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第25話「嘘より重い沈黙」
しおりを挟む午後8時のカフェ。
透は美月の向かいに座っていた。
二人で会うのは、三回目だ。
でも、今日は何かが違う。
「沈黙は、時に嘘より重い」
透は小さくつぶやく。
美月は、何も言わない。
◆
五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第25話。
透はコーヒーカップを見つめる。
美月も、紅茶を見つめている。
会話が、途切れた。
五分前までは、笑っていたのに。
「美月さん」
透は口を開く。
「はい」
美月は顔を上げる。
でも、目が合わない。
「何か、ありましたか?」
「いえ、何も」
美月は小さく笑う。
でも、その笑顔が嘘だと、透には分かる。
「嘘ですね」
透は静かに言う。
美月の手が、止まる。
「藤原さんには敵いませんね」
美月は小さく笑う。
でも、笑えていない。
「話してください」
透は、美月の目を見る。
美月は、視線を逸らす。
「話したくないことも、あります」
透の胸が、痛む。
美月が、何かを隠している。
でも、透には聞けない。
「分かりました」
透は小さく頷く。
「無理に聞きません」
美月は、透を見る。
「ありがとうございます」
でも、その目は悲しい。
二人は、また黙る。
沈黙が重い。嘘より重い。
透は初めて知る。言葉にしない痛みの重さを。
◆
午後11時の相談所。
透は机に向かい、新しい手紙を開いた。
便箋には、震える文字でこう書かれていた。
『彼に、言えないことがあります。
言ったら、嫌われそうで。
でも、黙っているのも辛いです。
嘘をつくべきでしょうか?
それとも、沈黙を守るべきでしょうか?
27歳・女性』
透の手が、止まる。
美月のことだ。
いや、違う。
でも、似ている。
透はペンを取り、ノートに書き込む。
「嘘の罪悪感をL、沈黙の重さをS、真実の破壊力をTとする。
だが、この式には本質が欠けている。
沈黙は、時に優しさだ」
透の手が、震える。
美月は、何を隠しているのか。
でも、それを聞く権利が、透にあるのか。
「俺は、何者だ」
透は小さくつぶやく。
美月の恋人じゃない。
ただの、知り合いだ。
でも、透は美月を愛している。だから、苦しい。
透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。
『あなたの沈黙は、間違っていません。
言えないことは、誰にでもあります。
嘘をつく必要も、ありません。
沈黙を守ってください。
でも、いつか話せる日が来ます。
その時まで、待ってください。
沈黙は、時に優しさです。
相手を傷つけないための、優しさです。
でも、沈黙は重いです。
一人で抱えるには、重すぎます。
だから、誰かに話してください。
彼じゃなくても、いいです。
友達でも、家族でも、私でも。
沈黙を分かち合ってください。
それが、あなたを救います。
嘘より重い沈黙。
でも、その重さを一人で抱える必要はありません。
藤原透』
透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。
でも、手が止まる。
「俺は、偽善者だ」
透は小さくつぶやく。
美月の沈黙を尊重すると言いながら、
透は美月の秘密を知りたい。
矛盾している。
透の携帯が鳴る。
メッセージだ。
美月からだった。
『今日は、ごめんなさい。
変な空気にしてしまって。
でも、まだ話せません。
いつか、話します。
その時まで、待っていてくれますか?
星野美月』
透は、画面を見つめる。
心臓が、痛む。
「待つ、か」
透は返信する。
『待ちます。
いつまでも。
美月さんが話したい時まで。
藤原透』
送信ボタンを押す。
透は、携帯を置く。
でも、すぐに返信が来た。
『ありがとうございます。
藤原さんは、優しいです。
でも、優しすぎます。
私、藤原さんを傷つけるかもしれません。
星野美月』
透の息が、止まる。
「傷つける?」
透は、画面を見つめる。
美月は、何を隠しているのか。
透を傷つけるほどの、秘密。
透は返信する。
『傷ついても、いいです。
美月さんが話したい時に、話してください。
俺は、逃げません。
藤原透』
送信ボタンを押す。
透は、自分の言葉を読み返す。
「俺は、逃げない」
本当に、そうか。
美月の秘密が、透を傷つけるものだったら。
それでも、透は美月を愛せるのか。
透は、分からない。
でも、今は信じる。
美月を。
そして、自分を。
透は相談所を出て、交差点に立つ。
五つの道。
どれを選んでも、美月に繋がる。
でも、今日は違う。
美月が、遠い。
風が、吹き抜ける。
冷たい。
「嘘より重い沈黙」
それが、二人の間に横たわっている。
でも、透は待つ。
美月が話すまで。
それが、透にできる唯一のことだ。
(第25話完 次話へ続く)
次回、透は「心に棲む影」を見つける。
そして、透の不安が——君の想像する「疑念」が、芽生え始める——。
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