Virtual Star

前川キズナ

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第二話

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朝日が葉っぱの隙間から顔を覗かせる午前8時ごろ。月曜日の憂鬱さを噛み締めながら、俺は駅から学校へと続く一本道を友人と歩いていた。
「いやあ、昨日のマリアちゃんはマジでかわいかったわ……もうキュン死。」
そんなことを俺も隣でぼやくこいつの名前は戸倉稜。同じ軽音楽部で同じバンド所属。ベース担当の彼にはやはりオタク的な何かがあった。
「じゃあ死ね!」
こんなことを言うのはコンプラ的にどうかと思うが、中学の時からそんなことを言い合って来てる仲なのでそこのところ留意してほしい。で、その彼がしきりに「可愛い」と口に出しているのはマリアライト=キャロットという名のバーチャル配信者のことらしい。ちょうど俺たちが中学に入学した頃に立ち上がった配信動画サイト「stardom」で配信を行う配信者で金髪碧眼胸も大きめ、とおおよそ日本人男性の多くが好きそうなルックスをしている……らしい。俺はアニメは見るが、そういう配信系にはあまり興味を持ってこず、最近stardomが流行し始めたところで天邪鬼なので見ないようにしていたから詳しくない。
「今日も悪口キレキレだねえ……保科のカッティングもそれくらいキレキレだといいんだけど」
俺は軽音部に入ったのが他の部員と比べて一年半遅い。それがあってか、あまり技術の方は高くなかった。
「う、うるせえ……戸倉のそのマリアちゃん?そんなにいいの?」
「お、聞いてくれるねえ。じゃあこれを見てみろ!」
すると彼は俺にスマホを見せた。そこには金髪碧眼の二次元キャラの絵が表示されていた。
「可愛いだろ?これで声もかわいいんだよ……」
「いや確かにかわいいけど……中身人だろ?声優と違って顔もわからないしなんか気味悪くない?」
「別に配信者に顔なんて求めてね……」
「ねえ誰がかわいいの?」
戸倉の声を遮るように後方からは聞き慣れた高い声がした。
麗音れいん……おはよう」
「うん、ユースケおはよう」
「酒匂ちゃん今日は早いね。おはよー。」
「戸倉くんもおはよう。で、ユースケ。何がかわいいの?」
「え、いやなんか。」
「なんか?何?」
「なんか戸倉の好きな配信者」
「へー配信者。戸倉くん、わたしにも見せて?」
「ああ、うん」
俺の前から麗音の前へ、さっきのスマホが移動する。
「へえ、かわいいね。金髪で目が青くて。ユースケはこういうのが好きなの?」
「いや別に」
「何お前マリアちゃん好きじゃないのか!」
「いやだって見たこともないし」
「こう言うのは第一印象が大事なんだよ~」
「そうなんだ。ユースケは別にそう言うの好きじゃないんだね」
「別にね。俺は好きになった人が好きだよ」
「なんか安心した。また後でね」
「おう、じゃあな」
そう言って彼女は足早に俺たちのもとを離れていく。一本道だからその背中が視界から消えることはないけど。彼女が去ったことにより起きた沈黙は、戸倉の口が破った。
「お前らまだ付き合ってないの?」
「そう言うのやめろって。あんま好きくない」
「でもお前も酒匂さんがお前のこと好きって気付いてるでしょ?」
「……まあ、確信はないけどさ」
「保科は好きじゃないの?」
「うん別に。一緒にいる時間が長すぎて恋愛対象として見れない」
「幼馴染も難儀なもんだねえ」
「彼女は欲しいんだけどね。去年のクリスマスとか地獄だったじゃん」
「ああ……あれか。まあやることなかったし仕方ないよね」
「仮にも共学の軽音部だぞ?クリスマスイヴの前日にスタジオ練習の誘いをかけて、なんで全員行けるんだよ」
「知らんし。俺は今年はそうはならないし……」
「は?お前いい子でもいんの?」
「まあねえ……マリアちゃん関連で知り合った子。推しの話を共有できるのはいいぞ~」
「なんだネットかよ!俺の驚き返せよ!どうせネカマだよ!」
「いやこれが結構かわいいんだよ……」
「は?!写真交換までしたの?悪用されるよネットは!いくらでも転がってるじゃん女の子の自撮りなんて!」
「いや会ったから……」
「はあ?!お前、俺のいないところでそんな!」
「やいのやいのうるせえぞメンヘラ!」
しばらくこんな押し問答が続いて学校に着いた。そこからは特になにもなかった。いつも通り惰性で授業を受けて、学友たちとふざけあって。特に打ち合わせをすることもなく、放課後はふたたび戸倉と合流して家路に着いた。しばらく騒音に揺られて俺の乗り換え駅。「じゃあまた明日」と声をかけて、別れた。そしてその別れ際。やはりブレない彼は、「今日マリアちゃん配信予定だから!」と教えてくれた。まあ見ないんだけども。駅の入り組んだエスカレーターたちを慣れた手つき?いやこの場合は足つきで捌いていた。ホーム違いの別の路線へ向かう道すがら、また今朝と同じ声が後ろからかけられた。







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