『クラスで一番モテない男が、幼なじみと“仮恋人契約”したら、本物の恋に気づいてしまった件』~報酬はプリン100個。彼女が部屋でだけ甘えん坊

月下花音

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第12話 氷の女王の反撃と最強の援軍

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 中庭の空気が、パキンと音を立てて凍りついたようだった。
 玲奈の怒号が響いた瞬間、周囲のざわめきが波のように引いていく。

「……玲奈」

 俺は立ち尽くしていた。
 完璧な演技だったはずだ。酷い言葉で傷つけ、突き放したはずだ。
 なのに、彼女は一歩も引こうとしない。
 それどころか、涙を溜めた瞳で俺を睨みつけ、さらに距離を詰めてくる。

「答えて。何を言われたの? 何をネタに脅されたの?」

「……言えるわけないだろ。お前を守るために……」

「その『守る』が私を傷つけてるって、どうして分かんないのよ! このバカ!」

 玲奈が俺の胸元を掴んだ。
 華奢な両手。でも、そこには痛いほどの力が込められている。

「私は……健が悪者になってまで守られるなんて、まっぴらよ。あんたが隣にいないなら、完璧な評判なんてゴミ以下よ!」

 その言葉は、俺の心臓を直接揺さぶった。
 ああ、そうだ。こいつは昔からこうだった。
 一度言い出したら聞かない。頑固で、一直線で、そして――誰よりも俺のことを信頼してくれる。

「……おやおや、見苦しいね」

 その時、能天気な声が割って入った。
 人ごみを割って、佐々木先輩が現れた。
 その表情には、心配そうな「善人」の仮面が張り付いている。

「白石さん、こんな男、もう放っておきなよ。君を公衆の面前で振るような最低な奴だ」

 佐々木は玲奈の肩に馴れ馴れしく手を伸ばした。

「さあ、行こう。僕が慰めてあげるよ」

 その指先が玲奈に触れようとした、その瞬間。

 パシッ!

 玲奈が、佐々木の手を思い切り振り払った。
 乾いた音が中庭に響く。

「……触らないで」

 玲奈の声は、地獄の底のように冷え切っていた。
 さっきまでの健への熱い怒りとは違う。純粋な軽蔑と拒絶。
 “氷のクイーン”の瞳が、佐々木を射抜く。

「貴方なんでしょ。『嘘つき』ってメッセージを送ってきたのは」

「……は? 何の話だい?」

 佐々木は肩をすくめたが、その頬が微かに引きつっているのを俺は見逃さなかった。
 玲奈は確信を持って睨み返す。

「とぼけないで。……私の彼氏(ケン)をこれ以上傷つけたら、ただじゃおかないわよ」

 その迫力に、佐々木が一歩後ずさる。
 形勢逆転――かと思われたが、佐々木の目が怪しく光った。

「……証拠でもあるのかな? それに、君たちにはもっと大事な『秘密』があるんじゃないか?」

 脅しだ。
 ここでバラす気か。
 俺が慌てて割って入ろうとした時だ。

「あーっ! もったいなーい!!」

 突然、場違いに明るい声が降ってきた。
 全員の視線が一点に集中する。
 俺たちの足元で、しゃがみ込んでいる女子生徒がいた。
 橘彩香だ。

「ちょっと健くん! 卵焼き落とすとか重罪だよ!? これ、白石さんが早起きして作ったんでしょ?」

 彩香は地面に落ちた卵焼きをハンカチで拾い上げると、無事だった弁当箱の方を拾って立ち上がった。

「ほら、残りは無事! セーフセーフ!」

 彼女はニカッと笑って、俺と玲奈の間に割り込んだ。
 そして、佐々木の方を振り向き、首を傾げた。

「あれ、先輩もいたんですか? ……あ、さっき校舎の陰からスマホ向けてましたよね? この修羅場、動画に撮ってませんでした?」

「……なっ!?」

 佐々木の顔色が変わる。

「私、見ちゃったんですよねー。盗撮って、校則違反じゃないですか?」

 彩香の目は笑っていない。
 その鋭い「クラス委員の勘」が、佐々木の急所を的確に突いていた。
 周囲の学生たちが、今度は疑惑の目を佐々木に向け始める。
 「え、盗撮?」「キモ……」

 形成は完全に逆転した。

「……チッ」

 佐々木は小さく舌打ちをすると、憎々しげに俺たちを睨みつけた。

「……勘違いだよ。失礼する」

 彼は逃げるように、早足で去っていった。
 だが、その背中越しに、彼がポケットの中でスマホを強く握りしめているのが見えた。
 まだ終わっていない。その背中はそう語っていた。

 それでも、彼が見えなくなるまで、中庭は静寂に包まれた。

 そして。

「……はぁー、緊張したぁ!」

 彩香が大きなため息をついて、へなへなと座り込んだ。

「あ、彩香ちゃん……」

「大丈夫? 白石さん。……かっこよかったよ、タンカ切るところ」

 彩香はウィンクをして、俺に弁当箱を押し付けた。
 
「はい、健くん。これ食べて仲直りね。……あ、でも卵焼き一個減った分は、私がもらってもいいかな?」

「え?」

「健くんの隣。……ちょっとだけ、狙ってもいい?」

 彼女はイタズラっぽく、でも真剣な瞳で俺を見た。
 玲奈が即座に俺の腕に抱きつく。

「だめ! 健は私の!」

「ふふ、冗談半分だけどね……でも本気半分♪」

 彩香は楽しそうに笑うと、ポンと手を叩いた。

「あ、ねえねえ! 仲直り記念にプリン奢ってよ! 白石さんの主食でしょ?」

「……なんで知ってるのよ」

「有名だもん! さ、行こ行こ!」

 彩香が俺のもう片方の腕を引く。
 右に氷の女王、左に陽キャ美少女。
 中庭に、日常のようで非日常な空気が戻ってくる。

 でも、俺たちは知っていた。
 今日、俺たちは「共犯者」から「チーム」になったのだ。
 そして、あの佐々木との戦いは、まだ始まったばかりだということも。

(続く)
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