転生駆逐艦長COGITO ~ゲームの自機キャラに転生したが、転生先もスバらしい世界だった~

絶望師/ZetubouSensei

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Episode1. 「イグニッション」

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「艦長。マストカメラで目標を捉えました」

 レーダーに映る二隻の艦影に向かって艦を進ませて数十分経ったころ。ヨナバルからそんな報告が上がった。

「映像をモニターに回します」

 そう言って、ヨナバルはコンソールを操作した。
 すぐに艦長席のモニターに映像が出た。

「これは・・・」

 映像には、二隻の船が映っていた。
 見る限り、客船と・・・もう片方・・・このバカでかい砲塔は、まさか……。

「戦艦・・・?」

 砲雷長のヴィオラが、俺が言おうとしていた事を呟いた。

「・・・ソロモン、どう思う?」

 操舵を部下に任せて艦長席の後ろに立っていた航海長のソロモンに、俺はそう訊いてみた。
 この船で働くNPCは、シャノンと階級の低いNPCを除き、『BOW』でゲーム中の機能を使って俺が作成している。
 ゲームでは、キャラクターの性格や経歴などを設定することが出来るのだが、俺は彼に『ミリタリーマニアで、古今のあらゆる兵器にが造詣が深い』という設定をつけていた。
 もし、この世界でもその設定が生きていれば・・・と、考えての問いかけだった。

「・・・確かにあの砲は巨大ですが、冷静に見れば大きさは我々の船と同じ・・・か、少し大きいくらいです。あれは戦艦というより、・・・重巡洋艦でしょうか。しかし、あんなタイプは知りません。見た事がない・・・」

 ソロモンは、俺の問いにそう答えた。

「そうか・・・。他に映像から分かることは?」

「そうですね・・・。映像で見る限り、この巡洋艦にも、もう一方の客船らしき船にも煙突が付いています・・・蒸気タービンか・・・断定は出来ませんが、動力機関はかなり旧式のものかもしれません。分かることはそのくらいです」

「・・・そうか、ありがとう」

 俺はソロモンに礼を言って、もう一度モニターを見た。

「どうしたものですかね・・・」

 副長席のシャノンが、ため息交じりにそう呟いたのが聞こえた。

「・・・船務長、無線はどうか」

 俺の問いに、ヨナバルが答える。

「我々があの二隻を視認してから少しして、通信が止まりました」

 もしかすると、向こうのどちらかが、或いは両方が俺たちに気付いたのかもしれない。
 そう考えている時だった。
 モニター見ていたシャノンが叫んだ。

「・・・!艦長!巡洋艦の砲塔が動いています!!!」

 俺もモニターを見た。確かに砲塔が動いていた。

「・・・我々に向いてませんか?アレ・・・」

 ヴィオラが俺の方を横目で見ながらそう言った。
 ああ、マズい――……

「緊急か…………‼」

 緊急回避。そう言おうとしたら、モニターに映る巡洋艦の砲が火を噴いた。

 ドシャア!!!!!!
 直後、前方に巨大な水柱が立って、船体が激しく揺れた。

「船務長、損害報告!!!」

 シャノンがヨナバルに向かって叫んだ。

「・・・損害なし!!!」

 ヨナバルが素早く応じた。次にシャノンは俺の方を向いた。

「艦長!!!!!」

 彼女が俺を呼んだとき、なぜか反射的に口が動いた。

「操艦を副長に預ける!対水上戦闘用意!!俺は戦闘指揮所CICに降りる!!!」

「副長了解、操艦を預かります!!!!」

 艦橋にいた全員が一斉に動き出した。
 まるで空気が弾けるような錯覚を覚えた。
 俺は、そんな弾けた空気に押し出されるように、俺は通信端末とヘッドセットを掴んで艦長席を飛び降りて駆け出した。

 なんだ?この感覚は?
 さっきまで分からないことだらけだったのに、途端に思考がクリアになった。
 今なら、“何をするべきか”が分かる。

 俺は艦橋を飛び出して階段を駆け下りた。後を追ってついて来たヴィオラとヨナバルを横目で見ながら、チャンネルを合わせて無線のスイッチを押した。

「艦長よりCIC、これよりCICに入る」

『CIC、了解』

 無線で連絡を入れた直後、俺はCICの扉の前に辿り着いた。
 扉を開けると、慌しく動く乗組員たちと目が合った。

「敬礼はいい!手を止めるな」

 そう言って、俺は戦闘指揮所の艦長席に体を滑り込ませた。
 艦長席に腰を下ろしたちょうどその時、通信士のNPCが声を上げた。

「艦長!通信です!相手はウルオーズ帝国海軍を名乗っています!」

 俺は通信士の方を見て自分のヘッドセットを指で叩いてジェスチャーを出した。
 程なくして、耳元から男の声が聞こえてきた。

『所属不明の戦闘艦に告ぐ。こちらはウルオーズ帝国海軍である。我々は作戦行動中だ。直ちに反転し、現海域を離脱せよ。さもなくば、“攻撃の意思在り”とみなし、撃沈する・・・繰り返す……』

 同じ無線を聞いていたヨナバルが舌打ちと共に吐き捨てるように言う。

「どこの蛮族か知らんが、何が“さもなくば”だクソッたれ。警告するなら撃つ前にしろってんだ」

 まったくもって同感だ。
 しかし、だからと言ってこちらも何も言わず撃ち返すのは、文明的ではない・・・・・・・
 俺は無線のスイッチを押して、相手に呼びかけた。

「こちらはアリアンロッド連合王国海軍所属、駆逐艦コギトである。当方に戦闘の意思はない。・・・言葉を返すようだが、そちらが次に“攻撃の意思在り”と思わせる行動を取った場合、我々も反撃せざるを負えない」

『・・・』

 返信は無かった。
 ・・・つまり、そういう事だろう。

「艦長!!敵の砲塔が動いています」

 CIC要員の一人がそう言った。

「おいでなすった・・・!」

 ヨナバルがそう呟いた。
その時、船が大きく傾いた。おそらく、上で砲塔の動きを見たシャノンが回避行動を取らせたのだろう。
直後、鈍い振動が来た。

「敵弾、右舷後方と左舷前方に着弾!!損害無し!!」

 うかうかしていられない。

「交渉の余地は無さそうだ・・・仕方ない。砲雷長、主砲撃ち方用意!目標、ブラボー!!」

 俺の指示に、ヴィオラが素早く呼応する。

「了解。砲術員、主砲撃ち方用意!目標、ブラボー!!」

 彼女がそう言うと、主砲を操作する砲術員のマーカスが「了解!」と応え、ジョイスティックを握った。
 俺は無線のスイッチを押して、艦橋のシャノンに呼び掛けた。

「艦長から副長、操艦を砲雷長に」

『こちら副長、了解。操艦を砲雷長に預けます』

 シャノンの応答を確認してから、俺はヴィオラの方を見た。

「砲雷長、操艦を預かりました」

 いよいよ反撃の用意が整った。
 ヴィオラが俺を見た。俺は頷いた。

「・・・艦橋。第三戦速、とーりかーじ、70度、ヨーソロー」

『第三戦速、とーりかーじ、70度、ヨーソロー』

 彼女は無線を使って、艦橋にいる航海長のソロモンに進路と速力を指示し、戦闘に有利なポジションに船を誘導する。
 船が急旋回を始めて、艦首を巡洋艦に向いていく。コギトが敵に向かって突っ込む形になった。
 恐らく、彼女は敵にコギトの頭を向けて、敵から見える面積を小さくし、攻撃を受けにくい体勢を取ろうとしているのだろう。
 昔の戦艦なんかでやると場合によってはナンセンスな動きだが、この艦には戦艦と違って砲塔が前方の一つしかないし、ミサイルは主に垂直発射されるものなので問題はない。むしろ最適解だと思う。

「・・・攻撃します」

 ヴィオラがそう言って、俺は「了解」と応えた。
 空気が凍り付くような静寂が、戦闘指揮所に満ちる。
 ヴィオラは深く深呼吸をしてから、砲撃の号令を出した。

「主砲、撃ちーかたー始め!!」

 彼女の号令に、マーカスが応える。

「主砲、発砲」

 マーカスが、そう言ってトリガーを引いた直後。CICのモニターに映った甲板の五インチ砲が旋回しながら、ダン、ダン、ダンと火を噴いているのが見えた。
 今度は、隣の別のモニターに映されている戦艦を見た。

「弾着・・・今!」

 モニターの中の戦艦に、吸い込まれるかのように全ての砲弾が当たり、黒い煙が立った。
 しかし、その煙は直ぐに小さくなっていった。

「・・・命中。敵艦、依然として航行中。再攻撃の要あり」
 
 ・・・まぁ、予想はしていた。
 コギトのようなイージス駆逐艦があるような時代の海上戦に於いては、ミサイルを使った戦闘がメインとなる。ミサイルの破壊力は砲弾の比ではない。被弾≒撃沈だ。だから装甲にあまり大きな意味はないと考えられることが多く、結果としてステルス性と巡航性能を強化し、回避率を上げる設計がなされ、装甲の分厚さはあまり重視されない事が多い。
 だが、艦対艦戦闘に艦砲を主に使う時代の軍艦は、艦砲で撃たれても耐えられるように装甲に重点を置いた作りになっている。
 なので、変な話だが最新鋭の軍艦よりも丈夫なのだ。
 下手をすれば20センチ以上の口径の砲に耐えられるような設計の船に、たかだか5インチの豆鉄砲が効くはずも無い。
 
 こいつを撃沈するためには、アレを使うしかない。

「砲雷長、ミサイル戦用意。トールハンマーを装填。準備でき次第撃て」

 俺はヴィオラにそう指示した。
トールハンマーとは、この艦に装備されている対艦ミサイルの事だ。

「砲雷長、了解。・・・ミサイル員、トールハンマー発射用意!」

 俺の指示を聞いたヴィオラは、今度はマーカスの隣にいるミサイル員のザラにそう言った。

「了解」

 ザラはそう言ってコンソールを操作する。
 モニターが切り替わり、ミサイル発射管が映し出された。

「発射用意完了しました」

撃ててーッ!」

バーズアウェイ発射

 ハッチが開き、閃光とともにミサイルが飛んで行く。

『トールハンマー、正常発射』

「弾着まで、3、2、1……」

 俺は、再び敵が映るモニターを見た。

 ドカン。

 トールハンマーが、敵に命中した。
 敵艦は、千切れて文字通り真っ二つになっていた。
 みるみるうちに二つに分かれた船体が、海に飲み込まれていく。
 なんだろう・・・。何か、ゲームと違う。喜びは湧いてこない。
 まるで早送りでも見ているようだ・・・。

「・・・敵艦、轟沈」

 ヴィオラがそう告げた。・・・見ればわかるってんだ。そう言いたくなったが、彼女は規則の通りにやっているだけだ。

「戦闘態勢は維持しろ・・・ヘリを発艦させて、生存者の捜索だ」

終わった。終わってしまった。

「・・・相手の顔が見えない戦場ってのは、どうもな」

 殺した実感がわかない。
 良いことなのか・・・悪いことなのか。
 いや、悪いことだろう。・・・いや、どっちなんだ?
 おかしい。何かおかしい。なんだ・・・?

「俺は・・・?」

 誰だ・・・?







 ウルオーズ帝国軍に敗れ、王都を放棄して逃げてきた。
 我が国の艦隊はほぼ壊滅していて、軽空母一隻と駆逐艦と軽巡洋艦が一隻ずつ残っていたが、そのどれもが世界の裏側にいた。
 結局、私たちは何の武装もない民間の客船に乗って逃げるしかなかった。
 難民輸送旗を掲げ、国際法による保護措置に淡い期待をしつつ、ただ帝国海軍の船に遭遇しない事を祈りながら航路を進んでいた。
 しかし、航海を初めて3日目の今日。
 私たちは帝国海軍の重巡洋艦に見つかってしまった。
 奴らは、私たちの船に停船命令を出し、船に乗り込ませるように要求してきた。要求を呑めば命は取らないと言って。
 信用できない。出来る筈がない。
 奴らは白旗を掲げて投降しようとしていた弟を目の前で殺した!!!!
・・・しかし、今私たちに出来ることは無い。
でも、それでも・・・せめて船に乗る民の命だけは守らなければ・・・。

「・・・私の身柄を先方に引き渡して下さい。交渉次第では、民間人の命くらいは救えるやもしれません」

 私は意を決してそう言った。

「な、なりません陛下!・・・それだけは、断じてなりません!!」

 私の言葉にフィルマンが叫んだ。

「ですが・・・それ以外に希望はありません」

「いえ、何か、何か手立てがある筈です!!!・・・メレーヌ准将!そうでしょう!?」

 フィルマンが、近衛のメレーヌにそう言いながら迫った。
 それに対して、彼女はただ俯いて応えた。

「・・・フィルマンさん。申し訳ない」

 彼女の言葉に、フィルマンは肩を震わせる。

「あぁ陛下・・・陛下・・・!私は、私は!!!そんな希望にすがって生き永らえるくらいなら!!!あなたと共にここで死にたい!!!!!」

 フィルマンはそう言いながら私に縋りついた。

「もう・・・良いのです。爺、貴方は生きてください。どうか幸せな余生を」

「そんな・・・陛下・・・。私には、もう貴女様しかないのです・・・!ルネ様――……」

 彼は、白い髭をくしゃくしゃにして涙を流していた。・・・そういば、爺が泣くのを見るのは初めてな気がする。

「爺も泣くのですね。・・・ふふ。なんだか・・・あぁ、なんだか」

 私は上を向いた。
 今、ここで涙を流す訳にはいかない。
 私は、王なのだ。

「・・・メレーヌ」

「はい、陛下」

「行きましょう」

「・・・お供いたします」

 そうして、私はメレーヌと共に艦橋を出ていこうとした。
 その時だった。

「左舷に戦闘艦らしきものを視認!!!」

 艦橋にいた見張り員がそう叫んだ。

「帝国艦か?」

 メレーヌが見張り員にそう尋ねた。

「・・・分かりません」

 見張り員が答えた。直後、伝声官から後方の別の乗組員の声が聞こえてきた。

『敵の主砲が、旋回しています!!左舷側に向いてます!!』

「という事は・・・味方か?いや、しかし同盟国の船が付近の海域にいるなんて……」

 メレーヌが顎に手を当ててそう呟いた時、砲声が響いた。

「撃った・・・?」

「当たったか?」

「いや、手前に着弾した。・・・威嚇射撃だろう」

「帝国艦・・・という訳でも無いらしいですな」

 突然の乱入者に、艦橋にいた全員が困惑していた。
 その時、通信士が手を挙げた。

「准将閣下!」

「どうした?」

「無線です、あの所属不明艦と帝国艦が交信しているようです!」

「聞かせろ」

メレーヌがそう言うと、通信士はボリュームを上げて、ヘッドホンをスピーカー代わりに、私たちに音が聞こえるようにした。

『……らはアリアンロッド連合王国海軍所属、駆逐艦コギトである。当方に戦闘の意思はない。・・・言葉を返すようだが、そちらが次に“攻撃の意思在り”と思わせる行動を取った場合、我々は反撃せざるを負えない』

 やはり味方なのかどうかはハッキリしない。が、少なくとも帝国の軍艦ではなさそうだ。

「どうしますか?」

 総舵手がメレーヌにそう訊いた。

「・・・今は見守るしかない。対艦兵装を持たない今の我々ではどのみち何も出来ん」

 メレーヌは苦い表情でそう答えた。
 その時、また砲声が鳴った。
 艦橋の皆が窓に張り付き、謎の船を見守る。
 謎の船は速度を上げて急旋回し、砲撃をすべて躱してしまった。
 それどころか、走りながら主砲を撃って反撃までしていた。
 謎の船の砲弾は、どうやら全て帝国艦に当たったようだ。
 だが、彼の砲は重巡洋艦を沈めるには威力が足りなかったようだった。
 しかし・・・。

「・・・なんて速さだ。あんな加速は見たことが無い」

「ああ、それに旋回性能も凄いぞ」

「知らないタイプの戦闘艦だ・・・どこかの新鋭艦か?」

 海軍の軍人や、客船の船乗り達が、口々に驚きの声を上げていた。
 船にはあまり詳しくないが・・・確かにあの船は早いように思える。
そんな事を考えていると、突然、謎の船の前方が光った。
 被弾したのかと思ったが、どうも違った。
 煙を上げながら、光が上に上がっていくのが見えた。
 その光は、ある程度の高さまで行くと、急に向きを変えて帝国艦の方に向かって飛んでいく。
 光は、艦橋の窓の死角に入ってすぐに見えなくなってしまった。

「なんだ・・・?」

 誰かがそう呟いた直後、帝国艦の方から、物凄い爆発音がした。

「どうした!?」

 メレーヌが田政管に向かってそう叫んだ。

『て、帝国艦が・・・』

「帝国の艦がどうした!!」

『それが・・・ま、真っ二つに・・・なってます』

 それを聞いたメレーヌは一瞬怪訝そうな表情で固まった後、艦橋を飛び出していった。
 私も彼女の後から走って行って、デッキに出た。

 言葉を失った。

 本当に、帝国艦が真っ二つになっていた。

「神の・・・槍・・・」

 自分の口から、そんな言葉が漏れ出た。








「おいリーゼル!!!何をしている!しっかり見張れ!!」

 手が疲れたので双眼鏡を持った手を下げて休んでいると、上官にそう怒鳴られた。

「・・・すみません」

 仕方なく、私は双眼鏡を覗いた。
 見えるのは、海、海、海、そして・・・海。
 もうウンザリだった。帰りたい。そもそも私は海のない国で育った。海は得意じゃない。・・・泳ぎも得意ではないし。
 けど仕方ない。帝国の占領地に住む異界人の末裔は、こうすることでしか生きていけない。

 ・・・もし。もしも、ただの人間として生まれていたら。私は、もっと違う暮らしが出来ていたのだろうか。

「はぁ」

 なんとなしに、私は艦の前方にいる船に双眼鏡を向けた。
 この間、帝国に制圧されたモラルタ王国からの難民輸送船らしい。
 客船をそのまま流用しているらしいけど・・・船内に入りきらなかった難民の姿がデッキに多く見える・・・。
 ・・・かわいそうだ。子供の姿も見える。

 かわいそうだ。・・・本当に心の底からそう思う。

 けれども、私は彼ら追い詰める者の側に立っている。これから行われるであろう虐殺の片棒を現在進行形で担いでいるんだ。
 これが初めてではない。だから、今更涙を流したりはしないけど。
 ・・・きっと私、死んだら地獄生きだろうなぁ。

「クソッたれの帝国人どもめ」

 周囲に人がいないことを確認してから、吐き捨てるように私はそう言った。
 その時だった。
 客船のいる方向とは別の方角から、何か大きな動体が近づいてくるのを感じた。
 私は気配を感じた方角に、双眼鏡を向けた。
 遠くにうっすらと船の影が見えた。
 艦首の方に、一門だけ砲が見える。
 大きさからして・・・巡洋艦クルーザーかな・・・?
 私は伝声管でその事を報告した。

「左舷に艦影を視認!!!!巡洋艦クラスの戦闘艦です!!」

『了解。・・・こちらでも確認した』

 それからしばらく経って、主砲が旋回するのが見えた。
 これは・・・少し荒れそうだ。
 でも、見る限りではこちらのほうが火力は上。負けはしないと思うけど・・・。
 なんだろう。なんだか、胸騒ぎがする。
 そう考えていると、ジリジリと警報が鳴って、私たちの艦が主砲を一発撃った。
 私は双眼鏡を覗いた。
 弾は相手の前方に、着弾した。相手は無傷だった。多分、今のは威嚇のつもりで撃ったのだろう。
 またこっちの主砲が火を噴いた。
 後方の第二砲塔と副砲を全部撃ってる。今度は本気だ。
 でも、相手はこちらの本気の砲撃を、ありえない加速で速力を上げて全て交わしてしまった。

「すごい・・・」

 等と呑気に感心していると、相手が撃ち返してきた。
 ドン、ドン、ドン。
 相手は三発撃って、その全てがこちらに命中した。
 けれども、振動も大したことはなく、伝声管から聞こえる報告にも、深刻な内容のものはなかった。あんな小さい砲では、この船は沈められない・・・。
 だけど、あの速さで動きながら連射して全弾命中させるなんて・・・。相手の砲手は人間なのだろうか??

「はっ!逃げ足が速いだけで、情けない奴だ!!」

 隣にいた上官がそんな事を言った。
 その時だった。
 相手の船の甲板が、ピカッっと光って、何かが上に向かって飛んで行った。
 照明弾・・・?こんな昼間に?
 いや、違う。
 妙だ・・・だんだん大きく・・・?
 もしかしてこれ・・・近づいて――……。

 次の瞬間、天地がひっくり返った。
 何故か、頭の方に海が見えた。
 私は海に落ちた。
 何が起きたのかも分からない。
 何も見えない。
 痛い。全身が痛い。
 ・・・とにかく動け、動け。何かに掴まれ。

 私は意識を集中して、能力を発動させた。
 何も見えない・・・けど、感じる。
 水面に向かって動くものがある・・・。人じゃない。これだ。

 私は手を伸ばして、その物体を掴んだ。
 体が、水面に向かっていくのが分かる。
 やっとの思いで、私は水面に上がることが出来た。

「ぷはっ・・・!」

 呼吸ができる。なんとか生きてる。
 そう安堵したのも束の間、私はまた息が出来なくなった。

「うそ・・・なに・・・なんで・・・?」

 さっきまで乗っていた船の艦首と艦尾が目の前でVの字を描くように聳え立っていた。
 意味が分からない。何があった??
 考える間もなく、沈み始めた船の残骸に向かって出来た強い流れに飲み込まれそうになった。
 私は必死に足をバタつかせて、残骸から離れようとした。

「たすけてく……!!!ああ!!畜生!!!俺の腕がァ!!!あああ!!!!」

 すぐ横を、片腕が千切れた水兵が流されていく。彼は私と同じ異界人の末裔、同胞だ。何度か話した。気の良いやつだ。よく娘の写真を見せてくれた。お前を見ると娘を思い出すって。

「今たすける!!!」

 私は精一杯身体を伸ばして、彼の千切れれいない方の腕を掴んだ。
 けれども、吹き飛ばされた時のショックのせいか上手く力が入らない。
 結局、彼の手は私の掌から抜けていった。

「ああ・・・!!!」

 それ以上は追えなかった。彼は溺れながら何度も「たすけて」と言っていた。

「ごめんなさい・・・」

 その後は、ただ必死に脚を動かした。
 流れが収まったのは、数分後だった。
 悪い夢でも見ているんだ。そう思いたい。
 だって、あり得ない。こんな一瞬で、あれだけ人が乗った船が無くなるなんて・・・。
 
 そんな風に呆然と残骸を見つめていると、脚が痛くなってきた。
 痛みはどんどん増していく。それと、なんかドクドクしてる。
 よく見ると、海水に血が浮いていた。
 どうやら、脚を切ったか何かしたらしい。
 血が抜けていく。視界がぼんやりしてくる。
 
 私は空を仰いだ。
 青い空だった。

「ああ・・・ママの・・・焼いた・・・パンケーキが、たべたい」

 私はそう言って、意識を手放した。
 視界が完全に失せる直前、空に浮かぶ巨大な影と、その影から私に向かって降りてくる人の形が見えた。

 天使は、尻を向けて降りてくるの……――?







「艦長・・・大丈夫ですか?」

 CICの艦長席でボケっとしていると、ヴィオラが俺の顔を見てそう言った。
 デジャヴだ。前にシャノンに同じように声を掛けられた。
 俺は、そんなに疲れた顔をしているのだろうか?

「すまん。大丈夫だ」

「少し休まれては?」

「安全が確保されたら、君に哨戒長《TAO》を任せてゆっくりと休むさ」

 そうだ。まだ休めない。
 巡洋艦は片付いた。が、まだ一隻残ってる。そう、無線であの巡洋艦と言い争っていた客船だ。
 客船は今、コギトの左前方を航行している。・・・敵意があるようにも思えないし、害があるとも今のところは思えない。
 どうしたものか・・・。

 そう頭を悩ませていた時だった。

「艦長、客船から通信です。イルヴィング王国という国の客船だと言っていますが・・・」

 ヨナバルがそう言った。

「スピーカーに」

「了解」

 程なくして、スピーカーから無線の音声が流れて来た。凛々しそうな印象の女性の声だった。

『……こちらはイルヴィング王国籍、グウェナエル号である。後方を航行中の船舶、応答を願いたい』

 事態を動かすチャンスだ。
 俺は無線のスイッチを押した。

「こちらはアリアンロッド連合王国海軍、駆逐艦コギトである。どうぞ」

『・・・!こちらグウェナエル!応答に感謝する。・・・そして、失礼だがもう一度、そちらの所属と艦名をお答え願いたい』

「こちらはアリアンロッド連合王国海軍、第17駆逐隊所属、駆逐艦コギトである」

『アリアンロッド連合王国・・・?失礼を重ねるが、どこにある国だろうか?』

「ウェールズ大陸の西端、シルバー半島だ。国王の名前はアーサー・ロックフィールド。・・・知らないか?」

『・・・あー、すまない。大変申し訳ないのだが、私は知らない』

 なるほど。これは・・・俺が考えていた仮説が信憑性を帯びてきた。

「・・グウェナエルへ、実は当方も同じだ。我々は、イルヴィング王国を知らない。ウルオーズ帝国もだ。・・・我々も困っている」

 それから、俺は一呼吸おいてこう言った。

「そこで提案なのだが・・・情報を交換したい。こちらの代表者を二名ほど、そちらの艦に乗り込ませてほしい。話がしたい」

『・・・少し待ってくれ』

 暫く、沈黙が続いた。30秒ほどしてから、返信があった。

『グウェナエルからコギトへ・・・そちらの提案を受け入れ……いや、少し待ってくれ・・・はい・・・え?しかし……』

 なにやら、誰か別の人と会話しているようだった。

「グウェナエル?」

『……あぁ、すまない。お待たせした。・・・その提案を喜んで受け入れる。と、言いたいが、諸君にその気があったかどうかはともかく、我々にとってあなた方は恩人だ。恩人にわざわざ出向いてもらうのは礼に欠く。と、我々のトップが申しております。・・・そこで、提案なのだが、我々からそちらへ、代表者数名で伺ってもよろしいだろうか?』

 ・・・なるほど。
 まぁ、特に困る事も無いし。良いだろう。
 承諾しよう。

「了解した。歓迎しよう・・・迎えは必要か?」

『いや結構。内火艇……、失礼、ボートで向かう。停船して、受け入れの用意をお願いしたい。……グウェナエル、交信終了』

 今、ボートを内火艇って言ったな。海軍の関係者か・・・?やっぱり、ただの難民輸送船じゃなさそうだな。

「聞いた通りだ。受け入れの準備をしろ」

 俺は部下にそう指示しながら、彼らに訊くべき事を頭の中で整理した。

「長い対談になりそうだ」




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