Virtual Star

前川キズナ

文字の大きさ
1 / 3

第一話

しおりを挟む
「あ、あー……」
ヘッドセットのマイクに向かって、適当な声を出してみた。そういえば、俺がこの趣味を始めたばかりの頃は「あ」という一音を出すことすら恥ずかしがっていたような。人間の順応性ってすごい。何を思ってか己のサガを自画自賛してから自室の時計を眺める。短い針は11の手前を差していて、それを見てから昼間コンビニで買ってきたお茶を一口飲んだ。これが配信前のルーチン。まあ、自分の声自体はそんなに関係ないんけど。
長い針がひとつだけ前に進んだ音を聞いて、勉強机に向き直る。殺風景な机の上には、もらってからほとんど使っていない卓上ピアノと、2年間ともに身を削りあってきた数本のピックと、これが仕事道具、愛すべき相棒でタブレットのヴィゴーレくんとそれからいくつかの教科書。頻雑にばらまかれたそれらを見てハッとする。
「やっば!宿題やってない!」
そんな思いも虚しく、目の前のヴィゴーレくんは「ブロードキャストを開始しました」という文章を表示した。すぐに画面の右に表示されたコメント欄に「待ってました!」とか「てんばんはー!」なんてのが打ち込まれていった。やるしかないのか……。無下にするのは心が痛む。宿題は明日学校でやろう。声にならない声を吐き出してからマイクに向かって元気よく挨拶をば。
「みんなてんばんは~!座右の銘は抱腹絶倒!星名天ちゃん今日もやっていきます!」
さあ、の夜が今始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た

しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。 学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。 彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。 そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

そんなに相談女の方が良ければお好きにどうぞ。邪魔な私たちはいなくなりますので

日々埋没。
恋愛
 貴族令嬢のカナデアは学園で初めてできた友人ミーナからある日突然裏切られる。 「うぇーん、お友達があたしのことを生意気だってイジメるのぉ。あーあ、優しく男の子に慰めてほしいなぁー」  と相談女を装いつつ男漁りを始めたミーナの流す嘘に騙され、カナデアもまた仲の良かった令息たちからも白い目で見られることとなる。  そんなある日、一つの婚約破棄事件をきっかけにカナデアは他にもミーナの被害にあった令嬢たちと一緒に休学を決意する。  傷心旅行と称してしばしバカンスを楽しんでいたカナデアたちは、やがて都合の良い引き立て役を用意できなくなったミーナの愚行とその末路を耳にすることになり……。

【完結】大好きなあなたのために…?

月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。 2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。 『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに… いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。

処理中です...