論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第24話「不器用な祈り」

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 午前7時のカフェ。

 透は窓際の席で、コーヒーを飲んでいた。

 苦い。

 でも、目が覚める。

「祈りは、論理じゃない」

 透は小さくつぶやく。

 でも、人は祈る。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第24話。

 午後3時の古本屋。

 透は哲学書の棚を整理していた。

 カント、ニーチェ、ハイデガー。

 祈りを否定した学者たちの言葉が、並んでいる。

「祈りは、無力だ」

 透は小さくつぶやく。

 でも、人は祈る。なぜだろう。

 ◆

 午後11時の相談所。

 透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

 便箋には、丸い文字でこう書かれていた。

『神様に、祈ったことがあります。

 でも、叶いませんでした。

 祈りは、無意味なのでしょうか?

 それとも、私の祈り方が間違っていたのでしょうか?

 24歳・女性』

 透の手が、止まる。

 祈り。

 透は祈ったことがある。

 妹が死んだ時。

「生き返ってほしい」

 でも、叶わなかった。

 透はペンを取り、震える手で書き始めた。

『あなたの祈りは、無意味ではありません。

 祈りは、叶うか叶わないかではありません。

 祈ること自体が、意味です。

 祈りは、あなたの願いを形にします。

 祈りは、あなたの心を整えます。

 祈りは、あなたを前に進ませます。

 叶わなかった祈りは、無駄ではありません。

 その祈りが、あなたを成長させました。

 その祈りが、あなたを強くしました。

 その祈りが、あなたを優しくしました。

 祈り方が間違っていたのではありません。

 祈りは、正しいも間違いもありません。

 ただ、祈る。

 それだけで、十分です。

 私も、祈ります。

 あなたの願いが、いつか叶いますように。

 私の祈りは、不器用です。

 でも、本気です。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置いた。

 でも、手が止まる。

「俺の祈りは、不器用だ」

 透は小さくつぶやく。

 でも、それでいい。

 不器用でも、本気なら、届く。

 透は引き出しを開ける。

 星座図に、手を伸ばす。

 指先が震える。

 触れる。

 埃が、舞う。

 雪の字が、指先に触れる。

 ページをめくる。

 最後のページだけ。

 雪の字で、書きかけの文字。

「透お兄ちゃん、ごめ」

 そこまでで、終わっている。

「ん」が途中で切れている。

 インクが、滲んでいる。

 涙で。

 雪が泣きながら書いていた。

 透は、星座図を抱きしめる。

「ごめん」

 声に出す。

 涙が、星座図に落ちる。

 インクが、さらに滲む。

「ごめん」が、消えていく。

 透は、星座図を閉じた。

 他のページは、まだ開けない。

 まだ、開けない。

 透は引き出しに戻した。

 それで、十分だ。

(第24話完 次話へ続く)

 次回、透は「嘘より重い沈黙」に向き合う。
 そして、誰かの沈黙が——君の想像する「真実」が、動き始める——。
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