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10話
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「お父様、お母様!」
グレイシアは直ぐに陛下達を守っていた両親に駆け寄った。
父は小銃を、母は連結式の三節棍を手に持ちグレイシアを見遣ると安心したように笑った。
「どこも怪我はしていない?」
「腕を上げたなグレイシア」
母は心配そうにグレイシアの体を確認し、父は腕を組んで満足そうに頷いていた。
グレイシアの後ろではアレンが側近の者に話しかけている。
「お父様!お母様!事態は深刻かもしれないのです!!」
逸る気持ちを抑えて両親に詰め寄る。
その必死さに2人もハッとした。
「確かにそうだね…中央でこんな事態今までなかった事だ」
両親は深刻な顔をした。
「これはグリッツ辺境伯のところが破られたということか?」
それまで黙っていた陛下が重々しく口を開いた。
周りも恐怖から混乱の騒めきへと変わる。
「いえ、それはまだ分かりません。今早馬で確認を取っています。ですが…恐らくそうではないのではないかと愚考しております」
陛下の問いにアレンがそう答えた。
もう、早馬で確認を取っていたのね。
「ほう?それはどういうことだ?」
「いえ、まだ確実な事は何も。ですが、橋の門が敗れたとなればまだ良いでしょう。私達の力不足です。ですが、そうでない場合、事態はより深刻かと」
「そうではない場合があると申すのだな」
「えぇ」
陛下の物々しい声とアレンのはっきりとした声がホールに響いた。
周りは「いやだ、これで此処も安全ではないということ?」「無理だ…どこにも安全な場所なんてない…」等、不安の声で騒めく。
当然だ。
安全だと思っていた中央にゾンビが現れたんだもの。
グレイシアは近くのテーブルに目を遣った。
その真下には首を噛み切られて絶命している令嬢の姿があった。
その令嬢は奇しくもこの夜会で初めてアレンに声を掛けて辺境伯だからと蔑んで悪口を言っていた令嬢だった。
この令嬢は時期に奴らと同じように動き出すことになるだろう。
現に、ピクピクと指先が動いている。
グレイシアはさっとその令嬢に近づいた。
「なんとも因果なものね。ごめんなさいね」
ぼそりと呟いて、グレイシアはそっと顳顬からナイフを沈ませてナイフをそのまま180度グリッと回転させて引き抜いた。
ピクピク動いていた指先も動かなくなりただ、そこには令嬢の死体だけがそこにあった。
先程まで生きていた人をこうしてトドメをさしてしまう事に躊躇がないわけではない。
だが、それが出来てしまう自分は冷たいのだろうか。
それが両親でも王族であっても自分が助かる為には必ずそうするだろうなと分かってしまう。
自分は冷徹な女なのかしらと思って視線を下げてしまう。
悪いことでは無いはずなのに。
罪悪感を感じながらもその手に迷いのない自分が酷く滑稽に思えたからだ。
ポンと肩に温もりを感じた。
振り返るとアレンが居た。
「グレイシア、大丈夫だ」
まるで甘やかされているかのような声。
そして視線。
グレイシアはアレンを見詰めてふ、と思った。
私はこの人がゾンビに噛まれたら今の御令嬢のように淡々とトドメを刺せるのかしら…?
まだ、分からない。
両親や王族達でさえ息の根を止めれると思えるのに、、
何故だか、アレンの場合は分からないのだ。
もしかしたらトドメを刺せるのかもしれない。でも、もしかしたら蘇るのを見て私はその瞳に映れるのであれば最後は貴方の瞳に映ったまま噛まれてしまうのかもしれない…だなんてそんな不確かな、どうしようもない事を思わず考えてしまった。
私らしくもない。
グレイシアは直ぐに陛下達を守っていた両親に駆け寄った。
父は小銃を、母は連結式の三節棍を手に持ちグレイシアを見遣ると安心したように笑った。
「どこも怪我はしていない?」
「腕を上げたなグレイシア」
母は心配そうにグレイシアの体を確認し、父は腕を組んで満足そうに頷いていた。
グレイシアの後ろではアレンが側近の者に話しかけている。
「お父様!お母様!事態は深刻かもしれないのです!!」
逸る気持ちを抑えて両親に詰め寄る。
その必死さに2人もハッとした。
「確かにそうだね…中央でこんな事態今までなかった事だ」
両親は深刻な顔をした。
「これはグリッツ辺境伯のところが破られたということか?」
それまで黙っていた陛下が重々しく口を開いた。
周りも恐怖から混乱の騒めきへと変わる。
「いえ、それはまだ分かりません。今早馬で確認を取っています。ですが…恐らくそうではないのではないかと愚考しております」
陛下の問いにアレンがそう答えた。
もう、早馬で確認を取っていたのね。
「ほう?それはどういうことだ?」
「いえ、まだ確実な事は何も。ですが、橋の門が敗れたとなればまだ良いでしょう。私達の力不足です。ですが、そうでない場合、事態はより深刻かと」
「そうではない場合があると申すのだな」
「えぇ」
陛下の物々しい声とアレンのはっきりとした声がホールに響いた。
周りは「いやだ、これで此処も安全ではないということ?」「無理だ…どこにも安全な場所なんてない…」等、不安の声で騒めく。
当然だ。
安全だと思っていた中央にゾンビが現れたんだもの。
グレイシアは近くのテーブルに目を遣った。
その真下には首を噛み切られて絶命している令嬢の姿があった。
その令嬢は奇しくもこの夜会で初めてアレンに声を掛けて辺境伯だからと蔑んで悪口を言っていた令嬢だった。
この令嬢は時期に奴らと同じように動き出すことになるだろう。
現に、ピクピクと指先が動いている。
グレイシアはさっとその令嬢に近づいた。
「なんとも因果なものね。ごめんなさいね」
ぼそりと呟いて、グレイシアはそっと顳顬からナイフを沈ませてナイフをそのまま180度グリッと回転させて引き抜いた。
ピクピク動いていた指先も動かなくなりただ、そこには令嬢の死体だけがそこにあった。
先程まで生きていた人をこうしてトドメをさしてしまう事に躊躇がないわけではない。
だが、それが出来てしまう自分は冷たいのだろうか。
それが両親でも王族であっても自分が助かる為には必ずそうするだろうなと分かってしまう。
自分は冷徹な女なのかしらと思って視線を下げてしまう。
悪いことでは無いはずなのに。
罪悪感を感じながらもその手に迷いのない自分が酷く滑稽に思えたからだ。
ポンと肩に温もりを感じた。
振り返るとアレンが居た。
「グレイシア、大丈夫だ」
まるで甘やかされているかのような声。
そして視線。
グレイシアはアレンを見詰めてふ、と思った。
私はこの人がゾンビに噛まれたら今の御令嬢のように淡々とトドメを刺せるのかしら…?
まだ、分からない。
両親や王族達でさえ息の根を止めれると思えるのに、、
何故だか、アレンの場合は分からないのだ。
もしかしたらトドメを刺せるのかもしれない。でも、もしかしたら蘇るのを見て私はその瞳に映れるのであれば最後は貴方の瞳に映ったまま噛まれてしまうのかもしれない…だなんてそんな不確かな、どうしようもない事を思わず考えてしまった。
私らしくもない。
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