転生駆逐艦長COGITO ~ゲームの自機キャラに転生したが、転生先もスバらしい世界だった~

絶望師/ZetubouSensei

文字の大きさ
3 / 4

Episode2「流される」

しおりを挟む
 グウェナエルから代表者を受け入れる事が決まった直後。俺は艦長室に居た。

「これで良いかな」

 俺は今、戦闘服ではなく、制服を着ていた。
 ・・・こういうのは、第一印象が大事だと考えて着替えた。しかし・・・。

「多いな、コレ・・・」

 胸元に付いた略綬が、かなり多い。
 BOWでは、イベントでランク上位に入ったり、高難易度のミッションをクリアしたりすると勲章が貰えたのだが、俺は“かっこいいから”と、貰った勲章分の略綬(制服の胸に付ける簡易的な勲章)を片っ端から制服に付けていた。
 しかし、こうゲームではなく、現実の風景として見ると・・・。なんか、こう・・・イタい。気がする。

「・・・少し減らしとくか」

 と、一人呟きつつ、胸に手を伸ばそうとした時。ドアがノックされた。

「入れ」

 俺がそう言うと、「失礼します」と声がしてドアが開き、シャノンが入ってきた。

「艦長。シャノンです。そろそろ先方が到着します」

「分かった。行こう」

 俺は、そう言って部屋から出ようとした。が、シャノンに呼び止められた。

「艦長、待ってください。・・・こちらを向いて」

 何だろう?
 とりあえず、俺は彼女の言葉に従って、彼女の方を向いた。
 すると、彼女は近づいてきて、俺の首元に手を伸ばした。

「ネクタイが曲がっています。直すので、少しじっとしていて下さいますか」

 そう言って、彼女は真剣な表情で俺のネクタイを直し始めた。
 顔が近い。なんか、少し、恥ずかしい。・・・これじゃまるで新婚の夫婦――……。
 って、馬鹿か。何考えてるんだ。・・・それに彼女はベリアルより物凄い年下だぞ?
 等と盛りのついた中学生みたいに馬鹿な事を考えていると、彼女と目が合った。

「・・・?どうされました?」

「いや・・・」

 俺は咄嗟にそう誤魔化そうとしたが、言葉が出てこない。彼女は怪訝そうな表情を見せた。
 ま、待て、考えろ。“ベリアルなら言いそうな事”を言えばいい。そうだ。彼女とベリアルの関係はアレだから・・・こう言う、きっと、そうだ・・・!

「・・・良い女になったな」

 俺は彼女の頭にポンと手を置きながら、そう言った。言ってしまった。
 ・・・バカなのか???
 完全にセクハラだろうコレ。

「え・・・?」

 彼女は、一瞬ぽかんと口を開けて硬直した後に俯いた。
 ヤバい・・・やっちまった……ッ!

 彼女の手が、ネクタイから離れる。
 俺は俯くシャノンを呆然と眺めながら、平手か拳が飛んでくるのを待った。
ネクタイを離れた手が、再度、俺の方に延びてくる。
まぁ、仕方ないか。甘んじて受け入れよう。
そう思って歯を食いしばった次の瞬間。頬を打つか鼻を折るかのどちらかと思っていた彼女の手が、俺の胸を優しく叩いた。

「・・・?」

 彼女が顔を上げる。
 怒っているようにも、泣いているようにも見えない。
 いつも通りの表情をしている。・・・ように見える。

「なに、老人みたいな事を言っているんですかお兄さん・・・・。呆けるにはまだ早いですよ」

 彼女はそう言って、歩き始めた。
 ・・・どうやら、ジョークか何かの類だと思ってくれたらしい。

「ほら、行きますよ。ハインズ大佐」

「・・・ああ」

 俺はほっと胸を撫でおろす気分で、彼女と共に歩いて行った。







 幼い頃は海が好きだった。
 公務の合間に、よく両親が王宮の近くの浜辺に連れて行ってくれた。
 お父様に肩車してもらいながら、海を眺めるのが楽しみだった。
 私が“綺麗だね”と言うと、お父様は“そうだな”と応えた。
 浜辺に行く度に、同じようなやり取りを繰り返していた。

 幼い頃に見た海は、純粋に美しかった。

 けれども、王位を継いだ今。私は海の広さに不安を覚える。
 夕陽に照らされて紅く染まった海には、恐怖さえも感じる。

 幼い私の言葉に“そうだな”と応えていたお父様は、一体どんな顔をしていたのだろうか。
 少し前までは、ただ微笑んでいるものだとばかり思っていた。

「綺麗な海・・・」

 風に流される自分の髪を抑えながら、彼方の水平線に向かってそう呟いた。

「そうですね。良く晴れていますし、波も穏やかで・・・良い海です」

 ボートの舵を取る水兵が、私の呟きにそう応えた。
 私は彼の方を向いて微笑んで見せた。
 彼は顔を赤くして俯いた。・・・私より少し年下だろうか。可愛らしいものだ。

「しかし、あれは何ですかね・・・?一人乗りの回転翼機の試作型プロトタイプは兵器展の展示で見た事がありますが、あそこまで巨大なものは初めてです」

 私が水兵をからかっていると、私の前に座るメレーヌが、空を飛ぶ独特な形状の航空機を見てそう言った。
 その航空機には翼が無く、代わりに細い刃の様なものが機体の上で回っていた。・・・あれで浮力を得ているのだろうか?だとしたら、相当の馬力だ。
 航空機は、コギトの後方甲板の方に降りて行き、着艦した。

「コギトの艦載機のようですが・・・帝国艦のいた方から飛んできていましたね。何をしていたのでしょう?」

 頭の中に浮かんだ素朴な疑問をメレーヌに投げかけた。

「申し訳ありませんが、はっきりとした事は私にも・・・。考えられるとしたら、何かしらの情報収集でしょうか」

 メレーヌは、そんな見解を示した。
 コギト・・・。何から何まで、底の見えない戦闘艦。

 彼らは何処からやって来たのだろう・・・。もしかすると――……。
 
 そうこう考え込んでいると、私たちの乗るボートは、もうコギトのすぐ横にまで来ていた。

 ・・・なんというか、こう近くで見ると異質な船だ。
 私の中の軍艦のイメージは、ハリネズミみたいに主砲や機銃を生やしているような船だ。
 美しいとは到底言えない。
 だが、このコギトの全体的にスッキリとした流線型を描くシルエットには、洗練された機能美の様なものを感じる。

「おーい!!聞こえますかー!!」

 頭上から声が聞こえた。
 見上げると、青い斑模様の服を着た青年が、船の縁から私たちに向かって手を振っていた。
 コギトのクルーだろう。

「ええ!!!聞こえます!!!」

 メレーヌが応えた。

「これから係留用のロープを降ろします!!!係留作業をお任せしてもよろしいか!!??」

「了解した!!!!」

 メレーヌが両手で丸印を作りながら応えると、青年「ロープを降ろします!!下がって!!」と言った。
 メレーヌは「陛下、失礼します」と言って私の方に寄ってボートの前方を空けた。
 それを確認した青年が、空いたスペースに目掛けてロープを投げ込んだ。
 メレーヌがそれを拾い上げて、手早くボートの先端のフックに結び留めた。

「流石ですね」

 作業を終えた彼女にそう声を掛けると、彼女は苦笑を浮かべながらこう返した。

「ついこの間までは現場にいましたからね」

 彼女の言葉に、私も苦笑した。

「梯子を降ろします!!!」

 青年がそう言って、縄梯子を降ろしてきた。

「陛下、お先にどうぞ」

 メレーヌが先を譲ってくれたので、私は梯子を上り始めた。
・・・スカートを履いてきたのは完全に間違いだったかもしれない。
 私は慎重に梯子を上って行った。
 そして、あと少しのところまで来た時。
 急に強い風が吹いてきて、私の手が梯子から離れてしまった。

「へい――……!!!!」

 メレーヌの叫び声が聞こえた。
 私は目を瞑った。
 次の瞬間には、海面かボートに身体が叩きつけられる……。
 そう思った時、誰かが私の腕を掴んだ。
 恐る恐る目を開ける。
 黒い瞳の男と目が合った。
 彼が手すりから身を乗り出して、私の右腕を掴んでいた。

「よいしょ」

 男は、その細い腕からは想像も出来ないような力で、私をいとも簡単に引き上げてしまった。

「……妙に身体が軽いと思っていたが・・・なるほど、そうか・・・」

 黒いブレザータイプの軍服を着た男は、私を立たせつつ、ボソボソと何か呟いていた。
 服装から見るに、士官だろうか・・・?目につく限り、他の乗員は青い斑模様の野戦服ような服を着ている。それに、階級章に入っている線も多く見える。胸のあれは、略綬・・・だろうか?凄い量だ。略綬だとすれば、彼は一体どれ程の叙勲を受けて来たというのだろう。
 先ほどの身のこなしといい・・・只者ではなさそうだ。
 等と、男を観察していると、彼の後ろから同じような制服を着た褐色肌の女性が出て来た。階級章の線は男より少ない。が、彼女もメレーヌなどに似た軍人特有の鋭い雰囲気を持っていた。男ほどではないが、彼女も大分多くの略綬を胸に掲げている。

「艦長!!!肝を冷やしましたよ!!!貴方の身体は水に浮けない事をお忘れですか??礼服にはフローターは付いていないのですよ!?」

「あ・・・。ああ、そうだな。いや、すまない」

「まったく・・・あなたは――……」

 何やら言い合いを始めた。・・・どうしたものか。

「あ、あの・・・」

 私がそう声を掛けると、二人はやっとこちらの方に向き直った。

「・・・ああ、失礼。お怪我はありませんか?・・・ええと」

 男がそう言って、私の目を見た。

「ルネ=デュランベルジェです」

 私は名乗り、右手を差し出して握手を求めた。

「ミス・デュランベルジェ。こちらこそ。・・・私はコギト艦長の、ハインズ。・・・ベリアル・ハインズ海軍大佐です。そしてこちらは……」

「シャノン・グレイス少佐です」

 私はハインズ大佐とグレイス少佐、二人と交互に握手を交わした。
 ちょうどその時、まだボートに居たメレーヌも上がってきた。
 よほど慌てて上って来たらしく、息が少し上がっている。

「陛下!!ご無事ですか!?」

「ええ、私は大丈夫です」

 彼女の問いかけにそう答えると、彼女は深く息を吐いた。

「ああ、良かった。・・・すみません。助かりました」

 メレーヌは、ハインズ大佐見てそう言った。

「いや、大したことはしてません。・・・立ち話もなんです。続きは艦内で。ご案内します」

 私は彼の提案に頷いて、促されるままコギトの船内に入っていった。

「ようこそ、コギトへ」







 ちょっとしたハプニングはあったが、無事にゲスト迎え入れることが出来た。
 俺は、ルネ=デュランベルジェと名乗った少女と、詰襟の軍服を着た女性を食堂まで案内した。

「どうぞ、お掛けになって下さい」

 俺がそう言うと、ルネは座ったが、軍服の女性は立ったままだった。

「私は立ったままで結構です」

 軍服の女性はそう言って、ルネの左後ろに姿勢を正して立った。
 俺とシャノンは、テーブルを挟んでルネの向かいに座った。

「こんな所ですみません。応接室が無いもので・・・」

 俺はそう言いいながら、ルネ=デュランベルジェを見た。
 若い。十代後半ってとこだろうか。・・・いや、でも、耳が尖ってる・・・・。エルフと言うやつか??
 少なくとも、BOWにはこんな耳を持った人種・種族は存在しない。
 服装は、シンプルなデザインのブラウスとブラウンのスカート。一見して質素だが、胸元のコードタイの留め具には高価そうな青い宝石が嵌められている。
 そして彼女の所作と喋り方からは、わざとらしくない上品さを感じる。
 それに、あの軍服の女性。・・・なんだろう。立ち姿や動作に既視感がある。・・・儀仗隊?近衛兵かなにかだろうか。・・・耳はルネと同じように尖っている。

「いえ、お気になさらず・・・先ほどはありがとうございました。助けて頂いて」

「当然の事をしたまでです。・・・改めまして自己紹介をさせて下さい。私はアリアンロッド連合王国海軍、コギト艦長のベリアル・ハインズ大佐です」

 俺はシャノンに目配せをした。

「コギト副長、シャノン・グレイス少佐です」

 俺とシャノンが名乗り終えると、ルネも改めて名乗った。

「では私も。改めまして、私はイルヴィング王国第14代国王。正式な名前は、ルネ=デュランベルジェ=テイ=イルヴィングと申します。・・・そしてこちらは、第一近衛連隊連隊長、メレーヌ=ルヴェリエ海軍准将です」

 メレーヌと呼ばれた軍服の女性が、軽く礼をした。

「・・・さて。何から話したものですかね」

 シャノンがそう言った。
 互いの出自を明かしても、双方とも相手の国を知らないというこの状況。
 十年代後半から二十年代初めまで流行っていたネット小説。それを多少知っていた俺の中には、ある一つの仮説が浮かんでいた。が、いきなりそれを披露したとしても、正気を疑われるだけだと思う。
いや、無線の応対からしておかしな事だらけだったが。・・・しかし、よく対談に応じてくれたものだ。しかもわざわざこちらに来てくれるなんて。
 ともかくだ。まずはどう話を始めよう・・・。

 と、頭を悩ませていると、ルネの方が思いもよらない事を言い出した。

「あの、変な事を聞くようですが・・・“アメリカ”、“ロシア”、“チャイナ”、“ユーケイ”、“ジャパン”。これらの単語に聞き覚えはありませんか?」

 俺は思わず、「は・・・?」と声を出してしまった。
 “知ってるも何も、その内の一つは俺の故郷だ”。
 と、声に出して言いたかったが、俺は隣に座るシャノンを見て、出かかった言葉を一度飲み込んだ。

「はい・・・知っています」

 俺はそう答えた。
 これはBOWの設定だ。
 BOWの舞台となっている世界は、『第四次世界大戦で滅びた後の世界で、残された資料や過去の遺物に影響を受け、旧文明の後を追うようにして発展した新文明下で人々が生きる未来の地球』という設定になっている。
 なので、ゲーム中の世界の過去にはアメリカもロシアも中国も英国も日本も存在していた。
 だから、こう答えるのはおかしくはないだろう・・・。
 ・・・まぁ、俺は本当の意味で“知っている”訳なのだが。

 俺の答えを聞いたルネは「やはりそうですか・・・」と、呟き、こう続けた。

「あなた方は、別の異なる世界からやって来たと考えられます」

 ルネの言葉に、シャノンが首をかしげる。

「何故、そういった結論に?」

「前例があるのです。異世界から人や物が流入してきた事例がこれまでにありました。・・・それに我々の先祖は、太古に異世界よりやって来た者であると伝えられております。我々だけではありません。そのような種族や民族が数多く存在しているのです。ですから、突然そう言われてもあなた方は混乱するでしょうが・・・。我々は容易にそう考えられた訳です。・・・それに」

 ルネはそう言って一呼吸おいてから、こう言った。

「5年ほど前、我が国の王宮に、異世界人の魔導士が仕えておりました。彼女が教えてくれたのです。先ほどの5つの単語を知っている者は異世界人である可能性が高いと・・・。ちなみに、これは学会等にも発表はなく彼女が私に秘密裏に教えてくれた事です。異世界人は、基本的に自らが元居た世界の情報を秘匿しようとしますから・・・」

 なるほど・・・。いや、待てよ?魔導士???
 納得しかけていたが、考えてみればおかしい。
 BOWには、魔法もなければ魔術もない。そして、エルフもいない。

「少し変な事を聞きますが・・・我々がその異世界人だとして、ミス・デュランベルジェ・・・陛下は我々に対してどんな印象を受けますか?」

 俺の問いに、ルネは少し考えてからこう答えた。

「・・・異世界人としては、異質。でしょうか。基本的に、多く知られている異世界人のほとんどが、強力な魔法ないし魔術の使い手です。・・・しかし、あなた方は違う。魔導の気配が全く感じられない。それに、こんなに大勢で、しかも見たことのないような“兵器”と共にやって来たケースを私は知りません」

 ・・・これは、マズいかもしれない。

 魔法というものの性能は“個人の能力の高さ”に依るものだ。彼女の話から推察するにその筈だ。
 異世界人は強大な魔法を行使する。・・・すると、この世界での扱いはどうなる?
 そう、異世界人は“戦力”としてみなされる筈だ。
 コントロール下に置くか、協力体制を築いておきたい相手である筈だ。
 だが、敵対するなら・・・?
 それはただの脅威だ。排除の対象になるだろう。
 
 だが俺たちはどうだ・・・?

 そう。俺たちが行使するのは魔術ではない。兵器だ。
 一部を除き、21世紀初頭の“技術”で製造して運用することができる。
 そして恐らく、この世界に於ける魔法は大きな戦力になる可能性はあっても、決して戦争の主役ではない。
 大砲並みの火力を出せる魔法使いがその辺に存在するならば、あんな巡洋艦が存在する意味がない。
 という事は、この世界の戦闘の在りようは、地球の戦争に『魔法』という若干のイレギュラーが足されたようなもの。と、推測できる。
 実態は第一次世界大戦WW1第二次世界大戦WW2と大して変わらないだろう。

 そんな世界に・・・。旧式の蒸気タービンで動く砲艦が海上での戦闘の主役である世界に、21世紀のイージス艦が現れたら・・・どうなる・・・いや、人はどう思う・・・・
 
 欲しい・・・。そう思うはずだ。

 コントロール下にあってもなくても。味方でも敵でも。この世界の人々はコギトに群がる。
 “排除”されるだけでは済まないだろう。

 ルネの話が全て真実だったとしたら、この先は身の振り方をより慎重に考える必要がある。

 ・・・だが、何はともあれ情報収集だ。

「大方、我々は自らを取り巻く状況を掴めました。ひとまず、我々は、“我々が別の世界に来た”という認識で話を進めます。・・・次に、そちらの状況に対する詳細な説明を求めたい」

 俺がそう言うと、ルネは「分かりました」と言って、メレーヌを見て「例のものを」と言った。
 すると、メレーヌが持っていた手提げの中から、折りたたまれた紙を取り出し、テーブルの上に広げた。
 どうやら、地図のようだった。
 左右に大きな大陸が見えて、大陸の間には大小の島や列島が並んでいる。

「これは・・・?」

「この世界の地図です。・・・始めてもよろしいですか?」

 ルネの言葉に俺は頷いた。

「まず、前提として頭に入れていただきたいのですが・・・。我々の世界では現在、大規模な戦争が起こっています」

 まぁ、そんなとこだろうとは思っていた。

「異界人や異界人をルーツとする民族と原生人類の共存を掲げる西大陸の大国、“イーリス連邦共和国”を中心とし、自由主義国家同盟によって結束している勢力と、異界人の弾圧を行う東大陸の限定主義国家、“ウルオーズ帝国”を中心としたデルン条約機構が敵対し、各地で攻防戦を展開しています。お分かりかとは思われますが、我々は同盟に属しています。・・・イーリス連邦はここです」

 そう言って、ルネは地図の左側、西の大陸の上のほうにある国を指さした。

「そして、先ほどあなた方が交戦したウルオーズ帝国がここ」

 次に彼女は、反対の大陸にある南寄りの場所を指した。

「それで、我々の国。イルヴィング王国はここです・・・」

 最後に、そう言いながら彼女が指を指したのは、ウルオーズ帝国の近くにあった島国だった。
 ・・・地図上で見る距離感は、イギリスからドイツ・・・といったところだろうか。

「なるほど・・・。それで」

「はい。私たちは帝国の侵略を受けて王都を制圧され、敗北し、連邦で臨時の亡命政府を立てるために、あの船で逃げてきたのです」

 さて・・・どうしたものか。

 まず、俺たちの取れる選択肢は二つ。

 一つ。ひたすら隠れ続ける。
 二つ。どこかと歩調を合わせて行動して支援を受ける。

 一つ目は無理だ。
 船を動かすための燃料や弾薬は心配ない。
 この船のエンジンは、“失われた文明”の技術で作られたもので、海水があれば動く。
 弾薬がかなり心配だったが、とりあえず大丈夫そうだった。
 BOWでは、火器弾薬やその他資器材は、本部から“物質転送装置”で転送することが出来る。よって、これらは洋上にいながら補給することが可能なのだが・・・ありがたい事にこの転送装置が生きていた。
 尤も、状況が状況だ。いつか使えなくなるかもしれないが・・・今は艦内にストックもあるし当分は大丈夫だろう。
 ならば、何の問題があるのか。
 食料だ。
 この転送装置では、食料や生き物は転送できない。
 なので、必ずどこかで調達する必要がある。
 こればかりはどうしようもない。

 では、残るは二つ目の選択肢。

 正直、これしかないと思うのだが・・・。こうなると問題は“どこに付くか”だ。

 理想は、ちょうど武力を必要としていて、こちらの要求や条件を飲んでくれそうなところ。

 俺はルネを見た。
 彼女も俺を見ていた。

「では、陛下。本題に入りましょうか・・・・・・・・・・

「・・・あなたが敵でなくて良かった」

 ルネは深く息を吐いてから、こう切り出した。

「我々に、武力を提供していただけませんか?」
 
 ・・・今、ここで判断を下す必要がある。
 だが情報が少ない。少なすぎる。
 どうすればいい?何をするのが正解だ??

 そう考えていると、ルネと目が合った。
 なんだろう・・・あの目。そう、あのどこか遠くを見ているような目。俺は、知っている。

「陛下・・・この世界は良くなる・・・・と思われますか?」

 ふと、“俺”の口からそんな問いが湧き出てきた。
 ルネは俯いて少し考えてから、こう答えた。

「なります。・・・いいえ、してみせます」

 ・・・ああ、そうか。俺は彼女に力を貸すべきだ。
 不思議とそう思った。理由も根拠も何もあったものじゃない。ただ、俺の中の何かがそう叫んでいた。

「・・・ひとまず、期間はあなた方が亡命先に到着するまでの間。条件として、身元の保証とあらゆる可能な限りの支援をお願いします」

「・・・!それって・・・」

 俺は彼女の肩に手を置いてこう言った。

「良い世界を見せてください」







 話が終わって、ルネはグウェナエルに帰っていった。
 だが、メレーヌは連絡員としてこちらに残った。
 俺は彼女に船の中を案内した。
 彼女は海軍の軍人で、軍艦にも乗っていたことがあるそうで・・・どこに行っても色々と質問された。

「ハインズ大佐。この先は・・・?」

 一通り回り終わって、彼女を船室に案内しようと通路を歩いていた時、彼女はCICに続く通路を指さしてそう訊いてきた。

「戦闘指揮所です。申し訳ないですが、その中を案内することは・・・」

「あ、ああ。そうか、すまない」

 俺の言葉に、彼女はそう言って再び歩き始めた。

「しかし、凄い船だ。清潔感もあって、何よりも真水が使い放題!しかも浴槽まで完備しているとは、いやはや羨ましい限りだ」

「必要があれば、グウェナエルにも水を供給しますよ」

「本当か!・・・いや大助かりだ!是非とも頼みたい」

 風呂を見せた時の彼女の驚愕ぶりは凄かった。
 ・・・船の上の水事情。男性よりも切実なところがあるのだろう。
 などと考えていたら、彼女がこう呟いた。

「素晴らしい技術だ・・・。夢のようだ・・・だが、これが戦闘艦とはな」

 俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
 皮肉なもので、どんなに平和的な目的で開発された技術でも、結局はこういう兵器に利用される。
 夜空を瞬く星の美しさを捉えるために作られた日本製の光学センサーが、無人攻撃機に載せられて攻撃目標を捉える。

 酷い世の中だ・・・などと考えて歩いていると、彼女の為に用意した船室の前にやって来た。

「こちらを使ってください」

「すまないな。世話になる」

「何かあれば、通路にいる兵に言ってください」

 俺は彼女が船室に入るのを見届けてから、艦橋に戻った。
 窓から見える海はすっかり暗くなっていて、艦橋は夜間用照明で赤く照らされていた。

「・・・艦長、艦橋に入られました!」

 艦橋の入り口付近で海図を見ていたヨナバルが俺に気付いてそう言った。
 艦橋にいる操舵主やレーダー員以外の人員が敬礼をしてくれる。
 俺はサッと返礼をして応えた。
 もう慣れたものだ・・・。
 皆が仕事に戻るのを見届けて、俺は艦長席に座った。

「艦長、お疲れ様です。・・・そろそろ休まれては」

 副長席に座るシャノンがそう言ってくれた。

「そうだな・・・。お言葉に甘えて休ませて貰うとしよう。・・・シャノン、後は頼む」

「はい、お任せを・・・。ゆっくり休んでください」

 引継ぎをしてから、俺は自分の船室に戻った。

「ああ。・・・まったく、長い一日だった」

 これから一体、どうなるのだろうか。
 こんなの・・・まるで出来の悪いネット小説だ。
 はぁ、ダメだ。今は疲れた。考えるのはよそう・・・。

 俺は、束の間の眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...