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第8章 想世のタイザンフクン
第193話:トモエ・バンガクVSイケヤ・セイヤソイヤ
しおりを挟む還らずの都──上層から第54階層。
ツバサやクロウたちが門の周りにある回廊にいる頃、キョウコウたちは一足先に還らずの都へと足を踏み入れていた。
2mを超す鎧武者なキョウコウがガシャガシャと音を鳴らして先頭を歩き、後ろからダオンとネルネがついていく。ネルネは珍しく寝ていない。
キョウコウは巨体なので歩幅も大きく、足取りも早い。
急いではいないが、のんびりしている時間は惜しい。
キョウコウの歩く速さは絶妙で、人によっては早歩きと捉えるだろう。その歩幅は徐々に広がり、歩く速さも早くなってきている気がする。
やっぱり急いでいるらしい。
ダオンは風体こそ執事だが目に余るほどの肥満体型。歩くのが遅いかと思えば、キョウコウの5歩後ろをキープしている。
しかし慌てる様子はなく、歩調も姿勢も落ち着いたものだった。
仕事ぶりは有能――ただ外見が少々頂けないだけなのだ。
ネルネは小柄で少女っぽいのにセクシーなネグリジェ姿。その上に布団みたいな褞袍を羽織っているので、色気が野暮ったさで相殺されている。
彼女は寝ぼけ眼な足取りだが、遅れてきたらスキップしたりジャンプしたりして、キョウコウの後を追いかける。決して遅れることはない。
お父さんの散歩に付き合う幼女みたいな足取りでついて行く。
鎧武者の大男、デブ執事、ネグリジェ褞袍少女──。
なんともちぐはぐな三人組は、還らずの都中心を目指す。
ネルネは「わぁ~」とか「へぇ~」と声を上げて、物珍しそうに還らずの都内部の廊下を見回している。観光客の気分でいるようだ。
実際、この廊下は見回すほど広い。
十階建てのビルが入りそうな天井の高さもさることながら、廊下の幅も3車線分の道路を敷けそうなくらい幅広い。パレードも余裕で練り歩けるだろう。
長い廊下は魔法の光が灯され、仄暗くも仄明るいように保たれていた。
「墓地とは聞いていましたが……やはり殺風景ですな」
ダオンも見学者の面持ちで観察していた。
廊下は高く広く、外壁と同じように均等に切り出されたアダマント鉱石の石積みで造られ、色が塗られているわけでも彫刻が施されているわけでもない。
むしろ、そうした装飾を一切廃しているようだ。
「お墓だからって殺風景にしてるわけじゃないんじゃない?」
ダオンの漏らした感想に、ネルネが異を唱える。
寝ること以外にあまり興味を示さないネルネが、廊下に並べられたあるものに目を奪われていた。それらをなぞるように指してネルネは言う。
「この絵を目立たせたいから、わざと地味にしたんだと思うよ」
ネルネが指差した品々──それは鋼板に彫られた絵。
一枚の大きさは2m前後で、かなり厚みのある鋼板だ。
縦横の比率はおおよそ3:2、絵や写真などで被写体の人物の全体像を表すのに適したサイズだろう。事実、鋼板に彫られた絵も人物像だ。
左右の廊下の壁一面、埋め尽くすようにビッシリ飾られている。
かつて──この地で起きた蕃神との大戦争。
その戦いで命を落とした英雄たちを描いたもののようだ。
神々しく気品に満ちあふれた神族の戦士たち、雄々しくも艶美さを漂わせる魔族の戦士たち、各々の種族らしさを全身で表現する多種族の戦士たち……。
鋼板の1枚1枚には、彼らの活き活きとした姿が描かれていた。
これは遺影──英霊を讃えるために彫られたもの。
恐らく、最盛期を描いたものなのだろう。写実的ではあれど見栄えや構図などを重視して……要するに“カッコイイ!”を前提に描写されている。
ダオンは二重顎に手を当て、それらの絵を覗き込んでいた。
これらの絵をあるものに例えたいのだが、言葉選びに慎重なのだ。
「しかし、なんですな……こうして飾られているのを目にしますと、絵画としての芸術性は高そうなのですが、デザインが何と言いますか……」
「トレーディングカードみたいだよねー」
もしくはソシャゲのキャラカード、とネルネは身も蓋もないことを言う。
キョウコウの手前、ダオンは言葉を選んでいた。
彼とて灰色の御子だ。この地で亡くなった神族や魔族には、彼に縁のある人物もいることだろう。もしかすると、その遺影もこちらに収められているかも知れないのだ。下手に口を滑らせたら、主人への不敬となる。
なのに──ネルネは歯に衣着せぬ物言いでストレートな感想を述べた。
これにダオンは頭痛を覚えるも、キョウコウが気にする素振りはない。
それどころか機嫌も悪くなさそうだった。
「あながち……間違っておらぬかも知れんぞ?」
正解だと言いたげにキョウコウはそんなことを言ったのだ。
「あながち間違いではない……その心は?」
ダオンはキョウコウに尋ねるも答えはない。
黙々と前に歩みを進めるが、しばらくして返事が返ってきた。
「いずれわかる……いずれ、な……」
還らずの都に隠された謎──その全てがもうすぐ明かされる。
その時、この都市への疑問も氷解するだろう。
言葉少ないキョウコウの返事を、ダオンはそのように受け止めた。
~~~~~~~~~~~~
一方、ツバサとミロも還らずの都中心を目指していた。
墳墓系ダンジョンに即死級のトラップがあるのは基礎中の基礎。あの有名なツタンカーメンのお墓にも呪いという罠があった。
ツバサは探知系技能をいくつも使い、慎重に廊下を進んでいく。
「……だのに、何にもありゃしない」
真面目に罠を警戒しているツバサが馬鹿みたいだった。
英雄たちの遺影が飾られた──広すぎる廊下。
円形の建物を下層に行くにつれて広げていく、それをひたすら重ねただけのシンプルな建造物だが、その内部に広がる廊下はやや複雑に造られていた。
そこまで念入りではないが、迷路のように入り組んでいるのだ。
廊下が縦横無尽としか言いようがない造りになっており、上や下にも階段なしで繋がっている。酷いところになると廊下が直角に下へとむかっていた。
断崖絶壁か落とし穴みたいな有り様だ。
これは飛行系技能がないと詰む。
そして、部屋が見当たらない。
どこまでも果てしなく廊下が続き、その廊下に絶え間なく英霊たちの遺影が飾られているばかり。探知系技能でも隠し部屋ひとつ発見できなかった。
……本当に、これらの遺影を収めるためだけの墓地なのか?
それにしても、ここまでダンジョンめいているのに、トラップがひとつもないというのは拍子抜けだ。ツバサが心配性なだけなのか?
ミロは壁にかけられた遺影を眺めながら言う。
「ずっと地中に埋まってたわけだし、ククリちゃんが泣かなきゃ門も開かない。その時が来たらてんやわんやになるみたいだからお墓から金目の物を盗んでる場合じゃないし……トラップ用意する意味がなかったんじゃない?」
アホに正論で駄目出しされてしまった。
ツバサの常識人な心にグサリと言葉の槍が突き刺さる。
「だ、だとしても……用心に越したことはない」
断固として気を緩めないツバサの態度に、ミロは半笑いで呆れていた。
「しょうがないなー、お母さんってば本当に心配性なんだから」
「誰がお母さんだ。ほら、ちゃっちゃと先に行くぞ」
遺影を眺めては「あ、これカッコいい」とか「この女の子エロい」とか、子供じみた感想を呟くミロの首根っこを引っ掴んで、ツバサは先を急いだ。
内部は迷路のようだが、幸いにも迷うことはない。
還らずの都の中心から、強大なエネルギーを感じるのだ。
今は胎動するかのように落ち着いているが、一度動き出せばこの世界をひっくり返すほどの力を発揮することがわかる。
キョウコウの求めた“軍事力”とは──恐らく、これのことだ。
その力の波動を目指せばいい。だから、迷うことはない。
「そういえばさ──トモちゃんたちは大丈夫かな?」
ツバサに首根っこを掴まれてズルズルと引っ張られるミロは、外の様子を気に掛けた。仲間たちが無事かどうかを心配しているのだ。
安心材料は伝えておこう。
「ああ、みんな無事だよ。俺の過大能力は生命力を感知できるからな……みんな、まだ戦っている。それぞれの相手を抑えるためにな……」
キョウコウの部下や幹部たち──。
彼らが還らずの都へ侵入するのを防いでくれていた。
「一番近いところで戦っているのは……トモエかな」
~~~~~~~~~~~~
還らずの都──上層から数えて95階層。
その構造上、下層に進むつれて広くなっているため、下層の屋根に当たる部分が上層の門をグルリと巡る回廊になっている。最上階から数えて一桁台の回廊ならマラソンコースにちょうど良いくらいの距離だろう。
しかし、95階層の回廊ともなればその円周距離は桁違いだ。
42.195㎞どころの話ではない。
その気が遠くなるような回廊を、何周もしているバカが2人。
「ふぉっほーん☆ さすが真なる世界は広いねー☆ まさかボクの速さについてこれるリトル・レディがいるなんてさー☆ スゴイすごーい☆」
「んなぁぁぁーッ! 待て待て待てー、このピカピカーッ!」
光の軌跡を棚引かせて、高速ではなく光速で駆け抜ける男。
キョウコウ五人衆が1人──イケヤ・セイヤソイヤ。
ラメ入りのキラキラ光るスーツを素肌に着込んだ三流ホストにしか見えない。
自ら“貴光子”と称するのは伊達じゃなく、全身を輝かせながら本当に光の速さで走っていた。いや、足下に付けた戦輪を車輪にして滑っているのだ。
当人も戦輪も鬱陶しいほど星の瞬きをばら撒いていた。
飛び散る光のひとつひとつが、ちゃんと☆型になっている芸の細かさである。
ぶっちゃけ無駄なこだわりだと思う。
「ハッハァーン☆ 文字通りのローラーブレードってわけさー☆」
「んな、面白くない! マイナス100点!」
ビキニアーマーで半裸に等しい格好のトモエは、自身が保有する加速に特化した過大能力を使い、全力疾走で追い縋る。
スプリンター顔負けの走り方はフォームも完璧だ。
トモエが桃色の髪を靡かせて走れば、ピンクの軌跡が描かれていく。
手にするのは知育玩具的な武器──パズルアームMarkⅡ。
組み立て方次第でどんな武器にも早変わりするそれを、トモエはスピード重視ということで細身の双剣に変えていた。
「んなー、ホストっぽい人! なんで悪い奴の味方する!?」
トモエはイケヤを追いかけながら疑問をぶつけてみた。
「んー☆ 悪い奴って、キョウコウ社長のことかい?」
「そうな! キョウコウ悪い奴、みんな攫う! なんで味方する!?」
イケヤは軽薄な優男だが、悪人には見えない。
トモエの嗅覚はイケヤを善人寄りだと嗅ぎ分けていた。
「ホストっぽい人、悪い人の匂いしない! なのに、どーして悪い奴の部下!?」
そう断言するトモエに、イケヤは悪い気はしなさそうに振り返る。
「ハッホォーン☆ 褒め言葉と受け取っておくよ☆」
でもね、とイケヤはやや真面目な口調で持論を語り出した。
「キョウコウ社長のやってることは善でも悪でもないよ。彼はただ、ボクたちみたいな小物では計り知れぬ大義と野望を抱えているだけ……ボクは社長のそこに惚れ込んだのさ☆」
だ・か・ら☆──イケヤのダッシュが加速する。
「是が非でも君を振り切って、還らずの都へINさせてもらうよ☆」
「んんんなあっ! それだけは絶対阻止!」
トモエもツバサに頼まれたのだ。そんなことさせない。
イケヤの目に優しくない輝光の軌跡と、トモエの女の子らしい桃色の軌跡。
95階層目の回廊に、2つの軌跡が何重にも引かれていく。
イケヤが光速で突っ走り、トモエがそれを追いかけているので、何百㎞であろうと一瞬だ。あまりの速さに軌跡が何重にもなっていた。
イケヤの過大能力──【光って輝いて煌めいてしまう男前☆】
単に光を操るだけではなく、自身も光となれる過大能力。
その能力を応用することにより、イケヤは光速で走れるようだ。
トモエも過大能力で自身を限界以上に加速させることはできるが、イケヤの光速には今1歩届かない。追いつきそうで追いつけなかった。
「うぅ~ぅ~ん☆ リトル・レディ、君もベリーファーストだけど……」
イケヤの手も光速で動くと、懐から新たな戦輪を何枚も取り出し、それをトモエ目掛けて投げつけてきた。
「ボクにはちょ~っと追いつけないかなぁ~☆」
微妙に軌道を変えて飛んでくる戦輪に、トモエは手にした双剣を構える。
命中する前に叩き落とすつもりだったが──。
「エンジョイスッパーキングッッッ☆」
「うなっ、まぶしっ!?」
戦輪が届く直前、イケヤがまた上半身の諸肌を脱いで閃光を発した。
その光に目が眩んだトモエは反射的に目を閉じてしまった。その隙を突くように戦輪がトモエの身体を打ちのめしていく。
「んなあああああっ……あれ、切れてない?」
回転する戦輪が肌が熱くなるほどこすれたり、鉄の輪っかで殴られた痛みはあるけれど、どこも斬られてはいない。刃物ではないようだ。
「ふぅっふ~☆ レディの肌に切り傷をつけるなんて、元ホストなボクの流儀に反するからねぇ、それらの戦輪は刃を潰してある……んごぉ!?」
戻ってくる戦輪を受け取ろうとして──イケヤは失敗した。
自分の発した光が眩しかったらしく、目を閉じたため受け取れなかったのだ。3つの戦輪が顔と顎と喉にジャストミートしていた。
「んなっ、おまえバカ! 自分も眩しくてどーする!?」
「ううっうーん☆ ボク自身さえ目が眩む輝きに……うっとりぃ~☆」
自分で自分の肩を愛おしげに抱き寄せるイケヤに、トモエはゾッと青ざめた。
「コ、コイツ……自分で自分が大好きな変態なー!?」
正確に言えば自己陶酔者だ。
「変態とは失敬な、ボクは誰よりも自分が可愛いだけだよ☆」
「うな、自分は大事だけど好きなのおかしい! それ変態の証拠!」
トモエとイケヤは、片時も足を止めることなく超速での疾走を続ける。バトルや口喧嘩がヒートアップすれば、走る速度も比例して上がっていく。
「さあ☆ もっとケイデンスを上げていくよぉーッ!」
ついてこられるかな? とイケヤの目が口ほどに挑発していた。
「んなああああーッ! トモエもギア上げてアクセル吹かすッ!」
トモエも過大能力を限界以上に発揮させる。
トモエの過大能力──【加速を超えた加速の果て】。
自分の行動する速度を上げるのみならず、血流の流れや神経パルスの伝達速度、心肺機能などを超高速化させることで、更なる加速を可能とする能力。
光の速さを超えて尚も速くなるイケヤに、トモエは必死で追いつこうとするものの、彼の背中を追いかけるのが精一杯という悔しさがあった。
過大能力は神の力──そこに限界はない。
尊敬するツバサお母さんはそう言っていた。本人が強くなることを望み、絶え間なく磨き上げれば、どこまでも能力を伸ばすことができる。
ゆえに“過大する能力”と呼ばれているのだ──と。
「んんなぁぁぁぁ……まだ、練習が足りない……?」
トモエ自身、頑張ってきたつもりだ。
新しい技能もいっぱい覚えたし、『精神と時の部屋』みたいな場所でツバサお母さんにつきっきりでずっーとトレーニングも付けてもらった。
LVだって──700を越えたのだ。
ツバサお母さんの教育方針で、ハトホル一家はみんなLVの底上げを徹底されている。幼さゆえに一番低いジャジャでもLV600越えだ。
強くなったのは──こういう日のため!
「んなああああああっ……もっと、もっとな! もっと速くッッッ!」
トモエの【加速】が更に上がる。
全身の瞬発力を司る速筋が悲鳴めいた唸りを上げ、回廊を作るアダマント鉱石の石畳は踏みしめられる度に亀裂が走る。
追いかけるイケヤの背中がだんだん大きくなり、やがて横に並んだ。
「レアリィッ!? ボクのキラメキスピードに追いついたってのかい☆」
「んなっ、トモエを舐めるな! 速さなら誰にも負けない!」
毎日ハトホルミルクを飲んでるから元気! と言いかけてやめておいた。
ツバサお母さんに怒られそうだから──。
まさか自分の光速に追いつける者はいないと過信していたのか、イケヤは目が点になるくらい驚いていた。だが、切り替える反応も早い。
「追いついたのならオメデトウ☆ ボクも本気で接客させてもらうよッ!」
イケヤは戦輪を何枚も取り出す。数は先ほどの比ではない。
それらの戦輪を無造作に頭上へ投げたかと思えば、投げ上げられた戦輪たちは独りでに高速回転を始め、光の帯をたなびかせて全方位からトモエに襲いかかる。
「輝け! ボクの──シューティングスターシャワーズ☆」
流星群が降るように、戦輪の群れがトモエに襲いかかる。
駆け抜けてやり過ごそうとするトモエだが、この戦輪たちには自動追尾の機能があるらしい。逃げても追いかけてくるのだ。
打ち落とすしかない──トモエは走りながら武器に呼び掛けた。
「パズルアームMarkⅡ! 舞い踊るもの!」
音声認識を受け付けた知育玩具な武器は、バカン! と小気味良い音を立てて分解すると、無数の小さなパーツとなって空中に舞踊る。
それらのパーツはトモエを守るように取り巻き、迫る戦輪の群れを打ち落とし、あわよくば何個もぶつかることで破壊した。
「わおっ☆ エメス様がくれた戦輪がブレイキングッ!?」
「当然な! ウチの工作の変態すごい!」
ジン・グラッドラック──変態マゾだが物作りの腕は確かだった。
ジンの作ったパズルアームMarkⅡにより、イケヤの投げた戦輪は次々と破壊されていく。追加で投げても同じこと、パズルのパーツに砕かれていった。
速さでは追いつかれて、愛用の武器では負け越したイケヤ。
彼はほんの少し悩む素振りを見せた。
「う~ん、リトルとはいえレディにこんな真似したくなかったんだけど……君も一人前の戦士と言ったしね☆ 戦場にフェミニズムなんてナッシング!」
イケヤは光速を維持したまま、トモエに蹴りかかってきた。
瞬きする間に鳩尾へ触れる寸前――光速のキックをどうにか防いだ。
「うなあッ……こ、こっちのが痛くて強いッ!?」
間一髪で両腕をクロスさせ、イケヤの蹴りを受け止めたトモエだが、その蹴りの重さに驚いた。戦輪なんかよりキックの方が遙かに脅威的だった。
光の速さでキックが飛んでくる。
技能で強化をした動体視力でなんとか見切り、過大能力で加速させた手足で捌くのが精一杯。下手に躱したり避けようとすれば失敗する。
イケヤは細身だが背が高く、トモエは女の子だから小っこい。
この体格差のため、間合いの外から光の速さの蹴りが飛んでくると、いくら加速しても躱しきれずに喰らってしまうのだ。
「シューターっていうのかな? ボクはこっちのが性に合っててね☆」
「んなんな……ホストさん、足技上手……ッ!」
とある海賊船でコックとかしてる人くらい、イケヤは蹴りが達者だとトモエは判断した。トモエも足技はツバサから習ったけど、ここまで上手ではない。
トモエとイケヤの身長差──これがリーチの差になっていた。
トモエは決して短足じゃない。
だが、小柄なトモエがキックを放っても、イケヤはその間合いの外から長い脚で蹴り込んでくる。足技対決ではトモエに分が悪い。
かと言って、脚より短い腕で殴りかかっても届かないし、光の速さで避けられてしまう。こちらもこちらでリーチ差が物を言っていた。
パズルアームを長い武器に変えてぶん殴る?
「おっと☆ 見え透いてるから先手を打たせてもらうよ☆」
イケヤはトモエの考えを読んだのか、ジャケットからまた戦輪をいくつも取り出すと、こちらに投げつけてくる。これを迎撃させるためにパズルアームのパーツを展開させ続けなければならず、その作戦は封じられてしまった。
「んなぁぁぁ~……ど、どうすれば……んんっ? まさか……」
イケヤからの光速キックに防戦を強いられていたトモエは、何度も蹴りを受けている内にあることに気付いた。
そこに──わずかながらの勝機を見出す。
「さあ、リトル・レディ☆ そろそろフィナー……レレレのレェッ!?」
──それは刹那の攻防だった。
トモエはイケヤが放ってきた光の蹴りをギリギリまで引きつけて、紙一重で避けることに成功する。イケヤがそれに気付いて足を切り返し、後ろ回し蹴りで放とうとしたのだが、それよりも速くトモエが懐に飛び込んだ。
「うぅんんんなあッ!」
イケヤの懐に飛び込み、土手っ腹を狙って頭突きを叩き込む。
トモエの頭突きの勢いは凄まじく、吹っ飛ばされたイケヤは都の壁にめり込んでしまった。アダマント鉱石の壁が凹んだのだから相当なものだ。
「うごぼっ!? も、悶絶ぅぅぅぅ~……ッ☆」
ようやく足を止めたイケヤは、頭突きを喰らった腹を押さえる。
トモエも光速バトルを止めてイケヤの前に立つと、息を切らせて言った。
「うなっ、おまえ、光の速さで動けるみたいだけど、完璧じゃない……まだ、慣れてない? 蹴った後、足を戻すのに時間が掛かってる……」
その隙をトモエは見出して、反撃に繋げたのだ。
口から一筋の血を垂らすほど、イケヤは内臓にダメージを負ったらしい。
「なるほど……本当に一人前の戦士だね☆」
見破られちゃったかー、とイケヤはまるで他人事のようだ。
「ま、いずれバレると思ってたからベラベラ喋っちゃうけど……そうだよ☆ ボクのキラメキはまだまだパーフェクトには程遠い。人間だった頃の感覚が残っているせいか、どーしても光の速さに気後れしちゃうんだよねー☆」
イケヤは自己回復の技能でお腹を癒やし、手の甲で口元の血を拭う。
「だ・け・ど☆ スピードでボクが優っているポイントは揺らがないよ☆」
再び光の速さで全力疾走を始めるイケヤ。
トモエも反射的に【加速】で走り出し、またしても回廊を巡り巡る追いかけっこが始まるが、今度はいくら頑張ってもイケヤに追いつけなかった。
「これが“貴光子”たるボクのマジラブ2000%! 今までのが亜光速だとしたら、これこそが本当の光速トップスピードッ!」
リトル・レディでも追いつけないよ! イケヤはそう啖呵を切った。
確かに──今度ばかりは追いつけそうにない。
悔しいが速さに関しては、イケヤに軍配が上がっている。子供と大人、経験の差もあるかも知れない。この差を短時間で覆すことは難しいだろう。
だからトモエは──頭を使うことにした。
トモエも自他共に認めるバカだが、イケヤもなかなかのバカだ。
いくら手頃な場所とはいえ、さっきから還らずの都の回廊をグルグルグルグル回りながら戦っている。学校のグラウンドを何周もしているようなものだ。
今もまた、回廊を走っている。
イケヤはキョウコウの命令通り、還らずの都に入ろうとした。
それをトモエが徹底的に阻止したら、門に入りたいイケヤと通せんぼするトモエで攻防を繰り返すことになり、いつしか回廊の周回に発展したのだ。
この回廊の周回を──逆手に取る。
勝負は一度きり、瞬きする間に全てが終わっているだろう。
「パズルアームMarkⅡ!」
トモエは愛用の武器に呼び掛け、変形を促した。
戦輪の群れと戦っていたパズルアームのパーツは戻ってくると、トモエの全身に鎧となって貼り付いた。それを見てイケヤが口笛を吹く。
「ひゅ~☆ 聖衣かい? バトルスーツカッコイイーッ! でも☆」
装備の分だけ重くなる、と言いたかったのだろう。
イケヤがそう発言するよりも早く──トモエは足を止めた。
ふぉわっ!? とイケヤの驚愕が聞こえるが、光速の彼はあっという間に駆け抜けていってしまう。しかし、すぐに回廊を1周して戻ってくるだろう。
そんな彼を待ち受け──迎え撃つ。
トモエの身体に武装として貼り付いたパズルアーム。
それぞれのパーツが変形し、噴射ノズルが現れる。
これはバトルスーツであると共に──加速装置でもあるのだ。
「──射出され憤撃し空に躍り出るもの!」
まさにロケットの如く自分を発射したトモエは、光の速さで回廊を一周してきたイケヤを正確に捉えた。トモエの策略に気付いたイケヤだが、前述した通り、彼は光の速さに達した自分を御し切れていない。
トモエのドロップキックが──イケヤの胸と腹の間に直撃する。
「ごぶへぇっ!? い、息がぁぁ……ッ!?」
ちょうど横隔膜がある辺りだ。
肺の空気を強制的に吐き出させられ、息継ぎもできなければ精神も乱れる。
この瞬間に──トモエは全力を費やした。
「んんんなああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
加速装置の勢いを借りて、トモエはイケヤを蹴り続ける。
それはやや下方へと逸れていき、還らずの都の外壁を突き崩しながら、まるで山の斜面をスノーボードで滑りるように降りていく。
ボードにされたイケヤは外壁に幾度も叩きつけられる。
アダマント鉱石の外壁を壊しているのでダメージも殊更だ。
そして──トドメに地面へと叩きつけた。
落下の衝撃で生じたクレーターの中央、白目を剥いて卒倒するイケヤは、大の字になって横たわったままピクリとも動かない。
「んんっ……んんなぁ……ト、トモエの勝ちッ!」
気力のみで立ち上がったトモエは勝利のVサインを掲げた。
先鋒戦 トモエ・バンガク○ ── イケヤ・セイヤソイヤ●
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
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三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
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【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
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12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
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