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19 二人きりの舞踏会
しおりを挟むフレデリク王子が私を避け始めて3ヵ月が経った頃、突然、私は王子に以前と同じ屋上に呼び出された。
「すまない、フローラ。また話を聞いてくれるか?」
「はい。勿論ですわ」
「前に話した彼女が妊娠したんだってさ。嬉しそうに友人達に報告してるって聞いた。幸せそうに笑ってるって……」
「……良かったですね。子供を身籠って幸せを感じるということは、きっと旦那様との仲も良好なのですわ」
「ああ、きっとそうだな。良かったんだ、これで……」
男性にとっては辛いことなのでしょうね。好きな女性が他の男の子供を宿すなんて……
「フレデリク殿下! 元気を出してくださいませ!」
私は王子の背中をポンとたたく。
「うん……ありがとう」
「なぁ、フローラ。俺さ、たった一度だけ夜会でその彼女と踊ったことがあるんだ。たった一度だけ踊ったワルツが忘れられない……」
遠い目をするフレデリク王子。思い出していらっしゃるの?
王子は私の手を取って言った。
「一曲、踊っていただけますか?」
「はい」
フレデリク王子がワルツを口ずさむ。この曲が彼女と踊った思い出の曲ですのね。王子と私は屋上でワルツを踊った。たった二人の舞踏会。王子は私を優しくリードし、私は丁寧にステップを踏んだ。
踊り終わるとフレデリク王子は微笑んだ。
「ありがとう、フローラ」
王妃教育を受けた後、王宮でバルド様とお菓子を食べている私。
頭を使った後は甘い物が欲しくなりますわよね~。
「フローラ、フレデリク王子とまた話すようになったんだな。仲直りしたのか?」
「もともとケンカなどしておりませんわ」
「何か怪しい」
「どういう意味でしょう?」
「お前、俺に隠し事をしてないか?」
「……実は私、ヅラなんですの」
「面白くない!」
「……実は私、子供が3人おりますの」
「笑えない!」
「おほほほ。このココア風味の焼き菓子はいつ食べても美味しいですわね~」
「お前、子供の頃からずっとそれが好きだな」
「はい。子供の頃からこのお菓子とバルド様が好きでございます」
「俺は菓子と同列か?」
「イヤだ、バルド様ったら。焼き菓子よりもバルド様の方が好きですわ」
「良かった! 嬉しい! ……うん?」
バルド様の従者と私の侍女が、呆れたような顔をして控えている。
「なぁ、ホントにフレデリク王子とは何もないんだよな?」
しつこーい!!
「バルド様、いい加減にしてくださいませ!」
「フローラが可愛過ぎるからいけないんだ。お前が途方もなく可愛いから、俺はいつも心配ばかりして禿げそうなんだぞ!」
「禿げても好きですわ。バルド様」
「えっ? そうなのか?」
「おほほほほ」
もしもそうなってしまったら、いっそスキンヘッドになさるのもワイルドで素敵かもしれませんわね。うん、バルド様はお顔が精悍だから、きっと似合いますわ。アリですわね。
ダンドリュー公爵家に遊びに来ている私。
新婚のマーガレット様は、人妻の色気が滲み出ていらっしゃる。そのマーガレット様は、私の話を聞いてとても驚いた様子だ。
「フレデリク王子ですって!? まさか続編のキャラが出て来るなんて!?」
「続編のキャラ?」
「フレデリク王子はね、私の予知夢の続編に出て来るのよ。銀髪翠眼のイケメンで一見偉そうで態度が悪いんだけど、実は一途で寂しがり屋なの」
予知夢に続編があったなんて!
「そうです、そうです。最初は何て嫌なヤツだろうって思ったんですけど、王子は本当は一途で寂しがり屋なんですの」
やっぱりすごいわ、マーガレット様の予知夢は!
「夢の中では、フレデリク王子は想い人が他の男と政略結婚してしまって落ち込んでいる時に、リリヤに慰められて彼女に惹かれていくの。現実ではリリヤが学園を去ったから、もうフレデリク王子の出番はないと思っていたのよ」
「でもフレデリク王子は現れた。リリヤは修道院送りになってしまいましたから、当然ストーリーは変わってしまった、ということですわね」
「そうね。現実ではリリヤではなくフローラが王子を慰めてあげたわけでしょ? ん? ということは、フレデリク王子はフローラを好きになるかもしれないわ」
それはありえない。
「王子は初対面の時から、私の容姿をバカにしてきたんですのよ。ありえませんわ」
「フローラ。一目惚れだけが恋じゃないわ。相手と親しくなるうちに次第に恋心が芽生える場合だってあるのよ」
「でも私、モテませんから。マーガレット様だってご存知でしょう? 私、17年間生きてきて、バルド様以外の男性に好意を寄せられたことが本当に一度もないのです」
自分で言ってて悲しいわ~。
「それってもしかして、バルド殿下が裏で貴女に近付く男を潰してるんじゃないの?」
ないない。
「おほほ、マーガレット様ったら。考え過ぎですわ。そんなヤンデレ小説みたいなこと、さすがにありませんわよ。でもモテなくても別にいいのです。バルド様が一人でたくさん愛してくださいますから」
「ちょっと、フローラ! 貴女、新婚家庭に遊びに来て自分が惚気るなんて! 覚悟しなさい! 今から私とマース様のラブラブ新婚生活をた~っぷり語ってあげますわよ!」
「わ~い! 聞きた~い!」
と、最初はワクワクして聞いていた私だけれど、途中で胸やけを起こし、ついには砂糖を吐きながらヨロヨロと帰路についた。
恐るべし、新婚ダンドリュー公爵夫妻!
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