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第一話
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「あ、あー……」
ヘッドセットのマイクに向かって、適当な声を出してみた。そういえば、俺がこの趣味を始めたばかりの頃は「あ」という一音を出すことすら恥ずかしがっていたような。人間の順応性ってすごい。何を思ってか己のサガを自画自賛してから自室の時計を眺める。短い針は11の手前を差していて、それを見てから昼間コンビニで買ってきたお茶を一口飲んだ。これが配信前のルーチン。まあ、自分の声自体はそんなに関係ないんけど。
長い針がひとつだけ前に進んだ音を聞いて、勉強机に向き直る。殺風景な机の上には、もらってからほとんど使っていない卓上ピアノと、2年間ともに身を削りあってきた数本のピックと、これが仕事道具、愛すべき相棒でタブレットのヴィゴーレくんとそれからいくつかの教科書。頻雑にばらまかれたそれらを見てハッとする。
「やっば!宿題やってない!」
そんな思いも虚しく、目の前のヴィゴーレくんは「ブロードキャストを開始しました」という文章を表示した。すぐに画面の右に表示されたコメント欄に「待ってました!」とか「てんばんはー!」なんてのが打ち込まれていった。やるしかないのか……。無下にするのは心が痛む。宿題は明日学校でやろう。声にならない声を吐き出してからマイクに向かって元気よく挨拶をば。
「みんなてんばんは~!座右の銘は抱腹絶倒!星名天ちゃん今日もやっていきます!」
さあ、俺の夜が今始まる。
ヘッドセットのマイクに向かって、適当な声を出してみた。そういえば、俺がこの趣味を始めたばかりの頃は「あ」という一音を出すことすら恥ずかしがっていたような。人間の順応性ってすごい。何を思ってか己のサガを自画自賛してから自室の時計を眺める。短い針は11の手前を差していて、それを見てから昼間コンビニで買ってきたお茶を一口飲んだ。これが配信前のルーチン。まあ、自分の声自体はそんなに関係ないんけど。
長い針がひとつだけ前に進んだ音を聞いて、勉強机に向き直る。殺風景な机の上には、もらってからほとんど使っていない卓上ピアノと、2年間ともに身を削りあってきた数本のピックと、これが仕事道具、愛すべき相棒でタブレットのヴィゴーレくんとそれからいくつかの教科書。頻雑にばらまかれたそれらを見てハッとする。
「やっば!宿題やってない!」
そんな思いも虚しく、目の前のヴィゴーレくんは「ブロードキャストを開始しました」という文章を表示した。すぐに画面の右に表示されたコメント欄に「待ってました!」とか「てんばんはー!」なんてのが打ち込まれていった。やるしかないのか……。無下にするのは心が痛む。宿題は明日学校でやろう。声にならない声を吐き出してからマイクに向かって元気よく挨拶をば。
「みんなてんばんは~!座右の銘は抱腹絶倒!星名天ちゃん今日もやっていきます!」
さあ、俺の夜が今始まる。
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