恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい

文字の大きさ
17 / 35

17 第二皇子係の秘密

しおりを挟む
「モニカが学園で苦境に立たされていると聞いた時には、頭に血が昇ったよ。一方通行だけれど、モニカを想うと感情が溢れ出した。ドロテア嬢も学園の関係者も、その時から許すつもりは無かったね」
「その節は聞き苦しい事案をお耳にいれてしまい、申し訳ございませんでした」

 平静を装って普通に答えたつもりだが、学園で一人戦っていると思っていた時にも、ユリアン様が遠くで私を想っていてくれたと知り心が満たされて行く。

「だから、公爵家で令嬢として頑張って来たモニカ嬢にも、最後まで学園で首席の学生として逃げずに努力を続けたモニカにも、自分の係の職員になったら御褒美をあげたかった」
「もしかすると、この子も御褒美ですか?」

 私の膝の上で丸くなり、プープーと寝息を立てているココをそっと撫でる。日増しに世界を広げスクスクと育っているココは、私の生活に欠かせない存在になった。

「ココも勿論そうだよ。セオドアから聞いた時、モニカ嬢への一番の御褒美だと思っていた」
「セオ兄様から? いったい何の事でしょうか?」

「モニカが四歳の時にあった出来事らしいんだけれど。他国の王族が連れていたオクタディナという種類の、世にも珍しい銀の毛並みの有翼の生き物を見たモニカがね、「あの子が欲しいです」と駄々をこねたんだって」
「兄様ったら……子どもの頃の話なのに……。私は覚えておりません」

 そこで私は気づいた。有翼で銀色の毛を持つ珍しい生き物……。オクタディナとはココと同じ種類ではないだろうかと……。

「もしかすると、ココはオクタディナ……?」
「そう。幼いモニカ嬢が強請った生き物と同じ種だよ。セオドアは、後にも先にもモニカの我が儘を聞いたのはそれ一回きりだと言っていたね」

 ユリアン様は始めから自分のペットではなく、私のためにオクタディナを業者に準備させていた。だから、名付けもお世話も私に任せてくれた……。官僚の寮では、ただのペットは飼えないから……。

「ココと出会わせてくれて、ありがとうございます」

 涙声になってしまったが、私は心からユリアン様に感謝を伝えた。

「あとは単純に、何も考えず遊ぶ時間や、失敗する体験とか、色々経験させてあげたかったんだ」

 よくゲームをしていたのも、あまり遊んだ記憶がない私のため。失敗する体験というのに思い当たる節はなかったけれど、仕事の事をおっしゃりたいのだろう。
 ユリアン様の今までの無茶振りは、私を楽しませ、多くの経験を与えるためだったのだ。

「そして、モニカの初めてを一緒に過ごし、二人で笑い合う事は、自分への褒美でもあったんだ。同じように仮面を被って押さえ付けて来た私自身へのご褒美だと思った……」
「ご一緒出来て光栄です。ありがとうございます」

 私だけでなく、ユリアン様も抑圧された生き方を選んで来たのだろう。それは自身で選択し、幸福だとは思っていても、重圧はあったはずだ。私もユリアン様も、だからいつも自然体のセオ兄様に惹かれたのかもしれない。
 私と過ごした時間が少しでも、気晴らしになってくれていたのなら幸いだ。

「光栄でありがとうございますか……。さ、色々話していたらずいぶんと時間が経ってしまったね。今日は食事を軽く摂ったらもう休もうか?」
「しかし、戻らなくてもよろしいのですか? 皆心配しているのでは?」
「ここで待っていればいいよ。その内レンが来るはずだから」

 ユリアン様の話が一段落して、鷹やら毒やらを思い出し不安になった。誰かに命を狙われたのだ。私が周囲の音を集め警戒すると、『フッフッフッフッ』と、堪えきれない笑いが鼻から漏れ出す音が聞こえた。

「……もう来ていたようですね……」

 すると、コテージの扉が勢いよく開いた。

「ナアッハッハッハッ! いやあ、いい雰囲気だったんで、声をかけるタイミングを逃しましてなぁッハッハッハッ!」

 ユリアン様は鼻白んでいるけれど、私は二人だけの会話を聞かれていた恥ずかしさで居たたまれない。ガクリと俯いてしまった。

「モニカ、気にする事はないからね。レンは私専属の諜報だから、モニカの素性も含め、色々と知っているんだよ」
「諜報!? そんな、全く気づきませんでした」

 その色々は何を指しているのか考えると恥ずかしいが、それより重大な事実を言われた事が気になる。

「ハッハッハッ。俺だけではない、ノーラとマサもだぞ!」

 私は本当に人を見る目がないのだろう。そのまま疑いもせず受け入れてしまうから、ドロテアを友達だと思っていたりしたのだ。社会人になっても失敗が活かされていない。

「レンは兵部から引き抜いた猛者だし、マサは東方の国で忍と呼ばれる諜報を専門にする一族の出なんだ。ノーラは私の乳母の娘で、子どもの頃から私と共に英才教育を受けていた」

 皆ただ気の良い先輩たちと思っていた。穴があったら入りたい。第二皇子係には精鋭しかいなかった。

「俺の部下は他にもいるが、まだモニカとは会っていないな。その内紹介しよう。ハッハッハッ。ま、二人でしばらくここに籠っていてくださいよね。大方ボルダン伯爵が絡んでいるのは突き止めていますけど、少し様子を見たいところですから」

「そうだね。少し泳がせた方が良いだろうね」
「じゃモニカ、ユリアン様をよろしくなぁっ!」

 よろしくって、レン係長はユリアン様と私を置いて行くつもりなのだろうか。

「係長、こちらでユリアン様と二人で過ごすのですか? 無理です!」
「モニカ……私は今、色々ショックだよ。一つずつ解決しようか。なぜ、レンは立場を明かしたのに、モニカを呼び捨てなんだ?」
「モニカ様と呼ばれるより、今まで通りがよろしいかと? なあ、モニカ?」

 せっかく係の皆とは良好な関係を築いて来たのだ。是非とも今まで通り接して欲しい。

「はい、私は官僚ですから、今のままが良いです」
「レン、三ヶ月間減給するね」
「そういうのを、パワハラと言うのですな」

 レン係長を無視し、ユリアン様が今度は私に向き直った。

「モニカはそんなに私と二人になるのが嫌かい?」

 そんな悲しそうに言われても……。

「モニカ、お前は令嬢じゃない。官僚だ。こんな時こそお側にて仕えずどうするんだ?」

 そうだった。多くの情報を与えられ忘れ掛けていた。なんて不甲斐ない!

「すみませんでした! 必ずや、任務を遂行してみせます!」
「ヌアッハッハッハッ! その意気だぞ、モニカ!」
「レン、減給は撤回しよう」

 いくら仕事とは言え年頃の男性と二人きりだなんぞと、乙女チックな事は言うまい! 私がユリアン様を守るのよ! そして、本当の意味で第二皇子係の諜報の一員として認められたい!

「ユリアン様の事はお任せください!」
「係員らしくなってきたな! ハッハッハッ」
「モニカ……。私の事というより、先に狙われていたのは貴女の方だったのだよ……」

 職務に燃える私とレン係長は、ユリアン様の呟きを気にしない。


 ――こうして、森の中に佇むコテージで、私とユリアン様の二人暮らしが始まった――
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

処理中です...