論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

文字の大きさ
53 / 63

第53話 「再会の温度」

しおりを挟む
 午後3時の病室。

 透は窓の外を見ていた。

 空が青い。

 雲が流れる。

 でも透の心は暗い。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第53話。

 ドアが開く音がした。

 透は振り返る。

 美月が立っている。

 透の心臓が跳ねる。

「美月さん……!」

 透は声を出す。

 でも美月の目は冷たい。

「藤原さん、大丈夫ですか?」

 美月の声が、他人行儀だ。

 透は手を伸ばす。

「美月さん……」

 美月は一歩下がる。

「触らないでください」

 透の手が止まる。

 心臓が痛む。

「美月さん……なんで……」

 美月は涙を流す。

「私、もう藤原さんに触れられません」

 透は首を振る。

「どうして……」

 美月は小さく呟く。

「雪ちゃんを裏切ることになるから」

 透の息が止まる。

「裏切り……?」

 美月は頷く。

「私は雪ちゃんと繋がっていた」

「雪ちゃんの大切な人を、奪うことになる」

「だから、もう触れられません」

 透は首を振る。

「裏切りじゃない……」

 美月は涙を拭う。

「裏切りです」

「私は、雪ちゃんに謝らなきゃいけない」

「でも、謝れない」

「だから、せめて藤原さんから離れます」

 透は立ち上がろうとする。

 でも体が動かない。

「美月さん……待って……」

 美月は後ずさる。

「ごめんなさい」

「私、もう行きます」

 透は叫ぶ。

「待ってくれ!」

 でも美月はドアに手をかける。

「さようなら、藤原さん」

 美月の声が震える。

「幸せになってください」

 ドアが閉まる。

 透は一人残される。

「美月さん……!」

 透は叫ぶ。

 でも返事はない。

 透はベッドに座り込む。

 涙が溢れる。

「また……いなくなった……」

 透は小さく呟く。

 心臓が痛む。

 息が苦しい。

「美月さんの温度……冷たかった……」

 透は頭を抱える。

「俺は……また失った……」

 ◆

 午後11時の病室。

 透は眠れずにいた。

 美月の顔が浮かぶ。

 冷たい目。

 他人行儀な声。

「触らないでください」

 その言葉が胸に刺さる。

 透は小さく呟く。

「美月さん……」

 その時、窓の外に誰かが立っている。

 透は目を凝らす。

 雪だ。

「お兄ちゃん」

 雪が窓越しに話しかける。

 透は窓に近づく。

「雪……」

 雪は笑っている。

「美月ちゃん、来たんだね」

 透は頷く。

「来た……でも、すぐ帰った……」

 雪は首を傾げる。

「どうして?」

 透は涙を流す。

「美月さんは、お前を裏切ることになるって……」

「だから、俺に触れられないって……」

 雪は小さく笑う。

「裏切りじゃないのに」

 透は首を振る。

「美月さんは、そう思ってる……」

 雪は窓に手を当てる。

「お兄ちゃん、美月ちゃんを追いかけて」

 透は首を振る。

「追いかけられない……体が動かない……」

 雪は涙を浮かべる。

「お兄ちゃん、諦めないで」

「美月ちゃんは、お兄ちゃんを愛してるよ」

「ただ、怖いだけ」

 透は窓に手を当てる。

「怖い……?」

 雪は頷く。

「私のことが、怖いんだよ」

「私が、二人の間にいるから」

 透は涙を流す。

「雪……お前は、邪魔じゃない……」

 雪は笑う。

「分かってる」

「でも、美月ちゃんは分かってない」

「だから、お兄ちゃんが教えてあげて」

 雪は消える。

 透は一人残される。

「教える……?」

 透は小さく呟く。

「どうやって……」

 透はベッドに戻る。

 心臓が痛む。

 でも、諦めない。

 美月に、もう一度会う。

 そして、伝える。

 雪は邪魔じゃない。

 美月は裏切ってない。

 俺は、美月を愛してる。

 透は目を閉じる。

 今度は眠るために。

 明日、美月を探すために。

(第53話完 次話へ続く)

 次回、透は「君の影を追いかけて」走り出す。
 そして、透の決意が——君の想像する「最後の希望」に、変わる——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

後の祭り 

ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
 母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

処理中です...