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一日目

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 三人が洋館に戻ると、玄関前の庭には大きな炭焼きのコンロと、人数分のイスとテーブルが並べられていて、いつでもバーベキューが始められるよう準備が整えられていた。

「おっ、どれどれぇ。買ってきたモノを見せてみなさい」

 まだビキニ姿のままのヒトミが近づいて来て、三人が持つビニール袋の中身を覗き込んだ。
 そして、

「えぇっ!? 肉これだけしか買ってこなかったの!? しかも牛じゃないし! あり得ないでしょっ! アンタたち、バーベキューやったこと無いの!?」

 と、予想どおりのリアクションをした。

「いや、店にこれだけしかなかったんだよ……」

 そう言って、ユウトが先ほどスーパーの店員から聞かされた話を伝えると、ヒトミは、アニメのキャラみたいな大袈裟なしかめ面をした。

「この島の住民が、突然、みーんなヴィーガンになったって? 年中獲れたての新鮮な魚ばっか食べてる人達だよ? そんなこと、あり得る?」
「あり得ない、と言いたいところだけど、あの店員が僕たちにウソをつく理由もないしさあ……」
「アタシが思うに、そのオバサンが生意気な都会の学生をちょっとからかってみた、ってだけじゃないの?」
「うーん、そういわれると……そうだった、のかも」

 ユウトが困り顔で頭をかいていると、ビキニの上にラッシュガードを羽織ったアキとキョウコがやってきて、ヒトミと同じようにビニール袋の中身を覗いた。

「まぁ、ここであれこれ言っても仕方ないよ。あるものだけで、なんとかしよう。うちは、そんなにお肉いらないし」

 アキが言うと、キョウコも袋から缶ビールを取り出して、ニヤリと笑った。

「わたしも、これがあれば十分♪」

 それから――、夕焼けの真赤な光の中で、やや貧しいバーベキューがはじまったが、ヒトミ以外の女性陣はみんな少食だったし、ユイが自宅のキッチンでパスタやチャーハンをつくって振る舞ってくれたので、あたりがすっかり暗くなる頃には全員が満腹になって、酒を片手にのんびりと満天の夜空を見上げていた。

「あー、サイコー。ここは地上の天国だね。もうずうっとここにいたい」

 ヒトミが、イスに半分寝そべるようなだらしない恰好で言うと、

「ほんとだね」

 ユウトも、眼鏡の奥の目をとろんとさせながら、ぼんやりうなずく。

「いいよ。いつまでもここにいて。わたしは大歓迎」

 ユイが微笑みながらいうと、ヒトミはチューハイの缶を振りながらケラケラ笑った。

「ほんとにぃ? じゃ、お言葉に甘えて、ほんとにここに住んじゃおっかなぁー」
「うん、そうして。みんなで、ここで一緒に暮らしましょうよ」

 そう力強く言うユイの声音に真剣なものを感じて、皆は思わず黙り込んだ。

「……まあ、そうしたいのは、やまやまだけどさ」ヒトミは、足元を見つめながら苦い口調で言った。「そうもいかないのが、人生じゃん? アタシらも、こんなド田舎で漁師か、そのヨメになるためにわざわざ大学いってるわけじゃないし――」

 そのひと言で、それまで和やかだった場の空気が一瞬で凍りついた。

 ヒトミには一切悪気はないと皆わかっていたが、いまの言葉は、この島で生きているユイにとっては、かなり酷だった。

「そう、だよね……。ごめんなさい。勝手なこと言って」

 ユイは、暗い声で言ってイスから立ち上がると、ひとりで洋館の中に戻っていった。

「ユイ……」

 キョウコが心配そうに呟いて、すぐにその後を追う。

「……」

 その場に残された者達は、なんとなく気まずい空気の中、だまって酒を飲み続けた。
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