食育される受付坊ちゃん

夏瀬カグラ

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1章 食育に至った経緯

02 異世界に転移されたら盗賊に囲まれた

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 ―――1か月前

「よぉ、そこのお子様。こんなところに一人でいるなんて不用心だな」

 突然ですが、悪いお兄さんたちに囲まれています。

 こんな状況に陥った理由は、『異世界転移』したからだろう。
 ……冷静に分析しているように見えるだろうけど、僕はだいぶ混乱している。
 ものの数秒前、一瞬で周囲の光景がコンクリートジャングルから、大自然に変化した。
 灰色から、緑ゆたかな草花が生い茂り、人の行き来があると分かる土の道で立ちつくしていたら……これである。

「顔がイイから、売り飛ばしましょうぜ兄貴」
「だな。きっと高く売れるぞ~、今日は宴会間違いない」

 さて、僕を輪になって囲んでいる、悪いお兄さんたちは何者かは、予想がつく。
 明らかに、漫画やゲームで出てきそうな盗賊っぽい恰好。
 唯一、兄貴と言われたこの団体のリーダー格だけは、ちょっと清潔感がある程度だろう。
 目以外が隠れているから、顔面偏差値は測ることはできないが。
 そんなわけで、こんな格好をするのは、少なくとも日本のド田舎ではないから間違いない。
 コスプレ会場と言われたら黙り込むが、盗賊コスプレフェアが開催されたなんて話は、少なくとも僕は聞いたことがないので良しとする。
 ワンチャンあるかも、と思ってしまうのは、きっとオタク根性を馬鹿にできないからだろう。

「いやなんだよ、盗賊コスプレフェアって」
「なにいってんだコイツ」

 しまった、うっかりツッコミが漏れた。
 混乱しすぎたら言葉にしてしまう悪い癖、治さないとは思うが……ゲームで考えごとをすると、つい口にでちゃうというか。
 つまりは不可抗力というか、意識できないんだよ。

「治せたら苦労しないよなー……」
「兄貴、大丈夫でしょうか、このお子様は」
「内心は恐怖で震えてるってことだろう。気にするな」

 すると、盗賊のリーダーが僕に近づき、右手で僕の顎をクイッとあげた。
 透き通った青い目が、こちらを射抜いてくる。
 品定めか、それとも別の何かか。

「さーて、どこに売ろうかね。隣国のド変態貴族か、それともお家騒動真っ最中のあそこか……」

 聞こえてくる単語が不穏でしかない。
 なんとか逃げないと、本気で危ないことだけは本能でわかる。
 相手を睨みながら、盗賊たちの隙を探していた時だった。

「そこまでだ盗賊ども! 動くんじゃねーぞ、"火と風が巡りて、炎と化せ!"」

 知らない声と、急激に上昇する気温と熱風。

「な、なんだ!? 急に炎が……!」
「ひぃっ、あつ、熱い!」

 炎が盗賊たちに襲い掛かり、悲鳴があがる。
 その瞬間、盗賊のリーダーの手が、僕の顎から離れた。
 逃げるチャンス!
 僕は彼らがいない方向へとダッシュするが、恐怖で足が思うように動かない。

「うわっ!?」

 バランスを崩して、倒れそうになる。
 次にくる衝撃を想像して、僕は目をつむったが、それは来なかった。
 代わりに、誰かに受け止められたのか、体が途中で止まる。

「キミ、大丈夫か!」

 声のする方向に視線を向けると……

「ケガは? 怖かっただろ、安心してくれ」
「え? あ、えっと、ありがとう、ございます」

 最初に飛び込んできたのは、綺麗な赤い目。
 さっきまで青い目に品定めされたせいか、反転色のようなそれに安堵を覚える。

「誰だてめぇ!」
「名乗るには及ばない。無防備な人間に悪さをするお前らなんかにはな!」
「生意気な……おい、やれ!」

 わわっ!? 挑発したせいか、何人かがナイフや剣を片手に迫ってきたんだけど!

「怖かったら、目をつむってろ」

 そういうと、僕を助けてくれた人は軽やかな身のこなしと剣さばきで、盗賊たちを倒してゆく。
 す、すごい……!

「おい、勝手に飛び出すなリベール! 多勢に無勢だとなぜ分からん!」
「すいませんギルマスさん。でもさ、明らかにピンチを見過ごすのは、オレには無理だって」

 そこに、また別の声。
 リベールと呼ばれた彼は慌てて、その方向に視線を向け……うわっ、今更ながら顔を見たけど、めっちゃかっこいい。
 精悍な顔つきによく似合う、コバルトブルーの髪。
 同じ男として、うらやましいぐらいだ。
 年齢は僕よりは上である、ことはわかるかな。

「言い訳すんな、このお人よし!」

 次に、もう1人に視線を向ける。
 こちらはダンディなおじさま、という表現がぴったりな人物。
 逆立った茶髪に、それよりも濃い茶色の目。
 年齢は……どれぐらいだろう。40代ぐらいかもな。

「あはは、すいません。で、どうしますかアイツ……らっ!?」

 突然、リベールさんは驚いた声を上げる。
 視線を盗賊たちに向けると……え!? 逃げてる!?
 しかも、捨て台詞とか一切ゼロの全力逃亡だ。逆に潔いっつーか、なんつーか。

「あー……ワシがギルマスだと聞いて、即撤退か」
「っぽいかも。いやー、殴らせてくれないのかよ。危機管理能力だけは高ぇやつら」

 一方で、僕を助けてくれた2人は、のんきに会話をしている。
 ギルマスというのは、すごい権力者なんだな……って、明らかにギルドマスターの略だよな。

「さってと、怪我はないかい。1人で武器も持たないのは、さすがに不用心だぞ」
「助けていただいてありがとうございま……って、僕、好きで武器を持ってないわけじゃなくて!」
「おいこら、リベール。まずは挨拶が先だろ、ちゃんとしろ」
「おっとそうだった」

 彼は、僕の目線まで軽く屈みながら

「オレの名前はリベール。ただの冒険者だ」

 そう自己紹介した。

「えっと、僕は小鳥遊千賀、です」
「タカナシチカ? 変わった名前だな。ギルマス、覚えは?」
「いや、ない。かなり特殊な響きだから、もし現存する国であるなら、一発でわかるが」

 うーん? と、首を傾げ出すリベールさんとギルマス(仮)さん。
 どうしよう……僕が説明すべきなんだろうけど。

(どう話せばいいのかなぁ、この場合……)

 幸いにも言葉は通じているし、理解もできる。
 意思疎通を図る意味では、問題はないのだが……

(異世界から来ました! って信じてもらえるのかなぁ)

 ここである。
 馬鹿正直に話していいものなのだろうか。
 と、悩んでいた時だった。

 ―――ぐーぎゅるるる

「ん?」
「おや」
「……ああああぁぁ」

 自重してください、僕のお腹。
 他人に聞こえるレベルで、空腹を知らせる音が響いてしまっているし。
 うーわー、すっごい恥ずかしいんですけど。

「まずは食事かな」
「そうしましょう。ちょっと歩けるかい、チカくん。すぐそこの国でごはんにしよう」

 そういって、リベールさんは僕に手を差し伸べてくれた。
 これが、僕と彼の出会いである。
 ……あと、僕は受付嬢(坊ちゃん)をすることになる元凶のギルマスさんとも。
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