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1 失恋
しおりを挟む私はかなりの美人である。
のっけからごめんなさい。でも事実ですの。性格だって(それほど)悪くない(と思う)。
それなのに、たった今、目の前にいる想い人に振られてしまった。
私はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。
私には4つ年上のお兄様がいる。私の想い人は、お兄様の騎士学校時代からの親友、ボードリエ侯爵家次男マティアス様。お兄様と同い年の21歳である。騎士学校を卒業後、マティアス様はお兄様と共に王国第一騎士団に入団された。その縁で、マティアス様は騎士学校時代から現在に至るまで、よく我が家に遊びに来られる。
私は初めてお会いした時から、男らしくて凛々しくて逞しいマティアス様に恋をしてしまった。
けっこう頑張ってアピールもした。
けれど一向に振り向いては下さらないマティアス様。いつの間にか私は17歳になっていた。そろそろ、あちこちからの縁談を「まだ早いですわ」と断れる年齢ではなくなってきたのだ。
少し考えれば分かる。私がそういう年齢になっているのにマティアス様が何もおっしゃらないのは、つまりそういうこと。私のことを恋愛対象とも結婚の対象とも意識していらっしゃらないのだ。
頭では分かっていた。望みはない。私に好意を持って下さっていれば、とうに交際を申し込まれるか婚約を申し込まれているはずだ。家格の釣合いにも特段問題はない。両家の親も反対はしないと思う。なのに何もおっしゃらないマティアス様は……私をお好きではないのだ。
けれど、どうしても諦められない私は、ついに自分から告白した。
女性から告白する、という時点でもう無理なのに、それでもどうしても、はっきり聞きたかった。
「マティアス様のことが好きです。マティアス様は、私のことをどう思っていらっしゃるのでしょう?」
マティアス様は私を優しい眼差しで見つめながら、しかしはっきりと、
「……すまない、ロザリー。私は貴女の気持ちに応えられない。貴女のことは妹のようにしか思えない」
と、おっしゃった。
……やっぱりね……
「わかりました。今までご迷惑だったでしょう? ごめんなさい」
「ロザリー。迷惑だなんて思ったことはないよ。本当にすまない」
私の4年越しの恋は、こうして終わった。
************
私は、私の縁談を吟味しているお父様に、
「我が家と領民にとって一番益のあるお相手と結婚します」
と宣言した。
お父様は、
「ロザリーの幸せが第一だ。益など二の次だよ」
と言ってくださったけれど、私の幸せはマティアス様に振られた時点で消え失せたのだ。
我がアンペール伯爵家の領地は、昨年自然災害が相次ぎ、多額の復興費用が必要となっている。私は、家と領民の為に自分自身を使おうと決心した。そうして数ある縁談の中から私が選んだお相手が、ベルクール伯爵家の長男セスト様だ。私より2つ上の19歳である。豊かな領地を持つベルクール伯爵家から婚姻成立の暁にはと提示された復興支援金の金額は、他家の提示と比べものにならない程高額だった。
「私、ベルクール伯爵家の申し込みをお受けしますわ」
それを聞いて、お父様もお母様もお兄様までも大反対を始めた。
「セスト殿はダメだ! 彼の妹は異常なまでに兄であるセスト殿に執着していると社交界で有名だ。彼に近付いた令嬢達に酷い嫌がらせをしたと聞いているぞ」
お父様が苦い顔をしておっしゃる。私もその噂は知っている。セスト様はかなりのイケメンなのに、重度のブラコン妹がいるばかりに縁談に支障が出ているというのは有名な話である。3ヶ月前にこの妹から嫌がらせを受けた令嬢の母親が社交界きってのおしゃべりマダムだったこともあり、最近更に噂に拍車がかかったようだ。噂が噂を呼び、もはや、どこまでが真実か判らないほどである。
私は、にやりと笑って、反対する両親とお兄様に向かって言った。
「その事を持ち出して、支援金の額を吊り上げるのですわ」
「はっ?」「えっ?」「ロザリー、お前ってヤツは……」
「『兄に執着』などというカワイイ噂ではなく、裏社交界ではトンデモナイ醜聞になってますわよ~と匂わすのですわ。私を逃せば、どこの令嬢も嫁には来てくれないだろうと思わせて、支援金を吊り上げましょう!」
「……」「……」「……」
「ほーほっほっほ」
沈黙する3人と、高笑いする私。
「この縁談、勝ちますわよ!」
「ロザリー。縁談に勝ち負けはないはず……だぞ……」
お兄様が呟いた。
両親は知らないが、お兄様は、私がマティアス様を好きだったことも告白して振られたことも知っている。マティアス様はお兄様の親友なのだ。お兄様は、とっくに私の気持ちに気付いていた。だからマティアス様に振られた時に、私からお兄様にそのことを伝えたのだ。
「マティアス様に告白して、はっきりと断られました。悲しいけれど、どうしようもありません。すっぱり諦めて、家と領民の為になる結婚をします」
お兄様は一言、
「そうか……」
と言って、小さい頃のように私の頭を撫でてくれた。自分の親友が、妹を振ったのだ。この時のお兄様は、実に複雑な表情だった。
支援金吊り上げ作戦は成功した。
まずはお父様が、縁談お断りの手紙をベルクール家に出した。”支援金の申し出は大変有難く、本来なら是非お受けしたいところだが、そちらの兄妹関係について信じ難い噂を耳にし、父親として大切な娘をとても嫁がせる訳にいかない。きっと我が家だけではなく、どの家の父親もそう思うだろう”というような内容である。これであっさり、あちらが引き下がってしまうかもしれない、というリスクもあったが、我が家は賭けに出たのだ。
そして勝った。ベルクール伯爵家から”支援金を上積みするから是非に”と再度の申し入れがあったのだ。やりぃ~!
こうして、私とセスト様の婚約は調った。
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