幼馴染に「つまらない」と捨てられた俺、実は学校一のクール美少女(正体は超人気覆面配信者)の「生活管理係」でした。

月下花音

文字の大きさ
3 / 41
第一章 捨てられた俺と、ポンコツ美少女の生活管理係

第3話:その視線は、絶対零度の監視カメラ

しおりを挟む
 翌日の放課後。
 教室は、いつものように騒がしい動物園だった。

 スクールカースト上位の連中は、窓際で大きな声で笑っている。
 その中心にいるのは、サッカー部の拓海先輩と、その腕にぶら下がっているミサだ。

「拓海センパイ、マジうけるー!」
「だろ? あいつマジでさー」

 幸せそうで何よりだ。
 俺の心臓は、雑巾みたいに絞られる感覚があるけどな。
 昨日まで俺に向けていた笑顔を、躊躇いなく別のアオスジカミキリみたいな男に向けているのを見るのは、精神衛生上よろしくない。

 俺は教科書を鞄に詰めて、さっさと帰ろうとした。
 その時。

「あ、相沢くん。ちょっといい?」

 声をかけてきたのは、クラスメイトの図書委員、小野寺(おのでら)さんだった。
 地味だけど愛想のいい子だ。

「昨日の日直日誌、書き忘れてるとこあって……ここ、お願いできる?」
「ああ、ごめん。すぐ書くよ」

 俺はシャーペンを取り出して、日誌に書き込み始めた。
 小野寺さんが隣で、「ごめんね、急がせて」と申し訳なさそうに覗き込んでくる。
 石鹸の匂いがした。
 
 平和な日常。
 ……のはずだった。

 ゾワリ。
 背中に、氷柱(つらら)を突き立てられたような寒気が走った。

 なんだ?
 エアコンの設定温度が壊れたか?
 それとも、俺の動物的本能が「捕食者」の気配を感知したのか。

 恐る恐る、視線を感じる方向――窓際の特等席を見る。

 そこに、天道玲奈がいた。
 今日も完璧に美しい姿勢で、本を読んでいる。
 ……はずなんだけど。

 本のページ、さっきから全然めくられてない。
 そして、前髪の隙間から覗く瞳が、完全に俺を見ていた。
 いや、俺じゃない。
 俺の隣にいる、小野寺さんをロックオンしてる。

 『 殺 す 』

 声は聞こえない。
 でも、その目は雄弁にそう語っていた。
 
 目が据わっている。
 昨日の「餓死するぅ」っていう甘えた目じゃない。
 縄張りを荒らされた野生動物の、ガチの威嚇だ。

 ヤバい。
 
「……あ、あの、相沢くん?」
 小野寺さんが震え声を出した。
「な、なんか急に寒くない……? あと、すごい視線を感じるんだけど……」

「気のせいだ。……ほら、書けたよ」
「あ、ありがとう! じゃ、じゃあね!」

 小野寺さんは逃げるように去っていった。
 賢明な判断だ。これ以上いたら、社会的に抹殺されていたかもしれない。

 俺は冷や汗を拭った。
 玲奈のやつ、何を考えてるんだ。
 契約違反だろ。「学校では他人のフリ」って言ったのはお前だぞ。

 俺も荷物をまとめて、教室を出ようとした。
 その時、通路を塞ぐように、ミサと拓海先輩がイチャついていた。

「ねー、今度の日曜、あの新しいカフェ行きたいー」
「おー、いいよ。お前のためなら並ぶわ」
「優しいー! やっぱ拓海センパイ最高!」

 ……聞こえるように言ってんのか?
 俺が日曜に連れて行ってやった時は、「並ぶの疲れるから嫌」って言ったくせに。
 
 俺は視線を逸らして、脇を通り抜けようとした。
 惨めだ。
 負け犬は尻尾を巻いて退散するしかない。

 ガタッ!!

 教室中に、凄まじい音が響いた。
 
 全員が動きを止める。
 音の発生源は、窓際。
 玲奈が立ち上がっていた。その足元には、彼女が読んでいた分厚いハードカバーの本が落ちている。
 わざと落としたとしか思えない、不自然な落下音。

「……うるさい」

 玲奈は、ミサと拓海先輩を見下ろして言い放った。

「公衆の面前で見苦しい。盛るなら他所でやって」

 教室の温度が、さらに五度下がった。
 ミサが顔を真っ赤にして、「な、なによ……」と反論しようとするが、言葉が出ない。
 圧倒的な「格」の違い。
 美貌、オーラ、冷徹さ。全てにおいて、天道玲奈は君臨している。

 玲奈はゆっくりと本を拾い上げ、埃を払った。
 そして、俺の方を一瞥もしないまま、教室を出て行った。
 ミサたちの横を通り過ぎる時、鼻で笑ったような気がした。

 ……あいつ。
 俺のために怒ったのか?
 いや、まさかな。単にうるさかっただけだろ。

 俺は動揺を隠して、早足で教室を出た。
 廊下の角を曲がったところで、スマホが震えた。

 『LINE:玲奈』
 『1. 小野寺さんと喋りすぎ。距離が近い。半径50cm以内立ち入り禁止』
 『2. あのバカップル、視界に入って不快だったから駆除しといた』
 『3. 今日の夜ご飯、ハンバーグじゃなきゃ許さない』

 ……全部見てたのかよ。
 そして「駆除」ってなんだよ。害虫扱いかよ。

 俺はスマホの画面を見ながら、苦笑いした。
 重い。怖い。
 でも、あの教室で、俺の味方をしてくれたのは、あの性格の悪い『氷の令嬢』だけだった。

 その事実が、どうしようもなく嬉しかった。
 俺はスーパーの特売チラシアプリを開きながら、挽肉の値段を確認した。
 
(つづく)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

【朗報】俺をこっぴどく振った幼馴染がレンカノしてたので2時間15,000円でレンタルしてみました

田中又雄
恋愛
俺には幼稚園の頃からの幼馴染がいた。 しかし、高校進学にあたり、別々の高校に行くことになったため、中学卒業のタイミングで思い切って告白してみた。 だが、返ってきたのは…「はぁ!?誰があんたみたいなのと付き合うのよ!」という酷い言葉だった。 それからは家は近所だったが、それからは一度も話をすることもなく、高校を卒業して、俺たちは同じ大学に行くことになった。 そんなある日、とある噂を聞いた。 どうやら、あいつがレンタル彼女なるものを始めたとか…。 気持ち悪いと思いながらも俺は予約を入れるのであった。 そうして、デート当日。 待ち合わせ場所に着くと、後ろから彼女がやってきた。 「あ、ごめんね!待たせちゃっ…た…よ…ね」と、どんどんと顔が青ざめる。 「…待ってないよ。マイハニー」 「なっ…!?なんであんたが…!ばっかじゃないの!?」 「あんた…?何を言っているんだい?彼女が彼氏にあんたとか言わないよね?」 「頭おかしいんじゃないの…」 そうして、ドン引きする幼馴染と俺は初デートをするのだった。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに

家紋武範
恋愛
 となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。  ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。

俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい

沢尻夏芽
恋愛
 自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。  それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。 『様子がおかしい』 ※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。  現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。  他サイトでも掲載中。

処理中です...