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第1話 最終回:屋上の二人
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「――こうして、俺と彼女の物語は始まった」
俺は、茜色に染まる空を見上げながら、万感の思いを込めてそう呟いた。
完璧なシチュエーションだ。
放課後の屋上。
吹き抜ける風。
そして、隣には、学園一の美少女と名高い、雪野栞(ゆきの しおり)がいる。
彼女の髪が風になびき、少し潤んだ瞳が俺を見つめている。
まさに、青春ラブコメの『第1話』にふさわしい光景――
「……ふふっ。何言ってるの、夏月くん」
栞は、鈴が鳴るような声で笑った。
そして、俺の手をギュッと握りしめる。
えっ? 手?
待って、ハードル高くない?
まだ「始まった」ばかりなのに、いきなり手繋ぎ? 最近のラノベは展開早すぎない?
「『始まった』じゃないでしょ? 『終わった』のよ。……やっと、ハッピーエンドに辿り着いたんじゃない」
栞は、愛おしそうに俺の肩に頭を乗せた。
甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
心臓が早鐘を打つ。
いや、嬉しい。めちゃくちゃ嬉しいけど……話が噛み合っていない気がする。
ハッピーエンド?
終わった?
何が?
「え、あの……雪野さん? 俺たち、今日初めてちゃんと喋ったんだよね?」
俺が恐る恐る尋ねると、栞はキョトンとした顔で俺を見上げ、それから吹き出した。
「もう! 変な冗談やめてよ。とぼけてもキスしてあげないからね?」
「キ……ッ!?!?」
キス!?
誰と誰が!? 俺と雪野さんが!?
いつの間に!?
「夏月くん、まさか……緊張で記憶飛んじゃった?」
栞が少し心配そうに俺の顔を覗き込む。
俺は必死に脳内のメモリを検索した。
今日の朝ごはん……トースト。
一限目……現国。
二限目……体育。
そして放課後……気づいたら屋上にいて……あれ?
――ここ一ヶ月の記憶が、ない。
正確には、日常の記憶はある。
でも、「雪野栞」に関するメモリだけが、ごっそりと消失している。
まるで、誰かに意図的に消去されたみたいに。
「……う、嘘だろ」
俺は愕然とした。
状況証拠を整理しよう。
1.俺は今、憧れの雪野栞と屋上にいる。
2.彼女は俺の手を握り、肩に寄りかかっている(=恋人同士?)。
3.彼女の口ぶりからして、俺たちは数々の困難(全14話分くらい)を乗り越え、今日ここで結ばれた(最終回を迎えた)らしい。
4.しかし、俺にはその「過程」の記憶が一切ない。
「……ねえ、夏月くん」
栞が、不安げに俺の手を握り直す。
「本当に、忘れちゃったの? ……私たちが、どうやって恋に落ちたか」
俺は彼女を見る。
夕日に照らされた彼女は、泣きたくなるほど綺麗で、そして少しだけ寂しそうだった。
俺はバカだ。
こんなに可愛い彼女を悲しませるなんて。
記憶喪失? 知るか!
男なら、ここで言うべき台詞は一つしかない。
「……ごめん。緊張して、ちょっと混乱してたみたいだ」
俺は震える手で、彼女の手を握り返した(手汗やばい)。
「教えてくれないか。……俺たちが、どんな物語を歩んできたのか」
栞の表情が、パァッと明るくなる。
「うん! ……いいよ、教えてあげる。私たちが主人公の、世界で一番素敵なラブコメの話!」
こうして。
俺の物語は、「最終回」から始まった。
俺だけが知らない、俺と彼女の「14話分」の空白を埋める、逆再生の恋物語が。
(つづく)
俺は、茜色に染まる空を見上げながら、万感の思いを込めてそう呟いた。
完璧なシチュエーションだ。
放課後の屋上。
吹き抜ける風。
そして、隣には、学園一の美少女と名高い、雪野栞(ゆきの しおり)がいる。
彼女の髪が風になびき、少し潤んだ瞳が俺を見つめている。
まさに、青春ラブコメの『第1話』にふさわしい光景――
「……ふふっ。何言ってるの、夏月くん」
栞は、鈴が鳴るような声で笑った。
そして、俺の手をギュッと握りしめる。
えっ? 手?
待って、ハードル高くない?
まだ「始まった」ばかりなのに、いきなり手繋ぎ? 最近のラノベは展開早すぎない?
「『始まった』じゃないでしょ? 『終わった』のよ。……やっと、ハッピーエンドに辿り着いたんじゃない」
栞は、愛おしそうに俺の肩に頭を乗せた。
甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
心臓が早鐘を打つ。
いや、嬉しい。めちゃくちゃ嬉しいけど……話が噛み合っていない気がする。
ハッピーエンド?
終わった?
何が?
「え、あの……雪野さん? 俺たち、今日初めてちゃんと喋ったんだよね?」
俺が恐る恐る尋ねると、栞はキョトンとした顔で俺を見上げ、それから吹き出した。
「もう! 変な冗談やめてよ。とぼけてもキスしてあげないからね?」
「キ……ッ!?!?」
キス!?
誰と誰が!? 俺と雪野さんが!?
いつの間に!?
「夏月くん、まさか……緊張で記憶飛んじゃった?」
栞が少し心配そうに俺の顔を覗き込む。
俺は必死に脳内のメモリを検索した。
今日の朝ごはん……トースト。
一限目……現国。
二限目……体育。
そして放課後……気づいたら屋上にいて……あれ?
――ここ一ヶ月の記憶が、ない。
正確には、日常の記憶はある。
でも、「雪野栞」に関するメモリだけが、ごっそりと消失している。
まるで、誰かに意図的に消去されたみたいに。
「……う、嘘だろ」
俺は愕然とした。
状況証拠を整理しよう。
1.俺は今、憧れの雪野栞と屋上にいる。
2.彼女は俺の手を握り、肩に寄りかかっている(=恋人同士?)。
3.彼女の口ぶりからして、俺たちは数々の困難(全14話分くらい)を乗り越え、今日ここで結ばれた(最終回を迎えた)らしい。
4.しかし、俺にはその「過程」の記憶が一切ない。
「……ねえ、夏月くん」
栞が、不安げに俺の手を握り直す。
「本当に、忘れちゃったの? ……私たちが、どうやって恋に落ちたか」
俺は彼女を見る。
夕日に照らされた彼女は、泣きたくなるほど綺麗で、そして少しだけ寂しそうだった。
俺はバカだ。
こんなに可愛い彼女を悲しませるなんて。
記憶喪失? 知るか!
男なら、ここで言うべき台詞は一つしかない。
「……ごめん。緊張して、ちょっと混乱してたみたいだ」
俺は震える手で、彼女の手を握り返した(手汗やばい)。
「教えてくれないか。……俺たちが、どんな物語を歩んできたのか」
栞の表情が、パァッと明るくなる。
「うん! ……いいよ、教えてあげる。私たちが主人公の、世界で一番素敵なラブコメの話!」
こうして。
俺の物語は、「最終回」から始まった。
俺だけが知らない、俺と彼女の「14話分」の空白を埋める、逆再生の恋物語が。
(つづく)
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