論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

文字の大きさ
4 / 63

第4話 「君の矛盾が好きだ」

しおりを挟む
午後2時の古本屋。

透は恋愛小説の棚を整理していた。

村上春樹、江國香織、角田光代。

恋の矛盾を描いた作家たちの言葉が、静かに並んでいる。

「矛盾こそが、人間らしさだ」

透は小さくつぶやく。

完璧な人間など、いない。



五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第4話。

店主の老人が、カウンターでコーヒーを淹れている。

「透くん、コーヒー飲むかい?」

「ありがとうございます」

透はカップを受け取る。

苦くて、でも温かい。

矛盾している。

でも、それがいい。

昼休み、透は公園のベンチに座っていた。

サンドイッチを頬張りながら、人々を眺める。

若いカップルが、笑いながら歩いている。

女性が何か言うと、男性が困った顔をする。

でも、すぐに笑顔になる。

「矛盾だらけだな、恋は」

透は小さく笑う。

好きなのに、嫌いになる瞬間がある。

一緒にいたいのに、一人になりたい時がある。

それが、恋だ。



午後11時の相談所。

透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

便箋には、几帳面な文字でこう書かれていた。

『社内に好きな人がいます。

でも、アプローチできません。

なぜなら、同期の女性が彼に好意を持っているからです。

彼女は私の友人です。

でも、私も彼が好きです。

友情を取るべきか、恋を取るべきか。

矛盾していて、苦しいです。

28歳・女性』

透はペンを取り、ノートに書き込む。

「友情の価値をF、恋愛の価値をL、罪悪感をGとする。

選択の期待値E=F×(友情維持率)-G vs L×(恋愛成功率)-G

だが、この式には致命的な欠陥がある。

人間は、矛盾を抱えて生きる生き物だ」

透の手が止まる。

窓の外、星空が見える。

星は、矛盾している。

遠くにあるのに、近くに感じる。

冷たいのに、温かく見える。

「矛盾は、悪いことじゃない」

透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『あなたの矛盾は、美しいです。

友情を大切にしたい。

でも、恋も諦めたくない。

その矛盾こそが、あなたが優しい人間である証拠です。

でも、問いを変えてみましょう。

「友情か、恋か」ではなく、

「どちらも大切にする方法はないか?」

矛盾は、選択を迫るものではありません。

矛盾は、創造を促すものです。

友人に正直に話してみてください。

「私も、彼が好きなの」

その一言が、すべてを変えます。

友人は、怒るかもしれません。

でも、友人は、理解するかもしれません。

どちらにしても、嘘をつき続けるよりは、正直でいる方が楽です。

恋は、競争ではありません。

恋は、選択です。

彼が誰を選ぶかは、彼次第です。

あなたにできるのは、正直でいることだけです。

友情と恋、どちらも大切です。

でも、どちらも失う可能性があります。

それが、人生です。

矛盾を抱えて、それでも前に進む。

それが、生きるということです。

完璧な選択など、ありません。

でも、正直な選択は、あります。

君の心に問いかけてください。

「私は、どちらを選んでも後悔しないか?」

答えがNoなら、まだ選ぶ時ではありません。

答えがYesなら、君はすでに答えを知っています。

矛盾を抱きしめて、前に進んでください。

藤原透』

透は手紙を封筒に入れ、棚に置いた。

棚には、少しずつ手紙が増えている。

矛盾だらけの悩みが、静かに並んでいる。

透は窓の外を見る。

星空が、矛盾だらけの世界を照らしている。

光っているのに、冷たい。

遠いのに、心に届く。

透も、矛盾している。

人の悩みを解きたい。でも、自分の悩みは解けない。

論理的でありたい。でも、感情的になる。

「俺も、矛盾だらけだな」

透は小さく笑う。

でも、それでいい。

矛盾こそが、人間らしさだ。

透は相談所を出て、交差点に立つ。

五つの道。

風が、優しく吹き抜ける。

「君の矛盾が好きだ」

透は小さくつぶやく。

その矛盾が、君を君にしているから。

(第4話完 次話へ続く)

次回、透は「僕はまだ、触れていない」という距離感について考える。
そして、誰かの距離が——君の想像する「一歩」が、動き始める——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

後の祭り 

ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
 母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

処理中です...