略者に脅えながら暮らしているなら助けてやりたいが……」
「正直、手近なところから地道にやるのが精一杯ですからね」
ミサキは残念そうに頭を振った。
ツバサたちのパーティーは、彼を含めても6人しかいない。
何人かはモンスターの襲来に備えて、現地種族が暮らすこのイシュタルランドの留守番を務め、探索に出向くにしても単独行動は控えねばならない。
結果──留守番3人、探索組3人にシフトが分けられてしまう。
「……はっきり言って、非常に効率が悪いです」
ミサキは苦虫を何十匹も噛み潰したような顔で訴える。
「仕方ない。真なる世界に関してはまだ未知の部分が多い。そのくらい慎重に行動しないと、現地種族を助けるどころか俺たちが危ういからな」
ミサキもなかなか慎重に行動する子のようだ。
こういうところはツバサと相通ずるものがあって親近感が湧いてくる。
ここでレオナルドは6の議題を指した。
「ツバサ君たちがもたらしてくれた、この“別次元の侵略者”という新たな脅威が発覚した以上、このシフトは正解だったと言える」
神族のプレイヤーが3人いれば、別次元の侵略者に勝てずとも確実に逃げ果せることはできるはずだ。現地種族を守りながらでも可能だろう。
「……とはいえ、オレたちがジリ貧なのは変わりないです」
ミサキが肩をすくめてお手上げのポーズをすると、カミュラまで一緒になって同じポーズをした。余所のウチの子でも可愛い。
「とにかく、人手が足りないんです──切実なくらいに」
「同感だな……ハトホル一家は11人いるが、それでも全然だと思うよ」
「だからこそ──パーティー同士の繋がりを密にしたいんだ」
本題に入ったレオナルドは具体的に説明する。
「君たちハトホル陣営、俺たちイシュタル陣営、それにアハウ氏のククルカン陣営……こうしたパーティで同盟を組み、協力体制を築いていきたい」
真なる世界の各地に、各々の陣営が拠点を構えているのだ。
そこから周辺地域を神々の力で管理すればいい。
「多くのプレイヤーがパーティーを組み、この真なる世界のそこかしこに根を張っているのは想像に難くない……そうしたパーティー同士で連携を取り合い、不測の事態には助け合えるような機構を作りたいんだ」
人手が足りなければ、人数が多いパーティーに増援を頼めるように──。
生産系がいなければ、物作りができる人材を派遣できるように──。
戦力に不安があれば、戦士や格闘家を助っ人として送れるように──。
「……そういったパーティーや陣営の連携が上手く回れば、別次元の侵略者を発見次第、総力戦を仕掛けて迅速に撃退することも適うだろう」
「それだけじゃありません──人類を迎えるためにも必要なんです」
プレイヤーが異世界転移させられた際、この真なる世界へ適当に放り出されたも同然だった。はっきり言って無造作、転移地点もランダムだ。
おかげでツバサとミサキの再会も、こうして半年越しとなった。
この経験から、ミサキはある懸念を抱いたという。
「恐らく、人類の転移先もこの世界の広範囲になると……」
強制転移させられてくる人類も、どこに出現するかわからない。
プレイヤーの拠点近くなら幸運だが、何もない荒野だったり、海のように広い湖や大河だったり、それこそモンスターの巣窟だったり……。
「最悪の場合、侵略者たちの目の前だったら……」
目も当てられない結果に、とミサキは想像して目元を覆った。
「そうだな……そこは俺たちも危惧していたところだ」
「そこでだ──各パーティーが各地に拠点を構え、担当する地区を決めて守るようにすれば、世界の広範囲を様々な面でカバーできるはずだ」
難民化している現地種族の保護も──。
餌を求めて彷徨う敵性モンスターの警戒も──。
次元の裂け目から襲ってくる別次元の侵略者の発見も──。
「そして、いずれ飛ばされてくる人々だって……」
是非とも成し遂げたい──ミサキから決意のほどが窺える。
恐らく、現実世界に大切な人がいるのだろう。
幸いにも恋人のハルカや親友のジンは傍にいるのだから、やはり家族だろうか……彼らがこの世界に来た時、何としてでも助けたいはずだ。
それはツバサたちも同様である。
「プレイヤーが協力するためのネットワークか……」
この世界では──神々のネットワークに等しい。
「無論、俺たちも賛成だ」
ツバサたちは一も二もなく引き受けた。
ミサキやレオナルドも胸を撫で下ろしている。
拒まれたり敬遠されるかも知れないし、難色を示されたりする恐れを抱いていたのかも知れない。ツバサたちに限ってそれはないが──。
懐かしい顔に会うためや、同盟を結ぶためだけではない。
こういった建設的な意見を交わすために、ここまでやってきたのだ。
ツバサにしてみれば願ったり叶ったりである。
「今後のことを考えれば、絶対に必要なものだからな……やはり、多少無理をしてでもここまでやってきてよかった」
モニター越しで話し合うよりも、面と向かった方がいい。
「ひとつだけ──ネックになることがあるッス」
話がまとまりかけたところで、フミカが問題を提起した。
フミカは自分でスクリーンを開き、先日人工衛星から確認できた真なる世界の地図を映した。そこには3つの赤い印がつけられている。
「ハトホル、イシュタル、仮にククルカンの陣営が同盟を組むとして、これがそれぞれの拠点のある位置ッス。ハトホルとククルカンの拠点はまあ割と近いからいいとして……イシュタルはウチらの拠点からあまりにも遠すぎるッス」
「でも、フミたちは半日足らずで来たじゃないッスか」
姉であるアキの無神経な指摘に、フミカは眉を釣り上げて反論した。
「ダイちゃんが極限までチューンナップして、宇宙戦艦みたいになったハトホルフリートを最高速度で飛ばしても半日かかったんスよ?」
フミカの言いたいことを、ツバサの膝の上でマリナをいじくって遊んでいたミロがバカなりに解釈してみせた。
「時間が掛かりすぎちゃうよね──もしもん時ヤバい」
「そうッス──1秒でも急を要する緊急事態が起きた時、半日も掛かってたんじゃ間に合わないッス。お話にならないッスよ」
真なる世界をカバーするための──神々のネットワーク。
その途方もない広さゆえに起こる不具合。
即時対応するべき案件が発生した場合、移動時間が掛かりすぎて応援が間に合わない恐れが出てくるのだ。なんとも酷い皮肉である。
「バサ兄みたいに行ったことのある場所に瞬間移動できる転移魔法が使えれば別ッスけど……あれ、習得にすっごいSPを費やす最上位魔法ッスからねぇ」
誰でも簡単に使える代物ではない。
フミカもみんなのために覚えようと四苦八苦しているところだ。
だから──ツバサは手を打っておいた。
この広すぎる世界が、プレイヤーたちの同盟にとって障害になるのは予想することができたので、その対策をあの生産系コンビに頼んでおいたのだ。
そこへシャバダバダー! と聞き覚えのある足音が聞こえてきた。
「おっねえさまーッ♪ ご注文の品ができあがりましたーん♪」
「発注以上のパーフェクトな仕上がりぜよーッ!」
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