【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第3章:青春の残酷さ(スクールカーストと幼馴染)

#9:友達のままでいたかった Ep.05

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 3月。
 学年が終わる。
 クラス替えがあるかもしれない。
 翔とはもう、別のクラスになりたいと願っている自分がいる。

 ある日、廊下で翔とすれ違った。
 彼は友達と話していて、私に気づくと軽く手を挙げた。
「よう」
「ん」
 それだけ。
 以前なら立ち止まって、くだらない話をして、じゃれ合っていたのに。
 今は、単なる「クラスメイトA」への挨拶だ。

 美咲ちゃんとの関係は順調らしい。
 私のところに来る相談も減った。
 彼は彼で、二人で問題を解決しているのだろう。
 私の出番はもうない。
「保険」としての役割も、「サンドバッグ」としての役割も終わった。

 家に帰ると、母が言った。
「最近、翔くん遊びに来ないわねぇ。喧嘩でもした?」
「ううん。彼女できたから」
「あらま! そうなの。残念ねぇ、あんたたち一緒になると思ってたのに」

 母の無神経な言葉がグサグサ刺さる。
「私も思ってたよ」
 心の中で呟く。
 誰よりも、私が一番そう思っていた。
 根拠のない自信があった。
「最終的には私を選ぶでしょ」という慢心があった。

 部屋に入り、机の引き出しを開ける。
 バレンタインに用意して、結局自分さえ食べられずに隠しておいたチョコ。
 賞味期限はまだ切れていない。
 でも、もう食べる気にはなれない。

 ゴミ箱に捨てようとして、やめた。
 これは私の未練の塊だ。
 これを捨てたら、翔を好きだった自分まで否定することになる気がした。
 だから、明日、学校の裏の野良猫にあげようと思う。(※猫にチョコは毒でした。やめよう。土に埋めよう)

 私はスマホを取り出し、翔とのトーク履歴をスクロールした。
 くだらないスタンプの応酬。
 深夜の長電話のログ。
「おはよう」「おやすみ」の数々。
 これらは全部、宝物だった。
 でも今は、ただのデジタルデータだ。

『お幸せに』
 送信しないメッセージを打って、消した。
 こんな綺麗事、送りたくない。
 私はまだ、彼が好きだ。
 でも、もう「親友」には戻れないし、「恋人」にはなれない。
 私たちは、「ただの昔馴染み」という、どこにでもあるありふれた関係に落ち着いたのだ。

 窓の外を見る。
 桜の蕾が膨らみ始めている。
 私の恋は冬枯れのまま終わったけれど、季節は無情に進んでいく。
 新しいクラス、新しい席、新しい人間関係。
 そこに翔がいないことを、私は時間をかけて受け入れていくしかない。
 ぬるま湯から出た私は、寒さに震えながら、一人で歩き出す準備を始めた。

(おわり)
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