食育される受付坊ちゃん

夏瀬カグラ

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3章 仲直りはご飯と共に

05 馬鹿正直で根は実は素直

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「…………あー、お前、兄上のお人好しを全力で刺激したってのは把握した」
「今の話で!?」
「あぁ、今の話で。よ―――――っく、な」

 僕の世界にある、さまざまな料理。
 で、普段、僕が食べているモノについての羅列と味について。
 最後に、リベールが食育を言い出した経緯を一通り聞いたアフェクは、呆れと共に言い切った。

 いや、呆れる部分があった!?

 ……いや、あるのか。
 自分の兄が、異世界から来て、右も左もわからない少年を食育している、って事実が。

「で、何がよくわかったんだよアフェク。僕にもわかるように説明!」
「ほぉー……兄上がわざわざ言わなかったことを、知りたいと」

 うっ、それを言われると、ちょっと心の中でストップがかかった。
 アフェクが今の内容で分かるってことは、リベールも分かっているわけで。

「ほんと、お人好しなこった。極力、チカが傷つかない方法を取ってるあたりが」
「なんだよそれ。聞いたら僕がショック受けるみたいな言い方」
「今の態度だと、100%そうなるな」

 メソメソ泣きそう。と、だいぶ失礼な感想を言うアフェク。
 ちょっと、ムカッとくるんだけど。

「スパイスカレーのチェックで、気づかないお前もお前だけどな。俺様からしたら」
「無茶いわないでよ。異世界の料理なんて、僕、生まれて初めてなんだし」

 そもそも、ここに僕らの世界と同じ調味料があるとは思えない。
 あと、野菜とか、お米とかね。

 さすがにここ数日で、ある程度は類似品があるのはわかったけどさ。

「となるとだ……高級レストランでのおごりは、また今度だな」
「え? デザートまで食べきったよ?」
「しぶい顔をしながらな」

 これじゃあ、お礼になりゃしない。
 そう、アフェクは肩を落とす。
 そりゃ、嘘でも美味しかった演技はできたかもだけどさ。

「どっちにしろ、俺様から何か言うと後が怖い。っつーか、そろそろ……」

 バタンッ!
 急に、部屋のドアが乱暴に開く。
 慌てて視線をそちらに向けると……

「チカ!」

 焦った様子のリベールがそこにいた。

「ほーら、嗅ぎつけてきた。昨日の件といい、早すぎだろ」
「アフェク、お前な……!」
「俺様は、チカと食事のお約束をしていて、エスコートしただけだぜ?」

 右手をひらひらさせながら、アフェクはそういって僕を見る。

「うん、それは間違いないよ。先日の件で、終わったらおごってくれるって」
「それでまた、オークション会場に連れていかれる可能性は考えなかったのか」
「んー……思わなかったな」
「理由は?」

 理由、理由かぁ。
 強いて言うならば……

「アフェクも案外、馬鹿正直だから」
「ぶはっ!?」

 僕の回答を聞いて、他人事のように要素を眺めながらワインを飲もうとしたアフェクが、噴き出した。
 リベールの方も、一瞬ポカンとした表情を浮かべていたが、すぐに破綻する。

「本当にまたオークションに連れていくなら、レストランは経由しないかなって」
「く……くくくっ……あはははは! 馬鹿正直、たしかに、分かるよその感想」
「だよね!? リベールも同じ意見で良かった~」

「おいこら、テメェら。いきなり俺様に剛速球投げてくるんじゃね――――ぇよ」

 アフェクが地団駄している。
 あの、行動のそれが王子様じゃないというか。
 ……でも、アフェクの雰囲気的には、あっている、のかな。

「馬鹿正直で根は実は素直なのに、悪ぶることに定評のあるアフェクくんは無視して帰ろうか、チカ」
「おう、言うじゃねぇかよ、クソ兄う……リベールさんよぉ……ッ!」
「オレに何か用が? ないよな? うん」
「俺様に喧嘩を売った! それを買う! それ以上に何がある!」

「アフェク、顔が真っ赤なんだけど」

「……~~~~~~ッ、2人揃ってアホ、バカ、まぬけぇええ! ピンチになっても助けてやらねー!」

 覚えてろー! と、叫びながら、律儀に伝票だけひっつかんで去っていくアフェク。

「な? 馬鹿正直で、根は素直だろ」
「うん。わざわざ伝票を持って帰ったあたりが、本当に……」

 笑いが止まらないのか、リベールはわずかに震えたままだ。
 いやぁ、仲がいいね、兄弟同士。

 ……それよりも

「リベール、なんで僕がここにいるって分かったの?」
「そりゃ、夕飯持参したら不在だったからな」

 わざわざ探してくれたんだ。
 彼が持つ荷物を覗き込むと、いい香りが食欲を刺激してきた。

 むむっ、この香りは……

「シチュー系?」
「惜しい。グラタン」
「やった! 帰って食べようぜ!」

 僕の言葉を聞いて、彼は小さく微笑みながら手を差し伸べてきた。

「フルコース食べた直後だろ、お前」
「口直しが欲しい」

 リベールが、なんで僕の食育をするのか。
 ついでに聞くのも良いしね。

(というか、国王へ報告はともかく、依頼は……請け負ってなさそうだよね、これ)

 そう思いながら、彼の手を取る。

 僕が、意識せず、気軽にリベールの手を重ねることができたのは、この時までだった。
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