3 / 5
3 妹の婚約
その後しばらくして、妹のアリスが婚約した。フィルマンとである。
知らされたその夜、私は自室で一人、一晩中泣いた。私は子供の頃からずっとフィルマンが好きだった。でも2年前、15歳の時に同じく15歳だったフィルマンに告白して振られたのだ。その時、彼の事はすっぱり諦めたはずだった。私を振ってからも態度を変えずに接してくれるフィルマンと、その後も幼馴染として付き合ってきた。
いずれ、お互い別の相手と結婚すると分かっていた。分かっていたけれど、まさか妹とだなんて……フィルマンは、昔から妹のことが好きだったのだそうだ。婚約の申し込みの時にフィルマンがそう言ったと、妹が嬉しそうに教えてくれた。妹は、私がフィルマンを好きだったことを知らない。2年前に告白して振られたことも勿論知らない。妹は何も悪くない。ただ、幼馴染から長年の想いを伝えられて婚約をして幸せの絶頂にいるだけ。
「アリスは、フィルマンのこと、好きだったの?」
「う~ん、幼馴染として好きだっただけ。でもあんなに熱烈に口説かれたら、やっぱり男の人として意識するようになって、好きになっちゃったわ」
あっけらかんと答える妹。
ふーん。熱烈に口説かれて……か。
「何を考えてるの?」
「えっ?」
しまった。ライル様とお会いしてるのに、つい……
「い、いえ。何も」
「……そう。妹さんが婚約したんだってね。おめでとう」
「ありがとうございます」
「あまり嬉しそうじゃないね?」
「いえ、そんなことは」
「お相手はアードラー伯爵家令息だって? 前に夜会で貴女を助けてくれた幼馴染だよね?」
「はい、そうです」
ライル様は、私をじっと見つめた。
夜に一人、自室で考える。
妹に不要なモノを散々押し付けてきた罰が当たったのだわ。今まで、本当のお気に入りは何一つ妹に渡さなかったのに、結局は、私が一番欲しかったフィルマンを奪われてしまった。いいえ、「奪われた」わけではないわね。フィルマンが私のモノだったことなど一度もないのだから……あはは。ダメだ。涙が溢れる。平常心が保てない。
しばらくして、また夜会に出席することになった。
妹は婚約してから初めての参加だ。フィルマンから贈られたドレスを纏う妹。
「アリス。素敵なドレスね。よく似合ってるわ」
「お姉様こそ、ライル様からのドレス、最高級のシルクじゃない。凄いわ」
そう、値段は間違いなく私の頂いたドレスの方が高い。でも……私はフィルマンから贈られたドレスを着たかったな……たった一度でいいから。
お互い、婚約者にエスコートされて会場に入った。
ファーストダンスを踊った後も、ライル様に、
「もう少し踊ろう」
と言われ3曲続けて踊った。その後、近寄って来る令嬢達をいつになく厳しい表情で突き放すライル様。
「私は婚約者と一緒なんだ。控えてくれ」
前回のことがあるから、さすがにフェミニストのライル様もいつもとは違うわね。結局、ライル様は、ずっと私と一緒にいてくださった。良かった。私は面倒事は嫌いなのだ。
時折、妹とフィルマンの姿を遠目に見やる私。二人とも楽しそうね。
誰も悪くないのだ。分かってる。私さえ自分自身のこの醜い気持ちを封じ込めれば……それで済むこと。
「パニーラ。そんなにあいつが好き?」
「えっ?」
ライル様が泣きそうな表情で私を見つめていた。
「何のことでしょう?」
「私はどうしたらいい? 何が欲しい? どうやったら貴女は私を見てくれる?」
「ライル様……」
帰り道。馬車の中で、私は静かに話した。
「フィルマンには2年前にはっきりと振られました。今は彼の事はただの幼馴染としか思っていません」
「本当に? 今は恋愛感情はないのか?」
「ございませんわ。でも、ライル様がどうしても気になるようであれば、婚約を解消してください」
「嫌だ! どうしてそんな酷いことを言うんだ?」
「……」
もう無理だ。ライル様は私の気持ちに気付いてしまった。このまま結婚しても上手くいくはずがない。
そう思ったのだが、翌日から毎日、ライル様から花が届くようになった。
「お姉様、ライル様って本当にお姉様にぞっこんなのね」
妹が私に届いた花を眺めながら羨ましそうに言う。
「そこまで想われる理由が分からないのよ……」
「でも夜会で見初めたっておっしゃるんだから何かあったんじゃないの?」
「全然、心当たりがないのよね~」
ライル様は週に何度も我が家に御出でになるようになり、外出に誘われることも侯爵家に招かれることも多くなった。つまり、私とライル様は最近、実に頻繁に会っているのだ。イケメンが私に夢中? 状況的には幸せなのかしら? でも何だかよく分からない、という気持ちが強い。
「私が貴女を見初めた時の事?」
私が何度聞いても、ライル様は、
「恥ずかしいから」
と教えて下さらないのだ。恥ずかしいって、何だ? 乙女か!?
「私はパニーラを愛してる。それだけではダメかな?」
モテモテのイケメンがどうして私にそこまで好意を寄せるのか納得できないから、私を見初めたという時と状況を教えて欲しいと何度も頼んでるのに……頑なに教えて下さらないライル様。私はますますライル様に対して疑念を深めた。
あなたにおすすめの小説
『姉に全部奪われた私、今度は自分の幸せを選びます ~姉の栄光を支える嘘を、私は一枚ずつ剥がす~』
六角
恋愛
復讐はしない。——ただ「嘘」を回収する。 礼儀と帳簿で宮廷の偽りを詰ませる“監査官令嬢”の華麗なる逆転劇。
王家献上宝飾の紛失事件で濡れ衣を着せられ、家族にも婚約者にも捨てられて追放された子爵家次女リリア。 数年後、彼女は王妃直属の「臨時監査官」として、再び宮廷の土を踏む。
そこで待っていたのは、「慈愛の聖女」として崇められる姉セシリアと、彼女に心酔する愚かな貴族たち。しかし、姉の栄光の裏には、横領、洗脳、そして国を揺るがす「偽造魔石」の陰謀が隠されていた。
「復讐? いいえ、これは正当な監査です」
リリアは感情に流されず、帳簿と証拠、そして真実を映す「プリズム」を武器に、姉が築き上げた嘘の城を一枚ずつ剥がしていく。 孤立無援の彼女を支えるのは、氷のように冷徹な宰相補佐レオンハルトと、豪快な近衛騎士団長カミュ。 やがてリリアは、国中を巻き込んだ姉の洗脳計画を打ち砕き、自分自身の幸せと、不器用な宰相補佐からの溺愛を手に入れる——。
私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。
でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。
【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?
江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。
大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて……
さっくり読める短編です。
異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。
虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした
珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。
それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。
そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。