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6 公爵令嬢の進路
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学園で完全に孤立した私に、教職員も生徒も直接的に関わろうとはしない。間接的には、苛めと云う形で散々関わってくるようになったのだが……。
水を浴びせる、机や鞄にスライムを入れておく、物を隠す、ロッカーの鍵を勝手に換える等々。手を替え品を替え、必死になって私を泣かせたいようだ。
(絶対に泣かないけれどね)
お陰で私は、変わり種の魔法を身に付けるようになっていた。程よい温風を出してずぶ濡れになった身体をカラッと乾かしたり、隠された物を見つけ出すため探知魔法を習得したり、これは秘密なのだが、専門職か怪しい家業の者しか扱わない鍵解除まで覚えてしまった。
これからも苛め対策のため、様々な魔法を練習する事になりそうだ。
そして今日も一人、魔法の練習をして教室に戻ると――
「やられたか……」
本来の授業は帝国史。しかし、教室には誰もいない。その時、クラスメイトたちの賑やかな声が、外から聞こえてきた。
窓から外を見ると、美術教師の姿も見える。大方、写生の授業にでも替わったのだろう。時間割の変更を、私だけが知らされていなかった。
「――外で美術の授業になったみたいだけれど、どうしてモニカさんはここにいるの?」
私一人取り残された教室に、特待生のサラさんが入ってきた。
「皆さんで、私の新たな苛め方を編み出したみたいですね。サラさんこそ、本日は午後からいらっしゃる予定ではなかったのですか?」
「用事が早く終わったから、今来たの。あ、ごめんなさい。私、平民だから無遠慮な話し方しか出来なくて」
そんな些末な事、全く気にならない。久しぶりに学園で人と話しが出来た私に湧き出した感情は、人と話せた喜びだった。
「フフッ。気にしないでそのまま話して。私も肩肘張って生きるのを止めたところだし、お互い気楽にしましょう?」
「そう。モニカさんは心にもない世辞や偽りを言わない人だから、遠慮なくそうする」
サラさんは身分を気にして、私やクラスメイトたちと極力話さないようにして来たのだ。まして、あの人たちは社交辞令で「気軽に話しましょうね」なんて言っても、陰で何を言い出すか分からない。
でもサラさんは、私が他の貴族とは違うと言ってくれて、ますます嬉しくなる。
「ありがとう。でも、私と話すのは二人の時だけね。サラさんを巻き込むのは嫌だし」
「まあ、そうしてくれた方が助かるかな」
「あははっ。抜かりなくするね」
彼女の歯に衣着せぬ物言いが心地良かった。久しぶりのクラスメイトとの会話に、ちゃんと私を理解してくれていた事に、私は嬉々とし珍しく饒舌になっていた。
「サラさんは、学園を卒業したらどうするの? 私、もう帝国貴族の恋愛戦線から離脱しちゃったでしょう? 公爵令嬢として嫁ぎ先がないなら、家に迷惑を掛けないよう、自立しなきゃいけないなって考えていたの」
「貴族の男も見る目がないなって思ってた。低能な男にモニカさんは勿体無いし、それも良いんじゃないかな。――私は官僚試験を受ける。受かりさえすれば人生安泰だし」
(官僚試験……。考えた事も無かった……)
卒業パーティーの後には、きっと両親を悲しませてしまうだろう。せめて、ちゃんと一人でも生きて行ける職業について、少しでも安心させたかった。
「良い職業かもしれない!」
「モニカさんも受ければ? 願書の取り寄せ期間は終わっているけど、申し込みは来週一杯受付だから。それに、モニカさんの成績なら合格間違いなしだね」
「でも、願書の取り寄せは終わってしまったのね……」
「欲しいなら一部あげる。書き損じても良いように、予備をもらっていたから」
「さすがサラさん! もう必要がないなら、是非譲って!」
「いいよ。明日持ってくる。でもこれで、私の首席合格はなくなったな」
私が同じ試験を受けるならライバルとなるのに、疎ましそうにもせず冗談すら言う余裕があって、さすが彼女は特待生だ。
「それはまだ分からないわよ? いつも試験の度に、サラさんに抜かれるかもって冷や冷やしているもの」
「ま、官僚試験対策なら私の方が進んでいるしね」
私とサラさんは互いに見つめあって微笑んだ。彼女の瞳の中に、将来に希望を抱いて笑う自分が映っていた。
「あ、ところでサラさんは授業に行かなくていいの?」
「次の授業から出る予定だったし、美術には力を入れていないから行かない」
――その時――
「「きゃあああ」」
外からアニーとライザの悲鳴が聞こえた。何事かと窓から確認すると、灼熱蜂の群れが二人を追いかけ回している。
大人の握り拳大程もある赤い毒々しい胴と、刺されると火傷を負った様な痛みが数週間続き酷く苦しむため、遭遇したくないモンスターの一種とされている。
誰かが巣の近くまで行って、刺激してしまったのだろう。
「いやあああっ。こちらに来ますわ!」
「なんで追いかけてくるのよ!?」
その数は瞬く間に増え、絵を描いていたクラスメイトたちはパニックになっていた。
助ける義理はない――はずなのに、私は自身のアトマイザーから一番香るパルファムを宙に撒き、優しく風で包み込んで園庭まで運んだ。
(集音魔法が使えるなら、集臭だって可能なはず。このまま届いて――)
蜂の群れを引きつけるように、要所要所で香りを撒いた。甘いパルファムの香りに反応した灼熱蜂の群れが、一塊に集まって行く。
蜂が人々から離れ出し、落ち着いたところでクラスメイトたちは自衛をはじめ、駆けつけた他の教師たちが止めを刺していた。
「ふうっ」
「モニカさんって、優しいよね」
「蜂にすぐ止めを刺さないんだから、そんなに優しくないよ」
「馬鹿な大人たちの手柄にしてあげたんでしょ?」
サラさんは本当に何でもお見通しみたい。私がおかしな魔法を身に付けていることもばれていそうだ。
「自分の手の内を知られたくないだけよ。――ねえ、試験の事もっと色々教えてくれない?」
「いいよ。“麗しのモニカ嬢”に物を教えられる機会なんて、今しかなさそうだし」
「ありがとう!」
帝国貴族の恋愛戦線からあぶれてしまったし、苛めに遭っている真っ最中だけれど、私は今、忙しくて楽しくて毎日充実している。
苛め対策のために、学園で習わないような魔法をまだまだ独学で覚えなくてはならないし、両親を心配させないよう、学年トップの成績もこのまま維持しなくてはならない。
そして新たに、卒業後に城勤めをするための試験勉強も開始した。
(あ、次は冷水を掛けられる前に、跳ね返せるような魔法の練習をしよう。やられた後に乾かすより、やられないようになった方がいいしね)
やりたいことは盛り沢山。モニカ・クラウスティン、公爵令嬢だけれど、官僚になります!!
水を浴びせる、机や鞄にスライムを入れておく、物を隠す、ロッカーの鍵を勝手に換える等々。手を替え品を替え、必死になって私を泣かせたいようだ。
(絶対に泣かないけれどね)
お陰で私は、変わり種の魔法を身に付けるようになっていた。程よい温風を出してずぶ濡れになった身体をカラッと乾かしたり、隠された物を見つけ出すため探知魔法を習得したり、これは秘密なのだが、専門職か怪しい家業の者しか扱わない鍵解除まで覚えてしまった。
これからも苛め対策のため、様々な魔法を練習する事になりそうだ。
そして今日も一人、魔法の練習をして教室に戻ると――
「やられたか……」
本来の授業は帝国史。しかし、教室には誰もいない。その時、クラスメイトたちの賑やかな声が、外から聞こえてきた。
窓から外を見ると、美術教師の姿も見える。大方、写生の授業にでも替わったのだろう。時間割の変更を、私だけが知らされていなかった。
「――外で美術の授業になったみたいだけれど、どうしてモニカさんはここにいるの?」
私一人取り残された教室に、特待生のサラさんが入ってきた。
「皆さんで、私の新たな苛め方を編み出したみたいですね。サラさんこそ、本日は午後からいらっしゃる予定ではなかったのですか?」
「用事が早く終わったから、今来たの。あ、ごめんなさい。私、平民だから無遠慮な話し方しか出来なくて」
そんな些末な事、全く気にならない。久しぶりに学園で人と話しが出来た私に湧き出した感情は、人と話せた喜びだった。
「フフッ。気にしないでそのまま話して。私も肩肘張って生きるのを止めたところだし、お互い気楽にしましょう?」
「そう。モニカさんは心にもない世辞や偽りを言わない人だから、遠慮なくそうする」
サラさんは身分を気にして、私やクラスメイトたちと極力話さないようにして来たのだ。まして、あの人たちは社交辞令で「気軽に話しましょうね」なんて言っても、陰で何を言い出すか分からない。
でもサラさんは、私が他の貴族とは違うと言ってくれて、ますます嬉しくなる。
「ありがとう。でも、私と話すのは二人の時だけね。サラさんを巻き込むのは嫌だし」
「まあ、そうしてくれた方が助かるかな」
「あははっ。抜かりなくするね」
彼女の歯に衣着せぬ物言いが心地良かった。久しぶりのクラスメイトとの会話に、ちゃんと私を理解してくれていた事に、私は嬉々とし珍しく饒舌になっていた。
「サラさんは、学園を卒業したらどうするの? 私、もう帝国貴族の恋愛戦線から離脱しちゃったでしょう? 公爵令嬢として嫁ぎ先がないなら、家に迷惑を掛けないよう、自立しなきゃいけないなって考えていたの」
「貴族の男も見る目がないなって思ってた。低能な男にモニカさんは勿体無いし、それも良いんじゃないかな。――私は官僚試験を受ける。受かりさえすれば人生安泰だし」
(官僚試験……。考えた事も無かった……)
卒業パーティーの後には、きっと両親を悲しませてしまうだろう。せめて、ちゃんと一人でも生きて行ける職業について、少しでも安心させたかった。
「良い職業かもしれない!」
「モニカさんも受ければ? 願書の取り寄せ期間は終わっているけど、申し込みは来週一杯受付だから。それに、モニカさんの成績なら合格間違いなしだね」
「でも、願書の取り寄せは終わってしまったのね……」
「欲しいなら一部あげる。書き損じても良いように、予備をもらっていたから」
「さすがサラさん! もう必要がないなら、是非譲って!」
「いいよ。明日持ってくる。でもこれで、私の首席合格はなくなったな」
私が同じ試験を受けるならライバルとなるのに、疎ましそうにもせず冗談すら言う余裕があって、さすが彼女は特待生だ。
「それはまだ分からないわよ? いつも試験の度に、サラさんに抜かれるかもって冷や冷やしているもの」
「ま、官僚試験対策なら私の方が進んでいるしね」
私とサラさんは互いに見つめあって微笑んだ。彼女の瞳の中に、将来に希望を抱いて笑う自分が映っていた。
「あ、ところでサラさんは授業に行かなくていいの?」
「次の授業から出る予定だったし、美術には力を入れていないから行かない」
――その時――
「「きゃあああ」」
外からアニーとライザの悲鳴が聞こえた。何事かと窓から確認すると、灼熱蜂の群れが二人を追いかけ回している。
大人の握り拳大程もある赤い毒々しい胴と、刺されると火傷を負った様な痛みが数週間続き酷く苦しむため、遭遇したくないモンスターの一種とされている。
誰かが巣の近くまで行って、刺激してしまったのだろう。
「いやあああっ。こちらに来ますわ!」
「なんで追いかけてくるのよ!?」
その数は瞬く間に増え、絵を描いていたクラスメイトたちはパニックになっていた。
助ける義理はない――はずなのに、私は自身のアトマイザーから一番香るパルファムを宙に撒き、優しく風で包み込んで園庭まで運んだ。
(集音魔法が使えるなら、集臭だって可能なはず。このまま届いて――)
蜂の群れを引きつけるように、要所要所で香りを撒いた。甘いパルファムの香りに反応した灼熱蜂の群れが、一塊に集まって行く。
蜂が人々から離れ出し、落ち着いたところでクラスメイトたちは自衛をはじめ、駆けつけた他の教師たちが止めを刺していた。
「ふうっ」
「モニカさんって、優しいよね」
「蜂にすぐ止めを刺さないんだから、そんなに優しくないよ」
「馬鹿な大人たちの手柄にしてあげたんでしょ?」
サラさんは本当に何でもお見通しみたい。私がおかしな魔法を身に付けていることもばれていそうだ。
「自分の手の内を知られたくないだけよ。――ねえ、試験の事もっと色々教えてくれない?」
「いいよ。“麗しのモニカ嬢”に物を教えられる機会なんて、今しかなさそうだし」
「ありがとう!」
帝国貴族の恋愛戦線からあぶれてしまったし、苛めに遭っている真っ最中だけれど、私は今、忙しくて楽しくて毎日充実している。
苛め対策のために、学園で習わないような魔法をまだまだ独学で覚えなくてはならないし、両親を心配させないよう、学年トップの成績もこのまま維持しなくてはならない。
そして新たに、卒業後に城勤めをするための試験勉強も開始した。
(あ、次は冷水を掛けられる前に、跳ね返せるような魔法の練習をしよう。やられた後に乾かすより、やられないようになった方がいいしね)
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