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第一章 捨てられた俺と、ポンコツ美少女の生活管理係
第8話:賞味期限切れのプライド
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翌日。
学校は、妙な熱気に包まれていた。
『レイ・スカイウォーカー』の昨夜の放送事故。
ネットニュースにもなり、SNSのトレンドも独占。
「相手は誰だ!?」「通ってる高校はどこだ!?」と特定班が動き回っているらしい。
だが、灯台下暗し。
まさかその相手が、クラスの隅で死んだ目をしている俺だとは、誰も思うまい。
俺は極力気配を消して、移動教室へ向かっていた。
その時だ。
「……ねえ、湊」
階段の踊り場で、行く手を阻まれた。
朝比奈美咲だ。
昨日の調理実習以来、目が合うのを避けていたはずなのに、今日は真正面から待ち伏せしていた。
「……何?」
「ちょっと、話聞いてよ」
ミサは、さも当然のように俺の袖を掴んだ。
その慣れ親しんだ手つきに、俺は違和感を覚えた。
……軽い。
玲奈が掴んでくる時の、あの「重力」みたいな必死さが全くない。
「拓海先輩ってば、マジありえないの。昨日もデートでさ、私の足が痛いのに全然気づかないし、自分の話ばっかだし」
彼女はため息をついて、上目遣いに俺を見た。
「やっぱり、湊じゃないとダメかも。……私のこと、一番わかってくれるの、湊じゃん?」
出た。
彼女の得意技、「不幸自慢からの甘え」。
昔の俺なら、これを聞いて「可哀想に」「俺が慰めてやるよ」とチョロく絆されていた。
でも今は。
「……で? それがどうした」
「え?」
俺の口から出たのは、冷え切った言葉だった。
冷たいんじゃない。
興味がないんだ。
彼女の声が、妙に薄っぺらく聞こえる。
まるで、圧縮率を間違えた低音質の音声ファイルみたいに、心に響かない。
「ど、どうしたって……友達でしょ? 相談くらい乗ってくれても……」
「友達?」
俺は笑いそうになった。
一方的に振っておいて、都合が悪くなったら友達枠で再利用か。
リサイクルショップじゃないんだぞ、俺の人生は。
「俺、忙しいんだ。お前の彼氏の愚痴を聞いてる暇はない」
俺は彼女の手を振り払おうとした。
その時。
ヒュッ、と空気が凍った。
階段の上から、誰かが降りてくる気配。
足音はない。
ただ、絶対零度の冷気だけが漂ってくる。
「……どいて」
玲奈だった。
抱えていた資料を胸に押し当て、階段の上からミサを見下ろしている。
その目は、完全に「汚物」を見る目だった。
「て、天道さん……?」
「邪魔。そこ通れない」
「あ、ご、ごめんなさい……」
ミサが慌てて道を空ける。
クラスカースト最上位の『氷の令嬢』には、さすがのミサも逆らえない。
玲奈はゆっくりと階段を降りてきた。
俺とミサの間を通り過ぎる。
その瞬間。
ピタリ、と足を止めた。
彼女はミサには目もくれず、俺の方だけを見て言った。
「……湊。今日の夕飯、グラタンがいい」
「え?」
「ホワイトソース、ダマにならないようにしてね。……楽しみにしてる」
それだけ言い残して、彼女は去っていった。
グラタン。
それはただの夕飯のリクエストだ。
でも、このタイミングでの発言は、明確な「マウント」だった。
『こいつの胃袋を握ってるのは私だ』
『こいつの夜の時間を支配してるのは私だ』
そう宣言したに等しい。
ミサが、ポカンとして俺を見ている。
「……え? 湊、今の何? 天道さんと……知り合いなの?」
「……さあな」
俺は肩をすくめた。
「ただ、俺は忙しいってことだ。誰かさんの世話をする時間なんてもうない」
俺は呆然とするミサを残して、階段を降りた。
背中で、ミサの小さな声が聞こえた気がした。
「なんで……?」という、悔しさと困惑が入り混じった声が。
でも、俺の足取りは軽かった。
重たいヒロインに振り回されているはずなのに、どうしてこんなに足が軽いんだろうな。
ポケットの中でスマホが震えた。
『LINE:玲奈』
『今撃退した。褒めて』
『スタンプ(ドヤ顔の猫)』
俺は吹き出しそうになるのを堪えて、画面を閉じた。
……ああ、グラタンか。
マカロニ買って帰らないとな。
(つづく)
学校は、妙な熱気に包まれていた。
『レイ・スカイウォーカー』の昨夜の放送事故。
ネットニュースにもなり、SNSのトレンドも独占。
「相手は誰だ!?」「通ってる高校はどこだ!?」と特定班が動き回っているらしい。
だが、灯台下暗し。
まさかその相手が、クラスの隅で死んだ目をしている俺だとは、誰も思うまい。
俺は極力気配を消して、移動教室へ向かっていた。
その時だ。
「……ねえ、湊」
階段の踊り場で、行く手を阻まれた。
朝比奈美咲だ。
昨日の調理実習以来、目が合うのを避けていたはずなのに、今日は真正面から待ち伏せしていた。
「……何?」
「ちょっと、話聞いてよ」
ミサは、さも当然のように俺の袖を掴んだ。
その慣れ親しんだ手つきに、俺は違和感を覚えた。
……軽い。
玲奈が掴んでくる時の、あの「重力」みたいな必死さが全くない。
「拓海先輩ってば、マジありえないの。昨日もデートでさ、私の足が痛いのに全然気づかないし、自分の話ばっかだし」
彼女はため息をついて、上目遣いに俺を見た。
「やっぱり、湊じゃないとダメかも。……私のこと、一番わかってくれるの、湊じゃん?」
出た。
彼女の得意技、「不幸自慢からの甘え」。
昔の俺なら、これを聞いて「可哀想に」「俺が慰めてやるよ」とチョロく絆されていた。
でも今は。
「……で? それがどうした」
「え?」
俺の口から出たのは、冷え切った言葉だった。
冷たいんじゃない。
興味がないんだ。
彼女の声が、妙に薄っぺらく聞こえる。
まるで、圧縮率を間違えた低音質の音声ファイルみたいに、心に響かない。
「ど、どうしたって……友達でしょ? 相談くらい乗ってくれても……」
「友達?」
俺は笑いそうになった。
一方的に振っておいて、都合が悪くなったら友達枠で再利用か。
リサイクルショップじゃないんだぞ、俺の人生は。
「俺、忙しいんだ。お前の彼氏の愚痴を聞いてる暇はない」
俺は彼女の手を振り払おうとした。
その時。
ヒュッ、と空気が凍った。
階段の上から、誰かが降りてくる気配。
足音はない。
ただ、絶対零度の冷気だけが漂ってくる。
「……どいて」
玲奈だった。
抱えていた資料を胸に押し当て、階段の上からミサを見下ろしている。
その目は、完全に「汚物」を見る目だった。
「て、天道さん……?」
「邪魔。そこ通れない」
「あ、ご、ごめんなさい……」
ミサが慌てて道を空ける。
クラスカースト最上位の『氷の令嬢』には、さすがのミサも逆らえない。
玲奈はゆっくりと階段を降りてきた。
俺とミサの間を通り過ぎる。
その瞬間。
ピタリ、と足を止めた。
彼女はミサには目もくれず、俺の方だけを見て言った。
「……湊。今日の夕飯、グラタンがいい」
「え?」
「ホワイトソース、ダマにならないようにしてね。……楽しみにしてる」
それだけ言い残して、彼女は去っていった。
グラタン。
それはただの夕飯のリクエストだ。
でも、このタイミングでの発言は、明確な「マウント」だった。
『こいつの胃袋を握ってるのは私だ』
『こいつの夜の時間を支配してるのは私だ』
そう宣言したに等しい。
ミサが、ポカンとして俺を見ている。
「……え? 湊、今の何? 天道さんと……知り合いなの?」
「……さあな」
俺は肩をすくめた。
「ただ、俺は忙しいってことだ。誰かさんの世話をする時間なんてもうない」
俺は呆然とするミサを残して、階段を降りた。
背中で、ミサの小さな声が聞こえた気がした。
「なんで……?」という、悔しさと困惑が入り混じった声が。
でも、俺の足取りは軽かった。
重たいヒロインに振り回されているはずなのに、どうしてこんなに足が軽いんだろうな。
ポケットの中でスマホが震えた。
『LINE:玲奈』
『今撃退した。褒めて』
『スタンプ(ドヤ顔の猫)』
俺は吹き出しそうになるのを堪えて、画面を閉じた。
……ああ、グラタンか。
マカロニ買って帰らないとな。
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