論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第6話 「無意識の距離」

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午後3時の古本屋。

透は心理学の棚を整理していた。

フロイト、ユング、河合隼雄。

無意識を探求した学者たちの言葉が、静かに並んでいる。

「人は、無意識に距離を測る」

透は小さくつぶやく。

近づきたいのに、離れてしまう。

それは、無意識の防衛本能だ。

でも、その距離は本当に必要なのだろうか?

それとも、ただの恐れなのだろうか?



五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第6話。

店主の老人が、カウンターで昼寝をしている。

穏やかな午後。

透は窓の外を眺める。

誰かと誰かの距離が、見えるような気がする。

夕方、透はカフェに立ち寄った。

コーヒーを注文し、窓際の席に座る。

隣のテーブルに、男女が座っている。

30代くらい。

会話は弾んでいるが、微妙な距離がある。

懐かしそうで、でもぎこちない。

「元恋人、か」

透は小さく笑う。

過去との距離は、測りにくい。




午後11時の相談所。

透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

便箋には、几帳面な文字でこう書かれていた。

『元カノと再会しました。

偶然、街で。5年ぶりです。彼女は変わっていませんでした。

でも、僕は変わっていました。

今は、別の人と付き合っています。

でも、元カノと話していると、昔の気持ちが蘇ってきます。

無意識に、距離を詰めてしまいます。

これは、まだ好きだということですか?

それとも、ただの懐かしさですか?

30歳・男性』

透はペンを取り、ノートに書き込む。

「過去の感情をP、現在の感情をC、懐かしさをNとする。

感情の混合E=P×(記憶の重み)+C×(現実の重み)+N×(時間の歪み)

だが、この式には本質が欠けている。

人は、無意識に過去を美化する」

透の手が止まる。

窓の外、星空が見える。

星は、過去の光だ。

今見ている星は、何年も前の姿。

でも、美しい。

「過去との距離、か」

透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『あなたの悩みは、元カノがまだ好きかどうかではありません。

あなたの悩みは、過去と現在の距離が測れないことです。

でも、それは正常です。人は、無意識に過去を美化します。

元カノとの思い出は、時間というフィルターを通して、美しく見えます。

でも、問いを変えてみましょう。

「元カノがまだ好きか?」ではなく、

「今の恋人と、元カノ、どちらと未来を作りたいか?」

過去は、美しいです。

でも、過去は、変えられません。

未来は、不確かです。

でも、未来は、作れます。

元カノとの再会は、懐かしさです。

でも、懐かしさは、恋ではありません。

懐かしさは、記憶です。

記憶は、美しいです。

でも、記憶だけでは、生きられません。

無意識に距離を詰めてしまう。

それは、あなたが過去に未練があるからではありません。

それは、あなたが過去を大切にしているからです。

過去を大切にすることは、悪いことではありません。

でも、過去に囚われることは、危険です。

今の恋人を見てください。

彼女は、あなたの未来です。

元カノは、あなたの過去です。

どちらを選ぶかは、あなた次第です。

でも、選ぶなら、未来を選んでください。

過去は、美しい記憶として、心に残しておいてください。

無意識の距離を、意識してください。

そして、未来に向かって、一歩を踏み出してください。

藤原透』

透は手紙を封筒に入れ、棚に置いた。

棚には、少しずつ手紙が増えている。

過去と現在の距離に悩む人たちの、切ない想いが並んでいる。

透は窓の外を見る。

交差点が、静かに佇んでいる。

「無意識の距離、か」

透は小さくつぶやく。

人は、無意識に距離を置く。

大切なものほど。

透は相談所を出て交差点に立つ。

五つの道。

風が、静かに流れる。

「無意識の距離を意識する」

透は小さくつぶやく。

いつか、真実に触れる日まで。

(第6話完 次話へ続く)

次回、透は「夜風に混じる名前」を聞く。
そして、誰かの名前が——君の想像する「存在」が、動き始める——。
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