【短編】クソみたいな義理チョコ地獄

月下花音

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3. ホワイトデー待ち

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 2月15日から3月14日までの期間を、私は「拷問期間」と呼ぶことにした。
 バレンタインが終わってからの1ヶ月。
 長い。
 永遠に感じる。
 タカハシからのリアクションがないからだ。
 あの日「あざす」と言ってチョコを受け取ってから、特に進展がない。
 教室では普通に話すし、消しゴム貸したり借りたりもする。
 でも、チョコの感想もなければ、ホワイトデーの話も出ない。
 忘れてる?
 それとも、あの300円チョコは「お返し不要の義理」認定された?
 不安で夜も眠れない(昨日は8時間寝たけど)。

 3月に入った頃、ようやくタカハシの動きがあった。
 LINEだ。
『お前、何が好きなん?』
 唐突な質問。
 夜の11時。
 心臓が跳ねた。
 これって、お返しのリサーチだよね?
 期待していいんだよね?
 私は慎重に返信を打つ。
 高すぎず、かといって安すぎず、センスを問われるような難題でもないもの。
『スタバのカードとか?』
 無難だ。
 これなら500円でも1000円でも調整できるし、もらって困るものじゃない。
『食いもんじゃなくて?』
『形に残るもんがいいの?』
 タカハシからの追撃。
 え、形に残るもの?
 それって……重くない?
 300円のチョコに対して形に残るものって何?
 ドン・キホーテで売ってる謎のドクロのネックレスとか?
 それともUFOキャッチャーで取ったぬいぐるみとか?
 タカハシのセンスを全く信用していない私は、恐怖を感じた。
『いや、消えものがいい! お菓子とか!』
 必死に軌道修正を図る。
 変なものをもらって、それを一生タンスの肥やしにする未来は避けたい。
『ふーん。わかった』
 何がだよ。
 分かったのかよ。
 絶対に分かってない反応だ。

 翌日、学校でタカハシと目が合った。
 ニヤッとしている。
 不吉だ。
 何か企んでいる顔だ。
 お昼休み、購買のパンを食べていると、タカハシが話しかけてきた。
「ホワイトデーさ、空けとけよ」
「えっ」
 パンを喉に詰まらせそうになった。
「空けとけって……放課後?」
「おう。渡したいもんあるから」
「……うん」
 周囲の女子たちの視線を感じる。
「え、何今の?」「タカハシと?」「デート?」
 ひそひそ話が聞こえてくる。
 カースト中位の私が、男子と約束を取り付けているという事実が、クラスの生態系を揺るがしている。
 優越感と、恥ずかしさが入り混じる。

 放課後、アイリに捕まった。
「ねーねーミサキ! タカハシと何かあるん?」
 目が笑ってない。
 面白がってる目だ。
「いや、ただの義理チョコのお返しだよ」
「ふーん。でも放課後残れって言われたんでしょ? 怪し~!」
「怪しくないし!」
 否定すればするほど、泥沼にハマっていく。
 アイリは「実況待ってるね♡」と言って去っていった。
 プレッシャーがすごい。
 もしタカハシのお返しが、うまい棒100本とかだったら、私は一生の笑い者だ。
 あるいは、手作りの何かとか……。
 想像しただけで震えが止まらない。

 家に帰って、ホワイトデーの理想と現実をシミュレーションしてみる。
 理想:可愛いクッキー缶(デパ地下)。ちょっとしたハンドクリーム(ロクシタン)。
 現実:コンビニのホワイトデーコーナーで売ってるマシュマロ。ペラペラのハンカチ。
 最悪のケース:自作のポエム。お母さんが選んだダサいポーチ。
 タカハシならやりかねない。
 あいつの私服、いつも英字プリントのTシャツだし。
「FREEDOM」とか書いてあるやつ。
 センスが中2で止まってるんだよ。
 そんなやつが選ぶ「形に残るもの」なんて、地雷以外の何物でもない。

 スマホを見る。
 タカハシのLINEアイコンは、初期設定のままの人型シルエットだ。
 アイコンすら変えない無頓着男。
 でも、そんな男が私のために何かを選んでくれているという事実が、どうしてもニヤけてしまうのを止められない。
「……期待はしない。期待はしない」
 お経のように唱えながら、私は布団に入った。
 胃が痛い。
 キリキリする。
 恋の病なのか、単なるストレス性胃炎なのか、今の私には区別がつかなかった。
 夢に出てきたタカハシは、なぜか巨大なブラックサンダーを抱えて追いかけてきた。
 悪夢だ。
 3月14日が来るのが、怖くてたまらない。

(つづく)
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