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第5話:永遠のコンビニクリスマス
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また、クリスマスが来た。
一年という時間は、残酷なほど早かった。
私の状況は何も変わっていない。
彼氏なし。昇進なし。貯金微増。
変わったのは、コンビニの制服のデザインと、新商品のラインナップくらいだ。
24日の夜。
私はまた、あのコンビニにいた。
店内には去年と同じ「ジングルベル」が流れている。
客層も変わらない。
疲れ切った会社員、近所のジャージ姿の学生、そして売れ残りを狙うハイエナたち。
「……よう」
「……どうも」
佐藤もまた、そこにいた。
去年と同じコート。
去年と同じ疲れた顔。
そして、カゴの中身もほぼ同じ。ビールと、つまみ。
「一年、早いな」
「ですね」
「今年も結局、ここか」
佐藤が苦笑いをする。
その笑顔に、もうときめきも失望もない。
ただの「確認」だ。
今年も私たちは、どこにも行けず、誰にも選ばれず、ここに吹き溜まっているという確認。
でも、それが不快ではなかった。
むしろ、実家に帰ってきたような安心感すらある。
「……チキン、まだあるかな」
「あるでしょ。さっき補充されてたし」
「お、マジ? ラッキー」
ホットスナックコーナーへ行く。
揚げたてのファミチキが、黄金色に輝いて並んでいる。
去年とは違う。
今年はまだ、温かい。
「次の方、どうぞー」
店員に呼ばれる。
私はレジに進む。
佐藤は当然のように、私の後ろにぴったりとついている。
財布を出そうともしない。
私がまとめて払うのが、この一年の「不文律」になっていた。
(あとでPayPayで送金される。そこだけはデジタル化した)
「ファミチキ、2つください」
私はメニューも見ずに言った。
店員がトングでチキンを挟む。
その慣れた手つきを見ながら、私はハッとした。
今、彼に聞いたっけ?
「食べる?」って。
聞いてない。
私の脳みそは、もう思考を経由せずに、「2つ」という数字を弾き出したのだ。
「私」という個体は、もう単独では存在していない。
「私と佐藤」というセット販売の商品になってしまっている。
チキンが袋に入れられる。
2つ。
寄り添うように。
会計を済ませて、店を出る。
外はやっぱり寒い。
でも、去年よりは寒くない気がする。
私の感覚が麻痺したのか、それとも隣にいる男の体温に慣れてしまったのか。
「……はい」
「サンキュ」
一つを彼に渡す。
私たちは無言で袋を破り、チキンにかぶりついた。
サクッ、という音。
ジュワッと広がる油。
スパイシーな刺激。
胃の入り口が少し重くなる。油分過多の食事が、30代手前の胃袋にはもうキツイ。食道が焼けるような、軽い胸焼けの予感。
「ん、あったけ」
「揚げたてだからね」
美味しい。
悔しいけど、美味しい。
どんな高級フレンチよりも、この味が私の舌には合っているのだ。
「……来年も、これかな」
佐藤がぼんやりと言った。
私はチキンを咀嚼しながら、空を見上げた。
星は見えない。
コンビニの看板の明かりが、夜空を白く濁らせている。
「さあね。お店が潰れてなきゃいいけど」
「そっちかよ」
彼は笑って、またチキンを齧った。
来年も、再来年も。
きっと私たちはここにいる。
この冷めたチキン味の恋を噛み締めながら。
その未来が見えてしまっているのに、絶望していない自分が一番怖かった。
コンビニクリスマスでしか幸せを感じない体。
安上がりにできている。
ま、いっか。
半額シールが貼られた人生でも、一緒に食べる相手がいるなら。
「……酒、足りなくね?」
「そうね。戻って買う?」
「おう。今度は俺が出すわ」
私たちはまた、自動ドアをくぐった。
ジングルベルが、今度はファンファーレみたいに聞こえた。
(おわり)
一年という時間は、残酷なほど早かった。
私の状況は何も変わっていない。
彼氏なし。昇進なし。貯金微増。
変わったのは、コンビニの制服のデザインと、新商品のラインナップくらいだ。
24日の夜。
私はまた、あのコンビニにいた。
店内には去年と同じ「ジングルベル」が流れている。
客層も変わらない。
疲れ切った会社員、近所のジャージ姿の学生、そして売れ残りを狙うハイエナたち。
「……よう」
「……どうも」
佐藤もまた、そこにいた。
去年と同じコート。
去年と同じ疲れた顔。
そして、カゴの中身もほぼ同じ。ビールと、つまみ。
「一年、早いな」
「ですね」
「今年も結局、ここか」
佐藤が苦笑いをする。
その笑顔に、もうときめきも失望もない。
ただの「確認」だ。
今年も私たちは、どこにも行けず、誰にも選ばれず、ここに吹き溜まっているという確認。
でも、それが不快ではなかった。
むしろ、実家に帰ってきたような安心感すらある。
「……チキン、まだあるかな」
「あるでしょ。さっき補充されてたし」
「お、マジ? ラッキー」
ホットスナックコーナーへ行く。
揚げたてのファミチキが、黄金色に輝いて並んでいる。
去年とは違う。
今年はまだ、温かい。
「次の方、どうぞー」
店員に呼ばれる。
私はレジに進む。
佐藤は当然のように、私の後ろにぴったりとついている。
財布を出そうともしない。
私がまとめて払うのが、この一年の「不文律」になっていた。
(あとでPayPayで送金される。そこだけはデジタル化した)
「ファミチキ、2つください」
私はメニューも見ずに言った。
店員がトングでチキンを挟む。
その慣れた手つきを見ながら、私はハッとした。
今、彼に聞いたっけ?
「食べる?」って。
聞いてない。
私の脳みそは、もう思考を経由せずに、「2つ」という数字を弾き出したのだ。
「私」という個体は、もう単独では存在していない。
「私と佐藤」というセット販売の商品になってしまっている。
チキンが袋に入れられる。
2つ。
寄り添うように。
会計を済ませて、店を出る。
外はやっぱり寒い。
でも、去年よりは寒くない気がする。
私の感覚が麻痺したのか、それとも隣にいる男の体温に慣れてしまったのか。
「……はい」
「サンキュ」
一つを彼に渡す。
私たちは無言で袋を破り、チキンにかぶりついた。
サクッ、という音。
ジュワッと広がる油。
スパイシーな刺激。
胃の入り口が少し重くなる。油分過多の食事が、30代手前の胃袋にはもうキツイ。食道が焼けるような、軽い胸焼けの予感。
「ん、あったけ」
「揚げたてだからね」
美味しい。
悔しいけど、美味しい。
どんな高級フレンチよりも、この味が私の舌には合っているのだ。
「……来年も、これかな」
佐藤がぼんやりと言った。
私はチキンを咀嚼しながら、空を見上げた。
星は見えない。
コンビニの看板の明かりが、夜空を白く濁らせている。
「さあね。お店が潰れてなきゃいいけど」
「そっちかよ」
彼は笑って、またチキンを齧った。
来年も、再来年も。
きっと私たちはここにいる。
この冷めたチキン味の恋を噛み締めながら。
その未来が見えてしまっているのに、絶望していない自分が一番怖かった。
コンビニクリスマスでしか幸せを感じない体。
安上がりにできている。
ま、いっか。
半額シールが貼られた人生でも、一緒に食べる相手がいるなら。
「……酒、足りなくね?」
「そうね。戻って買う?」
「おう。今度は俺が出すわ」
私たちはまた、自動ドアをくぐった。
ジングルベルが、今度はファンファーレみたいに聞こえた。
(おわり)
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