神様の失敗作ガチャを引かされた俺(元SE)、ハズレ女神たちと寂れた異世界を「再創生(リ・ジェネシス)」する

月下花音

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第4話:データベース:ソフィア(バグ:忘却)

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 水がない。
 食料と住居は確保したが、水源が見つからないのは致命的だ。
 ソフィアのマッピングによれば、この近くに地下水脈があるはずなのだが。

「……えっと、確かなんです。絶対にあるんです」
 ソフィアが涙目で訴える。
「古代の地層データにも書いてありましたし……」

「じゃあ、その場所は?」
「……忘れました」

 俺は天を仰いだ。
 全知全能の知識の女神。
 ただし、メモリ容量(RAM)が極端に少ない。
 HDD(知識)は膨大だが、それを展開する作業領域が足りていないのだ。

「ソフィア。……君はいつもどうやって知識を引き出してるんだ?」
「えっと……大事なことは、忘れないように書いておくんです」
「どこに?」
「こ、ここです……」

 彼女はモジモジしながら、服の襟を寛げた。
 白く華奢な鎖骨のあたりに、びっしりと文字が書かれている。
 古代文字だ。

「……身体に、書いてるのか?」
「はい……。一番確実な外部記憶装置(ストレージ)なので……」
 彼女は顔を赤くして俯く。
「背中には、地理情報が書いてあるはずなんですけど……自分じゃ見えなくて……」

 つまり、俺が見ろと。
 セクハラ事案発生だ。
 コンプライアンス的に完全にアウトだ。
 でも、背に腹は変えられない(文字通り)。脱水症状で全滅するよりマシだ。

「……失礼する」
 俺は彼女の背中に回った。
 ソフィアが服をまくり上げる。
 滑らかで白い背中。
 そこに、幾何学模様のような刺青――いや、魔法文字が刻まれている。
 美しいと思った。
 ただの文字の羅列が、彼女の肌の上では芸術に見える。

「……うぅ、恥ずかしいです……」
 ソフィアが身をよじる。
「創さんに見られるなんて……お嫁にいけない……」

「動くな。解読(デコード)できない」
 俺は冷静さを装い、文字を追う。
 俺のスキル『翻訳』が発動する。
 
 『座標X-204, Y-55. 地下15メートル. 水脈あり』

「……あった」
 俺は場所を特定した。
 現在地からわずか50メートル先だ。

「よし、服を下ろしていいぞ」
 俺が言うと、ソフィアは慌てて服を戻し、振り返った。
 顔が茹でタコみたいに赤い。

「あ、あの……創さん」
「なんだ?」
「……私の背中、その……汚くなかったですか? 文字だらけで、気持ち悪くて……」

 彼女は自分の特性(バグ)を恥じている。
 知識があっても保持できない自分を、欠陥品だと思っている。

「いや」
 俺は首を振った。
「綺麗なコードだった」
「え?」

「無駄のない、美しい記述だ。……君の知識は、君自身に刻まれている。それは誇っていいことだ」
 俺はエンジニアとして、素直な感想を伝えた。
 スパゲッティコードばかり見てきた俺にとって、彼女の情報は洗練されたライブラリのように美しかった。

「き、綺麗……」
 ソフィアが呆然とする。
「初めて言われました……。みんな、気味が悪いって……」

「俺は管理者だ。データの価値は俺が決める」
 俺は彼女の眼鏡の位置を直してやった。
「君は役に立つ。……これからも、俺の検索エンジンでいてくれ」

「は、はい……!」
 ソフィアがへなへなと座り込む。
「もう、オーバーヒートしちゃいます……創さんのせいです……」

 彼女は両手で顔を覆った。
 指の隙間から見える瞳が、熱っぽく潤んでいる。
 
 ……まずい。
 これも「好感度」という隠しパラメータが上昇した音がした気がする。
 俺はただ、業務上の評価をしただけなんだが。

 その後、俺たちは指定された場所を掘った。
 清冽な水が噴き出した。
 女神たちの歓声が荒野に響いた。

(つづく)
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